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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第15話 柵の修理

 戸口でしばらく待っているとさっきの職人が灰色の肌の男性を連れてやってきた。……黒髪ではないけど黒人の人はたくさんいたけど、灰色の肌の人は初めて見たな。人間の肌の色ってベージュとか黄色系がベースのはずじゃなかったけ? 青みがかった灰色の肌で、髪は明るい青色。どんな種族だろうか。体格はいいけれど背はそこまで高くはない。170センチくらいだろうか。

 オーナーのグランツだ、と握手を求められたので同じように名乗って応じる。

「依頼人はあんたでいいんだな?」

「ああ。孤児院の柵と、屋根の修理を頼みたい。どのくらいかかるかにもよるが……屋根全体を直す方向で頼みたい」

「柵は聞いていたが、屋根?」

 グランツさんが眉を寄せる。

「屋根が落ちてきて、子供を助けようとして柵を超えたら勢いで壊してしまったんだ」

 まさか鉄の柵を蹴り壊すなんて思わないじゃないですか。でも素手で曲げれるんだから蹴って折るくらいはできるよね。

「崩れるほど悪くなってたのか……それはわかったが、なんであんたが修理を依頼するんだ?」

 なんでと言われましても。

「私は加減が下手なうえに運が悪くてな。このままにしておくと次通りかかった時に同じことが起こるだろうし、そうなると新品の柵だろうと蹴り壊す自信がある。無駄に何度も柵を直すよりも屋根の方を直してもらったほうが経済的だ」

 見て見ぬ振りなんてできないし、咄嗟の事態に力加減ができるとは思わない。魔法でどうにかできればいいんだろうけれど、昨日は蹴った街灯も屋根も無事だったのに今日は駄目だったことを考えると、今日みたいなことは戦闘じゃないから直感系のスキルは発動しないので魔力制御もできないだろう。剣の制御性能でさっきは思ったように魔法が使えたけど、落ち着いている状態だったからできただけの可能性は捨てられない。

 グランツさんがうーんと頭を掻く。

「それはそうなんだが。勿論直させてもらえるなら喜んでやらせてもらおう。訊き方が悪かったな、あんたがそこまでする義理はないだろうあそこの出身者でもないだろうに」

 ああ、うん。そっちか。

「子供たちが私の随獣の友達になってくれたんだ。だから怪我をさせたくはない」

 随獣?と首を傾げるグランツさんに説明する。

「従魔みたいなものだ。チャーチグリムの子供なんだが、遊びたい盛りで。子供たちは絶好の遊び相手だ」

「ははぁ、なるほど。わかったよ、引き受けよう。ヒコ、オトケ、俺は先に現場を見に行っておくから、大体の準備をして持ってきてくれ」

 納得してくれたグランツさんがさっきの人ともう一人、背の低い髭の人の声をかける。うーい、という低い返事を背にグランツさんが歩き出すので俺も続く。

 歩きながら破損の状態を説明する。丸太ごと落ちてきたというとグランツさんが眉間を揉んだ。

「垂木ごと落ちてきたなら確かに全部直す必要があるな。予算は?」

「即金で出せるのは金貨40枚。あとは稼いでこなければならない」

「よんじゅ……安心しろ、元どおりに直すだけなら金貨10枚あれば足りる。何を想定してるんだ」

 金貨10枚? そんなものでいいのか? 物価価値がわかんないなぁ。ナイフ一本金貨15枚なのに。

 そんなことを思っていると孤児院が見えてきたのだが、孤児院の前に一日で見慣れたシルエットがルークさんと並んでいるのが見えた。ウィル? 近づくと気づいたらしいウィルが手を上げる。

「ウィル、何故ここに?」

「冒険者風の男が孤児院の柵を破壊していたと報告が入ってな。様子を見にきたんだが、お前がいるということは犯人だな?」

 ご明察です! やべぇ、冒険者がなんかやらかすとギルドに報告がいくのか。ルークさんが笑ってウィルが腕を組む。

「話はルーク院長から聞いてる。今回の件はお咎めなしだ。むしろよくやったな」

 褒められた。やったー。

「ただ力加減ができるように要訓練だな。破壊神なんて二つ名は嬉しくないだろう」

 やだー!! 何二つ名って!? あだ名みたいなもの? ただでさえ学校でのあだ名魔王だったのに、破壊神とか冗談じゃない。好きで壊しているわけではないです。

「……実地演習の時、時間を見つけてやっておく」

 実地演習が終わったあとちょっとウェストの森にでもお邪魔して訓練させてもらおうかな。

 そんな相談をしていると、ルークさんと何か話し合ってから氷で補強した柵を観察していたグランツさんが振り返る。

「これはユウさんが?」

「ああ」

「じゃあ一旦解いてくれるか、どうなっているのかしっかり見たい」

「わかった」

 倒れてこないように支えて氷を溶かす。何箇所か確認してもう戻していいと言われたのでまた凍らせる。グランツさんは屋根の様子を見に行った。

 ロボが見当たらないと思ったら、小学校高学年くらいの子に支えられた幼稚園児くらいの子を背中に乗せて庭を散歩している。いや、うん。魔物だしあの程度の子供が重たいとかはないだろうけど、大丈夫かな……あれ……落ちないように気をつけるんだよ。さすがにこの距離ではロボから落ちたのを受け止めるのは厳しいぞ。



 ルークさんは事務仕事があるそうで院の中に入って行った。ぼうっと立っていても仕方ないのでいつの間にか屋根に登っていたグランツさんに近づくとウィルも付いてきた。

「ギルドに戻らなくていいのか?」

「このままお前を放って置いたらまた何かやらかしそうだからな」

「そんなことはないと断言できないのが辛いな」

 そう言われるとぐうの音も出ない。お目付役かぁ。断言しろよと呆れるウィルに笑って誤魔化すとウィルが耳をへたらせて口元を痙攣らせる。

「ユウ、お前笑うと胡散臭さがすごいぞ。まだ無表情の方がマシだ」

 ひでぇ。頑張って表情筋動かしてるのに。友達にも不気味だと大不評だったけど。自然に笑うってどうするんだろう。

 視線をそらしてグランツさんに顔を向ける。

「何か手伝えることはないか?」

「ん? じゃあすまんがちょっとここまで上がってきてくれるか」

 はいはい。屈んで思いっきり跳ぶ。3階建ての小学校くらいの高さだけれど、これくらいなら落ち着いていたら調整できそうだな。ウィルも同じように跳び、屋根に着地する。

「そこに梯子があると言おうと思ったんだが。これだから冒険者は」

 頭を片手で覆うグランツさんが空いた手で指差す先には屋根まで届く梯子が。あらやだ、ごめんあそばせ。

「おい、それは冒険者に対する偏見だぞー」

「一緒になって跳び上がってきといて言うんじゃねえよ。とりあえずそこの垂木を押さえてくれ」

 抗議するウィルを軽くスルーしたグランツさんが押さえていた垂木を代わって押さえる。ウィルが別の垂木を押さえグランツさんは脆くなっている箇所を軽く動かして確認していた。麻縄を取り出してスルスルと迷いなく応急処置を施していく。

 職人技って感じだな。すごく手際が良い。屋根が落ちた周囲を結んでしまってから、全体を見て回ってまた補強する。

「まだ保ちはするだろうが、やっぱり全体を直した方がいいな。一部だけ新しいのも見目が悪いしな」

 ですねぇ。壊れるというほどではないけどヒビが入ってるところも多いし、上を歩くとへこんでいるところもある。

「施工料だが、柵の分も合わせて金貨10枚と銀貨8枚くらいだ」

「わかった。前払いか?」

「いや。終わってからでいいぜ。作り終わった後で問題が出てくるかもしれないからな」

 なるほど。完成を見てからってことですね。

「明日から数日依頼で街を離れるのだが、どのくらいで完成する?」

「柵は今日中にできるが、屋根は二日ほどかかるな。帰ってきてから店に顔出してくれたらいい」

 了解です。

「オーナー! まずは柵から始めますか?」

 いつの間にかヒコさんとオトケさんが台車を引いて門の前まで来ていた。

「おー! さて、補強も済んだし、一旦降りるか」

 はい。飛び降りようとしたら止められた。跳び上がるのはともかく、飛び降りるのは子供が真似すると大変だろうと怒られました。確かに!!

 大人しく梯子を降り、柵に近づく。氷を観察していたヒコさんが俺とウィルを交互に見る。

「これはどっちが?」

「私だが」

「へぇ……もしかしてあんた昨日から噂になってる冒険者か?」

「鎧の剣士か仮面の魔導士の噂ならユウのことで間違いない」

 代わりに答えてくれたウィルのセリフで俺がどんな噂になっているのか理解した。鎧の剣士もしくは仮面の魔導士ね。昨日父さんもそんな風に言ってたな。

「それだ。自在に氷魔法を扱うと聞いていたが、本当だったんだな」

 自在に扱えてるのかな? 剣の制御能力のおかげだな。

「ほら、喋ってないで始めるぞ。あんたらも暇なら手伝ってくれ」

 はーい。

 柵は折れた一本と痛んでいた数本を取り替えることになったので、支えを作ってから氷を溶かす。作業の様子が気になるのか大工志望らしい子供たちが集まってきたので、近づいた子供たちに当たらないように注意しながら土台を壊して柵を引っこ抜く。柵を引き抜いたところは土を畑の畝の様に盛っていた。一旦土で押さえるんだろうか?

「この柵はどうする?」

 引き抜いた柵を集めて訊くと、溶かして別の物に加工し直すそうなので荷台に載せる。新しい柵を配置したグランツさんに呼ばれた。

「どうした?」

「柵を立てるから、立ったら盛った土の上でこの術式に魔力を流してくれるか」

 そう言って術式が刻まれた石の板を渡される。なんぞこれ。

「これは?」

「土台が作れるように術式を調整してる魔道具だ。あんたの魔力なら一気に作れるだろう」

 そんなもんがあるのか。コンクリみたいなので固めてあるんだと思ってたけど、まさかの魔法の力。え、柵は今日中に作れるってそういうことなのか。

「じゃあ立てるぞー」

 カルチャーショックを受けている間にみんなが配置について柵を押し上げる。地球だと滑車が必要そうだけど、この世界だと人力のみでどうにかなるのか。ガシャンガシャンと大きな音を立てながら柵が立ち上がり、グランツさんが目配せしてくる。よしきた。

 土に上に板を乗せて、魔法を使う要領でなんとなく力が伝わるように想像する。指で術式に触れると術式が光った。そう思うと途端に盛り土が形を変えてコンクリートのように変わっていく。マジか。

 うぞぞぞぞ、という波打つ様に変わっていった土が元からあった土台に到達したところで指を離す。

 マジか……一瞬でコンクリができちゃったよ。厳密にはコンクリートではないだろうけれど、それでもすごすぎないか? この術式さえあれば一日で家の土台が完成しちゃうってことでしょ。

 土台ができたので、柵の上部に梯子を架けて元々あったものと新しく立てたものを繋いでいく。これは俺やウィルではできないので大人しく地上で見学だ。

「すごいな……」

「おー。手際のいいもんだ」

「しかし、蹴り折っておいてなんなのだがこの柵の強度は大丈夫なのか?」

「鉄柵だぞ。安心しろ、折れるのはお前くらいだししっかり固定しちまえば引き倒すことも不可能だ」

 そうなの? そんな車みたいな扱い……車じゃなくて戦闘機なのか。もしかして父さんとナイトが昨日言ってた喩えは当たってたのか? でもさすがに他の冒険者の人たちが竹槍ってことはないだろうけれど。


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