閑話2 召喚された勇者たち
正規召喚組の二日目。
起きた。起きれてしまった。むしろ寝た気がしない。というかたぶんほぼ寝れてない。外はまだ真っ暗だ。
フカフカなベッドで体を起こすと、夢なんだろうなと思いながら目を閉じた時と同じ天井が。
「はぁーーーーー。マジ?」
頭を抱えてからとにかく着替えて部屋を出るとルーカスさんがすでにソファーに座っていた。昨日俺がまとめた紙に目を通しているルーカスさんに声をかける。
「おはようございます」
「おはよう。夢ではなかったようだな」
「みたいですね……」
眉を下げて笑うのに同じように笑って向かいのソファーに座る。
「ルーカスさん、ご家族は?」
「ルークと呼んでくれたらいいよ。両親は姉と同居していて、私は一人暮らしだ。心配させてしまうだろうが、姉がいれば大丈夫だろう。君は?」
「両親と、弟と妹が。大丈夫かなぁ、あいつら。いっぱい泣くだろうな」
妹の蓮なんて来年には中学生だというのに、まだまだ泣き虫だからな。
「そうか……。せめて生きているということが伝えられれば良いのだが」
「それなら可能だよ」
……。
「誰!!??」
ルーカスさん……ルークしかいないはずのホールに知らない声が響いた。ソファーの影が延びてゆらゆらと陽炎のように立ち上がる。
「やあ、初めまして。僕はグレゴリー。大賢者とも呼ばれているけれど、それはまあ関係ないかな? 一応君たちのことを見守ろうかと思っているよ」
「大賢者が影から湧くのおかしいだろ!!」
「だって僕この国の人間じゃないし。堂々て出ていくと君たちの立場も悪くなるかなって、配慮ってやつだよ」
大賢者が配慮の結果影からゆらゆら助言してくるとか初では?
ルーク固まってるし! そりゃそうですよね。
「で、話を戻すけど、君たちを送り返すことはできないけど、連絡するくらいならできるよ」
「どうやって?」
「君たちの持ってる、ケイタイデンワ?ってやつ。調節すれば君たちの世界と通じるようにできるはず」
嘘でしょ!? なんで異世界の大賢者が携帯電話の存在知ってんの?
「リアムが便利だよって言っててさ。ちょっと貸してみて」
どうにも信用ならないけれど背に腹はかえられない。そもそも、この世界電波なんて飛んでないだろうから持ってても意味の無いものだし。朧げな影にスマホを渡すとしっかりと受け取られた。
「リアム……魔王、リアム?」
硬直が溶けてきたらしいルークがボソッと言った言葉で思い出した。そういえば魔王はいないという話になっていたけれど、リアムっていう存在はいるのか。
「魔王!? あの子が? あはは! いやー、この国の皇帝は本当に考えが突飛で面白いね。あの子が魔王になったらこの世界は終わりだろうなぁ」
心底愉快そうに笑いながら大賢者がスマホをいじる。魔法陣が空中に現れては消えていく。
「はい。全部のケイタイデンワに術式を刻むとさすがに怪しまれるだろうから、代表してこれを使わせてあげて。ジュウデンっていうのが必要なんだっけ?」
「あ、うん」
現代社会の用語を大賢者が使ってる……。
「この魔石を当てればデンリョク?に代わるようになってるはずなんだけど、駄目だったらまた次様子を見に来るまでに新しい術式を考えておくよ」
そう言って渡された石は黄色く光る小指の先くらいの大きさだった。充電が半分に減っているスマホに当ててみると、黄色く光る魔法陣が広がってすぐに満充電になる。
「大丈夫そう?」
「はい」
どうなってるんだ。勧められるままに家に電話をかけると繋がった。電波どうなってんだ。
母さんと父さんには散々怒られたけれど、ルークも一緒になって説明してくれた結果、どうにかふざけているわけではないということは理解してくれた。類と蓮にはずるいずるいと連呼されたが、どうにもならないだろう。
電話を切って、呆然とした気分のままルークに電話を渡す。ルークも四苦八苦しながら説明していたが、なんとかしばらく帰れないけれど元気だから問題無い、ということで落ち着いたらしい。
「今更なんだけど、ルークも大賢者さんも日本語上手ですね」
「ニホンゴ? 僕が使っているのは統一語だよ?」
「私はポルトガル語だ。君たちがポルトガル語が上手いんだと思っていたんだが」
どういうこと??
「あー、そっか。君たちの世界って言語がたくさんあるんだっけ? この世界は言語が一種類しかないからね。多少の方言や言い回しの違いなんかはあるけれど、基本的に言葉が通じない国は無いよ。エルフなんかは技術を伝えるために独自の言語形態を持っていたりもするけれど、日常では統一語を使用するのが基本だ。召喚されたからか知らないけれど、君たちの言葉もこの世界の言語機能に組み込まれたんだろうね」
そんなことある!? いや、便利でいいんだけどさ!! というか言語が世界に組み込まれるって何。
「言葉の壁が無いのか」
「無いよ。むしろなんで君たちの世界はたくさん言葉があるの? 邪魔くさくない?」
「なんでなんだろうな……言葉が通じればもう少し世界は生き易くなるだろうに」
「あの、ルーク? 何かあった?」
「ブラジルで就職したのにフランスの支部に行かされたんだ……」
わぁ。大人って大変!! 遠い目をするルークの肩を叩いていると、大賢者がパンと手を打った。
「とにかく、用事も済んだし僕は一旦帰るよ。そのうちまた様子を見に来るから、変な気を起こさず良い子にしてなよー。帰してあげることは難しいと思うけれど、なんとか自由に生きれるようになるように動いてみるから」
じゃあねーと陽気に帰っていく大賢者の影を見送って、ルークと二人でため息を吐く。
「なんだか、良くなったのか悪くなったのかよくわからないな」
「ですね。でも、とりあえず家族に心配をかけなくていいというのはホッとしました」
「同感だ。他のみんなが起きてきたら順番に電話をかけさせてあげよう」
そうですね。
外が白み始めてきた頃に起きてきた他の人にも電話を貸して連絡を済ませ、迎えの人が来るまで待つ。なんというか、家族の反応って本当にそれぞれなんだな。マイケルさん改めマイクと、田中の家族はノリノリだった。逆にナターシャさん改めナータとアイちゃんの家族はすごく心配していた。これは息子と娘で変わってくるのはわかるかもしれないけど。それでもみんな最後には納得してくれるのはなんなんだ? 何か不思議な力でも働いているのか?
「それにしても、その大賢者が来たときに起こしてくれれば良かったのに」
「すまない、すっかり失念していた」
マイクに言われてルークと揃って謝る。マイクの真偽のスキルで大賢者の発言が本当か確認してもらえばよかったんだけど、大賢者が帰って行ってから思い出した。
「おはようございます。本日は座学から開始しようと思っておりますが、宜しいでしょうか?」
「はい。お願いします」
朝食を持って来てくれた従者に言われて頷く。座学ができるのは有難い。
「俺勉強苦手」
「がんばって」
田中がボソッと言ってアイちゃんに励まされている。そんな気はしてた。逆にその髪色でめっちゃ勉強できたらギャップがすごいぞ。座学はこの部屋で行なうとのことなので朝食を終えて待っていると、厳つい服のお爺ちゃんと騎士って感じの鎧のおじさんが入って来た。
「講師を仰せつかりました、ギデオンと申します」
「ギデオン様の警護係のディルだ。私のことは気にせず勉学に励んでくれ」
お爺ちゃんがギデオンさん、おじさんがディルさん。ギデオンさんは偉い人なのかな? まあいいや。俺たちが多少不敬なことを言った程度で打ち首になったりはしないだろう。たぶん。
「えっと、ギデオン様? 勉強の前に質問してもいいですか?」
「はい。どうぞ」
「昨日鑑定したときに疑問に思ったんですが、適性にある、賢者、というのはどういうことでしょうか。俺たちの世界では賢者はそのまま賢人を意味していたのですが」
昨日から疑問だったんだけど、今日大賢者なんて人が出てきたからよりわからなくなった。素直に訊くとギデオンさんが頷いてディルさんが大きな紙をテーブルに広げる。
「では、最初は適性について勉強していきましょうか」
そう言ってギデオンさんが紙に文字を書き始める。
「みなさんは全員魔導士、賢者、治癒術士の適性があるんでしたな」
「はい」
「宜しい。その三つは全て魔法を使える適性であり、治癒術士はその名のとおり治癒魔法を使うことができるということです。魔導回路の作りが他とは違うので、治癒術師の適性を持たない魔導士や賢者が治癒術を使うことはできません」
魔法が使えればなんでもできるわけでは無いのか。なら治癒術士の適性をみんなが持っていたのはラッキーだったな。
「魔導士とは魔法を扱う者で、賢者は魔術を使用する者です」
「魔法と魔術は違うのですか?」
「魔法とはこの世界に溢れている魔素に干渉し法則を変えて性質を変化させ発現させることで、魔術とはその変化した性質に動きや形を持たせることです。簡単に言えば、火を起こすのが魔法、その火を矢の形に変え飛ばすのが魔術です」
へー。
「では、魔導士だけとか賢者だけの適性を持っている人はいないんですか?」
「賢者の適性持ちの中には魔導士の適性を持っていない者もいますね。魔導回路自体は生きていて魔術は使えるので、魔石と呼ばれる魔力の詰まった石で魔法を起こしてそこに術式を刻み、魔術を使うことができます」
「賢者の適性を持たない魔導士は?」
「滅多におりませんな。絶対にいないと断言はできませんが、少なくとも私は会ったことがない。そもそも魔法を制御するためには魔術、つまりは賢者の適性が必要不可欠です。火を起こせても、それ以上はどうにもできないとなると、その者の魔力量が余程多く無茶を通せるだけの器用さがあるか、オリハルコンのような特殊な金属に制御術式や抑制術式を刻んで持たせれば多少は使えるでしょうが……天性の不運でしょうな」
賢者の適性の無い魔導士ってそんな絶望的な扱いなんだ!? オリハルコンは特殊金属なのか。ゲームとかでよく見るけど、この世界ではどんなふうな扱いなんだろう? というか、結局大賢者ってなんなんだろうか。
田中が手を挙げる。
「先生、魔法ってどうやって使うんですか?」
何かを教えてくれる人はお前の中では全員先生なんだな。先生と呼ばれたギデオンさんが少し驚いたように目を瞬かせてからニコッと笑ってくれたので、まあ先生でいいのだろう。
「魔法は魔法陣を構築し、その魔法陣に魔術式を書き込み、呪文を詠唱することで発動します。その一連の行動を全てまとめて魔法と呼ばれますね。能力の高い魔導士でしたらそれらを省略して魔法を発現されることもできますが、魔法の難易度が上がるにつれてそれも難しくなります。魔法陣も術式も詠唱も、大気中の魔素を変換するためのものですので、省略してしまうと全て己の魔力で魔法を発動させなければならなくなってしまいます」
んー。要は効率良く魔法を使うためには魔法陣とかがいるけど、効率を無視すればそれらはなくても魔法を使うことができるってことか? その場合はどうやって魔法を出すんだろう?
「魔法陣を構築っていうのはどうするんですか?」
「魔導回路に魔素を流して魔力へと変換し体外に発現させます」
??? ギデオンさんは簡単に言うけど全く意味がわからない。俺たちがみんな首を傾げるのに笑ってギデオンさんがディルさんを見るとディルさんが巻物っぽいものを机に広げてくれた。
「簡単な魔法の詠唱文言も持って来ましたので、これを使って感覚を覚えましょう。詠唱には補助詠唱と本詠唱があり、補助詠唱は魔法陣の構築と術式を書き込む補助をしてくれる詠唱になります」
補助詠唱。説明を聞きながら紙を見るといくつか短文と単語が書かれていた。
「ファンタジーだ……」
なんか漫画で見たことある感じの文言が並んでるぞ。
「では、座学の予定でしたが実践してみましょうか。訓練場に移動しましょう」
「はーい」
また説明が多くなってしまいました。
大賢者は転生者とかではない純然たる異世界産の技術チートです。




