第51話 対空戦?
2日目はバジリスクの襲撃以降は何も無かった。夜の警戒もしていたけれど、何も起きなかった。なんで? 畳みかけるという概念が無いの? 瞬殺されたから諦めたの?
夕方からウィルは騎士団の所に状況を確認しに行っている。こっちにバジリスクが出たからあっちにも何かあったかも知れないということらしい。
バジリスクの真体はナイトがギルドに持って帰った。解体して自然発生したものか、実験的に作られたものなのか確認するらしい。魔物って作れるの? まあ勇者召喚とかできるなら魔物くらい作れるのか?
「こうも暇だと眠くなってくるな」
「ああ」
横に並んだノエルさんがあくびを噛み殺しながら言うのに頷く。
「このまま何もなく日が昇れば、明日は忙しいのだろうか?」
「どうだろうな、しかし夜に忙しいよりはいいだろう。私たちのような獣人は夜目が利くが、人間やドワーフはあまり得意ではないのだろう?」
確かに。
「この暗さだと10メートル先も怪しい。そう考えると有難いのか」
今日は月も隠れがちなので平原は本当に真っ暗だ。火を焚いてはいるけれどそれでも暗がりを見通すには至らない。風が吹くたびに葉が擦れる音がしていなければこの先にあるのが海だと言われても信じてしまいそうだ。
そう言うとノエルさんが目を瞬かせていた。
「どうした?」
「いや、言っておいてなんだが、お前は普通に見えていると思っていた」
なんで!?
「期待に添えなくてすまないが、見えてないな」
むしろ夜目は利かない方です。暗いと全然見えない。
「いや、安心した。ちゃんと人間らしいところもあったんだな」
どういう扱いなのだろうか。ちゃんと人間らしいって。ずっとちゃんと人間です。
「二人とも、ウィルが戻って来た。明日のことで相談があるそうだ」
レオが呼びに来てくれたのでついて行くと、パーティリーダーたちが集まっていた。ウィルが手を上げて迎えてくれるので横に滑り込む。
「で、どうだった?」
俺たちで最後だったのかシオンさんがウィルに促す。
「どうやらあちらさんは国境外まで撤退したようです。騎士団はもう少し様子を見てから帰投するそうですが、私たちは明日一日様子を見てから帰還します」
「それが安全行動だろうな」
「どデカい置き土産があるかも知れないし、仕方ないか」
「じゃあ帰還予定は明後日か?」
「問題が起こらなければ」
問題が起こらなければ明後日には帰れるのか。非常戦闘区域とか聞いてたからもっと、血で血を洗う感じに巻き込まれるかと。良かった。ホッとしていると他の人たちが難しい顔をしていたので首を傾げる。
「バジリスクの真体なんてもんを喚び出すんだ。何かあるんだろうな」
「おそらくは。明日ですが、今日と同じように昼前には全員起床をお願いします。何があるかわかりませんのでパーティメンバーにも注意を促してください」
応っという声に気を引き締める。そうでした。お家に帰るまでが遠足……んん。お仕事ですもんね。
翌朝空が白み始めてから仮眠を取っていたけれど嫌な予感とともに起床する。他の人たちも起きていた。
「なんだ……?」
危険というか、面倒臭そうな気配がする。俺が寝ている間に遊びに行ってたロボが戻って来て、平原の向こうを警戒しているようだ。目を凝らしてみたけれど残念ながら俺の視力では見えない。
「ユウ、起きたら来てくれ。問題発生だ」
「問題?」
なんだろうか。ウィルに呼ばれるままについて行くと、ルーンさんを始めとした弓使いの人たちが集まっていた。シオンさんが額を押さえているので、もしかして結構大変な問題なのか?
アルさんが面倒くさそうに呟く。
「ゴブリンの大軍はともかく、ぺリュトンか」
ゴブリンの大軍はわかるけど、ぺりゅとん? 何それ、可愛い名前だね。
ウィルが眉間を揉んでため息を吐く。
「総員戦闘準備。ゴブリンの大軍に備えてくれ」
「ぺリュトンはどうする?」
「今回ばかりはどうにでもなる」
ぺリュトンはそんなに強い魔物ではないのかな? 戦闘配置に就くために離れて行った冒険者たちを見送って、残ったギルド職員組と《烈火の守護者》と《勇敢なる星》の二組と一緒にウィルとシオンさんを囲む。
カイさんが手を挙げた。
「どうにでもなると言ったが、どうするんだ? 今回のパーティはそこまで対空戦を得意としてないぞ」
対空戦ということはぺリュトンって飛ぶのか? あ、だから斥候の人じゃなくて弓使いの人たちが報告してたのか。
「最初はシオンに丸投げしようかと思ったんだが、斥候の話を聞く限りゴブリンの数も洒落にならん。小規模戦闘くらいの規模は想定しておいた方がいいだろうから、シオンをそっちに取られるのは痛い」
ほう。え、小規模討伐の規模で押し寄せてくるゴブリン? ゴブリンって怖めの小鬼みたいな感じだったよね? いや、怖っ。オークも嫌だったけどなんか想像するとオークより嫌。
そこでだ、とウィルが俺を指差す。
「ぺリュトンの相手はユウに任せる」
「…………は?」
「もう目立たないようにする必要も無いしな。ゴブリンのことは一切気にしなくていいから、ぺリュトンだけを倒せ」
倒せって。
「いや、簡単に言うがな。私は対空戦なんてやったことも無いんだぞ」
グロテスクを相手にした時とは話が違うだろう。魔法で撃ち落とすことはできるだろうけど効率が悪すぎる。
「お前には空中なんて関係無いだろう」
「いや、関係ある……ん? ああ、そうか」
関係無いか。となると問題は数かな。ロボにはゴブリンの方を任せるとして、あんまり多いようならアースに手伝ってもらうか。
「一応パーティごとに布陣してもらうが、ゴブリンの数によってはシオンを中心に防衛陣に切り替えるから、注意しておいてくれ」
ウィルの指示で残っていた二組も離れる。
「ロボ、私は別行動するからウィルについていてくれるか? でも危なくなったら私を呼んで、影に隠れるんだぞ」
「わん!」
ロボの頭を撫でて頼むと元気に尻尾を振る。うん。お願いね。みんなには悪いけれどロボに怪我をさせる気はないので危なくなればすぐ隠しますよ。
「来るぞ」
シオンさんの声に平原に目を向ければ、あらまぁ、地平線を黒く染めるゴブリンの大軍。ゴブリンかどうかは正直わからんのだけどもゴブリンだろう。ウィルが指差す先を見ると、空に不穏な影が。
うーん。あれが全部カラスとかなら良いんだけどな!
影を指差してウィルとシオンさんを見る。
「あれ全部ぺリュトンなのか?」
「ああ。ぺリュトンは本来はもっと南に棲息する魔物なんだがな。遠路遥々ご苦労なこった」
「せっかくご足労頂いたところ悪いが、早々にご帰宅願おう」
「ご帰宅頂けない場合は?」
「叩き潰せ」
イェッサー。
「一応薄めにしておくが、暗くなったらすまない」
「夜戦ほどでは無いだろう。いざとなれば発光玉がある。気にするな」
「了解した」
グロテスクの時の容量で氷の階段を作って駆け上がる。戦闘の邪魔にならない高さとして、大体50メートルくらいでいいだろうか? ある程度離れたので、氷の足場を展開する。下に降りられると困るので、平原全体を覆うように足場を作るか。
あんまりちゃんと魔法を使えてなかったから、今日はいっぱい使おう。
薄めにしたつもりではあるんだけど、大丈夫だろうか? 上から見る限りは透明度は高そうなんだけど。あんまり薄くしても破られると困るから多少頑丈にしておかないと駄目だし、難しいな。光らせる手段はあるって言ってたしまあいいか。
さて、ぺリュトンは……可愛くないな。
可愛くない方が倒すのに抵抗が無くて有難いんだけど、それにしたって可愛くない。なんか、めっちゃマッチョなシカ……シカ?に羽が生えてる。なんだ? 頭から胴体はシカで、前脚が無くて、後脚もシカ。そんで、薄い青色の羽。なんだろう、鳥の胴体部分をマッチョな鹿に挿げ替えた感じか?
どういう魔物なんだろうか。詳しく聞いておけばよかったな。
「言っていても仕方がないか」
世界樹の種子を鎧に変えて、迎え撃つ準備をしよう。素直に近づいて来るのを待っている必要も無いし、先頭をまとめて減らしておくか。
オリハルコンの剣を抜いて、風で薙ぐイメージをしながら振る。先頭の一団がまとめて吹き飛んだ。
「私も、みんなの様に格好良い技とかを使っていみたいんだがな」
どうやってああいうの練習するんだろうか。弟子入りとかするのかな? いや、冒険者ギルドで座学とか訓練とかしてるくらいだし、そんなことしないのか?
うーん。気になる。
まあ、とりあえずはぺリュトンを倒してしまおう。すまないね。飛べるっていう君たちの特権は俺には通用しないから、がんがん倒すよ。
しばらく無心で戦っていたけれど、やっぱり集中は切れてくる。
「わかってはいたが、数が多いなぁ」
斬っても斬っても次が湧いてくるし、足場が滑るから一々攻撃が途切れるせいで要領が掴めない。しかも、ぺリュトンって影が人間の影みたいなんだよね。なんだか不気味。
魔法で一気に吹き飛ばそうにも結構動きが速いせいで俺の使える魔法では数を捕らえられない。結局地道に斬っていくしかないので、宝の持ち腐れ感がすごい。一応剣にずっと風の魔力を通しているから斬るのは楽なんだけどな。囲まれたら雷でまとめて吹っ飛ばしているけれど、意外とコイツら一気にかかっては来ない。
魔法は使えないようだから防御に気を使わなくていいだけマシか。
ただ、蹴っ飛ばされても軽く押されたくらいの衝撃しかないけど、衝撃が無いだけで吹っ飛ぶ。これのせいでさらに要領が悪くなる。体重差があるし、踏ん張ろうにも足元氷だから仕方ないんだけども。やりづらいったらないな。
一箇所に集中してたらすぐに下に降りようとするからずっと走り回っているしかないし。
下の状況確認してる暇も無い。できれば早く終わらせて手伝いに行きたいんだけど。魔法全開で吹き飛ばしたら早いんだろうけど、そうすると足場の氷ごと壊して下に被害を出しそうだから我慢。
「……というか、増えてないか?」
絶対増えてるよな!?
要領が掴めないとは言ったけど結構な数倒したと思ってたんだけどなぁ!? だってまた血塗れだよ!? 頑張ったんだけどなぁ!?
まあいいよ。これが虫なら発狂してるけど、オモシロ鹿なら相手になってやらぁ!
斬ったぺリュトンの血で氷が濡れてさらに滑るけど、死骸を足場に走り回るのは俺の倫理観がさすがにアウトだと言っているのでなんとか頑張ろう。
気合を入れ直してぺリュトンを倒していたけれど、気づいたら端に追いやられていた。反対側の対応が間に合わない。誰かが見ながら指示でもしていたのか?
「アース!」
「ギャォウ!」
呼ぶとすぐに影からアースが飛び出して来てくれた。
「すまない、向こう側を頼む! 下に降りようとしているぺリュトンを止めてくれ!」
「アォウ!」
元気に飛び出すアースの前を塞ごうとするぺリュトンを剣で風を起こして吹き飛ばす。大丈夫だと思ったからやったけど、アースは俺が起こした風を気にすることなく飛んで行くから幼体とはいえやっぱりドラゴンは強いんだな。
そして、あの、アースさん? 吐き出してる火の威力おかしくないですかね? ぺリュトンが一気に灰になっているんですが。え、あれがブレスって言ってたやつ? breathなんてもんじゃ済まないだろ。もしかしてblessなのか? そんなわけないだろ、ドラゴンブレスってドラゴンの息吹でしょ?
そしてわかってはいたけど俺より魔法の制御巧いね!! 泣きそう!
ぺリュトンを灰にする火力なのに氷が溶けている様子は無い。
ロボはとんでもない子のお兄ちゃんになってしまったようだ。
動物の表現を漢字かカタカナかずっと迷っているので、今は個人的にですが読みやすいように合わせて使っていますが、決まれば統一するかもです。




