第20話 レッツゴー初依頼
翌朝、なんとかウィルに叩き起こされる前に起きれた。窓を見れば外はまだ真っ暗だ。昨日読み方を確認しておいた時計を見ると早朝4時を過ぎたところだった。ロボはまだ寝ているようだけれど、ナイトが気づいたのか手を上げる。いつの間に帰って来てたんだろう。
「おはよう」
「おはようございます」
小声で挨拶をして、顔を洗って着替える。ロボはまだまだ起きそうにないから、演習の現地に着いてから呼ぼうかな。移動中は暇だろうし。
ミニキッチンで紅茶を淹れて、ナイトが宣言どおり昨日の間に用意してくれていた朝食を行儀は悪いがその場で立ったまま食べ、手早く食器を洗って身支度を整える。ベルトにレッグシースを提げ、剣帯を巻いてから少し躊躇ったが大人しく剣を通す。鞄を巻いて剣帯との位置を調整し、ブーツの紐をしっかり絞めて手袋も履いておこう。世界樹の種子は今日もしっかり仮面としての役割をこなしてくれている。
ナイトにロボのことを頼んで部屋を出るとちょうどウィルが階段を上がってきたところだった。
「おはよう、起きれたんだな」
「なんとか。おはよう」
「じゃあギルドの方で顔合わせをしよう。そろそろみんな揃う時間だ」
はいよ。
ギルドに降りるとまだ薄暗いホールに何人かの冒険者がいた。まだギルドは開いてない時間のはずだから全員警護班かな? ウーさんともう一人ギルド職員もいるようだ。
「おはようございます」
「おはようございます」
ウーさんに挨拶をして、冒険者と職員の人にも会釈をする。
「フィオ、マーナは?」
「薬の最終チェックをしてるとこ。もうすぐ終わるんじゃないか?」
フィオと呼ばれた職員は男性だと思っていたが声が女性だった。獣人の人の性別ってわかんないなぁ。
「なら仕方ないな。いるメンバーだけで顔合わせをしてしまおう。彼はユウ。魔導剣士だ」
「よろしく頼む」
ウィルに紹介されるまま頭を下げる。よろしくお願いします。冒険者の人が手を挙げて応えてくれる。
「よろしく。私たちはパーティ《勇敢なる星》だ。私がリーダーのノエル、剣士兼斥候だ」
オオカミのノエルさんが手を伸ばしてくれたので握手で答える。カイさんと違って黒いオオカミだ。
「私はアル。サブリーダーで戦士だ。よろしく」
トラの獣人はアルさん。ノエルさんは男性でアルさんは女性かな?
「私はルーン。弓使いですが多少は魔法も使えます」
落ち着いた金髪の女性はルーンさん。
「ダミアン。あんたと同じ魔導剣士だ」
銀髪の青年はダミアンさん。それぞれに握手して挨拶する。この世界の人個性が強くて助かる。昨日から怒涛の勢いで知り合いが増えているけど、なんとか名前と顔が一致してくれる。何かを思い出したようにウィルが手を挙げた。
「そういえば私の職種を言っていなかったな。私は魔導士寄りの魔導剣士だ」
そうなんだ? ウィルも魔導剣士だったのか。
「俺はフィオ。斥候だ」
……お、ほぉん? いよいよわかんないぞ? まあ困ることじゃないからいっか。チーターのフィオさんは斥候ね。
「私は魔導士です。まだ来ていませんがマーナは治癒術士で、魔導士としても戦闘が可能ですよ」
ウーさんは魔導士で、マーナさんは治癒術士ね。了解しました。それにしてもギルド職員って戦闘できる人が多いのかな?
「じゃあ私も用意してくるから少し待っててくれ。新人は外に集まっているが、まだ時間はかかるだろう」
了解。ウッドランクの子たちはどこに集まるのかと思ったら外にいたのね。訓練場かとも思ったけど、一度ギルドを通り抜けるのは手間か。ウィルがギルドの上に消えていき、入れ替わるように女性が降りてきた。
「お待たせしました!! マーナです! よろしくお願いします!!」
勢いよく頭を下げるマーナさんに少し気圧されるが、ノエルさんたちと揃って簡単に自己紹介する。今更だけど、ギルドの人はみんな基本的には同じ装備なんだな。裾の長さや袖の作りは違うようだけどデザインが一緒だ。職員ってわかりやすく区別するためかな?
フィオさんとマーナさんが話し合っている間にウーさんに近づく。
「ウーさん、ギルドの職員はみんな戦闘ができるのか?」
「いえ、みんなではありませんよ。私たちは戦闘職員なので戦えますが、アリサたちのような事務職員は戦闘技能は持っていません」
へー。戦闘職員と事務職員って分かれてるんだ。
「私とウィルは事務職も兼任していますが、フィオとマーナは専任の戦闘職員です。普段はギルドで保管、使用する素材の採取などを行なってくれています」
へぇぇー。ギルドって冒険者に依頼の斡旋をするだけが仕事じゃないのか。素材の採取なんかギルド内でやってるんだ。でもそうか、冒険者に依頼を出すと余分にお金が掛かるなら、薬の素材なんかは自分たちで採りに行ったほうがいいのか。
「それにしても、今回は厳重すぎないか? 何かあったのか?」
ノエルさんがスッと会話に入ってくる。厳重なの? 首を傾げるとウーさんが困ったように眉を下げる。ノエルさんが補足してくれた。
「基本的にウッドランクの警護なんて事務職員一人と一パーティが就けば十分だ。戦闘職員四人に一パーティ、その上オリハルコンクラスの魔導剣士が一人。明らかに戦力過剰だ」
オリハルコンクラスの魔導剣士?と思ったが、そこだけ声を落として俺を見るのでもしかして俺のことを言ってます?? 過大評価にも程があるんですが?? ニコーっと笑うノエルさんがなんか怖い。笑い返して誤魔化す。え? なんかバレてる?
どうしようと思っているとウィルが降りてきた。助かった!
腰の左右に短剣と長剣を一組ずつ佩いたウィルはものすごく強そうだ。四刀流?
「どうした?」
「明らかに戦力過剰なこの状況は誰に説明を求めればいいのか話してたんだよ」
ウィルに訊かれてノエルさんが肩を竦める。そのことか、とウィルが頭を掻いた。
「全員聞いてくれ。説明が遅くなったことは詫びる。今回の依頼は通常のウッドランクの実地演習の警護とは異なる。今から話すことは一切他言無用だ」
全員が注目したのを確認してウィルが口を開く。
「昨日、勇者からどこかの国で勇者召喚が行なわれた可能性があると帝国に進言があったと報告がきた。そして一昨日、この街に東の森から襲来したグロテスクが解剖の結果、何者かに操られていたことが確認されている。この一件を帝国及び当ギルドは関連があるものだと推測している」
それ説明してしまっていいのだろうか。まあいいんだろうな。話を聞いてノエルさんが頭を掻く。
「勇者召喚か。また厄介な」
「東の森って、今回向かうのは東の平原だろう?」
耳を動かしたアルさんにウーさんが頷いた。東の平原って、マジっすか。それ絶対近いでしょう。
「ええ、ですので今回は万全を期して警護体制を敷いています。東の森には今日の昼には緊急編成した調査部隊が到着する予定ですし、調査部隊にはシオン様が同行されます」
シオンさんも調査部隊に入ったのか。昨日ヴァネッサさんが話したいことがあるって言ってたのはそのことだったのかな?
「異常があれば連絡が取れるように相位呼応術式も持って行く。それだけでなくユウの随獣が調査隊に同行するから何かあれば即座に情報共有が可能だろう。前衛職の多い《勇敢なる星》に依頼したのも、異常があった場合即座に対応できるようにだ。何かあればすぐに報告・対処してくれ」
了解です。ナイトなら自分の判断ですぐ連絡してくれるだろう。
「なるほどな。了解した」
ノエルさんとアルさん、ルーンさんは納得したように頷くけれど、ダミアンさんは頭を抱えた。
「シルバーに上がって初めての仕事が厄介すぎる……」
「何事も経験だ。ガンバレ」
ダミアンさんの頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜるアルさんの声が棒読みなのがなんか怖い。難しい仕事なのかな? 何も考えずに受けちゃったのに、そんな頭抱える程なの? ウィルを見るとニコーっと先程のノエルさんに似た笑い方をする。わ、わざと詳細を説明せずに依頼してきたなぁー?? ウーさんを見ると目を逸らされた。汚い大人たちだ!!
抗議の暇もなく、ウッドランクがそろそろ集合するはずだと話を切り上げられた。くそー!
「……多くないか?」
「多いよな?」
なんとなくダミアンさんと通じ合うものがあり、並んで外に出て立ち止まる。うっすらと白み始めた空の下、大勢の子供たちが座って待機していた。え、50人くらいいない? 1クラス以上いるでしょ、絶対。
「俺たち、これからこの子らが大怪我しないように、魔物がいる平原で見張ってないといけないんだぜ」
……この大半が13、4くらいに見える、元気盛りの少年少女を? この人数で? 魔物の中で?
「やばいな」
「やばいよな」
「語彙力が死んでるぞ、二人とも」
呆けているとアルさんに背中をつつかれる。いや、そんなこと言われても。
「東の平原は基本的にはそんなに強い魔物が出るわけじゃないから安心しな。というか、ユウは知らないけど、ダミアンは実地演習で平原に行ったことあるだろ」
「自分の身を守るだけなら問題ないけど、怪我させないかは別だろ。それに、ウッドの頃は平原だって十分怖かったし」
「私は自分のせいで怪我をさせる可能性もあるからもっと怖い」
「それは気をつけろよ」
えーん。ダミアンさんに冷静につっこまれた。
こそこそ話しているとウィルが咳払いしてこちらを見る。あ、すみません、静かにします。ウッドランクの子たちの前に全員で並んで、ウィルが一歩前に出る。
「揃っているな? では今回の演習について説明するぞ。よく聞きなさい」
俺も聞いてないとわかんないな。実地演習ってことしか知らない。
「事前に通達していたとおり、今回は東の平原で二泊三日の実地演習を行なう。最低限の安全は保証するが、指示に従わない場合はその限りではない。自分の身は自分で守れ。ただし、対処不能だと思ったらすぐに近くにいる警護員に声をかけなさい。我々は君たちを守るためにいる。遠慮は無用だ。即効性の毒を持っているような魔物はいないはずだが、擦り傷一つでも後々悪化する可能性がある。治癒術師のいないパーティなどは怪我をしたら基地に帰還するように。日中暑くなっても防具はしっかりと……」
そこで言葉を切って振り向く。
「ユウ、説得力が無くなる」
あらやだ。
世界樹の種子を鎧に変える。確かに怪我の危険を説明している後ろで七分丈のポロシャツとチノパンじゃあれか。同じ魔導剣士のウィルやダミアンさんもしっかりとした革鎧みたいなのを着ているし。
世界樹の種子が鎧に変わった途端にザワッと子供たちが騒ぐ。驚かせてごめんね。
「……ここまでしろとは言わんがな。防具はきちんと付けておきなさい」
ラフな私服から露出ゼロの鎧姿になるのはやりすぎかも知れないけど、今のところこれしか鎧形態が無いから許してください。……今のところっていうかこれ以外の形態になるのか? ここが最終段階では? あとは外殻と内殻を変化させるくらいか。
「移動中も、警戒は我々がするが気を抜きすぎないように。また現地に到着次第詳しいことは説明しよう。では起立! 出発するぞ!」
「はい!!」
子供達の元気な声が響く。
さて、初仕事だ。頑張るぞ。ところで東の平原までどのくらいかかるんだろう? こんな日の出前から出発する必要があるのか?
「ダミアンさん、平原まではどのくらいかかるんだ?」
「ダミアンでいいぜ。あー……この人数で新人を連れて行くとなると5時間くらいか?」
……は?
そろそろ正式に召喚された勇者たちのことも書きたい。




