第62話 洞窟探索
山の中を多少強引にショートカットしながら進む。
「氷の橋……」
「気にしてはいけない」
できれば今日中に洞窟前まで着いておきたいので魔物との戦闘の時間も考えると崖とか迂回していられない。
途中昼食をとって、なんとか日が暮れる前には洞窟の前に着いた。
「どうする? 洞窟の中に入ってしまった方がいいのか、外で一泊するか」
「洞窟の中の方が安全な場合もありますが……中がどうなっているか調べた方が良いかも知れません」
了解です。
何があるかわからないので、ジェシカさんとイアンには外で待っていてもらうことに。
入り口が狭いなぁと思いながら入って進み、10分ほど頑張ってみたけれど引き返す。
これ、他の冒険者もここから入っているのか? 俺でギリだと、シオンさんやウィルでは無理だろ。レオも鎧を着てたら無理なんじゃないか?
「他の入り口なんかは無いのだろうか。腰が痛い」
ずっとこの狭さはきつい。主に腰が。体は頑丈になっているはずなのにこういうのでは普通に痛くなるのやめてほしい。
ジェシカさんが地図を広げて確認してくれる。
「地図を見る限りは無いようですね」
無いですかぁ……。
「スチール・スパイダーの討伐は行きたがる人がいないって聞いてましたけど、そんな理由だったんですね」
不人気依頼だったのかよ! それで依頼料高くなるのに俺に頼んできたのか。オリハルコンへの指名依頼は1.5倍って聞いてるぞ。まあその代わりイアンの監督は無料で請け負ってるけど。
入ってすぐに広いスペースがあれば良かったんだけど、これは中を詳しく調べるには少し時間が掛かるな。
天幕を展開し、念のためそれを覆うように氷のかまくらを作る。入り口を広く開けていれば火を焚いても一酸化炭素中毒の危険は無いだろう。この世界に一酸化炭素中毒の危険があるのかは知らん。
天幕の中に敷布を敷いて、あったか毛布を二人分出しておく。
「今日は外で一泊しよう。ジェシカさん、イアンと一緒に食事の準備を頼む。寒くなったらその毛布を使ってくれ」
はーいと返事をしてくれたジェシカさんに食事の準備を任せて立ち上がる。
「ユウさんはどうするんですか?」
首を傾げたイアンの頭に手を置く。
「洞窟の中を詳しく見てくる。ジェシカさんの護衛を頼むぞ」
地図は洞窟内部のことは書かれてないんだよな。
元気に返事をしたイアンを信じていないわけではないが、この森ジャイアントボア出るからなぁ。どのくらい時間が掛かるかわからないし一応バターを呼んでおくか。バターなら何かあればナイトを呼べる。
影から飛び出してきたバターを見てジェシカさんもビクターを呼んだようだし、大丈夫だろう。
崖を崩してしまうわけにもいかないので、狭い道を腰をかがめてできる限り素早く進む。
……これ、地面凍らせて滑った方が速いか? みんなと移動するなら無理だけど、偵察だけだし楽するか。
地面を凍らせ、ウォータースライダーならぬアイススライダー。なんだっけ、ボブスレー? ソリないけど。
よい子も悪い子も真似しちゃ駄目だぞ。体重プラス鎧の重量で速度がすごい。ところで、思いついたはいいけどこれどうやって止まろう?
危機感を覚えたときには空中に体が投げ出されていた。そのまま勢いよく水に落ちる。
地底湖があるなんて聞いてないですね!
空かさず世界樹の種子が外殻をポセイドンの外皮に変更してくれる。ごめんね、俺が変なことを思いついたばっかりに。
ランタンをしっかり抱えていたのが不幸中の幸いか。そのまま底まで着いたけれど、地底湖の中には魔物はいないようだ。透明度が高いから向こうの壁まで見通せるけれど、目立ったものは何も無い。
岩肌も湿っていたし、ここはもしかして鍾乳洞なのか?
水の中からでも上が騒がしくなったのがわかる。目を凝らすとコウモリのような魔物が集まってきていた。音に反応したのか。
内殻をミスリルに変更。飛行タイプは雷に弱いんだろ、俺知ってる。
水面ギリギリまで浮上して放電。壁全面を雷が舐めるように一周するのを想像すると、巧くいったようでボタボタコウモリが落ちてくる。
水から顔を出して見上げると、壁面の上の方に俺が落ちてきたと思わしき穴が開いていた。壁に沿って天然の階段のようなものが続いているので、ゆっくり進んできたら突然空中に投げ出されることは無いようだ。
好奇心は猫を殺すってこういうことか。
せっかくなのでコウモリを回収して鞄に仕舞い、クライミング再び。
5メートルくらい上がったら広い足場に上がれた。穴を進んでいたときから思っていたけど、ランタンが無いと視界ゼロだな。イアンは多少見えるかも知れないけれど、俺とジェシカさんは無理だ。
戦闘になるとランタンをジェシカさんに持ってもらうしかないか、でもそうなるとジェシカさんの前に出ると逆光になるな。
どうするか思案しているとゴトンと何かが落ちた。足元を見るとボムが入った瓶が転がっていた。使えと? 自己主張激しいな。
瓶の蓋を開けてボムを出すと、ポワポワと浮かんで周囲を照らす。
「少し暗いか」
大きめの蛍みたいな子たちだからあんまり明るくはない。でも手が塞がらないならいいか。
なんとなく言うとばらけて飛んでいたボムたちが集まって一つにまとまる。ぎゅぎゅっと密集したボムがポンと弾けてバスケットボールくらいの大きさの一個の球になった。明るさ5割増し。
そんなことできるの!?
「ありがとう、明るくなったよ。こんなこともできるんだな」
声をかけると大きくなったボムが寄ってくる。よしよし。あとでご飯あげるからな。ご飯俺の血だけど。日光の方がいいのかな。今日はもう日が暮れるから血で我慢しておくれ。
ボムを飛ばして道を進む。広くなってくれたのはいいけれど、やはり滑る。道幅は広いけれど落ちないように気をつけないと。柵を作るか? 訓練も兼ねてるからあまり過保護にしても駄目か。水の中には何もいなかったし二人が落ちたら俺が飛び込もう。
横穴を抜けると、鍾乳石が縦横無尽に隆起した広いスペースに出る。中央部は地底湖になっているようだから戦闘時は気をつけなければ。
「ボム、戻っておいで」
バックバック。すごいいっぱい魔物いるよ。しかも虫。あれがスチール・スパイダーかな。でっかいクモだよ最悪。でも網にできるくらい頑丈な糸を生成するクモなら大きくて当然か。最悪だけど。目が退化しているのか光には反応しない。
スチール・スパイダーは見分けにくいらしいけれど、この中にも他の種類が混ざっているんだろうか? ちょっと調べてみるか。
ボムを通路から飛ばして駆け出す。
光には反応しなかったけれど、足音に反応してクモたちが一斉にこちらに向かって来た。ぎゃぁぁぁぁ!! クモ!! 自分で飛び出したけれど速攻で後悔。心構えしてたから発狂してないだけ誰か褒めて。
内殻変更オリハルコン。プラス魔力強化。脚に力を入れて鍾乳石を蹴って跳ぶ。大きい分そこまで素早くはない。鍾乳石は結構頑丈で強めに蹴っても壊れないようで良かった。
飛んでくる糸を回避しながらクモを観察してみたけれど、違いとかわからない。そもそも薄目でしか見れない。これはジェシカさんに同行してもらったのは正解だったな。
たまたま正面に対してしまったクモを剣で斬ろうとしたら、剣がクモにめり込んだ。
はぁ!? なんだこれ、土?
重くて振り抜けないので、剣に風の魔力を通して土を弾き飛ばす。急いでその場を離れて確認すると、飛び散った土のクモはスライムみたいに蠢いてまた元のクモの形に戻る。
何それ。
ちょっともう俺の理解では追いつかないな。負けることは無いと思うけれど撤退しよう。
「ボム、おいで!」
空間の真ん中を漂っていたボムを呼ぶとすぐに寄ってきたので、抱えて入ってきた横穴に戻る。クモたちもこっちに向かってきたけれど、小さな氷の塊を作って反対側へ投げると氷が地面に当たった音に反応してそちらへ向かって行った。
ここまで音に反応してくれるならジェシカさんを守るのは簡単そうだけど、あの土のクモは対処法がわからないな。ジェシカさんやイアンは知っているだろうか。
ボムに血をあげているのをジェシカさんに見られると怒られそうなので、それだけ先に済ませて外に戻る。地底湖のあるスペースは最初にコウモリを撃墜してしまったので何も出てこなかった。これ、またサウスに謝罪案件では?
ボブスレーした氷を溶かして、坂道を登る。外はもうすっかり真っ暗だった。
火を見ていたらしいイアンがバッと寄ってくる。
「ユウさん! すごい音がしてましたけど大丈夫でしたか?」
「音? ……ああ。大丈夫だ。氷を張って滑って移動したからその音だろう」
結構音が鳴っていた気がする。氷で滑っていた?と正気を疑う目で見てくるイアンの純粋さがつらい。
「だから言ったでしょう? 心配要らないですよって」
ジェシカさんが天幕から顔を出してイアンに笑いかける。
「ご飯の準備はできていますから、食べながら中の様子を教えていただけますか?」
「了解した」
わぁい。ご飯!
「ところでその光っている球はなんですか?」
あ。
バターとビクターには果物をあげ、ボムの新機能を説明しながらご飯を食べる。今回はビーフシチューみたいなシチューとパン。塊肉の代わりに干し肉を入れているようだ。味がしっかりしていて美味しい。肉も食べ応えがある。
「ボムが大きくなるのも驚きですが、土でできたクモですか?」
「風魔法で簡単に霧散したということなら土蜘蛛ではないですね。ユウさんの腕力で振り抜けないほど固く、砕けたものが再び形をとるということならゴーレムの可能性が高いと思います。ゴーレムなら私が目視で判断できますので問題ないですよ」
イアンは土のクモを知らないようだったけれど、さすがはジェシカさん! 目視で判断できると断言できるの格好いい。
ところでこの世界、土蜘蛛いるの? ヤマト王権に恭順しなかった土豪たちのことではないだろうから、妖怪の方だよね。
なんだっけ、源頼光が倒した身の丈七尺の人面蜘蛛か。変身能力とかもあったっけ?
「土蜘蛛って、どんな魔物なんですか? 名前は聞いたことあるんですけど」
「土蜘蛛の多くは体長10メートルを超える大蜘蛛です。強力な風魔法や土魔法を使いますが……ユウさん、そこまで大きいものはいなかったですよね?」
「いなかったな」
この世界の土蜘蛛そんなに大きいの? 泣くぞ。
「大きいものでも目寸で3メートル程度だったはずだ。しっかりと見れていないが、これといって脅威を感じるものはいなかったと思う」
でっかいなぁとは思ったけど、ジャイアントボアみたいな理不尽な大きさのものはいなかった。
ジェシカさんが頷く。
「土蜘蛛は災厄級ですから、ユウさんの直感に引っかからなかったのならいないと考えて間違いないでしょう。ゴーレムは特級上位ですが、核を潰せば復活しません。音に強く反応するというなら対処法はいくらでもあります」
土蜘蛛いなくて良かった! しかし、ゴーレムも特級上位か。ゴールドランク以上が対象の魔物じゃないか。
イアンが頭を抱える。まあそうなるよね。
「ジェシカさんに判定してもらいつつできるだけ一カ所でまとまって戦うしかないな。ジェシカさんの護衛と死角からの魔物などは私が対処するから、イアンはとにかく自分の身を守ることに集中しなさい」
「はい」
げ、元気がなくなってる……でもそうなるよね。耳がぺたんこになってしまったイアンをジェシカさんと二人で慰めつつ、食事の片付けをして寝床を整える。
「ユウさん、見張りはどうしますか?」
「夜中は私が起きている。朝方に少し仮眠をさせてもらえるか?」
「わかりました」
お願いします。
今日の見張りのおともはホットワイン。シナモンとレモンが美味しい。バターとビクターが寄り添って寝ているのを見てほっこりしながら夜を明かす。




