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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第38話 野営準備

 部屋を出てダイナーに行くと、ジェシカさんとオリバーたちは訓練場に移動したとビスタさんが教えててくれたのでそちらに向かう。何をしているのかと思ったら魔法を練習していた。チルセは魔導士だったけど、オリバーも魔法が使えるのか。ふわふわと二人の周りで小石が飛んでいる。

「ユウさん、ご馳走様でした。お話は終わりました?」

 ロボと遊んでいたネルが気がついて近寄ってくるので頷く。

「気にしなくていい。ただ、オリバーとチルセも少しいいか?」

 揃った三人に依頼書を渡すと、内容を確認した三人が首を傾げる。

「これは?」

「受けてみるか?」

「受けていいんですか? 適正ランクはアイアン以上ですけど」

「私の監督下で良ければな」

 そう言うと三人の顔がパァァっと明るくなった。

「監督措置! いいんですか!?」

「指名依頼として受けているからな。みんなが良いなら」

「是非お願いします!!」

 うむ。元気でよろしい。横から依頼書を覗いていたトーカにオリバーが声をかける。

「トーカも一緒に行こうよ!」

「えっ、でも」

 トーカが慌てて俺を見るので頷く。

「一人増えた程度なら問題ない。南の山地らしいから、採取の依頼がないかみんなと探しておいで。オリバーたちも一緒に受付を済ませてきなさい」

「はい! ありがとうございます!」

「よし! 行こっ」

 パタパタと元気に走っていった四人を見送りジェシカさんに近づく。

「早速指名依頼とは大変ですね」

「仕方ないさ。というわけで、明日の目的地は南の山地でも構わないだろうか?」

「勿論です。南の山地でしか採れない薬草なんかもありますし、私もトーカに色々教えてあげようと思います」

 すみません、助かります。

「ジェシカ様にご同行いただけるなら非常の際も心配要りませんね」

 ナイトがそう言うのではっとする。そうか、ジェシカさんが一緒ならビクターも一緒だから大丈夫なのか。

「非常の際?」

 首を傾げるジェシカさんに頷く。

「詳細は言えないが、非常呼集が掛かるかもしれない。そうなると私はギルドに戻らなくてはならないから、子供たちを任せてもいいだろうか」

 少し考えてからジェシカさんが頷く。

「東の森の件ですね? 任せてください。ユウさんたちが手を貸してくれたおかげか、私とビクターも念話が使えるのですぐに近くに呼べますから」

 何から何まで本当にすみません。難しい話だと判断していい子にお座りしているロボの頭を撫でる。

「ビクターがいれば問題ないと思うが、ケルピーのようなことがあるかもしれない。街に入るまではロボを付けておくから、何かあればナイトを呼んでくれ」

「すぐに向かいます」

「はい。お願いします」

 頭を下げ合う二人を見てから考える。非常食もだけど、毛布とかも多めにあったほうがいいかな?

「私は買い出しに行ってこよう、諸々揃える必要がありそうだ」

 万が一を考えると回復薬もあったほうががいいよね。

「では私はネル様に指導でもしておきましょうか。組手ぐらいならできますからね」

「ふふ、首無し騎士直々の指導なんて贅沢ですね。私もチルセとオリバーに簡単な魔法を教えるくらいはできるので、ここで練習してます」

 いいなぁ二人とも、人に教えられる知識とか技術があって。

「わかった。そういえば、ナイトは明日はどう過ごすんだ?」

 おそらくワイルドボアが尻尾巻いて逃げちゃうから連れては行けないけど。

「ご心配無く。お味噌とお醤油を試作してみようかと思っています。何種類かレシピがありますので、合うものを探さなくては」

 なるほど。美味しいのが作れたらいいね。ロボとオリバーは近すぎたら駄目だろうけど山で遊べるよね。

 ロボにお散歩行く?と声をかけると尻尾ブンブンだったのでロボを連れて買い出しに。



 ラウ商店に向かう途中でゴウルクさんの伝言を思い出して世界樹の種子に父さんに繋いでもらう。

『どうした?』

『今日模擬戦しててね、剣の調整をしてもらうことになったんだけど、ゴウルクさんが顔出して説明しろって』

『げ。そういえばレニアにはゴウルクの爺がいたのか。……ニケの婆もいたな……。まあ、わかった。説明しておくよ。剣の調整とは?』

 ジジイにババアって。

『戦い方に術式が合ってないって』

『ああ、私の戦い方とは違うだろうし術式が合わないことは想定するべきだったか。ま、爺に任せておけば変なことにはならないだろう』

『そのときに代金もお願いします』

『ああ。さすがにユウの手持ちじゃあれの調整には足りないだろうしな。代わりの剣は?』

『ミスリルの剣を借りてる』

『そうか。爺が貸してくれているならそれも買い取ってしまおう。自分のものだと思って使いなさい』

『はーい』

 あの剣やっぱり調整でも結構かかるんだ……。というか買い取るって簡単に言ってるけど、ミスリルの剣だよ? ナイフでも結構いいお値段したのに。父さん金遣い荒いのか? 地球だとそんなことなかったけど。

 連絡を終えたところでラウ商店に着いた。ラウさんは店先にはいなかったんだけど、表にいた人が呼んでくれたのか裏から出てきてくれた。

「ユウさん、先程はお見事でしたね」

 ニコニコと称賛してくれるけれどなんとも気恥ずかしい。

「ありがとう。一撃も入れられなかったが」

「シオン様に魔法を使わせただけでも大事ですよ。それで、今日はどういったご用件で? 稲はもう少し時間がかかりますが」

 農家から取り寄せるって言ってましたもんね。

「今日は別件だ。ストーンランクのパーティの監督に就くことになったから、多めに携帯食を用意しておこうと思うんだが、他に必要そうなものはあるだろうか?」

「そうですね、携帯食だけでは味気ないので、ドライフルーツやナッツもあったほうがいいかもしれませんね。あとは苦茶をお勧めします」

「苦茶?」

「名のとおり、非常に苦いお茶です。気付薬としても使われたりもしますが、夜営の際の眠気覚ましになります」

 コーヒーみたいなものかな?

「ではそれももらおう」

 明日の朝から行くとして、南の山地までも4、5時間かかるとしたら準備しておいて損はないだろう。さすがに背負って行ってはオリバーたちの訓練にならないからな。

 お勧めのものを見繕ってもらい会計しているとラウさんがそう言えば、と手を叩く。

「野営用の天幕や敷布はお持ちですか?」

「天幕などはあるが、毛布や食器類が足りないかもしれない」

 オリバーたちも持っているだろうけれど、予備で準備しておきたい。

「でしたら、この通りを真っ直ぐ行った突き当たりに看板のない雑貨屋があるのですが、そこがお勧めですよ。ニケというおばあさんが営んでいらっしゃいます」

 ニケさん。

「どうされました?」

 タイムリーすぎて固まってしまった。首を傾げるラウさんに手を振ってなんでもないと伝える。

「すまない。父から聞いていた名なので驚いただけだ。突き当たりの雑貨屋だな。行ってみよう」

「お父様のお知り合いでしたか。でしたら問題ないでしょう」

 問題ないとは?

「ユウさんなら大丈夫と思ってお勧めしましたが、ニケさんは非常に気紛れでして。気に入った方にしか売ってくれないのです。物は最高品質のものを置いていますのでご安心ください」

 この世界の商人さん気紛れな人多いな!? 個人店だからにしてもそれでやっていけるのか?

「わかった。あ、そうだ。ラウさん、明日ギルドのダイナーで新しい調味料を試作するらしいから、時間があったらぜひ行ってみてくれ」

「おや。お邪魔してよろしいのでしょうか」

「製造法が広まってくれたほうが好みの味に出会える可能性が増えるしな。稲を用意してもらっている礼だと思ってくれ」

「そういうことでしたら、喜んでお邪魔させていただきます」

 味噌とか醤油はちょっとした配分の違いで味が変わるらしいしね。種類が増えるのはいいことだ。

 ラウさんにお勧めされたニケさんの店はだいぶ店構えが怪しかった。本当に趣味でやってますって感じの雑多に寄せ集めた感がある。謎の布と謎の骨が軒下にぶら下げてあるのは一体なんなんだろうか。

 しかし商品の上に埃は見当たらないから手入れはされているんだろう。

 ロボと一緒に店に入るが誰もいない。……開いてたよね? 扉開いてたし。いいや、とりあえず必要なものを見ておこう。毛布を探しながら食器類も眺める。

「わぅ」

「どうした? それが欲しいのか?」

「わん!」

 赤色の深めのお皿の前でロボが立ち止まる。うーん、確かにロボ専用のお皿って父さんに貰った中には無かったし、汁物も入れられそうだから丁度いいかも。なんの素材かはよくわからないけど触った感じ壊れにくそうだし。

「いいよ。他も見てからそれも買おう」

「ばう!」

 ロボのお皿の近くの棚に丁度いいサイズの毛布があった。手触りめっちゃ良好。

「何をお探しだい」

 ヒョッ!!?

 振り返ると俺の腰くらいの身長のおばあちゃんがいた。ビッッックリした。気配なかった。

「も、毛布を五枚ほど、あとは皿とカップ、カトラリーも同じだけ」

 なんとか必要な物を告げるとおばあちゃんが笑う。

「ヒッヒッヒ。冷やかしかと思ったらちゃんと用事があったのかい。それはウォームシープの毛でできた毛布だよ。体温保持のためならオススメだ。値は張るがね」

「いくらだ?」

「一枚銀貨2枚だよ」

 なら五枚で金貨1枚か。毛布一枚2万円と考えると確かに高い気もするけれど、今回だけのものではないし防寒具には出し惜しみはしないでおこう。

「では、これを五枚貰いたい」

「ひひひ。豪気だね。お前さんには要らんだろうに」

 俺の服の裾を引っ張っておばあちゃんが言うので笑っておく。これはもう俺が父さんの子なのはバレてるな。もしかしてゴウルクさんから連絡がいってたんだろうか?

「父のおかげで私は要らないが、あって困るものではないだろう」

「ててさまは無くて困るものを忘れていく子だったが、お前さんは違いそうだね」

 父さん……。

 近づいたロボを撫でながらおばあちゃん改めニケさんが肩を竦める。

「しかし、黒髪に仮面の剣士かい。お前さんがリアムの子だと知っていれば今日の模擬戦も見に行ったのに」

「まったく歯が立たなかったので見られたくはなかったかな」

「シオンを相手にして当日動き回れているだけで十分だろうね」

 そうなのだろうか。というかシオンさんって本当にみんなが知っている強い人なんだな。まあ父さんの知り合いの人ならたぶんシオンさんとも知り合いなんだろうな。

「じゃあそれを番台に持ってきてくれるかい。食器類は用意するよ」

「ありがとう。あ、この皿も一緒に頼みたい」

 ロボのお皿も忘れずに。

 白い陶器のお皿とマグカップ、カトラリー一揃えをそれぞれ五つ。毛布の代金とあらせて金貨1枚と銀貨2枚と銅貨2枚。

「薬なんかは向かいの通りに薬剤屋があるからそこで揃えな。また顔を出しておくれ」

「ああ。ぜひ」

 全部鞄にしまってニケさんの店を後にする。異世界だというのに身内枠の人が多すぎて安心しかない。もうシオンさんもゴウルクさんもニケさんも親戚のおじさんとおばあちゃんだよ。

 教えてもらった薬剤屋に行くと、ウサギとキツネとタヌキの獣人がいた。もふもふ天国。この世界大型肉食獣の獣人しかいないのかと思ってたんだけど、小型の草食獣とかもいたんだな。冒険者だから大型肉食獣が多いのか?

 下級の回復薬を一ダースと包帯とガーゼの束。消毒薬と麻痺治し、解毒薬。解毒薬には内服薬と外用薬があるらしい。一応両方買っておいた。

 中級の回復薬なんかもあるらしいのだが、ストーンランクが向かうような場所なら下級回復薬でも十分すぎるくらいらしいので下級だけにしておいた。回復薬は下級でも下位ランクの冒険者には高級品なので基本的には止血剤とかでどうにかするらしい。一回飲んだけど、あの回復力は確かに高そう。

「薬剤師には獣人が多いのか?」

「匂いに敏感なので調剤に向いてるんですよ。調剤中の微妙な変化にも気づけますから」

 へー!

 会計をしながら訊いてみるとキツネの獣人さんがそう教えてくれた。

 とりあえず必要なものは揃ったからギルドに帰ろう。


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