第35話 VSシオンさん2
楽しく書いてるけど戦闘シーン難しすぎる。
訓練場を分断するくらいの大きさの氷の壁を張って距離を取る。反結界はある程度までの火力は耐えられるってことは、ある程度以上の火力は耐えられないってことだよな。
ならシオンさんは精霊魔法を使えないはず。だとしたら魔力量だけは俺の方が多いだろう。
魔力量で押し切れないだろうか?
そこまでの持久戦はしてくれないかな。というか魔力尽きても肉弾戦でシオンさんに勝てないから意味ないか。一本取ればOKの模擬戦で良かった。
氷を消して、改めて対峙する。
シオンさんは違う剣を抜いていた。剣って何振りか持ってたほうがいいのかな?
さて、じゃあ仕掛けるぞ。
ウィルがしたように地面から三角錐を生やしてシオンさんの動きをセーブさせる。盾と剣で易々と防がれるけれどそれでいい。走り込んで近づきながら、土の三角錐をケルピーの時ように氷柱に変える。硬ければ硬いだけ壊しづらいだろう。
盾を持つ左手側に特に大きな氷柱を出現させ、盾で防いだ隙に空いた右側に剣を振り被って飛び込む。
剣で防がれるのは想定済みだ。鍔迫り合っている間に剣を持つ肩を狙って氷柱を発生させる。
多少でもダメージが通ればいいと思ったんだけれど、残念ながら余裕を持って弾き飛ばされたうえに氷柱は肘鉄で破壊された。
ゴリライオンめ!!
2、3歩跳んで下がり、体勢を立て直す。
どうしてもヒットアンドアウェイにするしかないのに、攻撃が通らない。どうしようもない感がすごいな。
どうするかな。
正面に火柱を発生させて視界を塞ぎ、内殻をミスリルに変更。真正面から火柱に突っ込む。風で火を吹き飛ばされたけれど、さすがに正面から飛び込んできているとは思っていなかったのだろう。上から斬りかったのを回避するのではなく盾で防がれる。
狙っていた状況になったので氷柱を足元に発生させれば土で押さえ込まれた。
はー?? 何その技。
驚いていると弾き飛ばされ、着地しようとした地面すら盛り上がって撥ねられる。
俺はスーパーボールか!! ポンポン弾き飛ばしやがって!
このまま落ちるのはまずい気がして氷の足場を空中に構築する。内殻をドラゴンスキンに戻し、氷の上を転がって止まると下から何かがぶつかる振動があった。確認すると下から土の三角錐が生えてきて氷に刺さっている。
着地が不格好になってでも足場を作って正解だったな。
というか、地球だったらこういうのは上取ったら勝ちのはずなんだけどなぁ。魔法がある世界で地球の物理法則の話するのもアレなんだけども。
上取ったら逃げ道なくなるとか。普通に火とか降ってきそうだな。ドラゴンスキンの魔法防御力ってどのくらいなんだろうか。
とりあえずドーム状に氷を作って頭上と背後を守る。
「さすがに正面から来てるとは思わなかったぞ」
「せっかく鎧が高性能なんだ。多少は無理をしてみないとな」
土の猛攻を止めたシオンさんが頭を掻く。ミスリルならあの火柱も視界を防がれる以外のデメリットはないからね。何事もやってみないと。
「壁でも作ってたらどうする気だったんだ」
「その程度なら多少ぶつかった衝撃はあっても痛みはないだろうと判断した」
「まったく……要らんところばかり似おって」
似てるの? 無策に突っ込むところが? 特攻する勇者嫌だな。
次はどうするか。接近戦を挑むのを諦めるか?
シオンさん相手なら何をしてもいいだろう。
手を振り上げ、振り下ろすと同時に雷を落とす。やっぱり動作と一緒の方が安定するな。地球だと大規模停電が起こりそうな落雷でも目眩し程度にしかならないのが悲しいけれど。
雷が落ちる直前にシオンさんは盾を頭上に構えていたからたぶんシオンさんも直感持ちだろうな。数秒雷を落とし続けたら雷が凍った。
この世界、雷凍るのか。
凍った雷が砕ける前に足場を消して地面に降りておく。走り回るなら滑らない方が安全だ。
氷が砕けるのに合わせて走り込む。防がれるのを承知で斬りつけ、盾で弾かれるのに合わせて剣を手放す。高い金属音を響かせて飛んだ剣は思ったとおりの軌道でシオンさんの背後に刺さった。
シオンさんが怪訝な顔をする。
「武器を失ったぞ」
「そうでもない」
鞘を剣帯から抜く。内殻をミスリルに変更。正面から氷柱を発生させ盾を使わせる。
氷柱が壊されたタイミングで直接体を魔力強化し、鞘を剣代わりに盾に突撃する。この際不格好な体当たりでも構わない。意識を正面に向かせて、盾を使わせていることに意味がある。
手放す直前に剣には雷の魔力をたっぷり含ませておいた。
肩で盾を押さえ、鞘で剣から雷を引っ張る。いきなり背後から雷が飛んできたらいくらシオンさんでも多少は驚くだろう。
結果、作戦は成功したけれどシオンさんに一撃入れるには至らなかった。
剣から雷が走る寸前、大きな氷の塊が足元から隆起して吹っ飛ばされる。雷は氷に阻まれて大きくたわんで宙を走った。
ドチクショウ。空中で姿勢を整えながら鞘に魔力を通して剣を呼ぶ。なんとなくできる気がしてやってみたのだけれど、雷の魔力のおかげで磁力が発生していたようで氷に巻き込まれて飛ばされていた剣が手元に戻ってきた。ラッキー。
納刀しながら着地すると同時に氷が砕けてシオンさんの姿が見える。やっぱり無傷かぁ。
「鬣が焦げるくらいは期待したんだが」
「《大氷陣》を使わされた時点で俺的には悔しいんだがな。どうやったらそんな無茶苦茶を思いつくんだ自分ごと雷で焼く気だったろう」
「私は不器用だから、命中率を優先するとこうするしかない」
しかし、俺が使える魔法じゃシオンさんが事前に準備している防御魔法を破れないことがわかった。絶望。
本当にどうするよ。
さっきみたいな高火力の雷を使った不意打ちはあと一度しか使えない。というか二度目の不意打ちが通用するとは思えないし、あの大氷陣っていうのがあと何回使えるのかも不明だ。口振りからして使うことを想定してはいないんだろうけれど、それでも仕込んできているということは一回分だけということはないだろうな。
防御できないくらいの高威力の魔法となると……やってみるか、攻撃特化の光魔法。
雷の時のように手を振り上げる。今日はいい天気だ。日光がそのまま線になって降ってくるような感じだろうか。
手を振り下ろすより早く、シオンさんが吼えた。
「“口を開けろ、万物の墓場”! 《ブラックホール》!!」
振り下ろした手に引っ張られるように落ちてきた光線がシオンさんの頭上に出現した黒い筋に収束して飲み込まれる。シオンさんの足元には大きな魔法陣が現れていた。やっぱり用意してますよねぇ闇魔法!
もう片方の手で側面から光を打ち込もうとしたけれど、気づいたら体が宙に浮いていた。息が詰まる。
次の瞬間背中に強烈な衝撃を食らい、地面に叩きつけられた。
「そこまで!」
地面に激突した方が痛みが少ないってどういうことだよ。反射的に氷で背中を庇い起き上がろうと手を突いていたけれど、すぐ近くで聞こえたウィルの声で力を抜いて地面に突っ伏する。
氷の壁を消して気を抜いたら背中だけでなくお腹も痛い。というかお腹の方が痛い。腹側から叩き上げられていたんだろうな。さっき息ができなかったのはその衝撃のせいか。痛みの知覚が間に合わないってどういうことだ。
背中のダメージが少ないのはたぶん世界樹の種子が内殻をドラゴンスキンに戻してくれていたんだろう。
本気のシオンさんこっわ。目で追うどころか何されたのかもわからなかったぞ。
「大丈夫か?」
「お腹痛い」
「大丈夫そうだな」
大丈夫じゃないですけど? お腹痛いってば。ウィルに訊かれて返事をすれば呆れたように返される。完敗すぎて起き上がる気力もない。地面に伏したままでいたら襟首を掴まれてネコの子供みたいに引っ張り上げられた。
ブランと吊るされ、シオンさんが覗き込んでくる。完全に悪戯した子供を叱る顔しているんですが。
「お前なぁ、模擬戦で光魔法はやりすぎだ」
「シオンさん相手なら何をしてもいいと思って。しかし、ここで止めてもらえてよかった。あれを完封されてしまうと完全に手詰まりだ」
ジェシカさんに魔法のこと聞いてなかったら氷を防がれた時点で手詰まりだったから、勉強って大事だな。
それにしても。
「対人戦闘は本当に楽しいな。いろんなことが試せた」
「……」
「……」
なんで二人ともそんな残念なものを見る目で見るの?
「お前さん、性格はあれに似てないが根っこの部分はあれそっくりだな」
「性格が似ていないところが不幸中の幸いだな……」
そう? あ、ところでこんなこと話してる場合じゃなくない?
「模擬戦の結果はどうなるんだ?」
俺完敗だけど。一本取るどころか一撃も当てられてないよ。……あれ?? やばくない?
「……もしや降格か? 一撃も入れられていないぞ」
どうしようと思って口に出すと二人に深い深いため息を吐かれた。
「周りを見てみろ」
周り? 下ろしてもらってギャラリーを見渡すと騎士やギルド職員も含めて総じて呆然としていた。静かだと思ったら。
「氷魔法の時点で置いてかれてんのに、雷魔法どころか光魔法なんて見せられるとこうもなる。というかお前途中で結界ブチ抜いたの気づいてないのか?」
え? だって。
「ある程度の火力は耐えると」
「雷魔法の段階である程度を超えてんだよ。普通模擬戦で想定するのは上級の火魔法くらいだ」
嘘でしょ。
くっくっく、とシオンさんが耐えられないと言いたげに笑い出した。
「念のためと思って用意しておいた闇魔法まで使わされて、シルバーから降格なんてされると堪ったもんじゃないな」
お腹を抱えて笑い出したシオンさんに笑ってんなよ、とウィルが頭を抱える。
「そもそも光魔法使える魔導士なんて帝国内で数人しかいないってのに。派手にやりやがって、どうしてくれんだよ……」
そういえばジェシカさんが言ってたな。楽しくてすっかり忘れていた。
「すまない」
「火消しは得意だろう。なんとかしてやれ」
「これだから冒険者は」
いや、大変申し訳ない。
視線をやるとヴァネッサさんと何か話していたナイトが気づいて肩を竦める。ヴァネッサさんにも怒られるのかなぁ。ヘリオットさんは部下の騎士と話をしているし、どうなるんだろう。
「ミスリルに上げる予定だったんだが、光魔法まで使われちゃあオリハルコンにするしかないな。基本、依頼はギルドからの指名依頼になるが、掲示板のも受けれないわけではないから気にするな。でも指名依頼を優先で受けてくれよ」
「了解した」
オリハルコンかぁ……ん?
「シオンさんもオリハルコンランクでは?」
「そうだが」
「ウィル、嫌だ。私はミスリルでいい」
手も足も出なかったのに同じランクは辛すぎる。ウィルに訴えたけど首を振られた。
「今お前が思っていることをミスリルランクは全員お前に対して思っていると思え」
んぇぇ……。
ナイトと一緒に頭を抱えたヴァネッサさんが近づいてきて、はぁ、と重たいため息を吐かれた。そんな真正面からため息吐かなくても。
「正規の登録証を用意するから、夕方くらいにギルドに顔出してくれるかい? それまでは自由にしてていいよ。魔力尽きてるなら回復薬があるけど?」
「わかった。魔力は問題ない。少し腹は痛いが、内臓に損傷もなさそうだ。すぐ治るだろう」
「りょーかい。じゃあ、私たちは先にギルドに帰るわ。ウィル、シオンも、予定が変わったからついて来て」
ヴァネッサさんに連れられてウィルとシオンさんが行ってしまったので、入り口にいたヘリオットさんに一礼してロボを撫でているゴウルクさんに近づく。ちょっと無理してしまったけど、剣は大丈夫だろうか。
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「さっきのは《惑星を穿つ瞬光》か?」
「まさか、詠唱も魔法陣も無しに最高威力の光魔法を使うなど」
「しかし、シオン様が《ブラック・ホール》でしか受けられないと判断したんだぞ」
「ははは……天才とはこうも、なんでもない顔で現れるものなのか……」
シオンさんは本気を出せば主人公君くらい瞬殺できます。




