第28話 シオンさんはすごい人
ジェシカさんを背負って休まず走り森の近くに到着した。時計で確認すると1時間と45分ほどで着いたようだ。魔力強化なしでもそこそこスピードが出せるな。
「は……速いですね……」
「できる範囲で急がせてもらった。体は平気か?」
「はい」
良かった。結構Gがかかっていた気がするけど、この世界の人丈夫だからまあ大丈夫なんだろうな。ウェストの森は初日に落ちていた森とはさすがに違ったようだ。鬱蒼という言葉では生温い、緑豊かな木々に覆われているはずなのにポッカリと闇が口を開いているようだ。よくこんなとことに素材を採りに来ようとか思うな。
「今日は何を採るんだ?」
「ラキラ草と金剛輝石です。南の山地でも採れるのですが、数が少ないですし、ここと比べると質が格段に落ちるので」
へー。聞いたことない草だな。何に使うのかまた実物見ながら教えてもらおう。
「採取の様子を見学させてもらっても? 見たことがなくて」
「構いませんよ」
やった。
「そういえば、ユウさんのやりたいこととはなんですか?」
「魔法の訓練だ。まだ調節が難しくて」
「そうなのですね」
はい。周りを火の海にしそうとは言えないよねぇ。
「ジェシカさんは魔法は?」
「火と風が少し。戦える程の威力は出ませんが、薬を調合するには十分です」
威力が足りないとかあるのか。魔導回路の強度とかの問題なのかな?
「ユウさんは氷魔法も使えるんですよね?」
「何故それを、と言うには目立ち過ぎているか」
「はい」
頭を掻くとクスクスと笑ってくれた。
「鎧の剣士、もしくは仮面の魔導士。さらにシオン様のご友人となれば目立たないはずがありません」
シオンさんも目立つ要因なのか。父さんの友達で盾持ちの冒険者ってことしか知らないんだよな。父さんが強いって太鼓判を押す人なら目立たないわけないか。
「シオンさんは父の友人なんだ、だから世話を焼いてくれている。シオンさんが強いことは知っているのだが、どういう人なんだ?」
気さくなおじさん(スパルタ)って印象しかないんだよな。そう思って訊くとジェシカさんが「マジかこいつ」って顔で俺を見た。え。なんかすみません。
「……シオン様の武勇伝をご存知でないのですか?」
「無いな……」
本当すみません。いや、ダイナーでご飯食べてる時にみんながシオン様が云々って言っていたのは聞いてたし、みんなが様付けしている時点でなんかおかしいなとは思ってたんですよ?
「お父上のご友人でしたら逆にそういう話は耳に入らないのかも知れませんね。シオン様は勇者リアム様が唯一勇者になられてからパーティに勧誘した冒険者なのですよ。お断りされてしまったそうですが、それでもリアム様とは良好な関係を保っているとか」
勇者と友人なのは知ってます。っていうか父さんパーティにシオンさん誘ってたのか。
「パーティ入りを断ったことでシオン様は未だにソロの冒険者ですが、オリハルコンランク最強との呼び声高い大英雄なのです。勇者パーティの戦士様や大神官様とは本気で競え合えば勝敗はわからないと言われている程ですし!」
あ、これ触れちゃ駄目なやつだったか?
「獅子の獣人でありながら物腰柔らかで紳士的、しかも盾持ちの冒険者! 30年前に冒険者になって以来負け知らずの豪腕にも関わらずそれを奢ることなく鍛錬し、新人教育にも率先して参加し後輩の育成にも手を抜かない。天災級中位のレヴィアタンを退けたこともあるとか! 輝ける金獅子の異名を持ち、大規模討伐では必ず最前線を守護する『白銀の大盾』!! 勿論ギルマスやレオさんも素晴らしい冒険者ですが、一線を画す実力者なんです!!」
ア、ハイ。
はー、はー、と息を切らしたジェシカさんはそのまま両手で顔を覆って蹲み込んだ。
「……今の絶対シオン様に言わないでください……」
「了解した」
蚊の鳴くような声で懇願された。耳まで真っ赤に染まっていらっしゃる。これが過激派というやつか?
「とりあえずジェシカさんがシオンさんを尊敬しているのはわかった」
しかし、輝ける金獅子に白銀の大盾か。シオンさんのあだ名かっこいいなぁ。俺なんて破壊神になりかけてるのに。もうできるだけ物は壊さないようにしよう。
「勿論勇者パーティの方々も尊敬しているのですが、あの方達は本当に、立っている次元が違うというか、見えている世界が違うというか。憧れというか御伽噺のようで。『黎明の大神官』様に『深淵の大賢者』様、『戒律の戦士』様、そして『幻想の勇者』様。パーティを組んでいながら個々人に二つ名がつくほどの実力者集団。余程の実力者でなければ、その四人が揃った前に立つことすらできないとか」
父さんのお友達めっちゃ恥ずかしいあだ名付いてないか!? 吹き出さなかった俺を誰か褒めて!! というか父さんやっぱり魔物扱いされてない?
「勇者パーティは戦士様を除いて全員が上位魔法だけではなく治癒魔法や神聖魔法、光魔法、闇魔法を使えると聞いています。勿論シオン様もそれらをお使いになれるとか」
治癒はともかく、神聖魔法に光魔法に闇魔法? そんなものもあるのか。というか上位魔法ってのもなんだ。
「光魔法や闇魔法とは?」
そう訊くとジェシカさんがキョトンとした顔をする。少し考えて納得したように頷いた。
「ウッドランクの基本座学で習うのですが、ユウさんは特例措置でシルバーに上がられたんでしたね」
イエス。特例措置のことも広まってるのか。
「移動しながらでよろしければ私がお教えしましょうか?」
「是非頼む」
森の中を進みながら急遽ジェシカさんによる青空教室が開かれる。森は中に入って終えば意外と明るかった。
「上位魔法というのは、火、土、風、水の基本属性とも呼ばれる四大属性の上位に位置する氷、雷魔法を指します。冒険者や騎士団の魔導士でもこの上位魔法を使えるのはごく一部の人々だけです」
「何故?」
「上位魔法を使うには四大属性の全てを扱えることが必須となっていますが、その四大属性全ての適性を持っているヒトはほとんどいません。魔法との親和性の高いエルフでも半数は全属性は使えないとか。なので使える人が少ないんです。上位魔法は四大属性それぞれの魔力を調整しバランスを変えて発現させることによって氷か雷に変わると聞いています」
へぇー。あ、だから他の……四大属性か、よりは氷の方が扱いやすいのかな? シオンさんたちが昨日魔力消費量が他より多いって言ってたのはそういうことだったんだな。マイナスにマイナスを掛けてプラスにしているようなものか。
「光魔法と闇魔法はそれぞれ攻撃と防御に特化した魔法になります。この二種は上位魔法よりも大量の魔力と制御能力を必要としますので、おそらく使いこなせるのは世界中でも両手の指で足りる人数だと思われます」
攻防特化型かぁ。使えると格好良さそうだけど、魔力量はどうとでもなっても制御はなあ。基本すら暴発させてる俺じゃあ無理だろうな。
「神聖魔法は対不死者特化型ですね。不死者には神聖魔法以外は効きが悪いので、ある程度ランクが高い冒険者パーティは必ず神官か、神聖魔法を使えるように訓練した魔導士がいます。治癒魔法も訓練が必要ですが神官のように教会に所属する必要はなく、適性がある人は修道院で数日修行すれば簡単な治癒魔法は覚えられるようですよ」
教会とか修道院とかあるのか。俺は神官の適性なかったから使えないだろうけど、神聖魔法便利そうでいいな。でもナイトくらいになると神聖魔法でもどうにもならないなら、ナイトがいるなら必要ないのか? ……そういえば。
「影魔法と空間魔法は?」
ナイトが使えるやつ。
「影魔法はヒト族には扱えません。上位の死に属する魔物のみが使用できます」
マジか。ナイトが種族柄って言ってたけどそういうことだったのか。じゃあ父さんも影魔法は使えないのか。
「空間魔法は魔法として使えるヒトはほとんどいないはずです。そもそもは魔術として用いるものですから、マジックバッグの加工に使われるのが主な使用方法です。あとは転移魔術が空間魔法の基礎を使っているはずですね」
空間魔法は空間魔術だったのか?
「空間魔法を使える人に心当たりが?」
「私の随獣だ。首無し騎士」
「ああ。首無し騎士でしたら空間魔法も使えるでしょうね。影魔法と空間魔法はセットのようなものですし」
「そうなのか?」
「はい。影魔法は影の中という特殊な空間を利用するらしいです」
そうなんだ。……ん? 父さんが空中から物を取り出してたあれはなんだったんだ? くそう、気になるけど訊けない。
「ただ、影魔法は使用できるのが一部不死者のみなのでそこまで研究が進んでいる分野ではありませんから、ユウさんの随獣は貴重な情報源になりそうですね」
滅多に見ないみたいな感じだったもんな。ナイト自身も街に近づいたりしてなかったみたいだし、使えるのが魔物に限られてるなら調べるにも限度があるか。普通に頼んだらナイトは教えてくれそうだけど。
「そういえば、首無し騎士といえばコシュタ・バワーと呼ばれる馬が引く馬車に乗っていると聞いていましたが、獣舎に預けているんですか?」
コシュタ? ん……? 首無し騎士が連れている馬? ああ。
「いや、実家に預けてある。ナイトは自分で走った方が速いと」
ナイトが連れてた青毛に青い目の馬の名前が何度聞いても覚えられなくて最終的にバターって名付けちゃったんだよね。馬より速いってどういうことだよって思うけれど、バターは家の馬たちとも仲良しになってたし深く考えないようにしてたんだった。
「……ナイトさん、ですか? ユウさんの首無し騎士は変わった方ですね」
「邪魔だという理由で正式装備を変えてしまうくらいだからな」
変わり者ではあるんだろうな。
「シオンさんの話に戻るんだが、ウィルに天災級は人では相手ができないと聞いていたんだが、シオンさんは天災級を相手取れるのか?」
「シオン様は精霊魔法が使えますから」
精霊魔法?
「あ、精霊魔法の説明を忘れていましたね。精霊魔法はその名のとおり精霊たちの力を借りて行使する魔法です」
「精霊とは?」
「不可視の存在なので伝え聞いているだけなのですか、意思を持った魔素だとか。魔法は本来体内の魔素を魔力に変えることで行使しますが、精霊魔法は自身の魔力を呼び水として精霊たちの力を借りて魔法を行使します。簡単に説明すると少しの魔力で大規模な魔法の行使が可能なんです。ですから、本来莫大な魔力を持つ天災級の魔物でも相手取ることが可能です」
へー。自然の恩恵を受けているみたいなものなのかな?
「それができるのならみんな天災級を相手取れそうだが、そうでないということは何か条件があるのか?」
「はい。精霊魔法を使うには精霊に好かれていなければいけません。精霊に好かれていない人がどれだけ精霊魔法を使おうとしたところで何も起こりませんし、精霊魔法は大規模魔法を自力で行使するよりは消費魔力が少ないことは確かなんですが、それでも相当な魔力を消費します。本人の実力も必要でしょうね」
なるほど。
「精霊に好かれているかどうかを確認する術は?」
「ありません。なので完全な博打ですね」
うっわ。シオンさんがそんな一か八かの博打打ったとか知りたくなかった。
「精霊魔法でも幻想級は相手にできないのか?」
「幻想級の魔物は全てにおいて規格外ですから。ほとんどが精霊魔法を行使できるそうですし、魔法無効や物理無効が当然のように備わっていて、外皮の強度も保留魔力も天災級の比ではないらしいですよ。勇者パーティでもリアム様以外の方々は幻想級の相手はできないと聞いています」
……やっぱり無効貫通は標準装備のスキルではないんだな。高火力の打ち合いになるとそりゃ元が頑丈な方が強いよな。ナイトみたいに倒しようがないのもいるだろうし。
白銀の盾は正しくは『Escudo de plate』っぽいんですが、読みやすさを重視します。




