第21話 お勉強
主人公君の知識が増える。
5時間かかるという言葉どおり、ここが平原では?と思う程何も無い草原を歩く。先頭を《勇敢なる星》が進み、左右をギルドの職員たちが守るので俺は後方を任された。外壁の門を越えてすぐは麦畑のようなものが多くあったけれど、しばらく歩くとただただ広い草原だった。この世界の人が地球の人間より体力があるとしても、日帰りはしんどい距離だろうな。しかも大半が子供だし。
一応周りを気にしながら歩いていたが、ウッドランクの子の中で一人気になる子が。
女の子のようだが、両手に見るからに重そうな袋を提げている。1時間も歩いた頃にはふらふらと足取りが怪しくなっていた。うーん、限界かな。
「それは何が入っているんだ?」
近づいて声をかけると驚いたように目を見開く。ごめんよ。怖い人ではないです。荷物が入っているだろうリュックは背負っているから、何か特別な物だろうと当たりをつける。
「本、です。私、採取職なので」
本か。息切れしてるし汗もすごい。中を見せてもらうと、木で表紙が作られた手作り感溢れる図鑑並の分厚さの本が何冊も入っていた。採取職と言っているし、薬草なんかの大事な資料なんだろうけれど、腕千切れるぞ。
「私が持って行こう。そのままでは平原まで保たないだろう。次からは持ち物は体力と相談して持ってきなさい」
「あ、でも」
ん? もしかしてこの程度の手伝いも駄目なのか? 女の子が戸惑っていると後ろから声をかけられた。
「構わんよ。現地に着く前にリタイヤじゃさすがにな。でもユウが言ったとおり、次からは気をつけなさい」
「は、はい。じゃあ、すみません。お願いします」
「ああ」
ウィルに許可を貰って、本が入った袋を受け取る。……3キロくらいあるぞこれ。一袋で。根性すごいなあの子。体力その他諸々が強化された俺でもこれを持って5時間歩くのは気が滅入るぞ。取り上げた手前、鞄に仕舞うのも憚られるので肩に担ぐけど。
列から抜けて元の位置に戻るとウィルも付いてきた。
「過保護すぎたか?」
「いや。私が声をかけようかと思っていたところだ。採取職の資料問題はどうするかねぇ。一律で資料を作って、同行者が持って行くしかないか。新人に資料が要らないくらい勉強してから来いっていうのは酷だしな」
怒られるかと思ったら違った。よかった。
ウィルは元の位置に戻る気が無いようなので色々訊いておこう。明るくなってきたし、何かあればすぐわかるだろう。
「訊きたいことがあるんだが」
「文句以外ならいくらでも」
「文句を言われる自覚があるのか」
「無いとでも?」
あるのか……。完全に開き直ってる顔だ。ちゃんと訊かなかった俺が悪いとはいえ丸め込んだ自覚がある大人酷いな。俺はまだまだ大人になれそうにない。
「受けてくれるまでは説明できない案件だったとはいえ、黙ってたことは謝る」
いやまあ、怒っているわけではないんですけどね。
「でも、報告の件はお前知ってたろ。驚いてなかったし」
「ああ。父から聞いていた」
だよな、とウィルが頭を掻く。あの人守秘義務とかどう考えてんだろうな……と呟くのは聞かなかったことに。
「で? 何が訊きたいんだ?」
「ノエルさんが前衛職が多いと言っていただろう? 誰が前衛職なんだ?」
「あー、そうだな。じゃあ基本的なことを勉強しながら行くか」
やったー。気は抜かないのでお願いします。
「戦闘職の冒険者は職種ごとに前衛、中衛、後衛に分けられる。前衛は基本的に重装備で魔物と近接して直接戦闘を行なう職種を指す。攻撃の主軸になる中、後衛が落ち着いて攻撃に専念できるように足止めする役割がある。今回なら私たち魔導剣士、剣士、戦士。斥候も前衛だが索敵のために単独行動をすることが多いから特殊前衛と呼ばれたりするな。高ランクのパーティになると剣士や魔導剣士が斥候を兼任したりするぞ。ノエルも元々はただの剣士だったが何年か前から斥候も兼任するようになったはずだ」
そうなんだ。確かに多いな。俺とウィルとダミアン、ノエルさんにアルさん、フィオさんも前衛か。九人中六人前衛って。
「一番前衛って感じなのは盾持ちだな。危険が多いから人数が少ないのが玉に瑕だが。名前の通り大きな盾を持って、最前線でパーティを守る役割を持っている。逆に魔導剣士は前衛に分類されているが行動は中衛寄りだ」
盾持ちって、レオがそれだったよな。盾持ちって盾を持ってる人をまとめてそう呼ぶのかと思ってたけど「盾持ち」って職種名だったんだな。レオがパーティの壁って考えると安心感がすごそう。
「パーティの基本は前衛2、中衛2、後衛2くらいだな。増やすなら前衛か中衛。後衛は増やしすぎても守るのが大変だからな。勿論パーティの好みや得意な戦闘スタイルなんかがあるから一概には言えないが。実際レオの《烈火の守護者》は基本型だが《勇敢なる星》は前衛三枚の後衛一枚の変則型だ。ある程度実力があればどうとでもなるから、基本はあくまで頭の片隅に置いておいたらいい」
了解です。
「中衛は槍使いや拳士、魔導拳士、調教師なんかだな。機動力が高かったり決定打になる一撃を打てる職種がここに入る。ただ中衛は一応分類されてはいるが、それこそパーティの戦闘スタイルによって前衛扱いだったり後衛扱いだったりするから、大規模討伐の際に混合編成でどういう配置になるかという基準くらいに考えておいたらいい」
大規模討伐とは。
「後衛は回復や長距離攻撃、広範囲攻撃ができる職種が多い。弓使い、治癒術士、魔導士、神官、賢者が基本だな。たまに鍵開け師とかがいたりする」
鍵開け師? 何するの?
「人数が多ければ隙は少なくできるが、その分パーティを維持する費用がかかる。長期の護衛依頼なんか食費は自分持ちだからそれだけで財政が圧迫される。中堅以上のパーティは4~6人で組んでることが多いな。ノエルが斥候を兼任しているように、二人分の役割を一人がこなしたりして人員を削減したりもする」
詰め込まれる知識に溺れそう。重要そうなことを記憶するのでやっとだ。そこでウィルが唐突に手を叩く。
「ここまでで質問は?」
「はい!」
!?
声のした方を見るとウッドランクの子が手を挙げていた。
「君は?」
「グジットです。魔導士です」
「じゃあグジット。どうぞ」
「はい。あの、基本的な質問なんですけど、魔導士と神官、賢者の違いはなんでしょうか」
もしかして、俺だけが説明聞いてる気でいたけど、近くにいる子たちもしっかり聞いてたのか。移動しながらの青空教室みたいだな。
「そうだな、どの職も魔法を基本として戦うが、魔導士が攻撃魔法を得意とするのに対し、神官は神聖魔法の他に防御魔法や攻撃を阻害することを得意とする。賢者は魔法よりも魔術に寄っていて味方の援護や敵の行動の妨害を得意とするな。神官は専門の修行が必要だが、魔導士と賢者は自分が得意な方を選んだらいい」
「わかりました。ありがとうございます」
賢者って賢い人意味じゃないのか。賢いって職種ってなんだよってなるもんな。グジットが礼を言って次は?とウィルが訊くとすぐに手が挙がる。
「ユニです。大規模討伐の時はパーティを離れて基本の配置につくことが多いのですか?」
「規模と魔物の種類に因るな。規模がそこまで大きくなかったり、ゴブリンやオーク程度が相手なら緊急招集をかけて各パーティで各個撃破して行くこともある。ただ10万を超える規模や、中級以上の魔物が相手となるとそれは難しい。消耗戦になるなら作戦や密な連携がなければ被害が広がることがある。今から気にすることでもないが、自分たちの戦い方が安定したら基本の立ち回りができるように練習しておいて損はないだろう」
10万を超える魔物の群れみたいなのが出現するの? 怖。
「イズです! 魔物は元々群れで行動するものもいますよね? どこから大規模討伐の対象とされるのですか?」
「そうだな。大規模な群れで行動する魔物は基本的に性格が温厚だ。数千から数万規模でも低級の魔物の群れは実害がない限りは討伐対象にはならない。例えば平原にもいるメリーシープは大きなものだと数万の群れを形成するが討伐対象にはならないけれど、有翼のハーピーなどは千を超える前には討伐対象になる。数よりも魔物単体の危険度が基準だな」
ハーピーってなんだ。有翼ってことはとりあえず飛ぶんだろう。メリーシープは名前からして羊っぽいけど、羊はそこまで危険な魔物じゃないのか。
ウィルと子供たちの質疑応答をなんとなく聞いていると、先頭のノエルさんが手を挙げていたのでウィルに合図してから先頭に近づく。
「どうした?」
「半分程来たから一旦休憩しよう。30分後に再出発だ」
「わかった。伝えておく」
休憩か。子供の体力ならそろそろ疲れてきた頃かな。最後尾まで戻るとすでに休憩の気配を察したのかウィルと子供たちは座って勉強会を開いていた。
「再出発は?」
「30分後だそうだ」
「了解。よし、勉強はここまで。昼前には平原に着くから、しっかり休んでおきなさい。着いてからの体力配分はすべて自分たちですることになるからな」
「はい!!」
そう言って立ち上がったウィルに手招きされて並ぶ。
「一応今日の進行を説明しておくな。平原に着いたら丘の上にベースを設置し、ウッドランクはベースの周辺で戦闘訓練を行なう。私たちは昼間は全体を警戒し、夜間はベース周辺の警備を固める」
「夜間はウッドランクはベースで休ませるのか?」
「ああ。さすがに日中散々動き回って夜中起きてる体力はまだないだろう。後々体力の調節も大事だが、まずは戦闘に集中させたい」
ほうほう。じゃあ俺たちは仮眠をとりながら警戒するのかな。
「ユウにも見張りを頼むつもりだが大丈夫そうか?」
「おそらく」
自分でもどれだけ体力があるのかわからないからな。仮眠さえとれればどうにでもなりそうな気はするけれど。
休憩を終え、また隊列を組み進む。両脇を森に囲まれているわりには意外と魔物って出て来ないものなんだな。もっと、外壁の外は魔物が溢れているのかと思っていた。そういえば初日もナイトがいたとはいえ森の中でロボ以外の魔物には出会わなかったし、生息域がはっきりとしているのかもしれないな。
あ、今の間に世界樹の種子の鎧モードの確認をしておこうかな。内殻と外殻で材質を変えられるってことだったよね。
うーん。怪我したくないから外殻は基本的にアダマンタイトから変更しないとして、内殻を……そうだな、一旦オリハルコンに変更。
……できたのだろうか?
「あの、大丈夫ですか?」
「ん?」
「今、光ったので」
隣にいたウッドランクの子にそう言われる。
「光った?」
「はい。その、鎧の白いラインが青色に」
青色ってことはオリハルコンでいいのかな?
「大丈夫だ。少し実験していたんだが、成功のようだ。教えてくれてありがとう」
しかし、この鎧ラインが入っているの顔のところだけだから変更完了が自分でわかんないのか。そう思うと両手の甲を横切るように幅1センチほどの白いラインが表れる。あらやだ、この子本当に万能。というかごめんね我が儘ばっかり言って。
手を前に翳してラインを確認しながら内殻をドラゴンスキンに戻す。ラインが一瞬赤く光って、すぐに元の白色に戻った。ほんほん。こんな風になってたのか。ドラゴンスキンは赤色に光る。覚えた。
実際どういう感じなのかは動いてみないとわからないから、演習の時に暇を見つけてやってみよう。
日差しが高くなってきた頃傾斜は緩いが長い丘の下に着いた。どうやらこの丘を越えた先が東の平原らしい。




