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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第63話 スチール・スパイダー

 陽が昇り三人で洞窟探索を開始する。イアンは滑る足場を靴を脱ぐことで対処していた。肉球があるわけではないらしいけれど靴より滑りにくいらしい。先頭にイアン、ジェシカさん、俺と続いて進む。

「ゴーレムを見分けるコツなどはあるのか?」

「ゴーレムは首元に核があるんです。スチール・スパイダーには無いものですから落ち着いて観察できれば見分けられますよ」

 落ち着いて観察できないから無理ですね。薄目でしか見れないもん。

「ユウさんは無理でしょうけれど、イアンは観察力も鍛えましょうね」

「はい!」

 酷い。まあ無理だとは自分でも思ったんだけども。

「イアンの実力ではスチール・スパイダーはともかくゴーレムの相手はかなり分が悪いです。というか、正直に言うと十中八九死にます」

 怖い。イアンはジェシカさんの話を真剣に聞いている。

「イアンは普段実力以下の魔物の相手が多いでしょうから、自覚はなくても索敵が疎かになっている可能性があります。索敵失敗は通常の依頼では死に直結します。ちょうどいい機会ですから索敵の性能も上げましょう」

 イアンの訓練どんどん難易度上がるな。俺なら挫けるぞ。イアンはしっかりと頷いていた。

「わかりました。気を引き締めます」

「はい。勿論ですが、ユウさんも索敵はお願いしますね。イアンが取りこぼす可能性もありますし、遠くからの攻撃の可能性もあります」

「任せてくれ」

 今回ばかりは本当にしっかりしないと。

 よく考えなくても自分がいないと誰かが死ぬって状況は初めてなんだよな。演習の時は主力じゃなかったし、《架け橋(アーク)》の監督の時はロボとビクターがいてくれたし、討伐戦はほぼ個人戦だったし。

 まあ呼べばナイトたちが来てくれるんだけど、咄嗟に間に合わなかったら冗談では済まされない。

 気合いを入れ直して、クモたちがいた空間へ繋がる横穴を進む。昨日コウモリを全滅させていたからここまでは平和に来られた。

「イアン、先頭を代わろう」

「はい」

 横穴を出る前にイアンと先頭を交代した。ちょっと覗いてみたら、やっぱりいっぱいいるねぇ。

「ちなみにスチール・スパイダーはどう倒すのがいい?」

「スチール・スパイダーには火魔法が効果的です。ゴーレムには水魔法が効きますね。ただ、ゴーレムは火魔法に耐性があるのと、水魔法も中級以上でなければ弾かれます」

 中級以上? 上位魔法ではないのか? 上位魔法は氷と雷魔法だもんな。

「魔法には中級などの等級もあるのか?」

「はい。あ、以前はその説明はしませんでしたね」

 イアンが首を傾げているけれど、ちょっと待ってね。

「四大属性の魔法には、初級中級上級と使用難易度があります。チルセがまだグランドは使えないと言っていたのを覚えていますか?」

 ああ、俺の髪を渡したときだな。頷くとジェシカさんが指を振る。

「グランドは中級です。基本的にカッパーランク以上の魔導士は中級魔法を使えることが昇格条件です」

 そうなのか。……。

「私の魔法はどれなんだろうか?」

 グランドとか意識したことないというか、俺は何を使っているんだろうか。

「どれかはわかりませんが、上位魔法は四大属性全ての上級が使えないとコントロールできないはずなので、使ったことがあるなしに関わらず使えると思いますよ」

 へー。

「イアンは今どれが使えるんだ?」

「えっと、風と火は中級が使えます。水と土はまだなのでゴーレムの相手は無理です」

 気軽に訊いておいてなんだけれど、イアンやっぱり四大属性全部使えるのか。

「ではゴーレムは気にしないでいいから、スチール・スパイダーの相手は基本イアンに任せる。危なくなればすぐに代わるから気負わずやってみようか」

「はい」



 ヒットアンドアウェイで一体ずつ対処していく。時間かかるなぁ。

 スチール・スパイダーは共食いしないらしいからとりあえず素材回収は後回しにして、倒したら他の個体が寄ってくる前にその場から離れる。

 しかし共食いしないなら何を食べているのだろうか。コウモリ? 岩を食べているならこんなに寄って来ないだろうし。

 壁沿いに歩いているとイアンに止められた。

「向こうの岩陰にいます。音的にスチール・スパイダーかと」

 ほう。

 ボムに頼んで岩の方に回ってもらうと確かにクモの影が浮かんだ。

 俺やジェシカさんには全く聞こえないクモの足音もイアンの耳には届いているらしい。スチール・スパイダーは高い金属音でゴーレムは岩を擦り合わせるような音がするそうだ。

「では答え合わせをしよう。火を飛ばせるか?」

「はい。“炎よ、我が敵を貫け”《火炎の槍(ファイア・ランス)》」

 呪文とともにイアンの手元に魔方陣が浮かび、手を掲げると火が槍のように魔方陣の上に生えてきた。投げられた火の槍は曲線を描いて岩の後ろに回り込んでクモを貫く。

 甲高い音を立てたクモは動かなくなった。

「正解ですね」

「良かったです」

 数体相手にしたからか、足音の聞き分けもだいぶ精度が上がってきたな。

 ボムを呼び戻してまた壁沿いに進む。

 それにしても、イアンの魔法格好良いな。漫画とアニメの国の子だからああいうの憧れがある。必殺技は叫んでなんぼ。

 まあ憧れているだけで、自分で戦っているときは叫んでる余裕もないんですけどね。

 あ、また気になっていたこと思い出した。

「ジェシカさん、また訊きたいことがあるのだが」

「はい?」

「魔法には決まった型のようなものはないのか?」

 イアンやシオンさんはザ・魔法って感じの呪文だけど、ノエルさんはなんか東洋風だったし、ウィルは色と花の名前だった。

「一応は決まったものがあります。座学で習うものですね。でも自分が使いやすいようにアレンジしている方も多いですよ」

 そうなのか。じゃあウィルもノエルさんもアレンジしているのかな?

「魔法は感覚に頼ることが多いから、アレンジが多いってお父さんが言ってました。ギルド職員のウィルさんや、《勇敢なる星(ブレイブ・スター)》のノエルさんは特に顕著だって聞いてます」

 思い浮かべた二人が顕著な例だった。まあ特徴的だったもんな。

「ウィルさんは魔力を色で識別しているらしいです」

 だから最初に色の名前なのか。イアンの説明にジェシカさんが頷く。

「そのお二人は魔導の天才と言われていますしね。ユウさんやシオン様が純然たるパワーファイターなのに対して、ウィルさんやノエルさんはテクニカルファイターです」

 俺はともかくシオンさんもパワーファイターなのか。戦い方はテクニカルだった気がするけど。

「複数の魔力を同時に使うことができるんですよね。お父さんは事前に準備してたらできるって言ってましたけど、二人はそれが即座にできるって」

 マジで。

 あ、そうか、《睡蓮》って水と土か。俺も氷で壁を作ってそれを土で覆うことはできるけれど同時にやれって言われたら無理だもんな。もしかして《翔火》も風と火だったのだろうか。

 みんなすごいなぁ。

「あ、少し先にスチール・スパイダーです」

 ん。イアンが指差した方にボムが飛んで行き照らし出してくれる。少し距離があるな。

「……やってみたいことがあるんだが、いいか?」

「はい」

 スチール・スパイダーだけどちょっと試してみたい。俺も呪文言ってみたい。

「《火炎の槍(ファイア・ランス)》」

 ちょっと照れるけれど言ってみると、火の槍というか、火柱が発生した。しかもイアンのように手元に出るのではなく、直でスチール・スパイダーに突き刺さりに行っている。

 熱はわからないけれど、熱波が来たようで腰布が激しくはためく。

「……ユウさん?」

「すまない。こんなことになるなんて思わなかったんだ」

 ジェシカさんの笑顔が怖い。だってイアンはこの呪文で火の槍出してたじゃないか。

「あれは《火炎の槍(ファイア・ランス)》じゃなくて《火精霊の槍(イグニス・ランス)》ですよ……」

 何それ。

「ユウさんの魔素変換率では軽い気持ちでも上級魔法になってしまうんでしょうね」

 うーん。確かにイアンの真似してみようって気持ちだけだったから細かい火力とかは想像しなかったけれども。それだけで剣の制御性能ぶち抜いてあんなことになるのか。

 じゅうじゅうと金属の焼ける匂いがしているので、スチール・スパイダーもしかして溶けた?

 二人に熱の届かない所で待っていてもらって焼け跡に近づくとボムが寄ってきた。

 女帝の織り糸製のシャツの調温能力を超えて熱を感じるが、なんとか確認するとスチール・スパイダーの残骸は周りの岩と一緒に溶けてボコボコと沸騰している。

 ……えーっと。鋼って融解温度何度だっけな。チタンだと1700度くらいだったか?

 つまり最初に火柱出したとき以上の熱が出てた可能性があるのか。

 オッケー、もう呪文とか夢見ません。

 二人の元に戻る。

「どうでした?」

「熱で原型がわからないくらいにどろどろに溶けていた」

「素材回収に来ているんですよ?」

 ごもっともです。

「以後、魔法は細心の注意を持って使用します」

「そうしてください」

 イエス・マム!!

 その後は特に問題なく進む。途中でスチール・スパイダーとゴーレムに挟まれたりもしたけれど、イアンは冷静に対処できていた。魔力切れも起こしていないし、シオンさん譲りなのか基本的に能力が高いんだろうな。

 遠くの岩を崩して音を立て、クモたちの気を逸らしながら鋼の糸(スチール・スレェド)も回収した。

 鋼の糸(スチール・スレェド)は使用法を聞く限りワイヤーみたいなものだとは思っていたけれど、思っていたより細く、頑丈で柔らかい金属だ。飛んできた糸を剣で弾くと金属音がするわけだよ。

 鉄線を編んでワイヤーにするんだね。

 鋼の糸(スチール・スレェド)を回収中にゴーレムが飛び出してきたのだけれど、鎧の内殻をオリハルコンにして水の魔力を流したら核を叩き壊せた。

 それまで気づかれないように気をつけながら接近して、水の魔力を通した剣で斬っていた労力はなんだったのか。

 徒手でゴーレムを叩き壊したせいでジェシカさんとイアンに引かれたのが悲しい。

 ちなみにゴーレムは宝石が取れる。ダイヤモンドや蛍石みたいなわかりやすいの以外はよくわからないので、とりあえず崩れた土の中から石を集める。

 ちゃんと氷で覆って安全は確保している。

「これはなんだろうか」

「ローズクォーツとピンクオパールですね」

 ピンク色の二つの石は同じものではなかったらしい。

「ジェシカさんこれは?」

「ピンクサファイアですね。この個体はピンクの宝石が多いようですね」

 サファイアってピンクもあるのか。違うか。サファイアで赤いものだけがルビーと呼ばれてるんだっけ?

「あ、これ青色ですよ」

 イアンが次に見つけたのは星形の筋が光る青い石だった。

「スターサファイヤですね。綺麗な星形が特徴的なサファイアです」

 へーとスターサファイアをボムにかざして星形を見ていたイアンから渡され、そのままイアンに渡す。

「どうしました?」

「私の国ではスターサファイアは身に付けると幸運をもたらすと言われているんだ。せっかく見つけたんだから持っていなさい」

「え、でも、いいんですか?」

 おろおろと俺とジェシカさんを見るイアンに肩を竦めると、ジェシカさんも笑った。

「倒した人が言っているんですから、大丈夫ですよ。当然盗品の心配もありませんし、今回は宝石採取の依頼でもないですし」

「わぁ……。ありがとうございます!」

 どういたしまして。

「ジェシカさんも何かいるか?」

「石黄があればいただきたいんですが、今回は無さそうですね」

 石黄?

「それは何に使うんだ?」

「除草剤や殺虫剤の原料になるんです」

 ロマンはないですがジェシカさんらしくていいと思います。


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