第40話 ほぼキャンプ
なんとか通れる道を見つけて進んでいるのだけれど、問題が出てきた。
「やはり前衛職か中衛職がもう一人欲しいな。近距離戦闘職が足りていない」
「うぐぅ。わかってはいるんですけど中々いなくて……」
ネルが木の上から探っているのもあって、魔物の接近に気づくのは早いのだけれど、後衛職のオリバーとチルセだけでは山中では厳しいものがある。ネルが降りてくるのが間に合えばまだなんとかなるんだけどなぁ。それでも多方向から来られるとどうしようもない。
頭を抱えるオリバーにジェシカさんが笑う。
「今はユウさんがいるのでなんとかなっていますけれど、このままの編成では難しいですね」
「演習の時も思ったが、そもそもウッドランクは全体的に中衛職が少ない気がするな」
槍使いとか魔導拳士とかあんまり見なかった。
「パーティを組むうえでまずは前衛、次に攻撃の主体となる後衛となると、どうしても役割の難しい中衛職は薄くなりがちなんですよ。あと、こう言ってはあれなんですが、地味なので子供には特に不人気ですね」
途中までは納得できるお話だったのになぁ。
「槍使いとか、格好良いと思うんだが」
「槍使いは目立たないのに技術が必要なんですよ」
そうなのか。使いやすい武器かと思ってた。
「もうちょっとランクが上がると色々パワーバランスを考えて同ランク帯の冒険者とパーティを組み直したりもするんで、とりあえずは三人でどうにかします」
「では訓練あるのみですね。二人は魔法を使えるのですし、魔法で時間を稼ぐなどの方法もありますよ」
「はい!」
パーティを組むのはそれはそれで大変なんだな。しかし、現状手が足りてないのはランクを上げるうえでも障害になりそうだな。なんとかならないかな。
「そろそろ野営地を確保しましょうか。山は平地よりも日が暮れるのが早いですから、先に拠点を決めておきましょう」
今は……3時過ぎか。確かにそろそろ準備しておいたほうがいいかもしれない。
「薪になりそうな木を拾いながら行こう。夜になると冷えそうだ」
しばらく歩いたけれど中々いい場所がない。開けている場所はあったんだけど、明らかに魔物の巣の目の前だったりしたので拠点には向かない。そして結構な距離を歩いているけどワイルドボアに出会わない。小型の魔物は結構出てくるのに。
「ボアが出てこないな。拠点を決めたら少し範囲を広げて調べてみるか」
「了解しました」
ジェシカさんとトーカには留守を任せて、機動力を上げていこう。
拠点は崖の下の開けたスペースにした。天幕を建てるか迷ったけれど、オリバーたちはまだ天幕を持ってないらしいのでとりあえず天幕無しで一晩過ごしてみよう。
「では出かける前に水汲みと薪集めをお願いできますか? 天幕無しでとなると体温を保つためにもっと火が必要です」
「わかった。では私が水を汲んでくるから。オリバーたちは薪を集めてくれるか」
「はーい」
ロボを呼ぶとビクターと一緒に帰ってきてくれた。薪はすぐ近くで集められるし、ビクターがいれば問題ないだろう。拠点をビクターに任せてロボを連れて近くで見つけていた小川に向かう。俺は水差しがあるけれど、オリバーたちは持っていないので水は貴重らしい。まあこの世界の川はめちゃくちゃ綺麗だから普通に飲めそうだな。気になるなら沸騰させればいいしな。
「ロボ、大きいイノシシ見なかった?」
「あう?」
「わかんないよねぇ」
首を傾げるロボの頭を撫でて拠点に戻る。拠点ではすでに火が焚いてあった。その側では台が設置してあり肉が焼かれている。干し肉しか持ってきてなかった気がするんだけど、干し肉も焼いたほうが美味しいのかな? あったかい物はそれだけでも美味しいもんな。
「水はどこに?」
「スープを作るので火の近くでお願いします」
はいよ。スープか。乾燥豆が水で戻されていたのだけど、その水に干し肉も漬かっている。干し肉から出汁が出るのだろうか? 刻んだトマトを入れてと塩胡椒で味を付けるらしい。
「煮込むまで時間がかかりますので、今のうちにワイルドボアを探してきますか?」
「そうしよう。準備は?」
「できてます!」
よし。では行きましょう。完全に陽が落ちるまであと30分もないけれど、少しでもあるだけマシだろう。
ネルが木を登ってルートを確保して広く移動してみたがやっぱりワイルドボアがいない。一度遠目に見えたけれど、俺ならともかくオリバーたちでは追いつけない。
実は山に入らず農地の前で待ってたほうがよかったのか?
再び遠くにワイルドボアを見つけたのでロボの頭を撫でる。
「ロボ、あの魔物をこっちに追い立ててきたりできるか?」
「わん!」
「よし。じゃあ頼む」
こっちが近づけないなら向こうから近づかせてしまえばいい。ロボが後ろから飛びかかり、驚いたワイルドボアがこちらに向かって走り出す。
「来るぞ。警戒」
「はい!」
ネルが木から降りてきて先頭を代わる。
……土煙を上げながら近づいてきたワイルドボアは、どう贔屓目に見てもイノシシと呼んでいいサイズではない。絶対にウシ。それかサイ。なんなんだあれ!? 遠くから見ていたらわからなかったけれど、大きすぎるだろう!
そりゃあ難易度が上がるわけだ。平原の魔物は地球とそこまで変わらない大きさだったのに!
どうするのかと見守っていると、ネルが地面を殴り、殴られた地面が大きく隆起した。何それ。そんな怪力でした?
ネルが隙を作りオリバーがワイルドボアの脚を射抜いて機動力を削ぐ。すかさずネルが近づいて頭を打ち、動きが止まったところでチルセが魔法で作ったのであろう土の槍が下からワイルドボアの心臓を貫いた。ドサッと音を立てて地面に落ちたワイルドボアを見ながらネルが頭を掻く。
「これ連続になるとしんどいぞ。俺の強化は何回も使えないし」
「うん。俺も魔力が保たないかも。チルセは?」
「魔力的には問題ないけど、急に来られると魔法の発動が間に合わないかも知れないかな。準備しておくにも限りがあるし」
うーん。しっかり連携できてると思ったけど、ずっとこれができるわけではないのか。
それにしても、大きさはこれで問題ない感じなんですね?
「もう陽が落ちる。今日は一旦戻って夜の間に考えよう」
ワイルドボアを回収して相談しているオリバーたちを促して拠点に戻る。
ロボー? その綺麗な石いつの間に拾ったの?
ロボがいつの間にか拾っていた蛍石みたいな石も鞄に仕舞って拠点に戻ると、トマトスープの美味しそうな匂いがしていた。ビクターに向かって飛び込んでいったロボはいいとして、みんなで手を洗って簡易的な食卓を囲む。ロボには買ったばかりのお皿にスープとパンを盛って、一緒に塊の干し肉を入れてやる。
「ロボ、ビクターの下から出てきなさい」
さすがに行儀が悪すぎる。お腹の毛がふかふかで心地良いのはわからんでもないけども。すっかり仲が良くなったようで何よりです。ビクターは果物が好きなようなのでリンゴと柿をお皿に盛って出しておく。
「どうでした?」
「一匹見つけた。ずいぶん大きいんだな。戦闘はとりあえずは問題なさそうだったんだが」
オリバーを見るとお皿を置いて腕を組む。
「単発ならいいんですけど、連戦になると厳しいですね。複数体同時の場合も難しいです」
「ストーンランクでワイルドボアに問題なく勝てるだけでも十分ではありますけど、連戦はともかく複数戦闘はできたほうがいいですね」
「ですよね。なんとか対策を考えます」
うーん。戦闘は俺一切助言とかできないからね。危険がないように守りはするけどそれしかできない。
食事を終えてみんなで苦茶を試飲して悶えたりとのんびりしていると、ネルがそういえばと俺を見る。
「今更なんですけど、なんでユウさん仮面着けてるんですか? 趣味ですか?」
趣味で仮面は着けないだろう。
「顔が有名人に似ていてな。面倒事に巻き込まれないようにしている」
「へー。誰に似てるんですか?」
うーん。変に隠し続けてもあれかな。
「勇者殿だ」
そういうとネルがなんとも言えない顔をする。オリバーやチルセ、トーカも微妙な顔だ。ジェシカさんも口を押さえて困った顔をしている。
「ユウさんって意外とミーハーなんですね」
「え?」
ミーハー?
「リアム様に似てるっていう人多いんですよ。実際はちょっと髪が赤っぽいとかだけなんですけど」
「そうなのか? じゃあ隠さなくてもいいかもしれないな」
なんだよ父さん。心配させて。
ミーハーなお兄さんのままいたくないので、世界樹の種子をバングルに変えると悲鳴が上がった。
「うわぁぁ!? マジでそっくりじゃないですか!!」
「リアム様が若返ったみたいです!!」
「それは隠さないと駄目ですよ!」
「絶対他のところで外さないでくださいね!?」
大騒ぎする四人に驚いてジェシカさんを見ると目を丸くしていた。
「駄目そうか?」
「そ、うですね。色が違うので印象は違いますけど、顔も全体的な雰囲気もそっくりです。間違いなく身内と勘違いされると思いますよ」
マジですか。
「似ているとは言われていたが、身内の贔屓目ではなかったようだな。今後は気をつけておこう」
これからは今まで以上に気をつけておこう。バングルから仮面に戻すとびっくりした、とトーカに言われる。申し訳ない。父さんをしっかり知っている人じゃなくてもわかるなら言い訳が難しそうだ。
「すまないな。黙っていてくれるか?」
「勿論です」
ありがとうございます。見せたからこそただ似ているだけだと思ってくれたかな?
「そろそろ休もうか。見張りは私がするが、一応オリバーたちも順番に起きている練習をしたほうがいいだろう」
「ユウさんまた徹夜になりますけど大丈夫ですか?」
「昼間に仮眠も取ったし問題ない」
それは問題があるのでは? と訊かれたけど気のせいだ。
真ん中の時間は今回はジェシカさんが担当することになった。子供たちは明日も戦闘があるからゆっくり寝ておいたほうがいいだろう。
チルセとトーカと交代したジェシカさんに苦茶かホットミルクかどちらがいいか訊いたら笑顔でホットミルクを選ばれた。気持ちはわかる。
「ジェシカさん、魔法が使えなくても身体を強化することはできるのか?」
「どういった強化ですか?」
ネルが地面を砕いたことを伝えるとああと手を打った。
「スキルによる身体強化ですね。それでしたら魔法が使えなくても可能ですよ」
「どういう原理なんだ?」
「魔法とは魔導回路で魔素を練り上げ魔力化し体外に発現させること、というのはご存知ですか?」
「ああ」
父さんが確かそんなことを言っていた。
「寡多はありますが、魔法が使えない人も体内に魔素を持ってはいるんです。ただ魔導回路が弱かったり破損していたりして、魔力化することができなかったり発現させることができなかったりするのです」
へぇ。じゃあ英智が魔法を使えないのはそのせいなのかな?
「そういった人も訓練すれば魔法こそ使えませんが、魔素を使って瞬間的に身体能力を強化することができるんです。ネルは腕力を強化したようですが、聴覚や視覚を強化したりもできるらしいですよ」
そうなんだ。
「ユウさんも模擬戦の時使っていませんでしたか?」
「私は練った魔力をもう一度魔導回路に流して強化していた」
「そんなことができるんですか……?」
「できていたなぁ……?」
二人で首を傾げる。
普通の身体強化は体の表面に魔素を流すらしい。あれぇ? まあ自己流だったから仕方ないよね。ジェシカさんも体に負担がないなら大丈夫だと思うと言ってくれたし。
しかし、見張りをしていることを除けば完全にただのキャンプだな。ビクターのおかげで魔物も寄ってこないから平和。明日はどうするかな。とりあえず今日みたいにロボに手伝ってもらってワイルドボアを狙うか。




