第55話 初心者用武器
作業場を片付け終わって表に戻るとたくさんの武器を前に子供たちがはしゃいでいた。あんなに怯えていたのに。アースも興味深そうに武器を見ている。
「おう、終わったか?」
「ああ。まとめて移動させるだけだったからすぐ済んだ」
相談している子供たちの邪魔にならないようにして並ぶ武器を見る。メジャーどころの剣、槍、弓、ナイフ、斧、盾……はわかるとして、手甲? 完全な防具も扱っているのか。戦士の人とかが使うのかな? 大きさ形が様々な武器が並んでいるけれど、チルセが使っているような杖は無い。
「杖は無いのか?」
「作れんこともないが、基本的に杖は細工師が作った物を補強するだけだな」
そうなのか。じゃあ細工師の人に頼めばチルセに渡している髪を加工してもらえるだろうか。何やらゴソゴソしているゴウルクさんの手元を覗くとオリバーにあげたナイフの鞘を加工しているようだ。
「それは何をしているんだ?」
「抜きやすいように直してる。坊主が使うなら剣では手狭な時に使う程度だろうと抜けにくいようにしていたが、この子が使うなら咄嗟の時に抜けるようにしておかんと」
ほーん。見せてもらうとナイフが抜けないように留めるベルトのボタンを外側に付け直しているらしい。
「元々は坊主のシースと同じタイプだったんだがな」
そう言われて俺のナイフを確認すると内側に刃を留めるボタンがあり、外側に持ち手を留めるベルトがある。しかもオリバーの鞘はボタンが一つなのに対して俺の鞘はボタン二つで留められている。
「……」
「どうした?」
「いや、なんでもない」
今日依頼を受けるつもりは一切無かったのに、完全に無意識で剣もナイフも準備してた。俺もしかしてこの世界との親和性めっちゃ高いのか? 2週間程度で慣れすぎじゃない? 地球に帰省した時うっかり街中で佩剣しないように気をつけないと。言い訳ができない。
意識を戻そう。ナイフの鞘だな。
「確かにこれは咄嗟に抜かせる気が無いな」
「お前さんなら咄嗟の時は引きちぎれるだろう」
そんなことしないですと言えないのが悲しいね。たぶんできます、やります。
「師匠、俺がやっときますんで子供らと一緒に選んでやってください」
「おう。頼むな」
コウジンさんがゴウルクさんと代わってくれたので、子供たちに加わる。
「どれが良いか決まったか?」
「あ、はい! 俺はこのナックルダスターがいいなって」
その手甲、ナックルダスターなんて名前なの……。いかつぅい。肘から手の甲まで守るタイプのようだ。
「ユウさん、見てくださいこれ! すごいんですよ!」
そう言ってネルが手甲を嵌めた手を握ると、手甲が伸びて指をカバーした。
「お? どうなっているんだ?」
「手の甲部分の中に一枚プレートを仕込んでる。拳を握ると指に掛けた紐が引っ張られてプレートが出てくる仕組みだ。たった一枚だが殴った時の反動ダメージはだいぶ違うと思うぞ」
へー。よく見せてもらうと、手の甲部分が三層になっていて、指を曲げると拳を保護するための鉄板が飛び出してくるようだ。指を伸ばすと戻る仕組みらしく、攻撃時以外は指の自由度も高そうだし一々外す手間が無いなら便利だな。
「コウジンの発案だ」
「そうなのか?」
振り返って鞘を直しているコウジンさんに訊くと、照れたように頭を掻いた。
「初心者は子供が多いでしょう? 体もそこまで丈夫ではないし、どうせなら攻撃の時にも役立てられないだろうかと思って。俺の技術じゃ作れないから師匠に作ってもらいましたけど」
「若者の発想はもう儂には浮かばん。手甲は防具、そう思い込んでいたが、攻撃に転用できる防具があってもいいな」
……盾も攻撃に転用されている防具な気がするけれど、それは違うんだろうか。まあ鎧を攻撃に使うと考えると珍しいか。俺も世界樹の種子で直接戦ったことは無いし。殴り飛ばすのは鎧での直接攻撃ではないですよね?
ともかく、ネルは戦士だし《架け橋》唯一の前衛職だから攻防一体型の手甲はちょうど良いだろう。革手袋も新調してだいぶ武装が整ったな。
ゴウルクさんも納得したようだ。
「お前さんは戦士だな? ならそれで良いだろう。使った感想も今度教えてくれ。少しサイズを調節するから、そうだな、明日改めて受け取りに来なさい」
「はい!」
ネルの腕にはちょっと太いか。内側のベルトの穴を増やすのかな?
「トーカは?」
「私はこれがいいです」
トーカが選んだのはオリバーのより少し細めだけれど、採取用には少し厳ついナイフだった。刃渡りが25センチくらいある。持ち手も細いので持ちにくさは無いだろうけれど、もっと小振りの物を選ぶかと。
「嬢ちゃんの職業は?」
「私は採取職なんです。採取道具は一揃い持っているので、咄嗟に戦えるものが欲しくて」
「ふむ……魔法は?」
「使えません」
言い切るってことはトーカは全く魔法が使えないのか。となるとナイフ一本じゃ不安だな。かと言って毎回ロボやアースをついて行かせると他の冒険者から何か言われそうだしなぁ。俺が言われるならいいけど、トーカが文句を言われたら申し訳ないし。
ゴウルクさんもどうしたものかと腕を組んだけれど、何故かトーカもオリバーたちも笑顔だ。
オリバーたちが三人でトーカを囲む。
「トーカのことはご心配無く! いつ言おうかと迷ってたんですけど、ご報告します。トーカが正式に《架け橋》に加わりました!」
「おお!」
ギルドで一緒にいたのはパーティに参加したからか。
「採取職のままパーティに入ったのか?」
「はい。その、採取職って結局は護衛がいるじゃないですか。だったらパーティに入っても良いんじゃないかってチルセが誘ってくれて」
そうだね。ジェシカさんとも最初は護衛依頼で知り合ったし。
「それでみんなで話し合って、今トーカが受ける依頼なら俺たちでも護衛できそうだし、採取の近場で魔物の討伐依頼とかあったらそれも一緒に受けれて一石二鳥だなって」
「この間のジェシカさんの話を聞いてて、専門の知識がある人が一人いると安心感があるし」
「私たちはどうしても接近戦に弱いから、普段は護衛をしつつ、いざとなったらトーカにも戦闘に加わってもらうつもりです」
なるほどね。《架け橋》は非常時の足りない戦力を補えて、トーカは依頼のたびに護衛を探す手間と費用を節約できるのか。
「良いんじゃないか? 今から一緒に依頼を受けていればランクも同じように上がっていくだろうし、戦いにも慣れるだろう」
「戦闘系パーティに採取職が加わるのは初耳だが、確かに効率的かもしれんな」
えへへーと笑う子供たちが楽しそうで何よりだ。
オリバーが指を立てる。
「実際、昨日一昨日と一緒に依頼を受けてみたんですけど、ネルが怪我した時にトーカが薬湯を作ってくれて回復が速かったんです」
「私も、一人だと行けない木立の中の薬草を採取に行けましたし、戦闘もとりあえずはチルセが魔法を準備するまでの時間稼ぎくらいならできそうです。長時間は無理でしょうけど、一撃弾けばオリバーやネルが間に合ってくれましたし」
まさかの確認済みだった。
「それなら私が言うことは一つだけだな。怪我をしないように、というのはこれからランクを上げていく以上は難しいだろうが、無理はしないように。何かあったら迷わず頼れる大人を頼るんだぞ」
「はい!!!」
良いお返事です。
「そういや、お嬢ちゃんは武器を選ばんのか?」
ゴウルクさんがチルセを見たので、チルセが首を振った。
「私はユウさんの髪を貰っています」
「髪そのままは気まずいから加工したいんだが、いい人を知らないか?」
髪を引っ張りながら言うとゴウルクさんが眉間を揉んだ。
「あのなぁ……坊主、お前さん自分の髪にいくらの値が付いてるか知ってるか?」
「考えたくない。元手はタダだ」
買い値が金貨600枚になるんだよ? 本気で考えたくない。言い切ると深いため息を吐かれた。
「まあ、坊主がそれで良いならいいんだがな。コウジン、それが終わったらサリカのとこに案内してやってくれ」
「わかりました」
サリカさん。細工師の人かな?
コウジンさんの作業が面白いのかずっと手元を覗き込んでいたアースが肩に飛んで来た。満足したのかと思ったけど、何か見つけたらしく大興奮で襟を引っ張るのでついて行く。
背中越しにゴウルクさんが手甲の詳しい使い方を説明しているのを聞きながら引かれるままに壁に辿り着いた。
「どうした?」
「ギャウ!!」
飛び上がったアースが壁に飾られた大剣の前でホバリングする。剣身が白く、象牙みたいだ。なんの素材で作っているのかと考えていると下に説明書きがあった。
「……ドラゴンの牙」
「ピャー!!」
アースさんそれはどういう反応なの? ドラゴンの牙製の剣の前で大興奮するドラゴンの心理誰か教えて。
腕の中に降りて来たアースが剣を見ながら爪をワキワキと動かしているのだけど、これもしかして自分の爪で作ってもらおうとしてる?
「アースのじゃあ小さすぎて無理だろうなぁ」
「ミィ?」
すごく不服そうに見上げられた。でもね、これたぶんウェストクラスのドラゴンの牙だよ。アースの爪や牙だとペンダントトップくらいが限界じゃないかな。
アースを宥めながらみんなの元に戻る。
「それにしても、無理を言ってすまなかった」
「構わんさ。いい機会だからこれから初心者用の武器も販売していくことにした」
「そうなのか。喜ばれるだろうな」
「おう。そのためにもこの子らにも宣伝を頑張ってもらわんと」
ゴウルクさんの今の評判を考えると初心者が気軽に買えるって知らせるのは大事だもんね。
「これらの代金は?」
「初心者用は一律銀貨5枚で販売しようと思ってる」
一律銀貨5枚か。ウッドの子なんかにはちょっと高級だけれど、頑張れば手が届かないこともないだろうし、やる気に繋がってくれればいいな。ゴウルクさんの作品ならランクが上がっても使えるだろう。
財布から金貨を5枚取り出す。トーカのナイフも鞘とベルトを調整しないと駄目だろうし、三人分の調整と何種類か作ってもらった分も含めて、このくらいなら受け取ってもらえるはず。
「では、調整代諸々含めてこれで」
「おう。毎度あり。……ほらな、言ったろ? ウチの顧客はこういう奴ばかりだ」
代金を受け取ったゴウルクさんが子供たちを振り向く。子供たちはポカンと俺たちのやり取りを見ていた。
「なんのことだ?」
「安過ぎると心配してくれてたんだ。心配せんでもウチは高ランク冒険者相手に稼げると説明したんだが納得せんでな」
あー。なるほど。ゴウルクさん程名が知られてる職人なら本当は初心者用でももっと高値で売れるか。手甲とか普通に考えて銀貨5枚余裕で超えているだろうし。
「坊主みたいに料金外の分まで勘定してくる奴や、素材持ち込みのくせして素材分の値段込みで支払う奴、無理を頼んだからと倍額置いていく奴もいる。そういった高ランク連中が余分に置いていった分を初心者に還元していこうと思ってな」
肩を竦めるゴウルクさんにネルが手を上げた。
「でもそれ、そう言い切っちゃうと高ランクの人から文句言われませんか?」
「言うか?」
今目の前で宣言された俺に振るの?
「いや、あくまで私個人の意見だが、間接的に援助できるならむしろ有難い。今回は私の不手際の謝罪のためだが、何も無いのに武器を買い与えていると角が立つだろうしな」
というか俺も全力で父さんの援助に乗っかってるしね。剣も鎧も服も鞄も父さんの物。……そう考えると俺が自分で用意した物って食べ物だけじゃないか? ナイフは父さんから貰ったお金で買って剣の調整代とかも父さんに出してもらってるし、宿はギルドだから無料だし。
「私は初心者を全力で援助していこうと思う」
「突然どうした」
「改めて自分がどれだけ甘やかされているのか実感した」
父が勇者ってチートだよなぁ。とりあず危ない目に遭ってる子とかいたら積極的に介入していこう。
ひとまず武器は決まったので、コウジンさんの作業も終わったみたいだしサリカさんの工房に行こうか。




