第33話 模擬戦準備
ナイトはまだ調べ物があるので地球に戻り、ロボもついて行った。俺はジェシカさんがビクターの登録をしている間に倉庫でケルピーを引き取ってもらい、ついでに解体で出た血を流す用の水路で血を流させてもらう。やっぱり雑に水をかけられて温風で乾かされた。
「ケルピーの血がそのまま残っているのは有難いな。普通は焼けてしまって使えないから」
「何かに使えるのか?」
「血液凝固剤になる。止血剤だな。前衛職には重宝されるぞ」
へぇー。ギルさんの解説を聞きながら解体されるケルピーを見学する。グロいはグロいけど迷いなく解体されていくので職人技って感じで目が離せない。
「肉はどうする?」
「食べられるのか?」
「ああ。脂が少ない淡白な赤身だがもっちりした食感で結構イケる。焼くより蒸した方がオススメだ」
馬肉や鹿肉に近い感じなのかな? 馬肉なら刺身が美味しそうだけど、さすがにちょっと怖いな。
「なら半分貰おう。あとの半分はダイナーに卸してくれ。肉の買取料は不要だ」
「了解した。ナヒカが喜ぶ」
ザックザックと肉と皮が分けられていく。海藻感の強い鬣も全部取り分けられて箱に入れられている。
「鬣も使うのか?」
「いい撥水素材だ。鎧の繋ぎ部分に使ったり、鞘にしたりするな。このあたりは水棲の魔物が少ないから貴重だぞ」
へぇー。昆布みたいに幅広だから使い勝手は良さそう。あ、撥水素材といえば。
「これはなんの素材かわかるか?」
「ん?」
鎧の外殻を撥水素材に変更。暗い藍色に変わった鎧をギルさんが観察する。他の作業台で仕事をしていた職員たちも集まってきて手の一部に水を掛けたりして色々確認しているようだ。うーんと頭を掻きながらギルさんが口を開く。
「おそらくだが、ポセイドンの外皮だな。金属では無いが最高の撥水性能と物理・魔法防御力を持っているぞ」
マジか。ポセイドンて。神様じゃん。強い。でもとりあえずアダマンタイトに戻しておこう。
「神獣の外皮まで再現できるのか。さすが万能の鎧」
「そもそもいつものアダマンタイトの時点でおかしいけどな」
「仮面から鎧に変形するのも不思議だよな。他の形にも?」
集まっていた職員たちが世界樹の種子に興味を持ってしまったようだ。どうしよう。
「あー……バングルになったりもできる。たぶん身に纏う形なら何にでもなれるだろう」
そもそも鎧状態の時も布にしか見えないところも世界樹の種子が覆ってくれてるし。布なんだけど性質はアダマンタイトだから超頑丈。
「マジかぁ。適合者以外にしか使えない物じゃなかったら調べるのになぁ」
ははは。よかった。仮面代わりにしてるから貸すこともできないんだよね。なんとか興味を逸らさないと。
「そういえば、ケリュネイアの毛も買取を頼めるか?」
「ケリュネイアの毛!?」
よっし! 食いついた!
名付けを手伝ったことへのお礼として、集めていたケリュネイアの毛を貰っていたのだ。角はなんとなくまだ持っていたいので、とりあえず毛だけ。
「ジェシカが連れ帰ったと噂になってたな。もちろん買い取らせてもらおう」
毛束を入れた麻袋を取り出して、買取金額なんかを確認してもらっている間に剣をゴウルクさんに診てもらいに行こう。しかし、毛皮じゃなくて毛だけでも買い取りされるのか。
今日も看板が出ていない工房を覗き込めばちょうど店先に出てきたゴウルクさんが首を傾げる。
「誰だ?」
あれ? あ、鎧のままだった。
「私だ。剣に少し違和感があったので、診てもらいたい」
今日ほぼ一日中鎧だったな。仮面に戻すとお前さんか、と招き入れてくれる。
「早々に壊れるようなもんではないと思うが、何をしたんだ?」
「雷魔法の魔力を通すと違和感があった。見た感じ壊れたわけではなさそうなんだが」
剣帯から鞘ごと抜いてゴウルクさんに渡す。剣を抜いて確認し、魔力を通してみろと返される。属性を意識せずに流せばやはり違和感はない。雷が問題なのかな? 青く光った剣を渡せば鑑定鏡のようなものを取り出して確認している。
「ふむ……おそらく想定量以上の魔力が一気に流れた結果術式が過剰反応したんだろう。何をしようとしたんだ?」
「特に考えずに、雷とだけ想像して魔力を流した。そのあとは鞘に向かって雷を飛ばした」
「器用なのか不器用なのかわからんことをするんじゃない」
すみません。
「シオンの小僧と模擬戦をするんだろうに、壊していたら事だぞ」
「何故それを?」
というかシオンさんのこと小僧って。知り合いなのかな?
「シオンが模擬戦をするなんて早々無いからな。しかも相手が噂の随獣師だ。話が広まらんわけがない」
マジかー。
「すぐに異常が出るようなことは無いだろうが、模擬戦が終わったら一度預かろう。雷を剣で飛ばすならそれができるように調節してやる。明日は剣で雷魔法を使うなら二回までにしておけ」
「承知した。ありがとう」
二回までか。気をつけておこう。
ゴウルクさんのところからギルドに戻るとジェシカさんとアリサさんがいた。
「ユウさん、お待たせしましたが今回の報酬をお支払いします」
「ああ、すまん、出かけていた」
そういえば報酬受け取ってなかった。トレーのようなものに乗せられた銀貨3枚、確かに。
「それと、コボルト討伐の報酬、ケルピーとケリュネイアの買取代金です。合わせて金貨105枚と銀貨8枚です」
ドンッと麻袋が置かれる。
「……は?」
「ケリュネイアの毛は非常に貴重ですし、ケルピーの状態もよかったらしいです。コボルトの討伐報酬は金貨20枚ですね、数が多かったのでこの金額になったそうです」
アリサさんがにこやかに説明してくれるが、問題はそこじゃない。金貨105枚? 1050万円? 怖っ!!
「中身を確認して受け取りをお願いします」
「了解した」
したくねー!! えーん!! 渋々数えて金額を確認する。全部揃ってます……。麻袋は貰えるとのことなので有難く貰う。とりあえず大きい麻袋と財布買おう……。
報酬を受け取り、ジェシカさんと別れてダイナーで夕飯を食べる。今日はナヒカさんもビスタさんもお休みのようだったけれど、ナイトが戻っていてタンドリーチキンを作ってくれていた。カレーはご飯ができるまでお預けのようだ。俺とナイトはパンと一緒に食べたけれどロボはチキンだけ貪っている。ロボも食べないと駄目なタイプだったのだろうか? 最初から食べてたからわかんないな。
食後に少し落ち着いているとナイトがそういえば、と指を立てた。
「明日ですが、騎士団の訓練場を借りるそうですよ」
「想像以上に大事になってしまったな」
騎士団かぁ。話も広まってしまってるみたいだし。
「ユウとシオン様が実践を行うなら仕方ありません。屋根を吹き飛ばしたくないでしょう?」
吹き飛ばしたくはないけど、そもそも吹き飛ばす前提の話やめよう?
代金を払って部屋に戻る。早めに寝て明日に備えよう。明日はウィルが迎えにきてくれるらしいので寝過ごす心配はない。
翌朝、ウィルが来る前に起きれた。着替えて準備しておく。ナイトとロボも起きて準備万端で迎えにきてくれたウィルと一緒にダイナーに降りて朝食をとる。
「ユウちゃん! ケルピーのお肉ありがとうね!」
「どういたしまして。美味しく調理してくれ」
喜んでいただけて何よりです。半分でも結構な量だったからダイナーでも十分使える量だろう。
「今日は模擬戦でしょう? 精をつけて頑張ってね」
そう言ってナヒカさんが用意してくれたのはパイのようなものだった。しかしなんかボリューミー。
「ビーフウェリントンのようなものですか?」
「そう。ケルピーのお肉で作ったから美味しいと思うわよ」
生地を破ったナイトがそう言うので納得する。ステーキ肉で作るミートパイみたいなものだったよな。ケルピーの肉で作ってもビーフでいいのか? ホースウェリントン?
さっくりとしたパイ生地ともっちりしっかりとした肉が美味しい。淡白な赤身と聞いていたけれど旨味が強くて肉を食べてる感がしっかりしている。ロボが夢中で食べているので気に入ったようだ。
「ナヒカは見にこないのか?」
「行きたいんだけどねぇ。さすがにみんなで出払うわけにはいかないでしょう? 報告を待つわ」
ホースウェリントンを食べつつ訊くウィルの言葉に返すナヒカさんに思わず咽せる。
「祭りの出し物じゃないんだが」
「出し物より楽しみにされているわよ」
大丈夫!じゃないんです。 楽しみにされたくないんです。ギルドからも見学に来るのかぁ。
「屋外訓練場だから見られたい放題だぞ。よかったな」
「最悪じゃないか。周りを巻き込んだらどうする」
「反結界を張るからそこは大丈夫だろう。万一の時は、旦那、頼めるか?」
「お任せください。結界は張れませんが、真似事はできます」
周りを巻き込むことを想定されている!! お任せくださいじゃないよ!
肩を落とせば笑ったウィルにしゃんとしろと背中を叩かれる。
「御前試合をしろってんじゃないんだ。気楽に行けよ」
「気楽に行ける状況じゃないだろう」
重たい胃になんとか朝食を落とし込み騎士団の訓練場に向かう。模擬戦自体は昼前に始めるらしいのだけれど、体を慣らしていたほうがいいだろうとのこと。そのとおりだと思います。
騎士の訓練場は領主の城近くにある柵に囲まれた陸上競技場のようなところだった。本当に見られたい放題じゃん。それにしても500メートルトラックどころか1000メートルトラックとかあれば余裕で入りそう。さすが騎士団の訓練場……。
「広いな」
「ここは皇弟の領地だからな。帝国騎士団本部直属だし、こんなもんだろう」
コウテイ?
「皇帝陛下?」
「いや、皇弟殿下。陛下の弟君だ。引きこもりで祝祭にも出ないから見たことはないが」
へぇ。
「さて、入るぞ。準備運動と言っちゃなんだが、手合わせしようぜ」
お願いします! そのためにウィルはフル装備で来てくれてたのか。柵の手前にある家のようなところに近づくと騎士がいて、門を開けてくれた。シオンさんと模擬戦をすることが伝わっているからだろうけどおじいちゃん騎士にとても心配そうに見送られてしまった。
訓練場の中では何組かの騎士たちが訓練していたけれど、ウィルが気にせず真ん中に陣取る。大丈夫かぁ? 来い来いと手招きされては仕方ない。ロボは邪魔しないようにナイトに抱えられた。
「私はシオンと違って守りが得意なわけじゃないからな、行くぞ!」
「応!」
ウィルが剣を抜き、俺は世界樹の種子を鎧に展開すると同時に跳ぶ。直後に立っていた地面に三角錐のような岩が生える。着地地点も怪しいな。氷で足場を作って方向転換すると、案の定それまでの着地予定地点にも三角錐がボコボコと発生していた。
内殻をオリハルコンに変更、魔力強化して回り込むけれど、視線だけで追ってきていたウィルは抜いていない方の短剣を少しだけ抜いてすぐに納刀する。キィンと音が大きく響いたと思ったら牡丹のような魔法陣が広がり爆発する。
魔法を仕込んでたのか!
ギリギリ魔法陣に接触はしなかったけれど、ミスリルにしていなかったせいで見事に吹っ飛ばされる。魔力を鎧全体に回していてよかった。たぶん魔法耐性だけだと多少火傷していた。
くそ、できれば近づいて肉弾戦に持ち込みたいんだけどな。
魔力強化してないとウィルの速さに追いつけそうにないんだけど、これは内殻はミスリルが最適解だな。内殻をミスリルに変更するとウィルが正解、と剣を振る。
「魔導剣士相手にオリハルコンじゃその鎧の強みは活かせないぞ」
「そのようだ。学ばなければいけないことが多い」
そういうことを学べるように早めに訓練に付き合ってくれているんだろう。せっかく対人戦闘の勘を付けさせてくれようとしてくれているんだ、存分に練習させてもらおう。
ウィルが今度は長剣を抜いた。
「次行くぞ。四色《七変化》」
何?と思ったらバババッと俺の周りで小さいけど大量の火花が弾ける。ミスリルにしているから衝撃はないけれど、音と光でウィルを見失った。
全方向に氷の壁を張り、前を一点集中で吹き飛ばした勢いで火花の中から飛び出したけれど、視界のどこにもウィルの姿がない。
咄嗟に剣を抜いて後ろを斬りつけると火花が散る。クッソ、俺は両手なのに片手で受けられた。
そのまま弾かれて距離が開く。
対人戦闘難しいな!




