第47話 血塗れの鎧
騎士団からの連絡がくるまではロボは遊んでてもいいとのことだったので、元気に遊びに行った。ナイトもバジリスクを探すと言って離れて行った。
「さて、向こう端に移動しておくか。途中でガーゴイルも倒していかないとな」
了解です。
しかしなんと言うか、荒廃した森だな。緑の量は多いけれど、ウェストの森のように豊かだとは感じない。どう表現すればいいのか、無秩序にただ配置しただけというか。
「この森はあまり好きではないな」
「ウェストの森と比べてやるなよ? この森には主なんていないんだから」
えー?
「主がいないとこんなものなのか?」
「今はガーゴイルに荒らされているのもあるけどな。それでも主がいる森といない森では魔素の廻りが違う。主と呼ばれるような魔物の多くは天災級以上だ。そういった魔物はいるだけで魔素が循環する」
そうなのか。あー……父さんが俺にいて欲しいって言った理由と同じか。規模の違いだな。
……俺ウェストよりも魔素変換率高いのか。ドラゴンより高いって。しかしウェストに勝てる気はしないから魔素変換率が高い=強いってわけじゃないんだな。まあそうだよな。シオンさんにもウィルにも勝てる気がしないし、たぶん、というか絶対ヴァネッサさんにも勝てないしな。
ある程度の魔物には勝てるけど本気で鍛えてる人に勝つにはもっと戦闘経験積まないといけないな。
なんで挑む気満々でいるのかは自分でも謎。でもシオンさんに一撃入れれるくらいにはなりたいよね。なんかこう、男の子なので。
「……なんだ?」
「なんでも?」
ふんふんとシオンさんを見ながら腕を振っていたら不思議そうに訊かれた。まだ勝てないのでなんでもないです。あーでも、シオンさんよりも先にウィルに勝つべきか。
「なんだよ」
「なんでも?」
ウィルを見ながら同じように腕を振ると怪訝な顔をされる。なんでもないですよ。
しばらく歩いているとガーゴイルが飛び出してきたけれど、確かに対応できなくはないな。オリハルコンの剣で斬ったけれど、これならミスリルでもいいかな。
今のところは魔法を使う必要は無さそうだからオリハルコンの剣を仕舞ってミスリルの剣を鞘に通しておく。
「二振りとも佩かないのか?」
「さすがに長すぎるからな」
バランスが悪い。できなくはないんだけど。ウィルとそんなことを話しているとシオンさんが俺に頭から水を掛けてくれる。
「そしてと言うか、やはり血は被るんだな」
「それに関してはもう諦めるしかないんじゃないかと思えてきた」
なんでこう、頭から被ることになるんだろうな? 変なところを斬らずに首を両断しているんだけど。
しかし、ガーゴイルもなかなかに凶悪な顔をしているな。こうして見るとグロテスクは好き好きではあるけれど人によっては可愛い顔をしていたかもしれない。目が飛び出てたけど。ガーゴイルは西洋の建物の屋根の上に乗っている厳つい石像がそのまま動いている感じだな。下級悪魔?って感じの顔。牙が長くて毛のないヒツジみたいな顔にウシみたいな角が生えている。体格はゴリラっぽくて体長は3メートルくらい。このくらいが平均らしい。
何度かガーゴイルに遭遇して対処しながら進んでいく。
やっぱりシオンさんだけじゃなくてウィルも当然のようにガーゴイルを倒してるよな。というかウィルは剣だからともかくシオンさんはどうやって盾で倒してるの? 技術が高い人って何してるのか全くわからない。
森の反対に着くと、《烈火の守護者》がすでに休憩に入っていた。レオが手を振るので輪っかに入れてもらう。
「よう。もっと早く着いているかと思ってたぞ」
「ガーゴイルがやたらと出てきたんだよ。ここに着くまでに40体だぞ」
レオに訊かれてウィルが答えているけれど、たぶん俺のせいなんだろうな。幸運値の低さが迷惑をかけないパーティで良かった。
「ユウさん、少し失礼しますね」
「ん?」
ベルナさんに声をかけられて、足元から水に包まれる。
シオンさんがやってくれたのの穏やかバージョンか。頭まで上がってきた水に綺麗に血を洗ってもらう。それにしてもこの鎧息は普通にできるのに浸水しないんだよな。謎。
「ありがとう」
「いえいえ」
あんまりにも血を被るのでシオンさんもウィルも途中で面倒になったのか端に着いてから血を落とすことにしたらしく血塗れのままだった。
「40体のガーゴイルを全員無傷で踏破してくるのヤバいな」
「ユウだけ圧巻の血塗れだけどね。もう鎧の色黒から赤に変わってたし」
「わざとではないんだが、何故ああなるのだろうな」
ウリオとアッカに言われるが仕方ない。
「俺たちも休憩するぞ。夜にかけて戦闘が起こるだろうから、少しゆっくりしておこう」
了解です。ナイトとロボも呼んで昼食にする。いっぱい遊んだのか満足げなロボとを伴ってナイトが影から現れる。ロボはカイさんがいるのを見て喜んで膝に乗りにいった。すみません、オオカミの人が大好きみたいなんです。カイさんも怒らずに撫でてくれているから甘えておこう。
昼食と仮眠を取って、陽が落ち始めた頃ウィルがベルトに提げていた板が光った。それオシャレじゃなかったのか。
「来るぞ。総員、戦闘準備」
了解。
全員が一箇所に集まっていたわけではなかったけれど、ウィルが登録証のようなバングルを触ると、俺たちの登録証から非常呼集の時と同じ音が鳴る。なるほど。こういう使い方があるのね。
森から出ると地響きを立てながら黒い何かが突進して来ているようだった。他のパーティも森から続々出て来て陣形を形成している。シオンさんが盾を構えてジッと魔物を観察する。なんの魔物か判別しているようだ。
「ホーンブルか。ユウ、魔法は必要無い。ミスリルで行け」
「了解した」
剣を両方出して待っているとそう言われた。OKです。オリハルコンを鞄に戻してミスリルを剣帯に通す。
Goと言われて飛び出すのは犬かな?って気持ちになるけど、他にすることが無いからな。ロボが俺に併走して、ウィルとカイさんも飛び出してくる。
「ロボ、危なくなったらすぐに影に戻るんだぞ」
「わう!」
接近すると曲線の長い角を持つ4メートルくらいあるウシがいた。見た目はわりと普通だな。地球にもいそう。ふざけたサイズ感だし体毛から角から真っ黒だけど。
地面が揺れるほどの勢いで突進して来るホーンブルをそれぞれのパーティの前衛職が押し留めて後衛が掃討って感じだろうか?
「ユウ、細かいことは心配しなくていいから数を減らせ」
「承知」
それが一番わかりやすくて良いね。
しかし、ロボとの体格差がえげつないんだけど大丈夫なんだろうか? ロボが全然臆さず向かっているから大丈夫なのか?
それにしても数が多い。これは数を減らすのが大正解なんだろうな。
帯のように向かって来るホーンブルにウィルが剣を抜く。
「一色・深緋《牡丹》」
なんて?
ウィルが振った剣に合わせて火が広がり、ホーンブルを焼き払った。幾重にも重なった火が大輪の花のように見える。なるほど、牡丹。
しかし結構な範囲が燃えている。カイさんはできるんだろうけれど俺はあんなのを頻繁に避けながら戦うのは無理だな。
「ロボ、ウィルよりも後ろにいなさい」
「わん!」
元気に鳴いてロボがウィルの後ろに走って行く。真後ろについてたら大丈夫だろう。俺は、っと。
「ウィル、ミスリルに変える。私のことは気にするな」
「了解」
内殻をミスリルに変更。これで味方の背後からの魔法も怖くない。
さーて、牛狩りの時間だ。これは美味しいのかな?
ホーンブルを押し留めること体感2時間。大体の討伐が完了した。何体か抜けられてしまったけど後衛の人たちが対応しているだろう。
一つだけ愚痴を許してほしい。ほんっとに数多かった!! 馬鹿じゃないのか!? 疲れとかはないけど単純に意味がわからん。剣の性能がいいから斬れ味が落ちたりはしてないけど、これ普通の鉄の剣だと無理じゃないか? すぐに金属疲労しそう。
もう頭から血を被ってるどころの話じゃないよ。剣を握ってる手の内側と鎧の腰布の内側以外ずぶ濡れ。中に染みてないから不快感はないにしても酷い状況。なんで発狂してないのか自分でも謎。
「ユウ、掃討完了だ。ベースを作るだろうから一旦森まで戻っ……うわ」
「「うわ」とはなんだ「うわ」とは」
近づいてきてたカイさんが俺を見て顔を引き攣らせる。
なんで同じように剣で戦っているはずのカイさんはほとんど血を浴びてないの??
「俺は水魔法は使えないから、ベースに戻ってから落としてもらうしか無いが……聞いていたより酷いな」
「ここまでになったのは今回が初めてだ」
近くにウィルがいたらよかったんだけど、ウィルは広範囲を援護してたみたいだから見当たらない。拭っても仕方がないのでそのまま森に戻る。目印になるように火を焚いてくれていたので暗くなった平原からの帰り道も迷わずに済んだ。
「ボムがいないな」
「あれは不穏な気配に敏感だ。きっと森向こうの平原まで逃げたんだろう」
演習の時はボムのおかげで道がわかる程度には明るかったんだけどと思って口にすると教えてくれた。あの単細胞生物みたいなのにそんな知能があったのか。いや、でも煽ってくるような動きしてたし知能あるか。
他のパーティも集まって来ていたので、視線が痛い。
滴る血をそのままにしている俺が悪いんだけどさぁ!
「ユウさん! 大丈夫ですか?」
「こいつがホーンブル如きで怪我するわけないだろ。まぁ全部返り血ってのはそれはそれで恐ろしいけど」
マーナさんとフィオさんが気づいて寄って来てくれるけれど、フィオさんその発言は酷くないですか?
マーナさんに血を落としてもらって一息着く。
ウィルは掃討完了したかの確認中かな? ロボは……あ、帰ってきた。よしよし。誇らしげにしているし、怪我もしていないようだから大丈夫だね。
一旦休憩らしいからご飯にしようね。
「カイー! ユウー! ロボちゃん! こっちで一緒に食べよ!」
アッカが手を振ってくれるので合流する。
他のパーティも思い思いに集合して休憩しているようだ。シオンさんを見つけて手を振るとウィルと一緒に歩いてきた。ウィルが食事を取り出しながら俺を見る。
「ユウ、食事が終わったら一旦仮眠しておけ。起きたら夜通し警戒だ」
「了解した」
あの数が向かってくると考えると油断していられないな。レオが手を上げる。
「俺たちも準備した方がいいか?」
「前衛職は頼む。後衛職は交代で休んでいてくれていい」
「前衛だけで見張るのか?」
「視界の悪い中で魔法を使うと味方に当てる危険があるだろ? 夜は少数先鋭で受け持ちの範囲を決めて接近戦が一番確実だ。勿論規模が大きくなれば発光玉を上げて全員でかかるか、基本は前衛職で固めて、明るくなったら交代して前衛職が仮眠をとる」
あー。うん。この世界ゲームと違って味方は当たり判定無いとかないもんね。普通に巻き込む。魔法を使うときは昼夜関係無く注意しておかないとな。ナイトも一旦戻ってきて食事をとる。
それにしても、討伐中は体力勝負か。睡眠は基本仮眠だな。
今日の晩御飯はビーフシチューとポテトサラダとライ麦っぽいパンのBLTサンド。夜も起きていなきゃだからガッツリめに。ロボは寝てていいんだけどいっぱい遊んだからお腹減ったね。
あ、そういえば。
「ブローディ・アーマーとはどういった魔物なんだ?」
雰囲気的に夜に出そうだから訊いたんだけど、どうしてかナイト以外のみんなが吹き出した。肩を震わせながらシオンさんが口を開く。
「成程、『血塗れの鎧』か。また厳つい名を貰ったなぁ」
「一応他にも候補はあったんだが、インパクトが強すぎたんだろうな。誰かがたまたま聞いてそれが広まったんだろう」
「でも納得してしまえるくらいその印象が強いからな。仕方ないんじゃないか?」
「名が付くのは最速記録かもしれないですね」
なんのお話で?
「ブローディ・アーマーとは私も聞いたことがないのですが、どのようなものでしょう?」
ナイトも知らないの? ロボはなんのことやらといった感じで首を傾げている。
ウリオとアッカが笑いすぎて真っ赤になった顔を上げる。
「ユウの二つ名だよ!」
……は?
主人公君メンタルがオリハルコン。
ウシはきっちり何体か回収しています。




