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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第25話 VSコボルト

 ジャックウッドの襲撃?以降は何も起こらずに平穏に過ごせた。トーカさんと近くにいたオリバーたちと一緒に昼食を食べているとトーカさんにも呼び捨てにしてほしいと頼まれてしまった。うむむ。ロボにミルクを飲ませながら先程のジャックウッドの話になる。

「ジャックウッドには驚きましたね」

「なー。ウーさんの火魔法すごかったよな。あれって《灼獄の檻》?」

 何その名前。技名なの?

「ユウさんの氷魔法もすごかったですよね。あの規模の氷の大壁を即時に構築するなんて」

「ありがとう」

「そのジャックウッドの種子って見せてもらえますか?」

「ウーさんが回収していたから、ギルドに帰ってから調査するだろうから、頼んだら見せてもらえるんじゃないか?」

 俺が氷漬けにしたジャックウッドの種子だが、種子が残っているのは珍しいらしくウーさんがニッコニコで回収していた。ダミアンには燃やすよりも凍らせるほうが難しいだろうと言われたけれど、氷のほうが調節しやすいんだから仕方ないじゃないですか。

 寄ってきたメリーシープを背もたれにしていたんだけど、気づいたら他の子供たちもどんどん近くで休憩を始めていた。安全を確保しながら食事となると警護員の近くが一番安全だもんね。他の場所でも警護員を囲んで昼休憩をしているようだ。

「ユウさんの鎧って変わってますよね。仮面から変形するなんて」

「あー、特別仕様でな。私はどうにも迂闊だから頼りきりだ」

 ウィルの反応を見る限りは世界樹の種子はあんまり言いふらさないほうがよさそうだ。たぶんノエルさんとかにはバレてるけど、見てわかる人相手に隠すのは無理だからそこは仕方ないよね。

「ロボはずっと私についてくれていますけど、大丈夫ですか?」

「ああ。ロボもトーカと一緒にいた方が遊べて楽しいだろう」

「わん!」

 元気に鳴いて返事をするロボを撫でる。

 オリバーたちが訓練に戻っていき、他の子供たちも水の補給を済ませてどんどん走り出していく。元気で大変よろしい。トーカもロボと一緒に木立に入っていった。



 日中は何事もなく過ごせたのだけど、問題は夜に起こった。

 昨日と同じように見張りを交代して眠ろうと思った瞬間、ゾッとして体を起こす。毛布に入り込もうとしていたロボが不思議そうに首を傾げる。

「ごめん、トーカのところで一緒に寝ていてくれる?」

「あぅ」

 小声で言えば、小さく返事をして毛布を咥えてトーカのところに行ってくれた。ごめんよ。

 フィオさんと目配せして天幕を出ると入り口を警戒していたウィルがすぐに気づく。

「気づいたか」

「ああ。なんだ?」

「今ノエルが確認しに行っている。悪いが他も起こしてくれるか」

「わかった」

 天幕の中に戻るとアルさんとダミアンはもう起きて装備を整えていた。二人がマーナさんとルーンさんにも声をかけてくれている。揃って天幕を出るとノエルさんが戻ってきていた。仮面に戻していた世界樹の種子を鎧に変える。

「まずいぞ。東の森に近い林にコボルトの集団だ。規模は少なく見積もって500。こちらに向かっている」

 コボルトって何。報告を聞いたウィルが眉間を揉む。

「500って……。ウー、マーナ、フィオ、ルーンはベースの警戒を頼む。残りはその林でコボルトの討伐だ。討伐班はできる限り魔法を使わず、苦戦しているように装ってくれ。ユウ、旦那に連絡頼む。こっちは対応可能だと」

「わかった」

 うえーん。俺しれっと討伐メンバーに入っちゃった。仕方ないよね、そういうお仕事ですもんね。メンバー的にも妥当だと思います。拠点防衛なんてやったことないし。

『ナイト、聞こえる?』

『はい』

『ウィルから伝言。こっちは対応可能だって伝えておいてって』

『承知いたしました。シオン様にお伝えしておきます。気をつけてくださいね』

『うん。頑張る』

 どうしたのか訊かれなかったからたぶんもう調査部隊の方でも察知してたんだろうな。

「連絡完了だ。シオンさんに伝わるから大丈夫だろう」

「よし、じゃあ行くぞ」

 ウィルが手を叩いたのを合図に、討伐班が飛び出す。……え、待って、デカいホワイトタイガーとトラが先頭を走ってるんだけど!?

「ノエルさん!?」

 先陣を切る二頭を指差せば大丈夫だと返される。

「アルとウィルは先祖帰りだ。完全な獣体になれる」

 マジかよ。二人だろうとは思ったけども! 服どうなってんの!? トラの時も動けるように作ってあるの? すごいな!!

 林に近づいて各自散開する。ウィルとアルさんも人間体に戻っていた。

 この林には昼間も近づいたことがなかったけれど、平原の木立と比べるとずいぶん獣臭い。ムッとする臭いだ。コボルトがどういうものかわからなかったけれど、林の中を少し歩くと真っ正面から出くわした。

 数匹の集団はイヌの獣人にも見えるけれど、どうにも歪んでいる。目は焦点が合っていないし、服も着ていない。だらしなく開いた口からよだれがぼたぼたと落ちる。

 あ、こいつだ。

 おそらく直感が働いた。横に跳ぶと寸前までいた場所にコボルトが斧を振り下ろしてくる。正面は揺動か。まいったな、グロテスクより弱いのだろうけど知恵がまわるなら経験が無い分不利になる。脅威とは思わないけれど、うっかり林から出してベースに向かわれるのは避けないと。

 飛びかかってきた個体を蹴り飛ばして後ろに控えていた二匹にぶつける。鎧を信じて横から振り下ろされた斧を腕で受け止めるとジンと響く。痛いという程ではないけど何度もこうやって受けるのは避けたほうがよさそうだ。斧を持った個体の腹を蹴って、一匹。

 グロテスクの時もそうだったけど想像より戦闘に対する嫌悪感がないのは父さんの血なのか、気づいてなかっただけで実は俺が戦闘狂だったのか。まぁやらなきゃやられるから仕方ないよね。

 仲間が倒されギャオギャオと叫ぶコボルトが向かってくるので、剣を抜いて対峙する。

 一匹に集中してしまうと他が奇襲に来るから、奇襲を潰しつつダメージを与えていく。コボルトは中学生くらいの身長をしているけれど魔物なだけあって頑丈だし、腕力と跳躍力が段違いだ。蹴り飛ばして岩にぶつかってもすぐに向かってくるし、生木をへし折り数メートルは余裕で跳ぶ。一匹ずつはそこまで強くないけれど個体数が多いのが問題か。ある程度減ったと思ったらすぐに次の一団が加わってくる。

 しばらく連戦してようやく一息つけたところでアルさんと合流した。

「どのくらいやった?」

「30くらいだ」

「私もそのくらいだ。コボルトは連携をとってくるのが厄介だな」

 ですよね。戦闘に慣れているはずのアルさんでも戦いづらいのか。

「普段はコボルト相手なら魔法で一息なんだけどな。今回はそうはいかないからこんなチマチマと戦わなきゃならない」

 そうなのか。というかなんで魔法を使っちゃ駄目なんだろう。

「何故魔法を使ってはいけないんだ?」

「おそらく罠だからな。森に調査部隊が入ったと知って相手が動き出したんだろう。平原で新人の訓練をしているのを利用してコボルトを仕掛けて、調査部隊からこっちに援軍を出させ人数を減らしてから調査部隊を叩くつもりだと思う。だからそれに乗るんだよ。こっちが苦戦しているふうを装って、調査部隊も別働隊を出すフリをする」

「なるほど。実際は別働隊はここには向かわず回り込むと」

「そういうこと。だから私たちが圧勝してしまうとうまくいかなくなるので魔法は禁止だ」

 うわー。みんなそんなことすぐに理解したの? 経験が違うってこういうところにも表れるんだな。

「それにしても杜撰だなぁ」

「杜撰?」

「昼のジャックウッドとの戦闘を見ていたら私たちにコボルトなんて意味がないと気づきそうなものだけど、そうしなかったということは私たちの存在を認識して利用できるとは考えたけれど、実力を確認するために監視をしていなかったということだ。そもそも調査部隊にシオンと首無し騎士がいる時点で帝国の1個師団でも手に余る。現地で対応なんて馬鹿げてるんだけどな」

 ははぁ。よくわかんないけど確かに計画性は考えられないな。ジャックウッドのほうが倒し方が限られている点でも頑丈さでもコボルトより上だもんな。帝国の1個師団が何人とか考えないぞ。

「さて。考えていても仕方がないし、とにかくコボルトを掃討しよう」

「承知した」

 頑張ります。

 せっかくの自由時間だし、内殻をオリハルコンに変更して魔力強化。制御可能な魔力量を確認しておこう。いつまでも機嫌よく物を壊してばかりではいられない。走り回って、会敵次第各個撃破。地道だけど虱潰しに一匹ずつ倒していくしかない。

 頑張ったけど結局夜明け前までかかった。個体数が減ってくると全部の個体が奇襲とヒットアンドアウェイの戦い方をしてきたのでより時間がかかった。しかもどうしても接近戦を強いられるので全身コボルトの血塗れだ。グロテスクに続いて二度目の血塗れ悲しい。でも今日だけで戦闘の動きがだいぶ掴めた気がする。気がするだけかもしれないけど。とりあえず制御できる魔力はわかった。ほぼほぼ使えないということが。本気で微量。父さんの遺伝っどうなってんの? 集中すればなんとなく体の中の魔力の流れがわかるようになっただけでも僥倖か。

 林の外に出てみるとダミアンも出てきた。同じように血塗れだったので見た目はグロいけれど血塗れ仲間がいてちょっとほっとした。

「魔導剣士に魔法を使うなはキツいよな……」

 ぐったりとしているが、疲れというより慣れない戦い方をして気力を消費した感じか。

「見た目もちょっと問題だよね……」

「だよなぁ。こんな血を浴びるなんて新人の時以来だ」

「このまま子供たちのところには戻れないし、どうしよう」

「たぶんウィルが……ユウ、疲れてるだろ」

 え? 血塗れは悲しいけど思ってるより元気だよ?

「そこまでではないと思うけど」

「いや。思ってるより疲れてるぜ。口調が違う」

 あ!? 思わず口元を押さえるとダミアンが笑う。

「なんで変えてんの?」

「父が、私の素の話し方は優しすぎるから変えなさいと」

「わからんでもない。口調だけで突っかかってくるやつもいるからな。疲れた時は気をつけとけよ」

「わかった。忠告感謝する」

 脳内検閲が甘くなってたか。気をつけよう。気力を消費してたのは俺のほうだったかー。

 しばらく待っていたけれど他の三人が出てこない。

「まだ残っていたのだろうか?」

「かも知れないが、獣人は人間より鼻も耳もいいから討ち漏らしがないか確認しているんだろう。下手に中に入ると邪魔になるからここで待っておこう」

 了解です。完全な獣体になったりできるし、やっぱり人間より動物寄りの身体能力なのかな。一応林からコボルトの残党が出てこないか警戒しているとナイトから念話が入る。

『ユウ、終わりましたか?』

『もうちょっとかな。今最終確認してる』

『承知しました。すみませんが、ウィル様がお戻りになられたら教えていただけますか?』

『わかった』

 森の方も大体終わったのかな。さらに数分待つとウィルとアルさんが出てきた。ノエルさんを待っている間にナイトにウィルが戻ってきたことを報告する。すぐに現れたナイトとウィルが小声で話し合っているうちにノエルさんも出てきた。

「最終確認完了。コボルト討伐終了だ」

「お疲れ様」

「お前たちもな。酷い有様だぞ」

 そうなんですよね。なんでかウィルもアルさんもノエルさんもそこまで血に濡れてない。どういうことなの。技術力なの?

「俺たちじゃコボルト百匹相手に単騎で怪我なしで戦い切るので精一杯ですが?」

「ですが??」

「はいはい。すまんかったって。やめろ、血をなすり付けてくるな」

「じゃれてないで。ウィルの話が終わったみたいだぞ」

 ダミアンと一緒になってノエルさんの毛に血を擦り付けているとアルさんに笑いながら窘められた。ナイトがこちらに一礼して影に消える。

「さて。血を流して帰ろう。まだ子供たちに気づかれる前に帰れるだろう」

 はいよ。

 血を流すって鎧のまま雑に上から水を降らせて温風で乾かされるのなかなか納得がいかない。


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