第54話 修行と装具
翌朝起きるとナイトもベットにいた。いつ戻って来たのか全然覚えてない。熟睡してたってことはやっぱり疲れてたのかな。
伸びをして窓の外を確認すると日が昇り始めた頃のようだ。顔を洗って着替え、起き出してきたアースを肩に乗せて倉庫へ向かう。この時間ならもう開いているはずだ。
案の定開いていた倉庫にいたギルさんに手を振ると気づいてくれたので近づく。アースはいろんな道具に興味津々で飛んで行ってしまった。
「見るのは構わんが、危ないから触るなよー」
「ギャウ!」
飛び回るアースに声をかけてからギルさんがこちらを向く。ドラゴンを前にしても意外と冷静だなと思っていたけれど、他の解体職の人はジッと目で追っているから、ギルさんは登録前のアースを構い倒していたのかもしれないな。この人なら気にせずやってそう。
「買取だな?」
「ああ。ホーンブルとオークとペリュトンだ。一応ガーゴイルもあるな」
「はいよ。肉はどうする?」
「ペリュトンとホーンブルを一体ずつラウさんにお礼に持って行きたいんだが、他をダイナーに卸すと怒られるだろうか?」
「オークなら良いんじゃないか? 普通に焼いて一番美味いのはホーンブルだから、それはいくらか持って行くといいぞ。ラウさんとこに持っていく分は明日には用意しておこう」
「わかった。量は任せる」
ホーンブルはゴウルクさんにも持って行こうかな。ゴウルクさんには調理済みのほうが喜ばれるか?
魔物を鞄から出していると、ギルさんが作業台に乗せた魔物の頭をつついて首を傾げた。
「ユウ、お前なんか拘りがあるのか?」
「拘り?」
持ってきた俺が言うのはなんだけど、頭だけがずらっと並んでる光景怖いな。
「全部首を狙ってるのには訳があるのかと思ったんだが」
「いや、狙いやすいのと、できるだけ苦しめたくないから首を落としているだけなんだが」
「そうか。もう手遅れだろうが、首は勢いよく血が出るから血を被りやすいのはそのせいだと思うぞ」
なんだと!?
「もう少し早く教えて欲しかった」
「無茶言うな。ここまでの量を持って帰って来たのは初めてだろうが」
そうですけども! そしてちゃんと意識して首を狙うようになったのも今回が初めてだけれども! そのアドバイスがもう少し早ければ俺は『血塗れの鎧』なんて二つ名は付かなかったかもしれないのに!! 代わりに破壊神になってたかも知れないけど。
「ほれ、行った行った。ああ、ウーが探してたから一回ギルドに顔出してやってくれな」
「了解した」
恨めしく見ているとシッシッと追い払われたのでアースを呼び戻して倉庫を出る。さっき通った時にはギルドホールにウーさんいなかったんだけど、誰かに呼んでもらえばいいか。
カウンターにいた職員に声をかけるとすぐにウーさんが出て来てくれた。
「お待たせいたしました」
「いや。何か用が?」
「はい。しばらくウィルが街を離れるので、相談事などありましたら私がお受けするという連絡です」
「わかった。よろしく頼む」
昨日帰ってきたところなのに早速遠出しているのか。ウィルは忙しそうだな。
とりあえず俺たちはご飯を食べようか。
ダイナーに入ると起きていたらしいナイトとロボがいて、何故か改まった様子のナイトに手招きされて席に着く。
「ユウ、しばらく修行に行ってもよろしいでしょうか?」
「修行?」
「ロボがどうしてもと」
ナイトが修行に行きたいわけではなく、ロボが修行したいのか。
「どうしてまた」
「わぉん」
テーブルの横でお座りしているロボを見ると、俺の肩にいるアースを鼻で指す。
「先日、戦闘時にアースに手伝いを頼んだのでしょう? どうやらそれが羨ましかったようですね」
「わん!」
「ギャウ?」
うーん。ペリュトンの相手は無理そうだと思ったのは確かだけれども。
「今でも十分助かってるが」
「わぉう」
ロボの頭を撫でてみるけれどご不満らしい。尻尾の元気がない。しかしなぁ。
「修行して強くなるものなのか?」
チャーチグリムってお墓を守る温厚な犬なんでしょ? 魔物とはいえ育つのか? そうですねとナイトが腕を組む。
「ユウの魔力で強化されているでしょうから、意味が無いということはないでしょうが、正直わかりません。初の試みですので」
「そうか……まあ、やってみたいならやってみれば良いと思うぞ。ナイトとアースも手伝ってやるんだろう?」
「勿論です。では、とりあえず二週間ほど修行してみましょうか」
「ワン!!」
ナイトのお許しが出て嬉しそうなロボの頭を撫でつつアースの頭も撫でれば満足げにアースが喉を鳴らす。
「ユウは一人で大丈夫ですか?」
「ナイト、私はもう18歳なんだ」
ご飯は作れないけど日常生活は送れます。そして今のところご飯の心配はないので大丈夫です。依頼を受けたとしても、調理済みのものを買うとか携帯食で済ませるとかいろいろできます。ナイトの中の俺って出会った時で止まってるのか?
「早速今日から行くかい?」
俺たちの話を聞いていたらしいナヒカさんがサンドイッチを持ってきてくれたついでにナイトに訊くと、腕を組んで考える。
「そうですね。討伐の件もありましたし、何があるかわかりませんから早い方がいいでしょう。思い立ったが吉日とも言いますし」
了解です。
「アースは装具を買わないといけないからあとで合流しようか」
「ワァーウ」
よくわかってなさそうだけどまあいいか。
朝食を終えて影に消えていったナイトとロボを見送り、ギルドホールに戻るとちょうど《架け橋》とトーカがいた。
「ユウさん!」
「おはよう。みんな今日の予定は?」
「まだ決まっていません」
「では今日出かけられそうか?」
「はい!」
よしよし。
「では行こうか。先にこの子の装具だけ買いに行ってもいいか?」
肩に乗って子供たちを観察していたアースを撫でると子供たちの視線が集まる。
「勿論です。と、いうか、ドラゴンですよね!」
「ああ。真性ドラゴン種という種族だそうだ。大人しい子だから仲良くしてやってくれ」
「はーい!!」
よしよし。アース、子供が気になるのはわからないでもないけれど、お腹に張り付くのはやめなさい。上下逆になってるぞ? どういう力で張り付いてるんだ?
子供たちと一緒にジェシカさんのご実家の革製品店に向かう。アリサさんに訊いたところジェシカさんは何日か掛かりの採取依頼を受けているらしいので予定を組むのはしばらく後になるかな。
店に顔を出すとちょうどハンナさんが店頭にいたので声をかけさせてもらう。子供たちは自分たちに必要なものがないか探しに行ったけれど、俺はそうはいかないからな。
「おはようございます。今いいだろうか?」
「あら、ユウさん! ええ、勿論です。アースちゃんの装具の件ですか?」
「ああ。どういったものがいいかもわからないから、助言をいただきたい」
「ピャー」
鳴きながらアースがヨジヨジと肩から降りて来てハンナさんに近づく。
「そうですね。かなり小さい部類に入る子ですし、首が長めで毛も無いので首に巻くと苦しそうに見えちゃいますね」
なるほど。確かに。
「それと、柔らかい革のものが良いでしょうね。リボンが垂れるのが気になっていないようなら、ベルトよりも今のリボンのように布のように結んで調節できるものがいいかと」
ハンナさんがそう言って出してくれたのは布にしか見えない白い生地だった。
「これは革なのか?」
受け取ってみたけれど触った心地も上質な布のようにしか思えない。アースが不思議そうに匂いを嗅いでいる。
「はい。シーサーペントの泳膜と呼ばれる皮を加工したものです」
シーサーペント……単純に考えれば海の蛇? これ蛇革なのか。異世界すごいな、布としか思えない。
「少々お値段が張るものなのであまり気軽にお勧めすることはないのですが、ユウさんなら気にならない程度の出費かと思いまして」
ほほう? 値段を聞いてみると今アースが脚に巻いている布と同じ大きさで金貨4枚らしい。なるほど、いい値段。でも触り心地もいいし、ドラゴンだから革で擦れたりして怪我をするなんてことはないだろうけれど、脚に直巻きするなら柔らかいほうがいいよな。俺の肩にも優しい。
「話を聞く限りこれが良さそうだな。これに加工はできるだろうか?」
「物によりますね。ロボちゃんの装具のように石を付けますか?」
「ああ。ロボが拾ってきた綺麗な石があるんだ」
蛍石のような明るい青みがかった緑の石を見せるとハンナさんが手に取って検分する。
「これは……フローライトですね。少し削って形を整えれば問題無く付けられますよ」
「では頼む」
フローライトってことはやっぱり蛍石か。一体どこで見つけたんだろう。
「かしこまりました。前と同じように割札を用意しますのでしばらくお待ちください」
はーい。
会計を済まして割札を受け取り、子供たちと合流して店を出る。《架け橋》はネルの手袋を買ったらしい。革製品だから値が張るものが多い印象だったけれど、初心者向けのお手頃価格なものもあるようだ。
「そういえば、どこで買い物するんですか?」
「ゴウルクさんの工房だ。話はもうしてあるから……どうした?」
我慢できずに移動したアースを抱えていたネルに訊かれたので答えると子供達が視界から消えた。振り返ると全員が立ち止まっていた。首を傾げるとオリバーが引き攣った顔をする。
「ゴウルクさんって、あの、看板を出してない工房の、ドワーフの人ですよね?」
「そうだが」
ゴウルクさんそんな怖がられるような人なの? 見た目は厳ついけど話していると世話焼きな優しいおじいちゃんだよ?
「あの人、高ランク冒険者御用達の超高級武具職人ですよ!? 俺らみたいな新人用の武器なんて売って無いっすよ!」
そうなの!? いや? なんかウィルがそんなことを言っていたような気がしないでもないような?
「しかし、オリバーに渡したナイフもゴウルクさんの作品だし、そもそも本人に調整するから連れて来いと言われているから心配無いだろう。私が帰って来たことはもう知られているだろうし、準備はできているだろうから顔だけでも出しておかなければ」
連れて行かないと逆に怒られそう。
渋る子供たちを追い立てて進むと、工房の前に大きな桶が出してあった。なんだ? 不思議に思いながら近づくとゴウルクさんが同じくらいの大きさの桶を持って出て来た。桶を壁に立てかけたゴウルクさんが顔を上げて俺に気づいたらしい。
「その子らが言っとった子らだな? 何種類か用意しているから突っ立っとらんと、入った入った。坊主は裏をちぃと手伝ってくれ。腰がイカれそうだ」
「手伝うのは構わないが、何をしているんだ?」
「良い素材を使えば良いものが作れるのは当然だが、その辺にある素材で良いものを作ろうとすると技術が要る。職人魂だ。楽しくなっちまってどんどん作っちまってな。片付けが間に合ってないんだ」
あー……縛りプレイ?って感じなのか? 限られた素材で最良のものを作るロマンなのだろうか。英智がゲームでやってた気がする。初期装備で高難易度をクリアする、みたいな。俺はマックスまでレベルを上げて殴るタイプだからその楽しさはあんまりわからなかったけれど。
それにしてもこの世界、武器が数日で作れるのか。日本刀なんかは一~二週間かかった気がするんだけど、その辺も異世界クオリティなのかな?
ゴウルクさんに連れられて用意されていた武器を見ている子供たちを横目に、作業場に入ってコウジンさんというお弟子さんに指示を仰ぎながら鉄の塊が入った箱なんかを移動させる。
俺が重いって思うことはたぶん相当重いんだろうな。鉄の塊だしね。腰がイカれそうっていうのも納得だ。定期的に手伝いに来たほうがいいだろうか? ゴウルクさんもコウジンさんもドワーフだから高いところの物は取りづらそうだし。
「すみません、お客さんに手伝わせちゃって……」
「力仕事は得意だから気にしないでくれ。普段扱ってない物を頼んだ分の対価だと思っておくさ」
申し訳なさそうにするコウジンさんに手を振って返す。体力も腕力も有り余っているのでお気になさらず。




