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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第56話 細工師

 サリカさんの工房も独特の雰囲気があった。ゴウルクさんの工房と同じで手前で販売、奥の部屋で作業するのだろうけれど、たぶん素材であろう謎の薬草とか石とかが手前の店舗部分にいっぱい溢れている。魔石ではなさそうだけれど、なんだろうか。

「サリカさん! お客さんですよ」

 全く人の気配がしない工房に向かってコウジンさんが声をかけるけれど、返事が無い。

「こりゃ、また裏かな……。呼んで来ますんで、ちょっと待っててください」

「ああ」

 店内を見て待っていよう。見たことない道具がいっぱいだ。バングル型から杖、布。この布は杖とかに巻くのか、人体に直巻きするのか。広げてみるとキラキラとしたラメ細工みたいになっていて、魔法陣が書いてある。

「これはなんだろう」

「たぶん、風魔法を強化してくれる術式ですね。杖に巻いたり、剣の柄巻にしたりするものだと思います」

 チルセ魔法陣読めるの? すごすぎじゃないか?

 へーっとネルが布を触る。

「じゃあこのキラキラしてんの魔石を砕いた粉か。魔石ってすごく硬いんじゃなかったっけ?」

「その硬い魔石を砕くのが僕たち細工師の仕事だからね」

 うお。

 振り返ると、黒い仮面を着けた金髪の……じょ、だん?……人がいた。仮面も不思議だけれど、この街では見かけない服装だ。首元や袖なんかは勝手なイメージだけれど少し中華風かもしれない。仮面の縁に何か模様が彫ってあるようだけれどちょっとわからないな。

 コウジンさんが一緒にいるということはこの人がサリカさんか。

「すまないね、少し気になるものがあって住居のほうに籠っていた。依頼主は君かな?」

 こてんと首が傾いて俺を見るので頷く。

「私が依頼するが、加工してもらいたいものはこの子が持っている」

 チルセの背中を押すと頷きながら杖に巻いてあったリボンを解く。

「これを、加工していただきたいんです」

 差し出した杖に巻いてある髪を観察しているサリカさんを見ながら、俺も他の人からはこんな風に見えているんだろうか、と黄昏てみる。サリカさんの仮面は顔全体を覆ってしまっているから俺のとは少し違うんだけれど、小柄なサリカさんでこの威圧感なら大柄な俺だと不信感すごいだろうな。

 最初に話しかけてくれたレオに感謝しないと。もしかしたら不審者を警戒して話しかけてきたのかもしれないけど!

「これは君の髪かい? 『血塗れの鎧(ブローディ・アーマー)』」

「ああ。……私の二つ名はそんなに広まっているのか?」

「ある程度名が知れている職人には通知されている。偽物が現れたりするからね」

 俺の偽物が現れんの!?

「まあ君の真似をするのは難しそうだが」

 肩に乗ったアースを見てそう言われた。俺の偽物はともかくナイトたちの偽物は見つけるの難しいだろうな。ナイトに至っては首無いし。

「加工は承るよ。ただ君はストーンランクのようだし、少し制限を設けておこう。道具に頼って実力を過信するのは良くないからね」

「はい」

 杖ごと必要なのかと思ったけれど髪だけでいいらしい。絡まった髪って解きにくいのに簡単に解いていくのは細工師なだけあって手先が器用なんだろうな。

「代金は?」

 細工ってどのくらいかかるんだろう。加工は俺が言い出したことだから予算オーバーとかは無いんだけど気になる。今後俺が頼むこともあるだろうし。

「金貨2枚くらい……なのだけれど、代金の代わりに一つ頼んでも?」

「うん?」

 待ってて、と言われてサリカさんが奥に消えて行く。

「どうしたんだろうか?」

「さあ……。さっき呼びに行った時には小さい箱の前で固まってましたけど」

 箱?

 グレートタイガーという魔物の牙でできたペンダントを見つけて大興奮しているアースを宥めたりしながらサリカさんが戻って来るのを待つ。加工先は武器じゃなくてもいいのか。大きくなるときに抜けたら加工してもらおうね。

 戻って来たサリカさんは20センチ四方くらいの箱を持っていた。コウジンさんが指差すので件の箱なんだろう。

「これを開けたいんだ」

「……どうしたら良いんだ?」

 扉板と思われるパーツは取っ手が付いたただの板にしか見えない。鍵穴も無さそうだし、どうして開かないんだ?

「対封印という術式で閉じられているんだ。名前のとおり、開閉には対になる術式が必要なんだけれどそれが見当たらなくてね」

 へー。よく見せてもらうと薄っすらと術式が見える。

「封印とはそんなに簡単にできるものなのか?」

「対封印は多少訓練している賢者なら比較的簡単にできるよ、これは開閉を禁じるだけだからね。箱全体を守るような結界は簡単には作れない」

 そうなんだ。

「……すまない、どうしたら良いんだ? 箱を壊すわけではないのだろう?」

 壊すだけなら俺に頼む必要は無さそうだし。

「血を一滴分けてほしい」

 血を。は、まぁ一滴くらいなら良いんだけど。

「私の血でどうにかなるのか?」

「噂を聞く範囲で、君の魔素変換率なら術式を構成している魔素に無理矢理介入できそうだから、それを利用して強制的に術式を書き換える」

 ……?

「どういうことですか?」

 みんなよくわからなかったらしい。トーカが手を挙げて質問する。

「そうだな……鍵が鍵穴に合わないから、鍵穴の方を鍵に合うように直すと思ってくれたら良いかな」

「鍵はどうするんだ?」

 俺の血で鍵穴を直すとして、肝心の鍵が無いのでは?

「僕は細工師だ。鍵となる術式くらい作れるよ」

 なるほど。渡された針で指先を刺す。別に全然耐えられる痛みだし、注射とかは全然平気なんだけど、自分で刺すってなるとどうにも恐ろしいのはどうしてなんだろうか。

 いてっ。

 指先に血が滲んだ状態で箱の扉板に触る。

「これで良いのか?」

「十分だ。ありがとう」

 血を吸い込んだ術式にサリカさんが触れると術式が光った。スルスルと術式が崩れ、違う模様を構成していく。サリカさんの反対の手元にも魔法陣が浮かぶ。

「頼んだ僕が言うのもなんだけれど、君、これからは気軽に血をあげたりしないほうがいいよ」

「私もそんな気がしてきた」

 よくわからないけど、完成している術式にこんなに気軽に干渉できちゃいけない気がする。完成したらしい術式を扉板の術式の前で回すと、扉板の術式が同じように回った。ダイアル錠みたいだな。

「開いた」

 術式が消えて、サリカさんが扉板を開ける。

 中にはスズランの飾りが箱に入れて置いてあったが、すぐに扉板が閉められた。

「もう良いのか?」

「ああ。僕の家の中で隠し事がされるのが我慢ならなかっただけだからね」

 ふうん? サリカさんが良いならいいんだけどね。

 満足したらしいサリカさんがチルセに顔を向ける。

「じゃあ、加工には2日くらいかかるから、そのくらいで取りにおいで」

「はい!」

 結構早くできるんだな。ロボの装具も時間が合わなかったから取りに行けなかったけど、2日くらいでできてたっぽいしな。あ、そうだ。

「サリカさん、もう一つ追加で頼みたい」

「なんだい?」

「これで時計を作ってほしい」

 すっかり忘れていたタイムライトを取り出し、差し出された掌に置く。アースがペンダントを見つけていたときに隣に並んでいたので作ってもらえるだろう。

「時計か。いいよ。形の好みとかはあるかい?」

「あー、できれば蓋付きで、紐を通して吊り下げられるような輪っかを付けてほしい」

 ナイトは地球ではアンティークの懐中時計を愛用してたから。

「蓋と吊り下げ用の金具付きだね。了解した。そうだな、髪の加工を優先するから、3日後くらいに取りに来てくれるかい」

「わかった。料金は?」

「じゃあ先払いにしてもらおうかな。銀貨3枚だ」

「了解」

 銀貨3枚っと。

 サリカさんにお礼を言って工房を出る。



 せっかく外にいるのだからと露店で串焼きを買って昼食代わりにすることに。お祭りじゃなくても露店が出てるんだな。

 グロテスクを倒した時に話しかけてくれたおじさんが豚串みたいな物を売ってたので、そこで買うと大量のおまけを貰ってしまった。兄ちゃん顔色悪すぎるからいっぱい食って血を増やせとのこと。

 どストレートすぎるおじさんにオリバーとネルが吹き出していた。

 昔から色白を通り越して単純に血色が悪いと言われてきているので顔色が悪いのは自覚してますが、いっぱい食べても治らないんですよ。血の気は常に失せてる。なんでなんだろうな。貧血とか無いのに。

「コウジンさん、ゴウルクさんにお土産で持って帰ってくれるか?」

「いいんですか?」

「さすがに食べ切れない」

 ナイトとロボに食べてもらっても余りそう。鞄に入れてたら傷みはしないんだけど、せっかく頂いた物だし早めに食べてしまいたい。

「サリカさんへの紹介のお礼ということで」

「そういうことでしたら、有難く」

 みんなで食べな!と笑ってくれていたので許してくれるだろう。

 アースは豚串と一緒に売っていたソーセージがとても気に入ったらしい。モギュモギュと一生懸命頬張っている。

「そういえば、サリカさんの箱の中身ってなんだったんだろう」

「すぐ閉じちゃったから見えなかったね」

 あれ? あ、そうか、角度的にサリカさんより背の高い俺は見えたけれど、みんなは見えなかったのか。

「金属とガラスでできたスズランの飾りだったぞ。たぶんブローチか何かだと思うが」 

 半透明に見える丸っこい花が可愛らしかった。

 形を思い出しながら話すと、コウジンさんが吹き出した。

「どうした?」

 ゲホゲホと咽せるコウジンさんの背中を摩ると、反対側にいたネルが頭を掻いた。

「あー、ユウさんってこの国の人じゃないんでしたっけ」

「そうだが?」

「この国では、花飾りを贈るのはプロポーズなんですよ」

 ……。

 まだ咽せているコウジンさんを見てから、オリバーを見ると首を振られた。

「私はかなり拙いことをしたのでは?」

「サプライズを妨害したわけですからね……恨まれるかも知れないですね」

 やめてよオリバー、そんな鎮痛な面持ちでそんなこと言わないで。わざとじゃないもん!!

「だからサリカさん中身を見てからなんだか嬉しそうだったんですね」

「隠し事してると思ったらプロポーズの準備だったんだもんね」

 チルセとトーカが楽しそうに言うけれど、マジで? そんなことわかったの? これは男女の見るところの違いなんだろうか?

「とりあえず、殴って勝てる相手だといいな……」

「話し合いができる相手じゃないんですか?」

「話し合いができる人なら何も問題が無いから、問題があった時のために勝てる相手であってほしい」

 腕力に頼るのはどうかと思うけれど、興奮している人と話し合うには腕力があった方がいい。

 なんとか回復したらしいコウジンさんと別れギルドに戻る。

 《架け橋(アーク)》は訓練場に行くらしいが、俺は放置していた洗濯と食器洗いを済ませて少しゆっくりしよう。アースも眠そうにしてるし、お昼寝させたい。

 部屋に戻り、アースをベッドに寝かせて桶を持ってシャワールームに入る。前に干していた物はナイトが取り込んで畳んでくれていたので、干す場所は問題無さそうだ。そういえば手袋洗ったことないな……革製だけどどうなんだろう? 靴も汚れている感は無いんだけど、洗ったほうがいいのかな? 今度誰かに訊いてみよう。ハンナさんのところなら手入れ方法わかるかな。

 食器も洗って部屋に戻るとアースはのびのびと体を伸ばして寝ていた。野生でこの警戒心の無さだったのは問題では? 強いから大丈夫だったのか?

 アースを撫でながらナイトに念話を入れる。

『ナイト、今大丈夫?』

『はい、休憩中です』

『そっか。アースは明日合流させるよ。結局どこで修行することにしたの?』

『私が以前見つけていたダンジョンです。人はほとんど来ないのでちょうどいいかと』

 ダンジョンか。人が来ない所に発生したらマッチポンプできない気がするけど、もしかしてナイトみたいにダンジョンに挑む魔物もたくさんいるんだろうか?

『ワゥン!』

『ロボ、どうだ? 強くなれそうか?』

『バウ!!』

 おお、元気。怪我したりはしてないみたいで良かった。

『期待しててね、とのことです』

 はは。楽しみだ。

『実際ユウよりもずっと筋が良いので、しばらく修行すれば相当強くなると思いますよ』

 マジかよ。お、俺も頑張らねば。


主人公君は髪だけでなく血も役立ちます。

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