第57話 挨拶巡り
のんびり過ごした翌朝、元気にロボの修行に合流しに行ったアースを見送り俺も行動を開始する。
まずは倉庫に行って、頼んでいたペリュトンとホーンブルの肉を受け取る。まるまる一頭分だとやっぱり大きいな。ヴァネッサさんに軽く声をかけて、ラウさんの店へ。
お土産を渡すととても喜ばれた。
「よろしいのですか? こんなに頂いてしまって」
「勿論だ。稲や調味料の件で頼ってばかりだからな」
ヴァネッサさんに聞いたけど、製粉前の稲を大量に確保するための農家との連携やら、醤油や味噌を大量生産するための職人ギルドや商人ギルドとの交渉を全部代わりにやってくれているらしい。
「新しい調理法や調味料の製造方法なんて滅多に知れることではありませんからね。それを快く教えて頂いたのですから、お手伝いできるところはさせていただこうと思いまして。商売柄交渉は得意ですから」
頼りになる大人って感じだな。
「調味料なんかはうちの別店舗で売らせていただくことになっておりますし」
ニコッといい笑顔です。ちゃっかりしてた。
「別店舗?」
「はい。この店舗は食材やそのまま食べれれる物を基本に売っていますが、別に調味料や酒類を売っている店もあるんです」
へー。確かにこの店には調味料なんかは無いな。
「ユウさんは酒豪だそうで、良ければ今度寄ってみてください。北側の通りにある、トリィ商店という店です」
「名前が違うのか」
「はい。そちらは妻が管理していますので」
ラウさん結婚されてたのか。酔わないけど、味はわかるからお酒見に行ってみようかな。ブランデー系が好き。……ところで俺酒豪として広まってんのマジ?
ラウさんの店を後にして外壁に向かうと、門番はグルドさんだった。
「今日はどこに行くんだ?」
「西の森にウェストに挨拶に行こうと思っている」
「おう……気軽に訊くもんじゃなかったわ」
引かれた。それでも手を振って見送ってくれるグルドさんに手を振って返し、西の森に向かって走る。世界樹の種子を鎧にして、中をオリハルコンにしてみる。強化無しでジェシカさんを背負って森の入り口まで1時間45分くらいだったから、単独で強化したら30分切るんじゃないかな。
よっし! 28分!
多少走った感はあるけど、まだまだ動けそうだな。自分でもどれだけ体力があるのかわからないから、今度暇な時にどのくらいで疲れるかとか検証したいな。それこそダンジョンで時間無制限の耐久戦でもするか。
ジェシカさんと来た道を辿るように森を進む。前より森が明るい気がするのは、ドラゴンになったウェストの魔力が馴染んだからなのかな?
ケルピーと戦った湖はなんだか前よりキラキラとしている気がするけれど、こういうところにも影響が出るんだろうか。
崖まで来たけれど、どうなんだろうな、これ。跳んで渡れるかな?
ビクターは跳べるっぽかったし、やってみようかな。
駄目でした。
思いっきり跳んだら変な跳び方しそうな気がしたから中途半端に力を入れなかったのが悪かったようだ。手前で落ちた。
咄嗟に氷を足場にしたけれど、調子に乗ってしまった感がすごい。誰もいなくて良か──。
「……もしかして迎えに来てくれたのかな?」
「ガウ」
反省を込めてロッククライミングして登ったところで、覗き込んできたワイバーンと目が合った。恥。
ザーパトは黒っぽかったけれどこの子はちょっと緑がかってるな。光が当たると体表が緑に光って綺麗。
手を地面に着いて体を低くするので、背中に乗れということだろうか。ワイバーンライド。
「じゃあお願いするよ、美人さん」
背中に登って首を撫でるとグルグルと喉を鳴らしてワイバーンが飛び上がる。
思ってたより安定感がある。正直ジェットコースターとかの絶叫マシンは苦手なんだけど、ワイバーンの背中は全然平気だ。ザーパトの倍以上ありそうな子だから飛ぶのも上手なんだろうか?
どんどん上昇して飛ぶけれど森の終わりが見えない。峡谷部分も含めて本当に広いな。この森をウェストの力で維持していると考えるとすごい。
断崖の中腹部分にある穴の入り口にワイバーンが着地したので、背中から降りようとするとどしんと衝撃があった。
「ろぼはー?」
「ザーパト」
ザーパトが緑の子に体当たりした衝撃だったようだ。背中から降りてザーパトを撫でる。鎧姿のままだけど俺ってわかるものなんだな。ん? ザーパトはあの時見てたか。
「ごめんよ、ロボは修行中なんだ」
「しょぎょう?」
「強くなるために特訓をしているのであろう。遊ぶのはまた今度だな」
ぬぅっと上からウェストの顔が降りて来た。影になっているからわからなかったけれど、壁だと思っていたのがウェストの体だったみたいだ。
「じゃあ、つよくなったらあそべる?」
「ああ。もう一人お友達になれそうな子が増えたから、一緒に遊んであげてくれるかい?」
「うん! たのしみにしてるね!!」
たのしみー! とはしゃぎながら飛び立って行ったザーパトを見送り、ウェストに向き直る。緑の子がそっとウェストに寄り添っているので、もしかしてあの子はお嫁さんかな?
「お久しぶりです。挨拶に来るのが遅れて申し訳ありません」
「問題無い。東の森での働きは聞き及んでいる。ずいぶん早く動いたものだな」
「忠告を受けて調査した結果、他国の騎士団が侵攻していたようで。大掛かりにはなりましたが迅速に対応できました。ギルドマスターが非常に感謝しております、と」
ヴァネッサさんに声をかけた時にお礼を伝えておいてほしいと頼まれていたのだ。
「うむ。礼は受け取っておこう。この森にも東から逃げてくるものが減って助かっている。群れで来られるとバランスを調節し直す必要があるからな」
森の主ってそんな管理人みたいな感じなんだ? どんっと構えていれば良いってものじゃないのか。
「そうだ、先程ザーパトに言っていた、もう一人の友達というのは東の木立にいた小竜か?」
「ええ。真性ドラゴン種というドラゴンの幼体だったようです。ロボが弟と言って連れて来ました」
「そうか。はぐれドラゴンとなると対処に困っていたのだが、ユウが引き取ったなら問題無かろう。大切に育ててやれ」
そのままにしておくと問題があったんだろうか? まあもう引き取ってしまったからいいか。大切に育てます。
「しかし、東の森に行って思いましたが、この森は豊かですね。森自体が生き生きとしているように思えます」
「そう言われると悪い気はしない。我が500の年月をかけて育んだ森だ。主のいない東の森は勿論、主のいる南の山にも負けはせんだろう」
ウェスト500年も生きてるのか。しかし、地球でこの規模の森を作るとなると数万年かかるんじゃないか? ウェストクラスの主がいると500年でできちゃうのか。逆にウェストクラスがいても500年かかるって考えないといけないのか……というか、南の山、主いるんだー。
「どうした?」
「あー、その、この間、南の山地でうっかり山を凍らせてしまいまして……」
もしかしてとても拙いのでは?
ウェストが首を降ろして顔を近づけてくる。
「南の山が凍ったとは聞いたが、汝がやったのか」
「はい……」
悪気は無かったけど、主がいるなら謝りに行った方が良いよなぁ。でも一人で行くのはさすがに拙いか。ナイトが帰って来るのを待ったほうが無難だけど、そうすると遅くなっちゃうし、いっそ父さんでも呼ぶ?
悩んでいるとウェストがのしのしと出口に近づく。
「どうしました?」
「ここまで一人できたということは死はロボの修行に付いているのだろう。我が連れて行ってやる故、早めに謝っておけ」
うわー! マジで!? 良いの?
「申し訳ありません。ありがとうございます」
「構わん。乗れ、落ちぬようにな」
はーい! ワイバーンライドに続いてドラゴンライド!
ワイバーンよりもゆったり羽ばたいてるのに速度は出てるみたい。
「ウェスト、南の山の主というのはどんな魔物なんですか?」
「グリフォンだ。人語を解する故、真摯に謝れば許してくれよう」
グリフォン、グリフォンか。なんだっけ、鷲の上半身に獅子の体の魔物? 鷲獅子だっけ?
「ウェストの知り合いですか?」
「知り合い、と言う程ではないが、まあ見知った仲ではあるな」
そうなのか。ウェストみたいに優しい魔物だといいなぁ。
「む?」
「どうしました?」
「ゼウスが女帝の森の上に集まっている。また何かやらかしたのだろうか」
ゼウスって、ゼウス? ギリシャ神話の全能の神? しかも集まってるって、この世界ゼウスいっぱいいるの?
「どれですか?」
「山向こうに大きな雲が集まっているだろう。あれらがゼウスだ」
……ゼウスって、積乱雲なの? いや、積乱雲って言っちゃっていいのかわかんないくらい大きい雲だけど、それはそれとして、どうなの? 確かにゼウスは雷を使う?神様だったりした気がするけど。
積乱雲って、いっそ素直か。
しかも、ウェストの言い方からしてちょくちょくゼウスってやらかしてるの?
「ゼウスは悪い奴ではないのだが、悪意無く災厄を撒く。それでなくとも大雲は嵐を呼ぶ。大きな雲を見たら近づかないように」
悪意無く災厄を撒くとかどうしようもないのでは? どれがゼウスとかわかんないし、積乱雲を見たら回り道して進むようにしよう。
ゼウス怖いと思っているうちに、もう南の山地に着いた。崖から見たのと上から見るのじゃやっぱり見え方が違うな。
以前崖から見た時女帝の森かと思った地平線はどうもそうではなかったらしい。ゼウスはもっと奥にいる。村っぽい集落は見えるけれど、クンフォの街ではなさそうだ。向こうの山の更に奥か?
南の山地自体も山脈が連なっているようで、思っていた数倍広かったようだ。
「出迎えだ」
ウェストがそう言った途端、山から何かが飛び上がって来た。
翼を広げると10メートルはありそうな大鷲がウェストの前でホバリングする。本当にライオンっぽい胴体が付いてる。神々しいというか、神秘的だな。こうして考えるとペリュトンだけなんであんなに不気味なんだ?
「何用か、西の主」
うわ待って、このグリフォンめっちゃ声が良い。一瞬笑っちゃいそうになっちゃった。
「用があるのは我ではないが、とにかく降りるぞ」
ウェストの声に、南の山の主が先導して山の上の開けたところに降りる。
ウェストの背中から降りてグリフォンと向き合うとその大きさがよくわかる。体高が3メートルくらいありそう。この世界は基本的に動物が大きいなぁ。ロボは普通の大きくなりそうな子犬って感じなんだけど。こんな風に大きくなったりするのかな。
ウェストに顔で背中を押されて前に出され、グリフォンが首を傾げる。
「初めまして、南の山の主。私はユウ。レニアの街で冒険者をしています」
「西の主がヒトの子を連れて来るとはな。何用だ?」
ウェストがいるからか警戒はされていないようだ。フンフンと匂いを嗅がれる。羽毛がふさふさして擽ったい。
「以前山が凍ったであろう。この者がやった故、謝罪しに来たのだ」
「あれ貴様がやったのか!!」
ごめんなさーい!! 嘴でガジガジされる。本当にごめんなさい。ついでに世界樹の種子のおかげでダメージ0なのもごめんなさい。
「申し訳ありません。虫が大量に向かって来たからついうっかり」
「うっかりで山を凍らせるな!! どれだけかかってこの山を作っていると思っているのだ!」
「500年くらいかかっていると思っています! 本当にすみませんでした!」
ガジガジベロンベロンされる。本当にごめんなさいなんだけど、怒り方が穏やか。この子怒り慣れてないな?
全能の神ゼウスはこの世界では、天空の神獣(積乱雲)です。
予定ではもう主要メンバー揃っているはずだったのに、まだ半分も出て来てないです。話を書くのって難しいですね。




