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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第24話 ジャックウッド

「私が見ておくから、二人とも体を拭いてきたらどうだ。そろそろそんな時間だろう」

「そうだな。頼む。ユウ、中に入るぞ」

 はーい。ロボは……座ったノエルさんの膝に収まっていた。オオカミ系の人が好きなんだろうな……。ロボを任せて天幕の中に入ると真ん中あたりで奥と手前が布で仕切られている。どうやら奥に女性陣がいるようだ。

 大きな桶にお湯が用意されていたのでそれを借りる。他の人と同じように上半身だけ脱いでお湯を絞ったタオルで体を拭きながらぼんやり観察していると獣人って体ももふもふに覆われているのか。ネコ系の子はパーティメンバーに宥められながら拭かれていた。獣人でもネコ系の人は水嫌いなのか。ウィルは平気そうだけど……そもそもトラは水浴びするもんな。

 しかし、服を脱ぐと途端に寒いな。天幕の中は息が白くなる程ではないけど、今からさらに冷えるだろうし、暖房とかないんだろうか。

「フィオ、開けて大丈夫ですか?」

「ああ。いいぞ」

 ウーさんが向こうに確認してから布を回収する。フィオさんやっぱり女性だったか。それぞれパーティごとに集まったところでウィルが手を上げる。

「じゃあ、明日に備えて早めに寝るように。今日の反省会をするなら大きな声を出さないように気をつけてな。明日は陽が昇ったらその時から訓練開始だ。体力配分に気をつけなさい」

「はい!」

 返事を聞いて一旦警護班は外に出る。ウーさんが時計で時間を確認した。

「この時間なら、夜明けまで9時間ほどですね。どう分けますか?」

「全員戦闘員だからな、三人3時間交代でいいだろう。もし何かあれば叩き起こすから覚悟しておいてくれ」

 わぁい。何もなければいいなぁ。

「私とユウとダミアン、ウーとマーナとルーンはそれぞれの時間に一人ずつになるように分かれよう」

「じゃあ私とアルとフィオも分かれることになるな」

「ああ」

 パワーバランスなんてわからないので相談しているのをぼんやり聞いていると、ロボが眠そうに欠伸をしていた。ごめんね暇だね。

「寝ていていいぞ」

「わう」

 頭を撫でれば返事をしてロボが影に入り込む。おやすみ。

 結局俺は見張りに慣れていないということで一番最初の番にしてもらってしまった。一番しんどいらしい真ん中は体力のあるウィルとノエルさんとウーさんで担当するようだ。本当にごめんなさい。フィオさん、マーナさんと天幕を中心に三角に広がる。

 少し不安だったけれど、ボムのおかげでほのかに明るいのでそこまで視界の悪さに緊張することはなかった。何事もなく時間が来てウィルと交代する。見張り番中は鎧にしていた世界樹の種子を仮面に戻し、子供たちを起こさないように小声で呼べば眠そうにしながらもロボが影から出てくる。毛布をめくると嬉しそうに入り込んできた。よかった。俺も寝よう。

 翌朝起きるとだいぶ冷え込んでいたのかテントの中でも息が白くなるほどだった。地球だと9月だったんだけど、この世界はもっと寒い時期なのか? それともここの土地が寒いのかな?

 子供はまだ寝ている子もいるのでロボと一緒に外に出て朝食を食べる。ベーコンとチーズが練り込まれたバゲットで作られたタマゴサンドはそれだけで満足感がある。デザートのリンゴはロボと半分ずつ食べる。しかし、朝食を終えても一向に気温が上がっていないようでまだ息が白く濁る。陽が昇っていないとはいえ昨朝はこんなではなかったのに。平原だから冷えるのか?

 何故か寒くはないのだけれど気分的に温かいものが飲みたくなりコーンスープを飲む。ダミアンとアルさん、ルーンさんにもお裾分けしたらとても喜ばれたので、起きた子供たちも飲めるように水差しを設置しておく。寝起きに体を温めるにはやっぱり温かい飲み物だよね。

 起きたウィルも負けた気がするとかなんとか言っていたけれど飲んでいた。まあね。水差しから出てくるコーンスープだもんね。

 陽が昇りはじめ、子供たちも全員起きたようだ。注意事項は昨日ウィルが言っていたとおりなので、今日は朝礼のようなものはなく各自解散していく。警護班も昨日と同じ範囲を警戒することになったので各自散る。ロボは自主的にトーカさんのところに向かっていた。誇らしげに尻尾が揺れているので護衛気分なのかもしれない。ロボの昼食のこともあるのでトーカさんには俺が警戒する範囲で採取をお願いした。

 午前中は魔物の活動が緩やかなのか特に追われている子はいないようだ。ただ、子供の成長ってすごい。昨日ウサギっぽい魔物に苦労していると思っていたパーティが今日は余裕を持って対処しているように見える。たぶん同じパーティだと思うんだけどな。

 平原を見回しているとオリバーたちのパーティがサル……たぶんあれがリッパーモンキーなんだろうが、とにかくサルを相手に立ち回っていた。三人パーティなのにサル四匹を相手に戦えているようだ。寄ってきたサルをネルが遠くへ投げ、それをオリバーとチルセが各個撃破していく感じか。少人数の変則パーティだけど連携が取れているらしい。

 それにしても、やっぱり昨日より目が離せないパーティが減っている。昨日ヘビに追い回されていたパーティはうまく距離を取っているし、七面鳥サイズのニワトリに苦労していたソロの子はひと回り小さいニワトリに狙いを定めて戦闘している。

「いつも参加するわけではないけど、こういう警護に就くたびに子供の成長には驚かされる」

「フィオさん」

「昨日の今日で確実に成長しているだろ。俺らくらいになると中途半端にプライドがあるから、昨日倒せなかった魔物の一段下の魔物で練習しよう、なんてならないからな」

 あー。大人になると余計なプライドが邪魔しますよね。

「素直なことはいいことだな」

「まったくだ。その素直さを守るためにもちゃんと手助けしてやらんとな」

「ああ」

 ひねくれた大人にならないようにしなければ。



 フィオさんと別れてしばらくは何もなかったんだけど、急に違和感を覚えた。視線を巡らせるとあるパーティが木立に近づいている。そこは駄目だと本能的に思った。

「そこ! 赤毛の子のパーティ! その場から動くな!」

 咄嗟に走りながら大声を上げるとそのパーティの赤毛の子が振り返ってくれた。立ち止まって自分を指差す。

「そう、君だ! そこを動かないでくれ!」

 数秒で子供の横まで追いついた。騒つく気配はどうやら木立から漂っているみたいだ。

「怒鳴ってすまない。ここを離れてくれるか? できれば他の子たちにも声をかけてこの木立から離れるように言っておいてくれ」

「はい」

 急なことで驚いているようだけど、素直に従って戻ってくれる。さて、なんだろうな? 昨日はこの木立特に何も感じなかったんだけど、今日は駄目だぞ。木立の周りを回っていると俺の声が聞こえていたのかノエルさんが走ってきた。

「どうした?」

「この木立がどうもおかしい。違和感があるというか、昨日はこんなふうに感じなかったんだが」

「違和感か……中に入って調べてみるか?」

「いや。入らない方がよさそう……」

『メキッ』

 メキ?

 木立の中から音がしたと思ったら、足首を何者かに掴まれて引っ張られた。地響きを立て、木立を飲み込む勢いで蔦が地面から生えてくる。足は掴まれたのではなく蔦に巻き込まれたようだ。俺を巻き込んだままあっという間に地上数十メートルまで急成長した蔦はそれでも成長を止めない。

 なんなのこの蔦!!

「ユウ! 抜け出せ! 生気を吸われるぞ!」

 蔦に巻き込まれなかったらしいノエルさんが叫ぶ内容に絶句する。ボムより理不尽だぞこの蔦!!

 内殻変更、オリハルコン。ラインが光ったのを確認して鎧の足に魔力を込める。思いっきり蹴れば足首に絡まっていた蔦がちぎれた。そのまま勢いで蔦の本体を蹴って離脱する。

 跳んだ先がウッドランクの子たちが避難してる真上じゃなかったら格好がついたんだけどなぁ。嘆いても仕方ないので対処しなければ。体勢を整えて氷の階段を作った要領で空中に足場を作る。そこに着地し……んぁああー!! 滑るねぇ!!! 勢いよく氷に着地したらそりゃ滑るよね!!

 なんとか足場の生成が間に合ってるけど、どうやって止まるんだこれ!? ナイフ刺すか? 刃こぼれ怖いけど言ってられないよな! 腰からナイフを抜いて氷に突き立てる。そのまま少し滑ったがなんとか止まれた。刃こぼれは? 無いな。ミスリルのナイフ硬い。

 氷の端まで戻って退避してきたノエルさんに声をかける。蔦は木立よりも幅が広くなっているがまだ成長が止まっていないようだ。

「あれはなんだ?」

「ジャックウッドだ。この時期にここまで大きくなるのは珍しいんだが」

「対処法は?」

「中心にある核を高火力で燃やし尽くす」

 ストロングスタイル!!

「しかし結局は全体を均等な火力で燃やす必要があるうえに、生半な火力では再生する」

「面倒だな……」

 植物強いなぁ。燃やしても再生するって……。しかも均等な火力って。微妙に難易度高くないか?

「そして、来たぞ」

 ジャックウッドが何かを発射した。植物とは。

「二の太刀《翔火》」

 いつの間にか抜刀していたノエルさんが炎に包まれた剣を振り抜くと、火球が飛んで発射された何かに着弾し燃える。なん、そっ……カッコイイ!! 俺もそういうのしたい!! 制御不能の火柱とかじゃなくて!!

「種子だ。あれは地面に着くと発芽して数日で母体と同様に成長する。うっかり放置すると平原が蔦の海になって侵攻してくるぞ」

 怖!! っていうかもう結構な勢いで侵攻されてますよね?

「ウー! 準備は!?」

「もう少しです!」

 ノエルさんが振り向いて確認するとウーさんの声が返ってくる。ウーさんの方を見るとウーさんの背後に巨大な魔法陣が構築されていた。えー!? 何あれカッコイイ!!

「ウッドランクの火力じゃ種子を焼ききれん。ユウ、地面に着く前に対処しろ。潜られるぞ」

「承知した」

 厄介だな種子! いつの間にかウィルとダミアンさんもこっちに来て種子に対処していた。とりあえず俺も一緒になって飛んできた種子を燃や……そうと思ったんだけど確実に失敗する予感がしたので凍らせる。氷の膜で包んでしまえば地面に落ちても動かないので大丈夫だろう。

「準備できました。みなさん離れてください!!」

 ウーさんの声に全員距離を取る。ジャックウッドを中心に倍くらいの大きさの魔法陣が広がる。すご。感心していたらウィルが魔法陣を指差した。

「ユウ、魔法陣の周囲を氷で覆えるか? 延焼を防ぎたい」

「わかった」

 延焼するのか。あれだけ大きな魔法陣が燃えれば延焼するか。全長100メートルを越えているジャックウッドの周辺を半分くらいの高さの氷で囲む。それを合図にしたかのように火が上がった。

 白に近い黄色の火が轟々とジャックウッドの全長を覆う。

 ……これは……俺には無理だわ。ここまでの熱と威力をこんなふうに保つことは不可能だろう。分厚めに作った氷壁があるにもかかわらず熱が伝わってくる。これは再構築し続けないと氷が溶けるな。

 ウィルがこっちに回ってきた。

「魔力は大丈夫か?」

「ああ。しかし、こんなものが出てくるなんてな」

「本来は春先に増えるからそれに合わせて高ランクの冒険者を集めて野焼きをするんだが、たまーに季節外れに出てくるんだ」

 ……俺の幸運値の低さのせいかな?? というか野焼きって。行事か。

 そんな話をしていると炎が段々小さくなる。端からジャックウッドが焼けて灰になっているようだ。こういうことにも冷静に対処できるようにならないといけないんだろうな。

 ジャックウッドが焼けきってしまってから子供たちに怪我がなかったか確認して、訓練に戻る。ジャックウッドが燃えた跡は地面が熱で溶けていたけれど、それ以外は特に問題ないようだ。氷で覆っていたとはいえ被害が少ないと思っていたら、どうやら魔法陣は上にも出ていて陣同士を繋ぐように燃えていたらしい。便利。ちなみにジャックウッドは災害級下位の魔物だそうだ。この世界の植物強い。


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