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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第14話 基本、壊す

 ウーさんがホールまで見送ってくれたので、ついでにオススメの食品店を訊いておいた。ふんふんとご機嫌に尻尾を振るロボと一緒に石畳の道を歩く。そこまで話し込んでいたつもりはないのだけれど、だいぶ日が昇っていた。時差ぼけみたいな感じだったのかな? 寝過ぎたのかも。昨日も歩きながら見ていたけど、商店には地球、少なくとも日本では見ないような物がたくさん並んでいる。

 鎧に武器、魔道具。調剤師の店の店先にはよくわからないが角の生えた魔物の首。それ飾るのか……。厩舎と思わしき小屋に繋がれているのは、二本角がある馬のような魔物。鹿と違って縦に角が並んでいる。なんていう魔物なんだろうか。鎧や武器は商店で売っていたり、武器工房の直営みたいな店もあるようだ。なんか、憧れるのは工房からの直買いだよね。

 ウーさんの馴染みの食品店、ラウ商店はちょっと遠いらしいので店先を冷やかしながら進む。ロボはいろんな匂いが気になるようで、俺から離れすぎないようにしながらもキョロキョロと左右を見渡している。昨日はゆっくり見てられなかったもんね。

「あ。ロボ、ちょっと待って」

「う?」

 声をかけるとすぐに戻ってきて首を傾げるロボの頭を撫でておく。足を止めたのは武器工房の前。すごく気になるナイフがある。棚の隅にポンと置かれているだけなのだけれど、妙に目を惹く。

 看板は出ていないが扉は開いているので入ってしまおう。とてとて付いてくるロボを確認して、気になったナイフを手に取る。刃渡り15センチほどの無骨な感じだが、見た目よりもずっと軽いし収まりがいい。

「それが気に入ったか?」

 うぉ。

 振り返ると煤で汚れた小柄な髭面のおじいちゃんが。工房の主人かな、すみません、お邪魔してます。

「これは商品か?」

「おう。金貨15枚だ。買うか?」

 金貨15枚かぁ……結構な出費になるな……。でも、うーん。

「貰おう」

 おじいちゃんに一旦ナイフを預けて鞄から巾着を出す。元々父さんに金貨50枚貰ってるし、昨日グロテスクの討伐報酬も貰ってるから15枚なら払える。

「……お前さん、中も見ずに買うのか?」

「ああ。どうしてか欲しいと思ったんだ」

 代金を渡すとおじいちゃんが呆れたように頭を掻く。え、錆びてるとかじゃないですよね?

「ちょいと待ってろ」

 はい。

 ナイフを渡してもらって、奥に消えていったおじいちゃんを待つ。ロボは匂いが気になるのかナイフをふんふんと嗅ぐ。危ないよ、刃物だからね。しかし、一応抜いてみようか。なんか中を見たほうがいいみたいな感じだったし。

 ロボから離してナイフを抜くと、刃がうっすらと緑に光っていた。は?? 光にかざしても緑だし、覆ってみても緑に光っている。光の屈折で緑に光っているように見えているわけではなさそうだ。

「ほれ、おまけだ。このシースに挿し替えとけ。ゴツいベルトしとるんだ、これくらいは下げられるだろう」

 戻ってきたおじいちゃんがポイッと革製のシースを投げてくるので受け取る。ベルトから吊るして足に巻いて留めるタイプのレッグシースのようだ。言われたとおりにベルトに通して脚部のベルトを固定する。ゴソゴソしている間にロボを撫でていたおじいちゃんに具合を見てもらう。

「これでいいか? しかし、かなり良い物だろう、貰ってしまっていいのか?」

「それは元々それ用だ。そのナイフに気づいた奴にやろうと思ってたんだ」

 そうなのか。どおりで大きさがぴったりなわけだ。

「ではありがたく」

 わーい。なんかかっこいいナイフ買えた。礼を言って出ようとするとおじいちゃんが声をかけられる。

「不備や不調があれば持って来い。腰の得物も、無いとは思うが壊れるようなことがあったら直してやる」

「ありがとう。万一の時は是非お願いする」

 おじいちゃん、無いとは思うがってことはこの剣のこと鞘を見ただけで何かわかったのかな。もしかしてすごい人だった?



 おじいちゃんの武器工房を出てラウ商店を目指していたら、背の高い鉄の柵に囲まれた建物が見えてきた。広い庭では大勢の子供たちが遊んでいる。学校だろうかと思っていたけれど、柵に掛かった看板にセーリヒト孤児院と書いてあった。孤児院か……。冒険者なんて職業があって、魔物が壁の外で生きている世界なんだし、孤児も多いんだろうな。

 楽しそうに遊んでいる子供たちに興味を惹かれているのかロボの尻尾が大きく振れる。お友達になれたらいいんだけど、小さくてもロボは魔物だからなぁ。責任者の人がロボと遊ばせてくれるかだな……。

 建物や柵は古くなっているけれど、子供は元気そうだし服がボロボロということはないので、いい施設なんだろう。そう思っていると突然ロボが吠えた。なんだ!?

 ロボを見ると孤児院の建物に向かって吠え続けている。なんだ? ロボの視線を追って建物を見ると、吠えるロボに驚いている子供たちの一団の上の屋根が崩れかかっていた。

「危ないぞ!」

 叫んでみたが間に合わない。なんのことかと首を傾げる子供の上で大きな塊が崩れた。門まで走る時間はないか。柵に飛び乗って強く蹴る。

 驚いている子供たちには悪いが、頭上を飛び越えて間一髪落ちてきた屋根を受け止める。おっも。なんとか子供の上に落ちるのは阻止できた。女帝の織り糸の防御効果と物理耐性ってすごいな! 丸太と煉瓦の塊受け止めて無傷だぞ。ちょっと肩痛いけれど。世界樹の種子、出遅れた!みたいな感情なのかもだけど一旦落ち着いて。もぞもぞしないの。

「どうしました!?」

 建物の中から黒い服を着た壮年の男性が出てきて目を見開く。すみません、不審者ではないのです。

「せんせー! 屋根が落ちたの! お兄ちゃんが助けてくれたのよ!」

 ありがとう女の子! おかげで説明が大変楽になります! 担いだ屋根の残骸を下ろして男性に向き直る。

「すまない、非常事態だったので無断で入ってしまった」

「いえいえ、そんな。子供たちを助けていただいて、なんとお礼を言ったらいいか」

 男性と握手をするとロボの困ったような鳴き声が聞こえてきた。何事かと思って振り向くと、柵が!!!

「……重ねてすまない、柵を壊してしまった」

 横倒しに曲がっていた。あれは確実に俺のせいです。

「え? ああ、大きい音がしてと思ったら、あれだったのですね」

 音してました? 必死になってて気づかなかった。土台ごと抉れちゃってるな、周りに人はいないので怪我人はいないであろうことが不幸中の幸いか。

「にいちゃん柵壊したー!」

「壊したー」

 イェーイ、壊しましたー! やめなさいと男性が止めてくれるけれど事実なのでいいですよ。これは、このままとはいかないなぁ。わちゃわちゃと寄ってきた子供たちに引っ張られながら男性に声をかける。

「柵は確実に私のせいだな。修理代を払いたいのだが、懇意にしている大工などはいるか?」

「そんな、こちらでなんとかしますよ」

「そう言わないでくれ。これをこのまま放置して帰ったとなると家の者に叱られる」

 ナイトこういうのすごい厳しいから2時間ぐらい正座でお説教タイムだ。それは避けたい。俺が譲らないと察したのか、男性が困ったように笑う。

「それでは、お願いしてもよろしいですか? この通りをまっすぐ行った先にあるグランツ工務店というところにいつもはお願いしています」

「グランツ工務店だな。わかった。ロボ」

 呼んだけど返事がない。振り向くと子供をガン見していた。尻尾飛んでいきそうだよ? これはもうどうしようもないな。男性に向き直る。

「申し遅れた、私は冒険者のユウ。あの子は私の随獣のロボだ。危険はないから、子供たちと遊ばせても?」

「失礼いたしました、私はこの孤児院の院長をしております、ルークと申します。是非、子供たちは元気が有り余っていますから、喜びますよ」

「あの魔物と遊んでいいの!?」

 話を聞いていた小学校低学年くらいの子がキラキラと目を光らせる。

「ああ。あの子はロボ。仲良くしてやってくれるか?」

「うん!!」

 良いお返事です。大きめの声でロボを呼べばハッとして寄ってきた。足の横にお行儀よくひっつくロボの頭を撫でる。

「ロボ、少し出てくるから、みんなと遊んで待っててくれるか?」

「わん!」

 いいの!? と言いたげに尻尾を振るロボをもう一度撫でて、ルークさんに預けて壊した柵に近づく。怪我人がいなさそうとはいえ、このまま放っておくわけにはいかないだろう。

 柵は一本が根元から折れていて、おそらくこれが俺が蹴った柵だろう。あとは引っ張られるように土台からひっくり返っている。どうするか、とりあえず折れている柵を掴んで伸ばしてみる。ギギギと多少無理やりな音が鳴ったが、一応は伸びた。鉄柵なのに、伸びてしまった。腕力ゴリラになってて良かった!! いや、でもゴリラになったからこそ壊してしまったのか? いいや、応急処置をしてしまおう。柵全体を氷の膜で覆って引き上げ、立て直したらさらに一回り頑丈な氷で覆う。これで倒れないかな。雑極まりないが直すんだししばらく保てばいいだろう。

 さて、通りをまっすぐ行ったグランツ工務店だったな。

 しかし、柵を壊して思い出したんだけど、昨日壊した石畳はどこに謝ってお金を払えばいいんだろうか。くそう、誰かを助けようとすると何かを壊してしまうのは幸運値の低さのせいか? いや、でも俺にとっては壊してしまって大反省だけど、少なくとも今日はあの孤児院の子たちにとっては俺が近くにいたことは幸運だったのか? あの子たちの中に幸運EXみたいな子がいたのか? 俺がいたせいで屋根落ちたとかそういうことじゃないよね……?

 それにしても自分の身体能力に遊ばれている感がすごい。もっと力加減の練習とかしないといけないな。明日からの実地演習で警戒しながらだったら練習できるかな? 俺は非常戦力ってウィルが言ってたし、ちょっとなら時間取れるかな。

 通りをしばらく歩いて、大きな木工所みたいな建物を見つける。看板を見るとグランツ工務店と書いてあった。ここか。

 中を覗き込むと広い作業所のようになっていて、木材や石材が所狭しと置いてあり何人かの職人が作業している。

「冒険者が何か用か?」

 一番近くで作業していた人が俺に気づいて声をかけてくれた。なんで冒険者ってわかったんだろう。

「セーリヒト孤児院の柵を壊してしまって。ここで修理を頼めると聞いたのだか」

「孤児院の柵を壊したぁ? 何したんだお前さん」

 すみません、勢いで蹴り倒しました。

「まあいい。オーナーを呼んでくるからちょっと待っててくれ」

「わかった。頼む」

 お願いします。本当何してるんだろうな俺。


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