第37話 監督依頼
ダイナーに入るとダイナーにいた冒険者たちの視線が一斉にこっちに向く。こうならないようになったところだったのに。気にしてもどうしようもないので気にしないでおく。
「ユウちゃん! 大出世ね」
「おめでとう」
「ありがとう。降格しなくてよかったよ」
ナヒカさんとビスタさんが祝ってくれるのでとりあえずお礼を言っておく。カウンターに座ろうかと思ったんだけれど三人座れる場所はなかったので大人しくテーブル席に着く。大きいテーブルしか空いてなかったので無駄に広々してしまうな。
お任せで料理を頼んで、料理が来る前に借りた剣をしっかり確認する。ミスリルの剣は諸刃のシンプルな直剣だから、形は元の剣と同じだな。俺が使いやすいものを選んでくれていたんだろう。
「その剣も長いですけれど、ユウさんの元々の剣も長いですよね」
「父の剣なんだが、父は私よりも背が高いからな。父が使いやすい長さだったんだろう。実は抜くのがやっとだ」
「技能があれば抜けますよ。大太刀を背から抜く方もいらっしゃると聞きますし、練習あるのみですね」
「居合をするわけでもないのに抜刀の練習もなぁ」
かっこよく抜けたらいいけど、かっこよく抜く必要ないからな。居合ができるような技能が俺にあるとは思えない。
「まあ抜刀の練習はともかく、剣術の練習をしないとな。新しい登録証をもらったら明日は外に行こうか」
ゴウルクさんにも言われているし。
「そうですね。ジェシカ様は依頼などは?」
「依頼は受けていないですけど、採取には行こうかと思っています」
「でしたらユウを連れて行っていただけませんか? 護衛代わりにもなりますよ」
いいのですか?と訊かれたので勿論と返しておく。土地勘がないし、ジェシカさんの話は勉強になる。
「じゃあ、ビクターも連れて行こうと思っているので、ロボちゃん、遊んであげてね」
「ばぅー!!」
ジェシカさんがテーブルの下を覗き込めば嬉しそうにロボが尻尾を振る。遊んであげるというか、ロボのほうが遊んでもらうことになる気がするけれどまあいいか。
ビスタさんがサーブしてくれたご飯はペペロンチーノみたいなパスタとカプレーゼ、それと、なんて名前だっけ?シュニッツェル?おそらくドイツ風カツレツみたいなもの。地球だと多国籍料理になるのだろうけれどこの世界だと全部この国の料理なのかな? プレッツェルみたいな硬いパンを添えて。顎が鍛えられる。ロボは平気でカツレツに齧り付いているけれど、俺たちはお行儀良く細かく切っていただきましょう。美味しい。
コロンと鈴を鳴らしてダイナーの扉が開くので視線をやるとオリバーたちとトーカだった。だいぶ席も埋まっていたので手を振って呼べば嬉しそうにやって来る。この間の演習以来、オリバーたちとトーカはずいぶん仲が良くなったようだ。
「お邪魔します」
「どうぞ。この席を三人で使うのはちょっとな」
八人掛けのテーブルなのでね。水を持ってきてくれたビスタさんに子供たちにも同じものを頼む。
「ユウさん光魔法も使えたんすね!」
席に着いたネルが我慢できないという勢いでそう言う。オリバーとチルセ、トーカもうんうんと頷く。
「そのようだ」
「そのようって?」
「さっき初めて使ったからな。ジェシカさんに魔法について教わっていてよかった。昨日ケルピーを相手にした時もそうだったが、教えてもらっていなければ氷が効かない時点でお手上げだ」
素直に言えばジェシカさんが笑った。
「よく使ってみようと思いましたね」
「ああ。あまりにも手も足も出ないからせめて鬣くらいは焦がしてやろうと思ったんだが、駄目だった。シオンさんは強いな」
「私でも魔法を使わずに相手をするのは難しそうですからね。ユウが一本取るにはあと10年は必要では?」
攻撃が一切効かないナイトでも難しいの? 俺には絶対無理じゃんか。
「10年でやっと一本取れる程度か。頑張らないと」
「10年でシオン様から一本取れるというのが普通は信じられないのですけれど、ユウさんならできそうですね」
ほんと? 頑張ろう。そのためにも剣の練習だな。
料理が来たので食べ始めたオリバーたちを見守っていたらウィルがダイナーに入ってくる。
「ユウ、ちょっといいか? 旦那も」
「ああ」
なんだろう? ロボをジェシカさんに任せて、全員分のお金を払ってからウィルについてギルドに入り、ホールを越えて二階の部屋の入る。会議室のような雰囲気の部屋の中にはシオンさんやレオ、ノエルさんを含めた冒険者が十人ほどいた。なんだかすごく物々しい。
手招きされてシオンさんとレオの間に収まると、俺の後ろにナイトが立つ。窓際に置いてある机の前にはヴァネッサさんとヘリオットさんがいた。
「揃ったね。じゃあ、端的に要件を伝えるよ。この街は非常戦闘区域に入った」
非常戦闘区域? 何それ。
ヘリオットさんがヴァネッサさんのあとを引き継いで言葉を続ける。
「東の森の調査を頼んでいる間に騎士団でも調査した結果、グエルト砂漠にノウデン王国の騎士団が展開していることがわかった。東の砂岩地帯にて騎士が防衛線を張るが、東の森のことを考えると魔物を召喚していないとは考えられない。よって冒険者諸君に魔物の討伐を依頼したい」
魔物の討伐依頼か。東の森の向こうは砂岩地帯なのかな? ウィルが手を上げた。
「その依頼を受けて、ギルドからミスリルランク以上の冒険者が在籍するパーティに小規模討伐の警戒令を発令します。今日以降、警戒令の解除までは指名依頼以外の依頼を受けることを禁止としますのでご理解ください。非常呼集がかかった際にはその時受けている如何なる依頼よりも優先してギルドに集合していただきます」
……わぉ。それにしても騎士が展開してるって、戦争でも始まるの?
「話は以上だよ。箝口令は出さないけど、不安にさせるだけだからあんまり言いふらさないように。解散。シオンとユウ、ナイトは少し残ってくれるかい」
なんだろう? 他の冒険者が出て行ったあと、俺とシオンさん、ナイトとウィルとヴァネッサさん、ヘリオットさんが残る。ヘリオットさんがため息を吐いた。
「まったく、宣戦布告も無いまま他国の領地に騎士を展開するなんて、近衛騎士団を送り込まれても文句は言えんぞ」
「あの国は戦争が下手だとは聞いていたが、本当に下手なんだな」
「ああ。基本的な立ち回りも知らんらしい。周辺小国を相手取るときと同じ気持ちできたんだろうが、帝国にそんな杜撰な作戦は通じんと知らしめてやらねば」
ヘリオットさん優しそうなおじさんって顔しているのに不穏なこと言ってる。シオンさんが首を傾げた。
「で? 我々が残された意味は?」
「シオンとユウには私が用事があるんだけど、ナイトにはヘリオットさんが頼みがあるって」
ナイトに騎士団長が頼み事? 顔を向けるとヘリオットさんが頷く。
「ノウデン王国は戦争は下手なんだが、召喚術だけは大陸でも群を抜いている。本来はグロテスクの召喚・使役なんてできないはずなんだが、それをやってしまうのがあの王国だ。だからわざわざ君たちにまで警戒を頼むことになってしまった」
「はぁ……?」
「ノウデン騎士団には我々帝国騎士団が対応するが、援軍を呼べん以上召喚された魔物の相手までは些か荷が重い。なので魔物が冒険者の方に集中するように対策したい」
おん? ああ、とナイトが手を叩く。
「私の装備を騎士団にお預けすればよろしいですか?」
「頼めるか?」
「勿論構いませんよ。今お渡ししましょうか?」
「いや、直前で構わない。首無し騎士の装備なんて貴重品、どこに置いておけばいいのかわからん」
「承知いたしました」
さすがにナイト以上の魔物の召喚はできないだろうってことか。ナイトの気配で魔物を誘導するつもりのようだ。非常呼集がかかってからでいいと告げてヘリオットさんはギルドを出て行った。
それにしても。
「戦争には冒険者は関わらないのでは?」
首を傾げるとウィルがそれがな、とため息を吐いた。
「今回は宣戦布告がされてないから戦争という扱いにならないんだよ。戦争っつってもそれなりに手順があんの。騎士団が本隊に援軍を頼めないのもこれが戦争という扱いじゃないからだ」
へー。戦争ってどこの世界でも大変なんだな。
さて、俺とシオンさんへの用事とは?
ヴァネッサさんを見ると俺を指差す。
「シオン、ユウのお守りを頼むね」
「私のお守り!?」
「ギルマス、言い方」
俺はもうお守りがいるような歳じゃありません!!
「ああ、パーティを組めばいいのか?」
シオンさんが俺を見ながら納得する。納得しないでください。パーティって子守感覚で組むものなの?
「そういうこと。一応はウィルも付けるけど、どの程度の規模で魔物を召喚しているかわからないからね。ユウが本気で走り回ったら味方に被害が出るから、戦闘援護はウィルに任せて、シオンは全体を魔物とユウから守っておくれ」
「私の扱い酷くないか!?」
魔物と同じ扱いじゃない!? 俺から守れって何? ウィルが肩を竦める。
「模擬戦で光魔法ぶっ放したお前が悪い」
「シオンさんは死なないからいいじゃないか!」
「ユウそれはさすがに」
「サイコパスの発想」
えーん! ナイトにまで引かれた! 納得がいかない!!
「ユウはパーティの戦い方なんて知りませんが、大丈夫ですか?」
「問題ないよ。ユウには最前線で自由に走り回ってもらうだけだから」
なんか期待されてるのかされてないのかわからない。がっくりと項垂れているとシオンさんに肩を叩かれる。
「周りを気にせず戦っていたらいいんだから、お前さんにはちょうどいいだろう」
そうなんですけど。
あ、そうだ、とウィルが俺を見る。
「ユウは《架け橋》と仲がいいのか?」
架け橋? 首を傾げるとウィルが手を振った。
「オリバーたちだ。ストーンに上がってパーティ名が付いたんだよ」
お、やっぱりオリバーたち昇格してたか。ストーンランクになったら名前が付くのか。仲がいい……と言ってしまっていいんだろうか?
「ひとまずは、怖がらずに普通に話しかけてくれる子たちだ」
とりあえず事実を。それなら十分だよ、とヴァネッサさんが頷いた。
「あの子たちは筋がいいからどんどん強い魔物と当たらせたいんだ。監督を頼めるかい?」
監督? 聞き覚えのない単語をウィルが説明してくれる。
「下位のランクの冒険者を上位ランクの冒険者が危険がないように警護するんだよ。演習警護の単独版だな。ギリギリ魔物の方が強い依頼を受けさせて、どういう風に立ち回ればいいのかを考えさせる」
へぇー。実地演習もそうだけど、本当に冒険者って過保護というか、ケアがしっかりしてるよな。
「そういうことなら構わないが、私は今魔法が使えないぞ。剣を調整中だ」
借りている剣を見せると、大丈夫だろうとシオンさんが言う。
「ストーンを連れて行くとこにお前さんの魔法が必要な魔物なんて早々に出ないだろう。剣だけで十分なはずだ」
そうなの? ならいいか。
「了解してくれたのなら、早速ユウに指名依頼を出すわ。ストーンランクパーティ《架け橋》の監督、お願いね」
「承知した」
「これが《架け橋》に受けてもらいたい依頼な。さっきも言ったが、非常呼集がかかったら全力で戻ってきてくれ」
差し出された紙を読むと、依頼内容は南の山地でワイルドボアの討伐らしい。ほうほう。野生のイノシシってそのままでは? でもヒツジやサルからイノシシはだいぶランクアップしてるよな。
しかし、全力で戻れと言われてもな。オリバーたちを放置して帰ってくるわけにもいかないし、どうするか。
ナイトが一緒に行くとオリバーたちが相手にするような魔物だと出てこなくなっちゃうしな。もし呼び出されたらナイトを呼んで三人を抱えて帰るか。明日はジェシカさんと一緒に外に出るつもりだったんだけど、ジェシカさんにも確認しないと。
主人公君、難しい話はわりとちゃんと聞いてない。




