第59話 訓練場
今回からパソコンを使っているので、ちょっとおかしい所があるかも知れません。
昨日は呆れられたり怒られたりで忙しかった。大体俺のせいなんだけどね。そして隻腕のギルド職員、副ギルドマスターでした。ヤナさんだそうです。
とりあえず誤解は解けたからよかったけれど。そんなことを思いながら起き上がろうとしたけど、どうも体が重い。
「あー、雨か……」
窓の外を見ると分厚い雲が空を覆っている。結構激しく降っているようだ。今日はハンナさんの所にアースの装具を受け取りに行こうと思ってたんだけどなぁ。鎧があれば濡れることはないんだけど、俺ハメハメハ大王の国の子だから雨降ってるとやる気出ない。
そう思っても一日グダグダ過ごす訳にもいかないので起き上がる。窓に近づいて確認すると、昼過ぎには上がりそうか?
ご飯を食べて、訓練場にでも行こうかな。
ダイナーに降りるといつもより閑散としていた。やはり雨だとみんなゆっくり動き出すのだろうか。
「おはようユウちゃん」
「おはよう、ナヒカさん。今日は空いてるな」
「雨だとどうしてもね。撥水性のマントがない人は家でゆっくりしてるんじゃないかしら」
撥水性のマントか。ケルピーとかもいるし、ポセイドンじゃなくても撥水性の道具はあるか。この世界傘無いのかな? 移動が基本徒歩なのを考えると、数時間から数日歩くなら傘じゃ邪魔か。
街中で歩くだけなら結構軒先の屋根があるし、相当な土砂降りなら家で過ごせばいいもんな。この世界保存食多いし、数日なら引き籠もれそう。
「ユウちゃんは今日はどうするんだい?」
「私は訓練場で魔法の練習でもしておこうかと」
オークの肉だという豚しゃぶサンドを食べると美味しかった。オークだと思わなければブランド豚みたいだ。脂身が甘くて胡麻ダレと合わせてさっぱり食べられる。
「そうだ、ユウちゃん、今度からお代は無料でいいわよ」
「いや、そうはいかないだろう」
結構な量食べてるよ。
「ユウちゃんはいつもお肉卸してくれてるからね。ギルマスからも許可貰ってるから気にしないで」
そうなの?
「ではお言葉に甘えて。また何か獲ってこよう」
「楽しみにしてるわ」
何がいいかな。
これから魔物も冬籠りするって言ってたし、山とか平原では難しくなるかな。ダンジョンだと関係無いんだろうか? 笑顔のナヒカさんに手を振ってダイナーを出る。
職員に訓練場を使っていいか確認してから訓練場に入る。今日は子供たちも少ないとのことなので、火魔法とか試してみようかな。
「おお……空いてる」
新人の子たちは撥水性のマントなんて持っていないし、雨だと訓練場に来る子も少ないのだとか。雨の中来たこの子たちはガッツがあるな。
《架け橋》のメンバーはいないようだけれど、レノンさたちのパーティがいた。登録証が石っぽくなっているから、やはりストーンランクに昇格していたようだ。
そういえば俺の登録証、青いけどこれオリハルコンじゃないよな。常に青いし、高価なオリハルコンをバングルにはしないだろう。鉄に色を付けているのかな。
しかし、やっぱり広い訓練場でも外に比べると手狭だなぁ。なによりこの訓練場、ザ・運動場なんだよな。もっとアスレチックみたいにすればいいのに。どうせなら高さも活かせればいいのだろうけれど、魔法を使うとなると床が抜けたりすると危ないか。魔術で広げているって言ってたし無理なのかな?
念のため仮面を鎧にしておこうか迷ったけれど、ただでさえ下位ランクの子たちのための訓練場にお邪魔しているのに、威圧感ばかり高くなってもあれなのでやめておこう。ここにいる子たちの攻撃ではたぶんかすり傷くらいにしかならないだろう。
投擲してる子たち以外はみんな木製の武器で練習しているみたいで、カンコンと軽い音が鳴っている。投擲の方に気をつけていれば、剣が折れて飛んでいかない限りは子供たちも大怪我はしないか。
「あの、『血塗れの鎧』のユウさんですよね?」
ん? 振り返ると小柄な真っ黒のライオンの獣人の子がいた。近くにいるのはパーティメンバーだろうか。
「そうだが。君たちは?」
「僕たち、ストーンランクの《暁》です。僕はリーダーのイアンです」
ライオン君はイアンさん。
「私はユウラです」
ハーフエルフっぽい女の子がユウラさん。ユウラさんに隠れるようにしている子がジンコさん。ジンコさんはドルーフか。
「あの、不躾なお願いなんですが、氷魔法を見せていただけませんか?」
三人揃ったキラキラとした期待の目で見られる。
「構わないよ」
やったー!と喜ばれる。そんなに見たいものなのかな。
魔法を見せるのはいいんだけど、どう見せようかな。手のひらに氷とか思うと昨日の勢いで魔石作っちゃいそうだし。
どうしようかと周りを見渡そうとして、反射的に手が上がった。イアンさんに当たる寸前でナイフを掴む。
あっぶな! 咄嗟に手が出て良かった! 気をつけておこうと思った端から気が抜けてるの良くないな!
「すみません! 大丈夫ですか!?」
ウッドランクの女の子が慌てて走り寄ってきた。さっき投擲してた子だな。弾いてしまったのか。
「大丈夫だ」
「あの、ユウさん。思いっきり刃を掴んでますけど、大丈夫なんですか?」
え? あ、本当だ。掴んだことしか気にしてなかった。手袋してて良かった。手を開いて確認してみたけれど、手袋自体も切れたりしていないようだ。この手袋何革製なんだろうか。
「問題無い。手袋も無事だ」
女の子にナイフを返して、イアンさんたちを連れて投擲しているスペースに近づく。
「せっかくだ、役に立つことをしておこう」
投擲の所は一応スペースを区切ってあるけど、俺の肩の高さの柵があるだけなので外に弾きやすいし、ナイフを回収に行くのに一々全員が待つ必要がある。これをどうにかすればいいかな。
的同士を区切るように氷の壁を建てて、側面と天井も覆う。四角い箱に区切り板を入れた感じ。多少歪になっているけれど、これで弾かれたナイフが他所に飛んでいくことはないだろう。俺には氷で城とかは作れそうに無いな。
それと、もう一工夫。これじゃあ的以外に当たるとナイフが弾き返ってくるかもしれないし、寒さで手がかじかんでしまうかもしれないから、全体を土で覆っておこう。
「わぁ……」
周りにいた子供たちが突如出現したように見える壁に気をとられている間に、投擲をしていた子供たちを手招く。
「さすがに全員分の列は取れないから、人が増えたら何人かに分かれて使ってくれ。土の層が厚いからナイフは問題無く刺さると思うが、寒くはないか?」
「はい。えっと、大丈夫だと思います。動いてると暖まりますし」
「それなら良かった。では、練習する子は一歩中に入って、他の所に飛んでいかないようにしてくれ」
「はい! ありがとうございます!」
よしよし。頑張っておくれ。
イアンさんたちに向き直って、壁を指差す。
「土で覆ってしまったが、これでよかったかな?」
「はい!」
大きく頷く三人から離れて、改めて訓練場を観察する。
「……改造するかぁ」
ロボの修行が終わるまで暇だし。ギルドには迷惑をかけているし。
二週間程度で「ああ……まあユウさんだし……」みたいな顔をされることに慣れてはいけないと思うんだ。
まずは弓使いの子たち用のスペースか。投擲用スペースの天井を伸ばして距離を確保してみるか。
作った天井に飛び乗って形を考える。弓の場合は壁は要らないのか? 学校の弓道場には無かったけどどうなんだろう。とりあえず的代わりの土台を立てて……。
「弓使いの子、誰か上がってきてくれるか」
土の階段を作って呼ぶと、恐る恐るジンコさんが上がってきてくれた。
「投擲場と同じような壁は要りそうか? 他にあった方がいいものがあれば教えてほしい」
「えっと、壁は欲しいです。あと、途中に的がもう少し欲しい、と思います」
壁と、途中に的。壁はいいけど、途中の的はどうしようかな。投擲と同じような間隔で壁を建て、ジグザグに階段みたいになるように的を立ててみる。
「こんな感じでいいか?」
「はい。十分です」
「この的は何に使うんだ?」
「複数体を想定しての連射の練習ができるかと思って」
なるほど。確かに同じ的を狙うより難易度が上がりそうだ。
「弓使いの子は上がっておいで。ただ、こちらも数に限りがある。順番はみんなで決めてくれ」
「はーい!!」
よし。元気。
「これ、床大丈夫なんですか?」
「ペリュトン数百体乗せた時よりも分厚くしているから、君たちの体重では思い切り暴れても問題無いよ」
支えの無い中二階みたいだから心配になるのはわかる。しかしご安心を。俺の氷は頑丈だ。ジンコさんの質問に答えて、さて次。
中二階から飛び降りて気づいたけれど、天井を延ばしたせいで投擲場がすごく暗い。暗所での訓練と言えばいけそうだけど、真っ直ぐ投げる訓練をしている子たちにこの暗さは無い。
「すまない、暗かったな」
「あの、いえ……その、はい……」
すごいしどろもどろ。俺そんなに怖いかなぁ?
「遠慮しなくていい。少し待ってくれ」
とは言ったけど、どうするか。光るようなものは、あ、ボムでいいか。
演習の時から鞄から取り出した瓶の中にいるボムが、なんだかこう。
「萎んでいるな」
どうして?
ユウラさんが瓶をのぞき込んで調べてくれる。
「たぶん、魔素が減ってるんだと思います」
魔素が減る。あー、そういえばボムは魔素か魔力かが固まったものってノエルさんが言ってた気がする。これ充電式のライトみたいなものなのか。爆発するけど。
あ、俺スマホも携帯も学生鞄の中に入れっぱなしだ。もう充電切れてるだろうな。
「回復させる方法はわかるか?」
「日光に当てるか、魔素を与えるかすれば回復すると思いますけど」
雨が降っているから日光には当てられないとして、魔素を回復させるってどうすればいいんだろう。
「魔石があればいいんですが」
魔石なぁ。作れるけど予備で作るとか考えてなかったので持ってないです。ん?
「それは、魔素を大量に含んでいれば魔石でなくてもいいのか?」
「え? はい。大丈夫だと思いますけど」
オッケー。
手袋を外し、ナイフを抜いて手の平に当てる。切れ味がいいので少し滑らせたら赤い筋が浮かんだ。
覚悟してたけど痛―い!
でも仕方ない。俺がご飯あげてなかったみたいなものだもの。それに痛いことは痛いけど出血の割には痛くない気がする。
「瓶を開けてくれるか?」
「あ、はい」
蓋が開いた瓶からふわふわと浮かんだボムが俺の手の平に集まってきた。やはり俺の血で代用できたようだ。
綺麗だな。蛍なら絶叫ものだけどボムなら可愛いで済む。
「満腹になった子は離れなさい。次の子が待っているから」
最初に手の平に乗った子が大きく膨らんだので指でつつくと、飛び上がって頭にポンポンとぶつかってくる。お前まさか俺が前握り潰したやつじゃないよな? 魔力の塊だからって、爆発してもすぐに回復するとかあるのか?
ボムが全部離れた時にはもう傷は塞がりかけていた。ボムが直してくれたのか?
「魔石の代わりに血液というのは初耳です」
「私の血は使い勝手がいいようでな」
なんでかは知らないけど。
ボムを列ごとに数体放つと結構明るい。これでいいだろう。
次は肉弾戦担当の子たちだな。これ以上の省スペースは今日のところは難しいから、とりあえず少しでも実地に近づけよう。
「足元注意だ。動くぞ」
みんなこちらに注目してくれていたので声をかけて、地面が剥き出しの床を隆起させる。ボコボコとわざと不安定になるように意識して、木の代わりに何本か柱を建てる。
「実戦を意識して足元の確認を怠らないように。柱を木だと思って、武器は大振りせずに扱うこと。死角から人が出てくるから気をつけてくれ」
「はい!!」
良いお返事です。樹ごとぶった斬るなんて気軽にやっちゃいけません。
「……何をしてるんだい?」
斥候の子たちが跳躍力を鍛えたりできるスペースとかも欲しいなと思っていると、いつの間にか後ろにヴァネッサさんとヤナさんがいた。
何をって言われると困る。
「……楽しく真剣に訓練ができればいいな、と思って?」
アスレチック作ろうとか、ちょっとしか思ってません。




