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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第22話 東の平原

 丘を登ると、平原としか言いようのない広々とした草原が現れる。視界から溢れるほどの平原にはたくさんの魔物の姿が見えるが、遠すぎてどんな魔物なのか判別がつかない。所々木が茂っているところもあるけれど、森や林と思える程ではなさそうだ。迷っても少し直進すれば出られるだろう。

「よし、じゃあ昼食をとってから詳しく注意事項を説明するぞ。警護員は集まってくれ。ベースの設営と役割確認をしよう」

「はい!」

 ウッドランクの子たちが腰を下ろしたので、とりあえず預かっていた袋を女の子に返す。すごく感謝された。素直で大変よろしい。

 ウィルに近づくと、巨大な布を広げていた。何それ、テント?

「それは?」

「この時期夜になると急に冷え込むからな。夜営用の天幕だ。魔力を通して展開する」

 へー。棒とかないけどどうやって立てるんだろうか? とか思っていたらウィルが天幕に触って天幕を建てる。バンッと支えなく立ち上がった天幕は25メートル四方ぐらいある。マジか。魔法ってほんと反則。

「天幕だけか?」

「あんまり甘やかしてもな」

 なるほど。まあ見る限り荷物に毛布なんかも持っているみたいだし大丈夫だろう。《勇敢なる星》が集まるとウィルが説明を始める。ギルドの職員は打ち合わせは先に済んでいるのか周辺の警戒をしているようだ。

「今回は先に説明していたように、厳戒態勢を取る。日中もベースにはウーとマーナが常駐するが、ルーン。君は目が良いだろう。ベース周辺から全体の警戒を頼みたい」

「わかりました」

「ノエルとアル、フィオには機動力を活かしてもらって常に動き続けながら異変がないか気にかけていてほしい」

「承知した」

「はいよ」

「ダミアン、ユウ、そして私は今回の部隊の主力だ。基本は範囲を決めて警戒するが、何かあれば即時対応できるよう最大火力の魔法を用意しておいてくれ」

「わかった」

「了解」

 勢いで返事しちゃったけど、魔法を用意するって何? ダミアンも普通に返事してるから、それはもしかしてできて当たり前の作業なの?

「では昼食を手早く済ませて、10分後に全体説明に移る」

 はーい。お腹減った。

 ウッドランクの子に交じってナイトが用意してくれていたサンドイッチを食べる。世界樹の種子は鎧のまま顔のところだけ仮面にしたりもできるらしい。ポテサラサンドとカツサンド、ハムタマゴサンド。付け合わせのフライドポテトにミニトマトを添えて。これを軽食ですがって言うのは成長期に対する挑戦状だと思う。美味しいですがそろそろ横に増える危険があります。5分で食べ終えておいてなんだけれども。ちなみに鎧の時鞄がどこにあるのか気にしていなかったんだけれど、腰に移動したナイフのシースの横にタバコケースくらいの大きさのポーチがあり、まさかとは思ったがそれが鞄だった。万能の鎧は形状にすら介入するのか。

 そろそろロボが準備できたかな、と思ったところで違和感に気づく。

 平原の端、反対側の丘にかかる森に何かいる。危険はないけれど、こちらを見ている気がする。なんだろう?

『ナイト、今いい?』

『はい。向かいますね』

 影が広がり、ナイトとロボが姿を現す。

「どうしました?」

「あの森に何かいないか?」

 たくさんの子供たちにテンションが上がったロボが突撃して行かないように抑えながら森を指差すと、ナイトがおや、と顎を撫でる仕草をした。

「ドラゴンの幼体ですね。珍しい、真性ドラゴン種とは」

 ……ドラゴンの幼体??

「大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。私が対処可能ですし、ちょっかいをかけなければ手を出してくることはないでしょう」

 大丈夫なのか。ワイバーンだけでなくドラゴンにまで対処可能なのか。

「わかった」

「では、私もそろそろ出発しますので戻ります。ロボ、ユウの言うことを聞いて、いい子にするんですよ」

「わう!!」

 いいお返事だけどほんとかぁ? めっちゃ突撃姿勢をとってるぞぉ? 完全に遊んでもらう気満々でしょう。ナイトが影に戻り、突撃を阻止するためにロボを抱き上げてウィルに近づく。

「旦那が来てたな。どうした?」

 突撃を諦めてウゴウゴしているロボを撫でながら首を傾げるウィルになんと言ったものか。しかし報告しないわけにもいくまい。

「あそこの森にドラゴンの幼体がいるらしい」

「……」

 そりゃそんな顔にもなりますよね。鼻にすごいシワが寄ってますよ。

「……何もせずに帰ったってことは危険はないんだな?」

「今のところは。ちょっかいをかけなければ大丈夫だろうと」

「了解。じゃあそっち方向の警戒はユウに頼もう。何かあったら旦那を呼んでくれ。さすがに私たちには手に余る」

 了解です。

 警護員全員が集合し、ウッドランクの子たちも食事を終えたらしく近くに寄ってくる。そろそろ全体の説明かな? ロボを下ろし、ちょっとだけ大人しくしててねとお願いすればちゃんと聞き分けてお座りしてくれる。うーん、いい子。撫でちゃう。

 ウィルが手を上げるとコソコソと聞こえていた話し声も聞こえなくなった。統率力すごいな。

「では、細かいことを説明するぞ。今回の演習範囲は平原内に限る。平原の中にいる限りは我々が危険がないか警戒しているが、平原の外に出た場合はその限りでは無い。命令違反は自己責任だ。命の保証はされないと思え」

 ……わぁ。いや、でもそんなものなのか。そもそもが魔物相手だもんな。範囲が限定されるとはいえ安全が確保されているだけ有難いのか? 脅しはするけれど遭難した時用の準備もしてるしね。

「ここの魔物はほとんどが下級下位のものだから油断しない限りは大きな怪我をすることはないだろうが、怪我をしたらベースで手当てを受けられるから戻ってきなさい。動けない場合は遠慮なく警護員に声をかけること。敵わないと思われる場合もすぐに近くにいる警護員に助けを求めなさい。どこまで対処可能で、どこからが対処不可能か、この機会にしっかりと学んでおくように」

 みんな真剣な顔で話を聞いてる。命に関わるもんな。俺も気をつけないと。ウッドランクの子とは違う意味で。魔法はちょっと怖いから基本は剣で対応しよう。

「それと、水がなくなった場合もすぐに警護員に声をかけて分けてもらいなさい。喉が渇いた時ではなく、飲み切った時に必ず補給しておくこと。そして何度水を補給したかを必ず記録していなさい。実戦演習の本当の意味はそこにあると言ってもいい」

 水差しを必ず持って来いって言ってたのはそういうことか。脱水は怖いよね。動きながらどれだけ水を飲むかなんていうのは実際にやってみないとわからないもんな。訓練場とかで訓練するのと一日走り回るのは違うからね。

「今回の演習ではノルマは無い。自分たちでどの魔物に挑みどの魔物からは逃げるのか、どんな頻度で戦闘を行なうのか、どのタイミングで休憩するのか、休憩の時の周囲の警戒をどうするのか、しっかり考え無理のない範囲を覚えなさい。実際に依頼を受けるようになれば無理をする機会はいくらでもあるから、どれだけなら余力を残しておけるのかを今のうちに体に叩き込んでおくように」

 無理を覚えさせるんじゃなくて、無理にならない範囲を覚えさせるのか。

「陽が沈む前にここに集合すること。食事は先にしていてもここに戻ってからでも構わない。では、解散」

 はい!!と返事をして子供たちが散らばっていく。元気でよろしい。

 ウィルに近づいて訊いてみる。

「無理を覚えさせるんじゃないんだな」

「ああ。今回はな」

 今回は。

「ストーンランクに上がると無理をするための演習があるぞ」

 あるのか。

「もっと警護の人数も増やして、ダンジョンでの訓練だ。ダンジョン内の魔物は必ず向かってくるから無理し放題だぞ」

 無理し放題って。なるほど? ある程度戦えるようになってから無理を覚えさせるのか。

 ウィルとそんなことを話していたらさっきの採取職の子が鞄を持って歩き出そうとしていた。うーん。

「君は一人で行くのか?」

 声をかけるとこっくりと頷く。鞄が重いから移動も大変だよなぁ。採取職なら戦闘も苦手だろうし。

 ウィルを見ると笑って頷いてくれたので許可が下りたと受け取ろう。ノエルさんを嗅いでいたロボを呼ぶ。

「私はユウ、この子はロボだ。君は?」

「トーカです」

「トーカさんか。ロボ、トーカさんの警護を頼めるか? 危ない魔物から守ってくれ」

「わん!!」

 任せて!!と言わんばかりに元気に尻尾を振るロボの頭を撫でる。ずっと俺が張り付いてるわけにもいかないからな。ロボがいれば大体は大丈夫だろう。ロボは中級の魔物らしいし、いざとなればナイトを呼ぶはずだ。本はどうするか。俺の鞄を貸すわけにもいかないしな……。

「この鞄に本を入れて行きなさい」

 ひょいっと横からウィルがトートバッグみたいな鞄を差し出す。予備のマジックバッグを持っていたらしい。

「ありがとうございます」

 頭を下げ、本の重みの消えた鞄を抱えて走っていくトーカさんは嬉しそうだ。ロボも元気に付いていく。

「甘やかしすぎだろうか?」

「いや。採取職はなり手が少ない。ジャンジャン甘やかしてくれ」

 了解です。全員の位置を軽く確認してからベースを離れて配置に着く。

 平原ではすでに戦闘を始めているパーティや、作戦会議中のパーティ、間合いを測っているソロの少年少女がいたるところにいる。……これは大変そうだ。一応魔物が多い目立つところにいるので、俺がいることはウッドランクの子にはわかるだろう。気をつけますが何かあったら声をあげてください。

 ところでめっちゃヒツジが寄ってくるんだけど俺なんか変な匂いでもしてるのか?

 害意はなさそうなので撫でているとアルさんが近寄ってきた。

「ずいぶんモテてるな」

「全部倒す必要はないんだよな?」

「勿論。メリーシープは温厚だから人を襲うことはないし、毛が素材になるからな。あまりに多くなったら間引く程度だ」

 このヒツジってメリーシープっていうのか。そういえば子供たちもメリーシープと交戦している子はいないな。毛が素材になるってことはウールなんだろうなとぼんやり思いながらモコモコに半分埋れつつ警戒を続ける。

 平原でもそこまで魔物の巣窟って感じではないな。なんというか放牧してる農場とかこんな感じかも。まあ、たまに奇声をあげながら子供を追いかけまわしている魔物がいるけれど、それに目を瞑れば長閑なものだ。あれは助けなくても逃げられるだろう。地球の動物より危険とナイトは言っていたけれど、さすがにニワトリやウサギが地球のライオン並ってことはないだろう。

 この世界のライオンはどのくらい強いんだろうな。幻想級や天災級ってイマイチわからない。


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