閑話1 召喚された勇者たち
本当の意味で異世界召喚された人たちの話。
後々加筆修正するかもしれません。
「おお! 勇者たちよ! おいでくださったか」
……は?? 学校からの帰宅途中に視界が急に暗転して、次に目を開けたら映画のセットみたいに豪華絢爛な部屋の中で目の前にいる小太りの装飾過多のおっさんがなんか捲し立てている。
やれ帝国の技術がどうのこうのと語るおっさんを無視して状況を確認する。俺の他に、プロのパリピって感じのピンク髪の同年代っぽい日本人と、中学生くらいの女の子。モデルみたいな金髪の白人のお姉さんに、ザ・アメリカ人て感じの青年とマラソンランナー的な体型の黒人のお兄さん。なんだこれ、どうなってるんだ?
「貴殿らにはこの国を救う勇者として戦っていただきたい」
……マジ? は? いや、夢か? 勇者召喚とかそんなはやりの異世界転移みたいなことが現実にあるなんてそんなことないだろ。
混乱している間にあれよあれよと話が進む。気づいたら鑑定をするとかそういう流れになっていた。まぁいいいや。こういう夢だと思って楽しもう。鑑定鏡とかいう鏡に触るとぼんやりと文字が浮かんできた。……なんで全部ひらがななの?? 読みにく!!
名前:九尾狐 九十九
年齢:18
種族:人間
職業:ーー
適性:魔導士 賢者 治癒術士
スキル:直感 魔力制御 高速思考 念話
耐性:毒耐性 狂乱耐性
特殊:異世界より召喚されし者
……これヤバイな。
「この鑑定鏡は我が帝国の技術を集結して作られた物で──」
なんやかんや言ってるけれど、ヤバイぞ、これ。
鑑定の意味がほとんど無い。HP・MPわかんないし、適性は魔導士とか出てるけれど使える魔法や魔導術もわからない。スキルもほぼ無い。唯一使えそうなのは直感があるけれど、これはヤバイだろ。今直感が働いているのだとして、わかるのはヤバイってことだけだよ。
こういうのって転移特典とかないのかよ。全員鑑定持ちとか直感持ちとかアイテムボックス持ちとか!! なんだ全員念話持ちって!! 使い方教えろ!
俺が直感、黒人のルーカスさんが天啓、ピンク頭の田中が鑑定。お前、くそ、田中! 鑑定って何?じゃねぇよ。なんで俺に訊くんだ。チャラ男に懐かれる気はないぞ! チートスキル羨ましい! 代われるもんなら代われ!! 金髪のナターシャさんが聞き耳持ちで、アメリカンなマイケルさんが真偽、中学生のアイちゃんが気配遮断。補助系のスキルばっかってバグだろもう。俺ら全員でチート勇者一人分にもならないぞ。
最近流行の一人だけ性能が低いとか、変なスキル持ってるとかがいなくてよかった。
それにしてもだいぶ詰んでる。味方のHP管理もどころか自分のHP管理もままならないぞ。というか俺の夢なら俺が鑑定持ちでよくない?? 夢の中なのに理不尽!!
「ほう、素晴らしい! 全員が戦闘経験がないにも関わらず耐性持ちとは! それに全員が魔導士と賢者の適性があるのもとても良い。我が国の勇者として申し分ない」
「念話と真偽というスキルがどういうものかはわからないが、鑑定スキル持ちがいるのも良いな」
念話の概念はないのか? だとしたら念話が転移者特権で真偽がレアスキルってことか。鑑定もレアスキルではあるみたいだけど持っている人がいないわけではないってとこかな。
小太りのおっさんが意気揚々と語ることを要約すると、この国は今魔物に襲われていて、それ以外にも魔物を擁護している国に狙われていたり、そもそも魔物の国が近くにあったりと問題盛り沢山らしい。要素もりもりかよ。
「何よりも危険なのは魔王リアム。圧倒的な力でもって各地を支配下に置いている」
魔王ねぇ……いるのか、やっぱり。いるよなぁ……俺の夢だもんなぁ。というか、夢ならもっとご都合主義でよくない? RPG風のいかにもな世界設定とかチート設定とか。イケメンになれるとか。なんで現実ままなんだよ。あとパーティメンバーにプロのパリピはおかしいだろ。なんだよ、職業遊び人か? 盗賊とか? 鑑定持ちの遊び人てなんだ……ん?
「すみません。もう一度鑑定結果を見ても?」
「ああ。構わんぞ。我が国の技術の結晶、存分に見るが良い」
許可を得て鑑定鏡に触る。何度見直しても『勇者』の文字は無い。……ああ。ヤバイパターンか。
「ありがとうございました」
礼を言って鏡から離れると、まだ浮かんでいた俺の鑑定結果を見ていた田中があれ?と声をあげて俺を見る。
「なぁ、これおかしくないか?」
田中ーー!! 止めろ! あとで説明してあげるから何も言うな!! いい子だから静かにしててくれ! たぶんだいぶヤバイ状況だから!! あとで飴あげるから!
「あー……気のせいか。すみません、なんでもないです」
必死に念じてたら田中が黙った。……ん? もしかして聞こえてるのか?
(田中、聞こえてたらこっちを見ずに右手でピアスを触ってから顎を触って手を下ろしてくれ)
心の中で田中に呼びかけると、田中が指示どおりの行動をする。マジか。これが念話か。
『割り込んですまない。ルーカスだ。私にも聞こえている。だいぶヤバイ状況とは?』
うお。全く意識の外から電話してるみたいな感じで声が聞こえてきた。これビビるな。田中ごめんよ。ルーカスさんってことは黒人のお兄さんか。
『もしこれが夢じゃないなら、たぶん。ただ説明するにもこの国の人たちには聞かれない方がいいと思います』
『そうか。では、どうにかしよう』
どうにか? そう思ってルーカスさんを見ると、手を挙げていた。
「申し訳ない。突然のことで混乱しているので、落ち着いて状況を整理したいのですが、私たちだけで話し合ってもよろしいでしょうか」
「勿論だとも。別棟に部屋を用意しているから好きに使うといい。明日からは騎士団が面倒を見よう。用があれば従者に声をかければよい」
「ありがとうございます」
おお。さらっと。
従者とやらについて別棟に向かい、離れのように一棟だけで立っている塔のような建物に案内される。別棟と言っていたけれどその中も豪華絢爛って感じだった。なんか切羽詰ってる感がないなぁ。本当にピンチならこんなに飾り立ててる場合ではないと思うんだけど。
部屋は真ん中にリビングのようなソファーとテーブルが設置してあるホールがあり、そこから個室に移動できるようだ。こういうホテルなかったけ?
「お食事と着替えをご用意しますので、少々お待ちくださいませ」
「ええ。お願いします」
持ってきてくれた食事をとって、各自部屋で風呂に入ってからホールに集合する。明日は起こしに来てくれるらしい。この世界の服はそこまで突飛ではなかったのでちょっとホッとした。
全員が戻ったところでルーカスさんがそれでは、と手を叩く。
「まず先ほど、く、クビコが言っていたヤバイ状況というのを説明してくれるか?」
「呼びにくかったらキューでいいですよ。ヤバイ状況っていうのはですね」
説明は得意ではないんだけれど、なんとか端的にまとめる。
まず勇者召喚と言っているにも関わらず俺たちの鑑定結果に勇者の文字が無かったこと、俺たちのスキルが戦闘系ではないこと、危機に瀕している割に資金的に余裕がありそうなことから、俺たちを呼んだ理由が虚偽である可能性がある。
「逆に、全部本当だとしたら俺たちたぶん勇者としてめちゃくちゃにスペックが低いです。この世界全体の戦闘力がわからないので実際に戦ってどうかとは言えませんけど」
そこまで言うとマイケルさんが手を挙げる。
「俺もちょっと情報があるかもしれないんだけど、その前に誰か嘘ついてくれないか?」
……はい?
「私の妹と弟が反抗期で困るのよね。妹は14歳で弟は18歳なんだけど」
ナターシャさんが唐突にそう言い放つ。マイケルさんが眉間にシワを寄せた。
「妹がいるというのは嘘か? 弟の年齢も」
「ええ。……真偽、と言うスキルかしら?」
「たぶんな。これは勝手に使えるもののようだ。確信が持てたからキューが言ってたことを補足するな。まず、これは勇者召喚なことは確かだ。魔物がいるというのも本当のようだけど、周りの国から攻撃攻撃されている事実はないと思う。そして魔王はいない」
うわー……やっぱりそうか。というか真偽はだいぶチートスキルだったな。聞いただけで嘘か本当かわかるのか。
「では、私たちを呼んだ理由は虚偽であると」
「だろうな」
ルーカスさんがため息を吐いたのにマイケルさんが頷く。
「あと、あのおっさんが全員って言ったときにもノイズが聞こえた。たぶん、ここにいるのは全員ではないんだ」
……マジか。
「他にも誰か召喚された人がいるってこと?」
「そうだと思う」
ナターシャさんが眉間を揉んだ。
「そのことを私たちに教えなかったというのは、どういうつもりなのかしらね」
「不安にさせたくなかったか、そもそも消耗品として扱うつもりだから一人二人足りなかったところで気にしないのか」
「怖い話やめない?」
真剣に話し合っていたら田中が不安そうに服の裾を引っ張ってきた。おっと、ごめん。アイちゃんもナターシャさんに寄って引っ付いていた。ルーカスさんがすまなかったと肩を竦める。
「そうだな。では後ろ向きな話はここまでにして、プラスなことを考えよう。キュー、前向きに考えられる情報はないか?」
えーっと、そうだな。
「マイケルさん、皇帝が俺たちを褒めているときは違和感はありませんでしたか?」
「ああ。無かったぞ」
「なら、たぶん俺たちはこの世界的には結構優秀なんだと思います。戦闘訓練はさせてくれるということですし、そこは有難くお世話になっていいかと。せっかく呼んだ勇者をそう簡単に手放すことはないでしょうから。ただ、万が一のために念話と真偽のスキルか活用できるのは黙っておきましょう。いざとなったら全員で逃げ出すのが賢明だと思います」
「ふむ。なら、とりあえずは全員戦闘訓練をしつつ、この世界の概要を学ぶことにしよう」
ルーカスさんの言葉に全員が頷く。あ、そうだ。
「もう一つ、気になることがあるんですけど、全員持ってた全スキルを教えてくれますか?」
全員の保有スキルを確認しておきたい。直感とかは覚えたけど、なんか引っ掛かった気がするんだよな。
全員が持っている念話の他は、ルーカスさんは天啓・高速思考・魔術制御、マイケルさんは真偽と身体制御、ナターシャさんは聞き耳と精神統一、アイちゃんは気配遮断と危機感知、田中が鑑定と魔力制御。
「こんなの訊いてどうすんの?」
「確認だよ。ついでにちょっと厄介なこともわかった」
「厄介とは?」
「おそらくですけど、俺たち全員戦闘では後衛か、さらに後ろの後方支援です」
補助系スキルが多いなと思ってたけど、ここまで補助系に偏っているとは。身体能力を強化する系のスキル持ちが誰もいない。たぶん俺、田中、ルーカスさんが後衛向きで、マイケルさん、ナターシャさんとアイちゃんは後方支援だろう。
「たぶん、足りない何人かが前線戦闘特化なんだったんだと思います。俺たちも戦えないことはないでしょうけど、火力は出しにくいかも」
「そうか……まあ、どのくらい戦えるかは、戦闘訓練で確認しよう。一番は戦闘特化の子が合流できればいいんだが」
「この世界に来てるかどうかもわからないから探しようもないわよね」
「来てないならいいけど、来ててどこかに放り出されていたら大変だな」
そうだよなぁ。安全なところに出て保護されてればいいけど。頼むから俺たちを逆恨みしないでくれよ……。なんとか情報を集められたらいいんだけど。
「いない人間のことを考えても仕方ないか。とにかく今は自分たちの安全を考えよう。今日はもう眠って、明日からの訓練に備えようか」
「そうだな」
そうですよね。いくらフラグとわかっていてもどうしようもないことってある。とりあえずは俺たちも強くなってこの世界のことを学ばないと動きようがない。今ここから逃げても野垂れ死そうだ。
各々部屋に戻って布団に入るが、これ、起きて全部夢だったらめっちゃ面白いよな。導入部分で覚める夢って。今度続き見れるんだろうか。
足りないのはもちろん途中で落っこちた主人公君。




