第23話 警護
しばらくは異変らしい異変は起こらなかった。たまに複数匹の魔物に追われているパーティの間に入って散らしたり、水を求めてくる子たちに補給したくらいだ。しかし、この平原本当に魔物多いな。メリーシープだけじゃなくてウサギっぽい魔物や七面鳥くらいの大きさがあるニワトリっぽい魔物。それらより少し強いらしいヘビやサル、得体の知れない球体の魔物もいる。何アレ。
どれも脅威を感じることはないんだけど、子供たちにとっては十分に危険な魔物のようだ。しかもヘビやサルの魔物は集団で行動するのでそれには近づかないように声かける。指先くらいの球体の魔物は……本当になんだアレ。物理技は効かないようだけど、ナイフで斬ってみると突然爆発した。
なんなんコレ!!!
「大丈夫ですか!?」
「ああ。ありがとう」
不用意なことして吹っ飛んだ俺を心配してくれるこの子たちいい子だなぁ……。というかこれ本当なんなんですか。
つついてた時はなんともなかったじゃないか。嫌がらせか。鎧にしてて良かったわ。指先サイズのくせに人ひとり吹っ飛ばせるってどういうことですか。痛くはないんだけどアダマンタイトとドラゴンスキンだと体を吹き飛ばす系の衝撃には対応できないんだよなぁ……。
大丈夫だと言って子供たちから離れる。球体は付いてきた。お前まじでなんなの!?
爆発しては危ないと離れたんだけど、離れた先でノエルさんが口元を押さえていた。笑わないでくださいよ!!
「……見ていたな?」
「警護員なんだから爆発音がすれば見るだろう。ボムを爆発させるなんて、何をしたんだ?」
ごもっともです! というか爆弾!? そのまんま過ぎませんか!?
「ミスリルのナイフで斬った」
「わはは!!」
ちくしょう!!
「はは、すまんな。ウィルから実力に反して基礎知識が抜けているとは聞いていたが、そこまでとは」
「どんな魔物なんだ?」
知識がないのは仕方がないでしょう。笑いが収まってきたノエルさんに訊くとすぐに教えてくれる。
「ボムは光属性を持つ魔素が固まった物だ。こういう平原や高原なんかの日当たりの良い場所に発生する。外側が魔力で覆われていて、中に光属性の爆発魔法が詰まっている」
なんで詰めた。
「で、外側の魔力を破るとお前が体験したようになる」
色々ツッコミたいけど、簡単に考えるとウィルが作ってくれた水の玉の爆発物バージョンってことだな。
「結構な勢いで爆発したが、子供たちは平気なのか?」
「それこそミスリルのナイフでも持ってない限りは膜を破れんからな。膜を破らん限りは光源として利用されるくらい安定しているぞ」
オッケー、つまり手を出した俺が悪かったってことですね。
「光源?」
「ああ。今は明るいからわかりづらいが、夜になると幻想的だぞ」
へー。ぽいんぽいんと頭にぶつかってくる物を掴んで観察してみると、確かにうっすら光っている気がする。普通に掴んでいる分には害はないようだ。……あ、そうだ。
内殻をミスリルに変更。チカッと手の甲のラインが光ったことを確認し球体を握り込む。
ボン!と音を立てて爆発したが、衝撃は感じなかったし吹き飛びもしなかった。風が吹き抜けていった感じかな。
「内殻をミスリルに変えたのか」
「ああ。世界樹の種子の扱いもまだまだ把握できていないからな。色々試したくて」
光魔法も無効化できるみたいだな。質量を持ってない限りは効かないのかな。
「すみませーん!」
そんな話をしていたらウッドランクの子が駆け寄ってきた。五人パーティのようだ。男の子が一人腕を押さえている。
「どうした?」
「怪我の手当てをしたいのでお水を貰えますか? あと水分補給もしたいです」
「わかった。ベースに戻る必要はないか?」
「はい。治癒術士がいるので。ただ傷口を洗い流すのに手持ちのお水じゃ足りなくて……」
なるほど。水差しを出して男の子の腕を洗う。うわー、結構ザックリ切ってるな。痛そう。滲みるのか涙目だ。ごめんね、いじめてるわけじゃないんだよ。冷水だったので傷口がきれいになる頃には血も止まりかけていた。
「はい、きれいになったぞ」
「ありがとうございます! じゃあミオ、お願い」
「うん。“ささやかなるもの、いとしきもの、かのきずをいやしたまえ”《キュア》」
ミオと呼ばれた子が唱えると柔らかい白い光が傷口の上で魔法陣を描く。そうするとみるみる傷口が塞がっていった。治癒術すげぇ。
「何の相手をしていたんだ?」
「リッパーモンキーです。一匹でいたので、全員でかかれば大丈夫だと思ったんですけど、もう一匹隠れていて。倒せはしたんですけど、ジャックが怪我をしちゃって」
「ジャックの職種は?」
「剣士です」
俺が怪我の痕を確認している間にノエルさんがリーダーらしい女の子に話を聞いている。なるほど、この子は剣士か。そういえば佩剣してるな。
「君がリーダーか?」
「はい。レノンです」
「じゃあ、レノン、反省しなさい。君の判断ミスで仲間が怪我をした。本当の依頼中なら致命的なミスだ」
「はい。索敵が疎かになっていました」
「そうだな。怪我をしたにしてもリッパーモンキー二匹相手に立ち回れるなら、気をつけていれば隠れている方にも気づけたはずだ」
「はい」
「だが、挑戦したことは大いに褒めよう。依頼中ならミスだが、今は演習中。挑戦することに価値がある。実際イレギュラーな戦闘になっても対応できたということはそれだけの実力が付いているということだ。そこは自信を持っていい。君はパーティメンバーの実力を正しく把握しているな」
ハラハラ見守っていたら、それまで厳しい声だったノエルさんの雰囲気が柔らかくなる。おお、ナイスフォロー。最終的に褒めて伸ばすスタイル。それまでションボリしていたレノンさんもほっとした顔をする。そうだよね。安全が保証されているからこそできる無茶ってあるよね。
そしてノエルさんがジャックさんを振り返る。
「ジャックはよく前衛の役割をこなした。イレギュラーな事態に際して後衛を守り切ったことは誇りに思っていい。よく頑張ったな」
ぽんぽんと頭を撫でられジャックさんが嬉しそうに笑う。
「さて、夕暮れまでもう少し時間があるな。水を補給してもう少し頑張りなさい」
「はい!!」
全員の水筒に水を補給して、元気に走っていく後ろ姿を見送る。怪我をしたっていうのに元気だなぁ。あのくらいは覚悟してるのかな。
「すごいな」
「ん?」
「私はあんなふうに指導したり褒めたりできないだろうから。すごいなと」
「そりゃあボムを爆発させてるようじゃな。不注意を叱る前に不注意を改めないとな」
えーん。
「冗談だ。私だって新人の頃はこんなこと言うようになるなんて思ってなかったからな。ユウももう少し経験を積んだらこうなるさ。ありがとうな」
なるのかなぁ……なんかずっと指導される側の立ち位置にいる気がするんだけどな。とりあえず迂闊に斬ったりするのは控えます。
「私たちも仕事に戻ろう。そうだ、暇があればボムを集めておいてくれ。夜間の明かりにするから」
「わかった」
日暮れが近づき、ウッドランクの子たちが続々とベースに集まっていく。ロボもトーカさんと一緒に戻ってきた。満足そうにしているのでおそらくトーカさんの護衛をしつつ魔物を追いかけて遊んでいたんだろう。楽しめたようでよかった。
「ユウ、あと二組ほど戻ってきてないから探してきてくれるか? ノエルも頼む。見つけたら火魔法を打ち上げてくれ」
「わかった。ロボ、おいで。みんなを探そう」
「わん!」
ノエルさんと二手に分かれて走り出す。ロボが元気についてきた。メリーシープがメェメェと鳴いて主張する木立の中に飛び込む。たぶんここにいるんだろう。
「おーい、聞こえるかー?」
「こっちですー!」
お。やっぱりいた。天啓だったのかな?
ロボの先導に従って声の方に近づくと、低木が茂った場所に子供が三人蹲っていた。
「大丈夫か?」
ロボに驚いていたようだけど、声をかけると揃ってほっとした顔をする。魔物がいる場所で夜に子供だけって心細いよね。臙脂色の髪の男の子がオオカミの獣人の子の足を指差す。
「ネルが足を痛めちゃって。助けを呼びに行こうにももう日が暮れるから動けなかったんです。ご迷惑をおかけしました」
「構わない。無理に動くよりずっといい判断だ。怪我の具合は?」
「捻っただけですけど歩けなくて」
「わかった。私が背負おう。っと、少し待ってくれるか」
火魔法を打ち上げろって言ってたな。剣を抜いて、細い火柱を打ち上げる。これでいいのかな? 細かい指定はされていなかったしこれでいいか。
ボムを集めてランタンのようにした瓶をプラチナブロンドの女の子に持ってもらってロボと一緒に先導してもらう。臙脂色の髪の子には獣人の子の荷物を持ってもらった。俺が持っててもよかったんだけど、固辞された。というかこの子たち昨日俺が木箱に突っ込んだとき助けてくれた子たちじゃないか?
「君たちには昨日会ったか?」
「はい。怪我が無かったようで何よりです」
やっぱりー。お恥ずかしいところをお見せしていました。背負っていた子が手を振って主張する。
「俺戦士で、ネルっていいます」
「俺はリーダーでオリバーです。弓使いです」
「私はチルセ、魔導士です」
ほん。
「私はユウ。魔導剣士だ。よろしく、ネルさん、オリバーさん、チルセさん」
「さ……!? すみません、呼び捨てで大丈夫です!」
「そうか? なら私のことも呼び捨てで」
「それは無理です!!」
うお。な、なんかごめん。三人に異口同音で拒否された。ちょっと悲しい。
「俺たちがもっと冒険者として立派になったら、対等に話させていただきます」
「……そうか、楽しみにしている」
「ってか、基本年下は呼び捨てで大丈夫ですよ」
「んー。それは私が気になるからな」
そんなことを話していたらベースに着いた。ネルの手当てをマーナさんに頼んでウィルに近づく。
「もう一度行ってこようか」
ノエルさんがまだ帰ってないんだよな。ウィルが顎をさする。
「んー……どうすっか。当たりを引いたか……お、違ったみたいだな」
話しているとちょうど火柱が上がった。大丈夫だったようだ。
完全に陽が落ちた平原はホタルのように輝くボムのおかげでノエルさんが言っていたとおりに幻想的だった。天幕の入り口でロボとウィルと一緒にご飯を食べながらノエルさんたちの帰りを待っていると、真っ黒に汚れた子供二人を担いだノエルさんが帰って来た。後ろに三人ほど従えているようだ。
「どうしたんだ?」
「暗くなってきて焦って沼に突っ込んだらしい」
……どうして……。
「ウィル、水を降らせてくれ。もう全身このまま洗ってしまおう」
「了解」
男の子ばかりだったので天幕の入り口を閉めて、防具と服を脱がせて丸洗いする。ノエルさんも一緒になって洗われている。まあ担いでいたから泥まみれだったしな。水洗いしたら直後に温風で乾かしていた。魔法便利!!
ギルド職員組が用意していたらしい毛布を被せて暖をとらせる。ノエルさんは自分で用意していた着替えをさっさと着込んでいた。
「いいかー? 暗くなっても焦らず周りを確認しろ。よりによって沼に突っ込むなんて自殺行為だぞ。そればっかりは私たちではどうにもならん」
「はぁい……」
ションボリしながらウィルの説教を聞く子供たちの吐く息が白い。そこまで気温が下がっているのか。
「まあ、あまり言わなくても理解しただろう。無事だったならそれでいいさ。もう入っていいぞ」
「はい」
しょげしょげしたまま入っていく子たちの頭をウィルが乱暴に撫でていく。今日で学んだからもう次同じ失敗はしないだろう。しかし、暗くなって焦って沼に突っ込んでいくとか、子供の無謀さって怖い。




