第45話 身を売る(物理)
昨日上げる予定だったのですが、どうせなら元旦のほうがいいかと。
今後は毎週金曜日更新予定です。
「で? なんで血塗れだったんだ?」
「ミノタウロスを倒したところで非常呼集が掛かったんだ。だから忘れていた」
腕を組んだウィルに訊かれて答えるとシオンさんが首を傾げた。
「ミノタウロス? 子供を連れて洞窟にでも入ったのか?」
「いや。崖を突き破って出てきた」
「なんでそんなことに」
俺が訊きたいです。ミノタウロスって洞窟の中にいるんだ? なんかミノタウロスっていうと迷宮にいるものだと思ってた。まあ迷宮も洞窟か。
「持って帰ってきたわよね? 買い取るついでに調べてみるわ」
「わかった。子供たちが討伐したワイルドボアと途中で倒した魔物の買取も頼む」
ヴァネッサさんに訊かれて頷く。あ、あと。
「大量の虫もいるが、それは私が見ていないうちに処理してほしい」
「本当に虫が嫌で山を凍らせたのか?」
「凍らせるつもりはなかったんだ。気づいたら凍っていた」
「気づいたらで山3分の1凍らせる奴がいるか。気をつけろよ。今回はたまたま人を巻き込まなかったから良かったものの、巻き込んでいたら犯罪者だぞ」
はぁい。ウィルの言うことが最もすぎて反論できない。というか結構な範囲を凍らせた気はしてたけど3分の1も凍らせてたの? 誰も巻き込んでなくて本当に良かった。
ウィルにまあまあとシオンさんが手を振る。
「まぁ、3分の1ならマシな方だろう。リアムはくしゃみをして山を吹き飛ばしうっかりで山三つ凍らせるから、それよりはマシだろう」
勇者こっわ。それが父親だって信じたくないな。
「そうならないためにも今からしっかり言い聞かせて気をつけさせておかないと駄目だろ。うっかりで地形を変えられてたまるか」
「そうならないように私とロボで見張りますよ」
ナイトがそう言って肩を竦める。見張られるのか。悲しみ。ヴァネッサさんが手を叩いて話を変える。
「今回は被害もなかったわけだし、今後は気をつけるということで、なんの虫を獲ってきたんだい?」
「レッドビートルと言っていた気がするが」
「鎧の素材じゃないか。ギルたちが喜ぶ」
ウィルもとりあえず気を収めてくれたようだ。
「あと、虫を倒したときに髪が伸びたんだが、ジェシカさんが素材になるだろうと言ったので保存しているんだが」
「どんだけ虫が嫌だったんだよ。そこまで魔力を練ったのか?」
「たぶん?」
正直魔力を使った、減ったという感覚が全くないのでどのくらい魔力を練ったとかわからない。束にしていた髪を渡してみる。ウィルとヴァネッサさんが検分して一本抜き取る。
「使ってみたかい?」
「チルセが使って、ストーンランスがグランドランスになったらしい。私は詳しくはわからない」
「ストーンランクの子供の魔法をそこまで強化するなら相当な伝導率だろうね。良い値で買い取らせてもらうよ」
わぁい。
「そんなに役に立つものなのか?」
純粋に疑問に思ったので訊いてみるとヴァネッサさんがため息を吐く。
「あんたみたいにバカスカ使っても疲れない奴にはわかんないだろうけどね、魔法っていうのは便利な分リスクが高い。私たちの体には魔法を使えても使えなくても一定の魔素が流れているんだけど、魔法を使うとその魔素を魔力へ変換して体外に発現させるから、体内の魔素が減ってバランスが崩れる。多少ならともかく、大量に魔素を使うと命に関わるんだよ。だからこういう素材で魔素の吸収を助けたり、大気中の魔素を使う割合を増やしたりする必要があるんだ」
マジで??
「魔力切れは大変だという話は聞いていたが、そこまでなのか」
「まあ魔素が減ると体感でわかるし、命に関わるほど使うようなことは滅多にないけどな。単純にパーティとして火力不足になるって意味も勿論ある。ダンジョンの中で魔力切れは死活問題だ」
ほぉん。
「シオンさんやウィルも魔力切れをしたことが?」
「私は一回だけ。眩暈が酷くて一日動けなかった」
「俺はそこまではないが、あと一回魔法を使えば倒れるというところまで行ったことはある。オーガの大規模討伐の時だったか。強くはないのに数だけ多くてな。大変だった」
オーガ。強い二人がしんどいってことは本当にしんどいんだろうな。気をつけたいけど、身体強化してる時ぐらいしか魔素が感知できないからどうしたらいいのか。
「ま、お前さんが魔力切れするような自体はまず無いだろうから大丈夫だろう」
シオンさんが太鼓判を押してくれるけど本当に大丈夫なんだろうか。まあやばそうになったらナイトに頼ろう。
「本題を忘れていたな。明日のことを説明するぞ。素材の買取は後でいいだろう」
あ、そうでした。
「この前も言ったが、ユウには私たちとパーティを組んでもらう。と言っても個々で動くからそこまで気にしなくていい。私たちは隊の最前線に配陣し前方の警戒及び広範囲をフォローする。剣の調整が間に合えばユウに防御を頼むこともあるだろうが、基本は私とシオンで面倒を見るから後ろのことは気にせず暴れておけ」
雑な指示だけど細かく指示されても遂行できないのでもうそれでいいです。
「了解した。ヴァネッサさんは来ないんだな」
「正直書類仕事も飽きたから行きたいんだけどね。砂岩地帯にヘリオットさんが出るから私まで出てしまうと街に何か起こった時に対応が遅れる可能性がある。騎士が出るなら冒険者は多少温存しておくのが鉄則さ。だから私と、もうすぐ帰ってくる副ギルドマスターは待機なんだよ」
へぇー。副ギルドマスターさんとかいたのか。どこかに出張してたのかな。
「騎士との協力関係がしっかりしているんだな」
「この街はな。ギッスギスしてるとこもある」
わぁ。
「ヘリオットさんがいい人だし、ここが皇弟殿下の領地だからね。地方領主の権力闘争とかが無いのさ」
権力闘争か。現代日本だとそんな身近に感じることないけど、この世界では普通にあるんだろうな。貴族とかに関わらないようにしっかり注意しておこう。
「基本的に平原での戦闘だから連携とかもそこまで気にしないでいいだろう。必要があれば呼ぶからユウは魔物を倒すことだけに集中してくれ」
「わかった」
「旦那にはこの間みたいにバジリスクの相手を頼みたい」
バジリスクってそんなにホイホイ湧くものなの? ナイトも首を傾げるように肩を揺らす。
「バジリスクが大量発生しているのですか?」
「それがどうやらバジリスクも召喚しているみたいでな。元々東の森は稀にバジリスクが発生する場所だったから前回は偶然個体数が増えただけだと思っていたんだが、どうにも増加数が異常だ。バジリスク以上が出てきた場合のことも考えて一旦東の森は禁域に指定しておいて、今回の件が解決してから対応を考える」
「バジリスクを召喚とは。勇者召喚といい、本当に召喚術は優秀なようですね」
そもそも召喚できるくらいバジリスクがいるのが信じられないんですが。ヒトじゃ相手が難しいくらい強い魔物なんでしょ? 強いと言えば。
「そういえば、そもそも勇者召喚で召喚された勇者はこの世界の勇者より強いのか?」
勇者召喚で呼ばれたっぽい俺は父さんに全く敵わなさそうなんだけど。正規で呼ばれるともっと強いのかな?
シオンさんが首を振る。
「比べ物にもならないだろうな。リアムは存在が反則だからな」
存在が反則。
「物理無効に魔法無効。状態異常系に対して耐性どころかそちらも無効。そして自分の攻撃は無効貫通。どうやって勝てと」
「幻想級の魔物ですら指先一つで吹っ飛ばすからな」
シオンさんですらどうやって倒せるかわからないのか。異世界物の漫画とかみたいにはならないか。創造神の加護とかもらえると違うのかもとかだけど、父さんが創造神の加護を持ってるから意味ないのか?
俺に加護がついてないからたぶん異世界召喚特典みたいな感じで加護がついたりはしないっぽいし。ちゃんと召喚された人たちは加護がついてたりしてると俺が寂しい。でも父さんがいて初っ端から好き勝手動けているから平等か。
召喚獣が相手となると準備のしようがないので出たとこ勝負するしかないらしい。基本的にシオンさんとウィルの指示を聞いてそれに従うことだけ頭に置いておいて、あとはその場その場で出てきた魔物を倒していけばいいだろう。
細かい対応はその時にならないとわからないので、とりあえず獲ってきた魔物を買い取ってもらうために倉庫に向かう。ウィルもついてきた。ナイトはヘリオットさんのとこに装備を届けに行った。
「しかし……ちょっと不味いかもな」
「何がだ? 今回の討伐か?」
「いや、討伐ではないんだけどな。まあそのうちわかるだろう」
何がだろう? なんで重いため息を吐くの? なんで同情いっぱいの目で俺を見るの?
倉庫にいたギルさんにミノタウロスやジャイアントボアもいると言ったらすごく喜んでいた。素材も良いものらしいんだけど。
「ミノタウロスもジャイアントボアも肉が美味いぞ!」
「そうなのか? じゃあ」
「ダイナーには卸すなよ。ユウのところで使いきれないなら正規の値段で買い取る」
なんで?
「こんな高級肉を食わせてたら冒険者の舌が肥えすぎちまう。ワイルドボアの肉でも十分高級なんだぞ。そんなもんをポンポン食わせるんじゃない。ケルピーの肉だって知ってたら止めてたわ」
えー……じゃあ、しょうがないか。
「では、ワイルドボア三匹分は卸してくれるか? それ以外の、子供たちが倒したワイルドボア十一匹とミノタウロスは買い取ってもらって、ジャイアントボアの肉は貰おうか」
「了解」
「あ、虫は本当に無理だから、ウィル、頼んでいいか。私はシャワーを浴びてきたい」
街ごと凍らせかねない。死んでても駄目なのか?と訊かれたが、死んでようが生きてようが写真だろうが駄目です。デフォルメしたイラストでギリ。
「わかった。お前さんの髪の鑑定もあるから時間がかかるだろうし、ゴウルクのところに行って剣の調整終わってるか確認してこい」
「了解した」
シャワーを浴びて一息ついてからゴウルクさんの工房に向かう。
店先にはいなかったので奥の工房を覗くと気づいてくれて手を振ってくれる。
「最終調節中だ。もうちょっと待っててくれ」
「わかった。表で食事をしても?」
「構わんぞ」
わーい。昼食食べてなかったんだ。番台っぽいところに座り携帯食で簡単に済ませたところでゴウルクさんが出てきた。
「ほれ。これで雷を飛ばしても問題ないはずだ」
「ありがとう。明日から必要になるから助かった」
「そっちの剣のことも聞いてるか?」
「ああ。父が買い取ると言っていたが、いいのか?」
慣れてきたから惜しいけど、代替品として借りたものを買い取ってしまっていいのだろうか。
「構わないぞ。碌でもないのに金だけ積まれて持っていかれるよりずっといい。大事に使ってやってくれ」
「そうか。では有難く使わせてもらおう。そうだ、ゴウルクさんはナイフ以外の初心者用の武器も扱っているのか?」
おん?とゴウルクさんが首を傾げる。
「ストーンランクの子を危ない目に合わせてしまってな。詫びとして何か贈ると約束したんだ。どうせならしっかりとしたものを使って欲しい」
「なるほどな。お前さんが初心者向けのものを欲しがってると聞いてどうしたのかと思っていたがそういうことか」
そういうことです。
「いいぜ、用意してやる。討伐が終わったら子供らを連れてきな。せっかくだ、ちゃんと調節してやろう」
ありがとうございます! 討伐って言ったってことは、ゴウルクさん大体のこと知ってそうだな。
オリハルコンの剣は鞄の中では魔力制御ができないので、オリハルコンの剣を剣帯に通してミスリルの剣を鞄に仕舞う。必要があれば取り出そう。二振り佩くには剣が長すぎる。お礼を言って店を出ようとすると、ああそうだ、とゴウルクさんが声をかけてきた。
「お前さん血塗れで疾走してたか?」
「見えていたのか?」
こっちは通らなかったんだけど。屋根の上を通ったのが失敗だったか。
「いんや。話を聞いただけだ。やっぱりお前だったか」
「ああ。非常呼集が掛かっていたから急いでいた」
「そうかい」
「それがどうかしたのか?」
「そのうちわかるさ」
なんなの? ウィルと同じようなことを言うけれどゴウルクさんは楽しそうだ。
一体なんなの?




