第11話 鑑定
際限なくロボに唐揚げを食べさせようとするレオを止めつつ食事を終えたところで、世界樹の種子が視界の端でしゅるんと動いた。
「?」
「そろそろ冒険者の方も増えてきましたし、私たちは部屋に下がりましょうか」
ナイトに言われてみると、確かにダイナーの席がだいぶ埋まってきていた。食事は終わったし、話も大体は聞いたからいつまでも居座るのはあれか。
「そうだな。またわからないことがあったらいつでも訊いてくれたらいい。明日にでも依頼の受け方も教えるな」
「わかった。頼む」
ウィルも書類を持って立ち上がり、ヴァネッサさんとレオも続く。
「代金はどこに?」
「今回は私の奢りだ」
「いや、しかし」
俺だいぶ食べたよ。
「唐揚げの作り方も教えてもらったし、いいわよ。次からはお願いね」
ウィルは受け取る気が無さそうだし、ナヒカさんも笑顔で手を振っている。うう。
「わかった。ご馳走さま、美味しかったよ、ナヒカさん」
お礼だけはちゃんと言っておこう。
ギルドに戻っていったウィルとヴァネッサさんを見送り、レオと一緒にダイナーから階段を登る。ナイトとロボは骨で引っ張り合いっこしながら付いてくる。
「レオもここに泊まっているのか?」
「おう。ヴィーシャもウィルもちゃんと説明していなかったけど、ギルドに泊まるのは高ランク冒険者の義務みたいなものなんだ」
義務?
「いざというとき主力級がみんなしてどこにいるかわからないなんて笑い話だろう? 家を持っている奴以外はゴールド以上はほとんどギルド泊まりだ」
そうなんだ? 俺シルバーランクだけどいいのかな。
「ウェストたちが来た時、ウィルが非常呼集と言っていただろう? あれで真夜中でも呼び出されるというわけだ。宿もあるんだが、できるだけ連絡が取りやすいようにな」
そうなのか。電話が無いって父さんが言ってたし、その方が効率が良いんだろうな。
「俺はもう一つ上の階だから、またな」
「ああ、また明日」
階段を登るレオの背中を見送り部屋に入る。
「意外、と言っては失礼ですが、綺麗な部屋ですね」
「うん。ホテルみたいだよね」
ナイトが部屋を見回して呟く。俺もダイナーで失礼なこと思ったからなんとも言えない。骨を没収されたのでふんふんと部屋の中を探索し始めたロボを見守っていると、ナイトが指で影を作り掌に父さんから渡された魔石を取り出した。何それ便利。指で摘んだ魔石を口があるだろう位置に近づけると、魔石が光った。
「旦那様、お待たせしました。ここにお越しください」
へあ?
バッと床に魔法陣が広がり、父さんが現れた。
「すまない、食事中だったか?」
「いいえ、ちょうど食べ終わったところでしたのでお気になさらず」
ほあん? もしかしてさっき世界樹の種子が動いたのって父さんから連絡が来てたのか。食事中だと判断してあの動きだけに留めたってこと? 世界樹の種子賢すぎでは?
「いろいろ用意ができたので持ってきたぞ。……その服着てたか?」
「頭から血を被ったから着替えた」
「豪快だな」
笑い事じゃないよ。すごい遠巻きに見られてたんだからね。
「一応家からパンツ持ってきたんだが、私のでも気にしなかったか」
そんな気はしてたけどやっぱり父さんのパンツだった!! ちくしょう!!
「ちゃんと洗っているからそんな顔しないでくれ。お父さん悲しくなる」
「洗ってても嫌でしょう。私なら履きません」
ナイトの清々しいノーパン宣言。ううん……ノーパンになるくらいなら父さんのパンツでも履くかな。今履いてるし。
「ひどいな……まあとりあえず全部ベッドに出すぞ」
空中からどさどさと洋服が出てくるの謎。ナイトが物を出すのは影魔法だろうけど、父さんのは空間魔法ってやつなのかな? 俺の下着類と、ナイトの服一式。
「ところでこの、私を噛んでるこの子は?」
「え? あ、ロボ、駄目。俺のお父さんだよ」
静かにしてると思っていたロボが父さんの足をガブガブと齧っていた。わりと本気っぽいぞ。うーじゃないの、離しなさい。
「新しい随獣か?」
「うん……あ、そうだ、お父さんが随獣のこと教えてくれてなかったからわりと騒ぎになったんだよ」
「ははは。すまん。すっかり忘れていた」
もー、はははじゃないよ。ロボを父さんから離して、服を仕舞い終わったナイトに預ける。
「ナイトもシャワー浴びる? そこの扉の向こうにあるよ」
「そうですね。ロボも一度洗っておきましょうか」
「あ、石鹸を渡していなかったな。これを使いなさい。血も落ちるぞ」
くう?と首を傾げるロボはこれから水攻めに合うなんて思ってないだろうな。水大丈夫かな。受け取った石鹸と着替え類を持ってロボを連れたナイトが隣へ消える。ロボの叫び声が聞こえてこないことを祈ろう。
「そういえば、ワイバーンに名を付けドラゴンにした冒険者というのはお前のことだな?」
んぇぇ。なんで知ってるの。
「どこで聞いたの?」
「帝城にちょっと用があってな。そこで」
「ていじょう?」
「この帝国の帝都にある皇帝が住む城だ」
なんでそんなとこに用があるの!? 気軽に行っていい所じゃないでしょ!
「借りたい物があってな。召喚された人間がいることも報告しなければならなかったし」
報告の方がついでみたいな言い方! 父さんが椅子に座るので俺はベッドに座る。
「先に召喚された者たちのことを話そうか。雄大以外にも、やはり召喚された者がいるようだ。おそらく召喚形式は勇者召喚。日本だけでなく複数の国から資質ある者を呼び出したと想定される」
そんなことまでわかるの?
「地球に帰って確認したら、いくつかの地域の次元域が乱れていたからな」
確認したのか。まあ一回帰ってるわけだし確認くらいするか。
「さすがに誰かまではわからんし、わかったところで強制帰還させることもできん。勇者召喚は召喚の中でも特殊でな、身体の魔素変換が行われているから大元の術式を解析して反転術式を組み、ちゃんとした手順を踏まなければならない」
よくわかんないけどなんか深刻そうだな。
「術式はおそらくすでに破棄されているだろうから、どんなモノを手本にどう解釈してどんな無茶な理論を継ぎ合わせたのかもわからん術式を復元し、解析し、反転術式を組み、身体の魔素変換を再度整える。面倒臭すぎるし、おそらくそんなことをしている間に復元不能なくらい体がこの世界に馴染んでしまうだろう」
???
「まぁ、見つけられたらどうにかするが、簡単に言えば成り行きに任せる」
ひらひらと手を振る父さんは心底面倒臭そうだ。
「そんな適当でいいの? 勇者なんでしょ?」
「勇者は正義の味方ではないからな。召喚された者たちに同情はするが、その者たちが直接この世界に影響を及ぼさない限りは静観するよ。私の独善で動いて戦争なんてことになったら目も当てられない」
そうなの……。どうにかしてあげてと頼むのは簡単だけど、それで父さんに無茶をさせるのは嫌だな。
「ま。報告はしたし、帝国が動くならなんとかなるだろう。あのじじいはそこのところは上手くやるさ」
その、じじいって皇帝陛下のことじゃないよね?
「召喚された人のことはわかった。元々俺じゃあどうしようもないし、お父さんの判断を信じるよ。ところで、俺の話を帝城で聞いたって言ってたけど、この世界電話とか無いんじゃないの?」
「電話はないが、転送術式はある。お父さんが使うような人を移動させたりするものではないが、手紙なんかの小さな物は送ることができるんだ。ワイバーンとなれば騎士団も動いていただろうし、報告くらいはすぐに上がってくるだろう」
そうなのか。
「グロテスクを使ってワイバーンに街を襲わせようとするなんて、確実にどこかの国が関わっているだろうしな」
「グロテスクを使って?」
「解体調査の結果、使役術式が仕込んであったらしいからな」
街にいなかった父さんの方が情報持ってるの面白い。そりゃ一般の新人冒険者と帝国所属の勇者だったらもらえる情報は違うよね。ああでも、そうか。
「なんだか違和感があると思ったら、使役されてたからか」
「ん? もしかしてグロテスクを倒したのも雄大か?」
「うん」
なるほどと父さんが顎を掻く。
「鎧の剣士だとしか伝わっていなかったからな。その時に血を被ったのか?」
「うん。最初は鎧になってなかったから、派手に」
派手にというか、頭から盛大にというか。
血に染まった服を思い出して遠い目をしていたら父さんがうーんと首を捻る。
「初めて魔物と戦闘して違和感を感じるということは……天啓か直感のどちらかか」
「何が?」
訊けばニッと笑って空中を漁る。
「帝城に用があったと言っただろう? これを借りに行っていたんだ」
そう言って、空中から大きな鏡のような物を引っ張り出してきた。豪華な装飾を施された枠に嵌っているので、多分すごく高級品だろう、というか皇帝が住んでいる城に置いてある物が高級品じゃないなんてことないだろ。何を気軽に借りてきちゃってんのさ。
「私に鑑定スキルがあれば良かったんだが、残念ながら持っていないからな。これは鑑定鏡。ギルドにも似たような物はあるが人の鑑定はできないから帝城にある物を借り受けてきた」
鑑定スキルって漫画とかでは結構便利でみんな持ってる感じだと思ってたけど、父さん勇者なのに持ってないのか。
「友人たちは持っているんだが、子供がいたことを隠していたとバレたら2、3日決死の鬼ごっこが始まるからな。今はそんなことしている場合ではない」
父さんと友達、仲良いのか悪いのかわかんないな。
「正面に立ってみなさい。で、鏡面に触れると鑑定結果が出る」
わーい。楽しそう。
言われたとおり鏡面に触れると文字が浮かんでくる……が、やっぱりひらがな!! 読みにくい!!
名前:伊佐美 雄大
年齢:18
種族:人間
職業:冒険者
適性:魔導士 随獣師
スキル:天啓 直感 気配探知(直感) 危機感知(直感) 魔力制御(直感) 戦闘行動(直感)
耐性:毒耐性 弱体耐性 麻痺耐性 狂乱耐性 物理耐性 魔法耐性
契約:随獣契約(首無し騎士)(チャーチグリム)
ほーん? ゲームみたいに体力とか魔力とかはわからないのか。これは……どうなんだろう、いいの? なんだこの(直感)って。
「ほう、なかなかいいんじゃないか? 直感系の派生スキルが多いな。グロテスクとの戦闘ではこれが発動したんだろうな」
横から覗き込んだ父さんがそう言って感想を漏らす。いいの?
「体力とか魔力とかはわからないんだね」
「体力なんか自分である程度わかるだろう。魔力だって測ったところで自分で管理するしかないからな。鑑定でわかるようなモノじゃない」
へぇー。確かに。自分がどれだけ疲れてるとかは感覚でわかるもんね。ところで散々動き回ったのに全然疲れてないのはなぜでしょう。封印ってもしかして体力も封印してた系?
「この適性は?」
俺の職種は一応剣士なのに、それは入ってない。
「適性というのは、一般的な職種以外にどれができるか、というものだからな。私たちは普通に使っているが、魔法は魔導適性がなければ使えないんだ」
そうなの? じゃあ魔法が使える人はみんな魔導士の適性を持ってるってことか。
「いちいち使えるもの全部鑑定していては画面が埋まってしまう。今の雄大でも火魔法、風魔法、土魔法、水魔法、雷魔法、氷魔法と適性があるだろうし、剣術や徒手格闘術、抜刀術なんてものは本人が修めるものだから鑑定では表示されない」
俺そんなにたくさん魔法使えるの? スキルと戦闘技能は違うのか。
「お父さんはどうなってるの?」
「ん? 見てみるか?」
勿論! 勇者のステータス見てみたい!
横にずれて父さんが鏡の前に立つ。鏡に触れると新しく文字が浮かんできた。
名前:伊佐美 リアム
年齢:42
種族:人間
職業:勇者 冒険者
適性:魔導士 治癒術士 神官 賢者
スキル:天啓 直感 超直感 魔素探知 魔力探知 気配探知 超回復 高速思考 並列思考
耐性:毒無効 弱体無効 麻痺無効 狂乱無効 物理無効 魔法無効
特殊:勇者特権
ほう。思ったより多くな……え、無効多くない? 物理魔法無効って、これ父さんに攻撃して何が効くの? この無効って俺が持ってる耐性の上位互換だよね? そしてなんだこの勇者特権って。




