第10話 異世界食糧事情
投稿したと思っていたのに投稿されていなかった……
「あ、そういえば手伝ったお礼にとグロテスクのお肉を頂いたのですが」
そう言ってナイトが油紙のような紙で包まれたひと抱えはある塊を取り出した。デカくね? どうしろってのさ。
「ああもう、あいつまた勝手に……まあユウが倒した魔物だから調査さえ済めばいいっちゃいいんだが。グロテスクの肉は高級品だぞ。淡白だがそのぶん癖が無いからどんな料理にも合う」
食うの。石像鳥。油紙をめくると綺麗な鶏肉っぽいけれど。外皮石みたいだったじゃん。おそらくタオルの人の独断なんだろうけれど、貰っていいなら頂きましょう。
「鶏胸肉みたいですね。唐揚げにでもしてみましょうか」
「お兄さん料理できるのかい?」
いつの間にか近くにいたナヒカさんがナイトの呟きに反応した。
「ええ。家庭料理ばかりですが、十数年作ってきましたから」
十数年お世話になってきております。ナヒカさんが腕を組む。
「お兄さんたち、この国の人じゃないよね?」
「はい。少し遠くから来ています」
少し。にこやかに誤魔化すナイトもどうかと思うが、嘘も方便って言うもんね。俺はこういうのボロが出るから黙っていよう。
「最近若い冒険者が増えてきてね、新しい料理を覚えたかったんだよ。良かったら教えてくれないかい?」
「私で良ければ喜んで。この国の料理も教えていただきたいです」
「勿論」
この世界の人コミュニケーション能力高すぎでは? ナイトは塊肉を持ってナヒカさんに続いてカウンターの中に入っていった。礼服が溶けるように消えて元々着ていたシャツに変わる。どこからかエプロンも取り出していた。影魔法便利だな。
「首無し騎士が料理……」
「美味しいぞ」
「そういう問題じゃないんだよ」
絶句しているウィルに一応言ってみるとそう返された。そんな気はしてました。
「ウィルー!! ひどいじゃないか! 俺もユウの説明に付き合うと言っただろう!」
ドーンとウィルに体当たりしてレオが現れた。いつの間に。
「うるせぇ裏切り者。どうせ東の森の調査部隊に編成されたんだろう」
「それに関してはその通りだ。すまん」
ウィルの隣の椅子を引いて座りながらレオが謝る。裏切り者って?と首を傾げると説明してくれる。
「ウッドランクの新人たちの実地演習があってな。外壁の外に出て実際に魔物との戦闘を行うんだが、それの警護任務を依頼してたんだよ。さっき言った別件だ。それがキャンセルされた。高ランクでこういうの引き受けてくれる奴は少ないんだよ」
そうなのか。だからさっき悩んでたんだな。
「レオはどのランクなんだ?」
「俺はミスリルだ。職種は盾持ち。ゴールドランクのパーティ、《烈火の守護者》のリーダーでもある」
上から3番目! そんな気はしてたけどやっぱり高ランクだった!! 気さくすぎるでしょ! そして地味に厨二感のあるパーティ名だな。そういうのが多いんだろうか。
「盾持ちがいて、斥候もいて魔導士と治癒術士もいるなんてパーティは滅多にないから、代わりが見つからんのだよ。ギリギリレオが帰ってくるのが間に合ったと思ったのに」
項垂れるウィルは本当に困っているようだ。なんか、もしかして俺のせいかな? いや、でもさっき俺は関係ないって言ってたしな。どうしようもないことは考えないようにしよう。
パーティのリーダーって言っていたけれど、パーティメンバーはどこにいるんだろう。
「レオは一人で街を離れていたのか?」
「近くの村に用事があってな。パーティメンバーは今日は泊まりで依頼を受けているらしいから明日帰ってくるだろう」
へー。パーティを組んでいても別行動したりするんだ。
「皆気のいい奴らだ。明日また紹介するな」
「ああ。頼む」
レオがいい人っていうなら本当にいい人なんだろうな。ところで。
「冒険者というのはみんなこんなに静かに食事をするものなのか?」
めっっっちゃ静かなんだけど。俺たちうるさすぎ?
小声で訊いてみたら、顔を見合わせたレオとウィルが数秒耐えたが噴き出した。ツボに入ったようでなかなか回復しない。
「あんたね、首無し騎士と噂の新人がいる状況で大騒ぎして飯食える根性があるのはそうそういないよ」
「ヴァネッサさん」
コシャンと頭の上に何か乗ったと思ったら、ヴァネッサさんがいた。え、この状況も俺のせいですか?
気にせず食いな!っとヴァネッサさんがダイナーの冒険者たちに声をかけ、ウィルの頭を叩く。
「いつまで笑ってんだい、ウィル、登録は?」
「ング、ふふ、完了してますよ」
ナイトが座っていた椅子に座ったヴァネッサさんがウィルから渡された俺の登録用紙を確認して、俺の頭に置いていたものを退ける。巾着袋?
「確かに登録確認したよ。これはグロテスク討伐報酬。金貨14枚と銀貨5枚。それから騎士団からの謝礼金として金貨100枚。謝礼金はナイトにだけど、魔物であるナイトに直では騎士団としては渡しづらいらしくてね。主人であるユウに一旦渡しておくね」
わぁ、俺が稼いだお金! ナイトの方がはるかに多いけどそれはそれ。初任給ってやつ? 一応ちゃんとあるか確認してほしいと言われたので巾着を開けて金貨を数える。はい、金貨14枚と銀貨5枚確かにあります。
「ナイト、開けていいか?」
「はい。手が離せませんのでお願いします」
カウンターに向かって話しかけるとひょいっと肩だけのぞく。パチパチと揚げ物のいい音が聞こえてくるので、さっき食べたばかりなのにお腹が空く。成長期ってこれだから。なんだか厳つい刺繍名が入った巾着も開けて中身を数える。100枚確かに。
カチャンカチャンと金属が鳴る音に興味を示したのかロボが顔をのぞかせる。1枚取って見せてみたけどふんふんと匂いを嗅いだだけで食べ物ではないと認識したのかまた骨を囓りはじめた。今度おもちゃになりそうなもの買ってあげるからね。
「ワイバーンを止めて金貨100枚とは、騎士団ケチすぎんか?」
ウィルが机に肘をついて巾着をつつく。そうなの?
「今回はワイバーンがこの街を襲撃する目的では無かったからね。謝礼金が出ただけいいじゃないか」
目的はザーパトを取り戻すためだったもんね。金貨を巾着に仕舞い直したところでナイトが皿を持ってカウンターから出てきた。
「お待たせしました。塩唐揚げと、鶏豆苗炒めです。ヴァネッサ様もよろしければお召し上がりください」
「おや、じゃあお言葉に甘えて」
わぁい! 大皿に盛られた唐揚げと炒め物はほかほかと湯気が立っている。ご飯が無いのが残念だけれど、パンでも美味しい!
「油淋鶏風にしようかと思ったのですが、お醤油が無くて。味付けは塩のもののみとなりますが、香辛料が効いているので美味しいと思いますよ」
初めてらしい唐揚げに戸惑っている三人を横目に一口で頬張る。うん、ニンニクが効いてて美味しい。グロテスク、見た目と外皮のわりに肉はすごく柔らかい。しっとりジューシー。
「すごく美味しいよ」
臭みもないし。どうやって臭み取りしたんだろうか。
「本当に美味しいねえ。淡白だけど食べ応えがある」
「本当だ。ショウユとやらの味は知らないが、十分美味い」
「ニンニクと塩と、胡椒か? この豆苗炒めも同じ味付けだろうに。全然違う味に感じるな」
俺に続いて手を伸ばした三人も感心している。
「調理法が違うのもありますが、唐揚げは純米酒で、炒めは白ワインで臭い消しをしましたので風味が違うのでしょうね」
そうなのか。……ん?
「純米酒はあったのか?」
「ええ。それどころか味醂や豆板醤も。胡椒や山椒、八角のような香辛料にローズマリーやバジル、パセリといったハーブ類もあるのですが、何故かお醤油とお味噌と、お砂糖も無くて。だいぶ調理が制限されますね」
なん……なんで? そんなに調味料揃ってるのに。
「砂糖は高級品だからそんなに出回ってるわけないだろうが、その、オショウユとオミソってのはなんだ?」
砂糖高級品なの? いやでも確かに昔は高級品だったか。でも、醤油と味噌は結構古くからあったはずでは? ここが西洋っぽいからか?
「大豆を発酵させた調味料です。味噌は米で作ったりもしますが、私たちの国ではメジャーな調味料です」
「調味料を作るのかい?」
「…………は?」
料理のことは詳しくないので大人しく成り行きを見守っていようと思っていたのだけど、さすがにナヒカさんの言葉に口をついて疑問が出た。ナイトは言葉すら無いようで半身をナヒカさんに向けて固まっていた。
呆気にとられている俺たちを見てレオが不思議そうに首を傾げる。
「調味料は基本的に植物系の魔物から採れるだろう? わざわざ作っていたのか?」
調味料が、植物系の魔物から採れる……?
「……わ、たしたちの国では、調味料は全て普通の植物から作られていたんだ」
なんとか絞り出した。そうか、石像鳥の肉を食べるくらいだし、想像できたことだったのかもしれない。
「全て?」
ヴァネッサさんが眉を寄せる。
「ああ。作り方を全部知っているわけではないが、胡椒も、味醂も豆板醤も、純米酒もワインも」
「植物系の魔物が少ない国だったのかい? 大変そうだね」
「そういうものと思っていましたので、専門の職人もいましたから……そうですか、魔物から……」
ナイトも知らなかったのは意外だけど、街に入ったりしないとわからないものなのかな。それにしても純米酒ってどんな魔物から採れるんだろうか。オショウユねぇ、ウィルが唐揚げをつつきながら考える。
「大豆を発酵させたものなぁ。作り方を知っていれば作れないことはないんじゃないか? 酒は作ってるわけだし」
「そうなのか?」
ウィルが頷く。
「蜂蜜酒やエール、ウィスキーとか色々作ってるぜ」
「何故酒だけそんな積極的に」
「そりゃ飲みたい奴が作るからな」
それもそうか! これだから大人は!! 欲望に忠実!
「私は作り方を知らないんだが……ナイト?」
「私もおおよそでしか。一度国へ帰ればわかりますが」
となると父さんに頼まないと駄目かな。ナイト一人なら自分で帰れるのだろうか? 自家製味噌とかいうのもあるらしいし、たぶん作れるだろう。
「新しい調味料なら私も興味あるわ。ギルマス、職人ギルドと繋ぎをお願いしても?」
「しょうがないね」
話が大きくなってる気がするな? まあ美味しいご飯が食べられるのならいいか。職人ギルドなんてのもあるんだ。
感心しているとレオの動きがおかしいことに気づいた。唐揚げを持って机の下に……?
「レオ、ロボに唐揚げ食べさせてるだろう」
「ああ。喜んでるぞ」
覗いてみると尻尾が飛んでいかんばかりに振られていた。いやいやいや。可愛いけど駄目だろう。
「チャーチグリムに揚げ物は良くないだろう」
犬だよ。ナイトが唐揚げを取り上げようとするがもう飲み込んでしまったようだ。
「? 食べすぎると肥満になるだろうが、毒は入っていないだろう?」
「は?」
え、この世界『毒』っていう概念の塊でもあんの? ロボはナイトに押さえられたままレオに次をねだっていた。ヴァネッサさんが首を傾げる。
「魔物は毒以外ならなんでも食べられるよ。知らなかったのかい?」
「……ナイトは私たちと同じものしか食べないから」
マジかよ。食糧事情が一番カルチャーショックなんだけど。魔法とか冒険者は地球とかけ離れすぎててそこまで気にならなかったのに、生活の一部がここまで違うとは。そもそもが動物がヒト以外は魔物って言ってたなそういえば。
『ナイト、魔物が毒以外何食べても平気って知ってた?』
『いいえ。そもそも私は地球に行って初めて食事をしましたから』
それはそれで衝撃の事実なんですが。え、ナイトうちに来るまでご飯食べたことなかったの? どうやって生きて……生きてなかったのか。首無し騎士だから。だから調味料のことも知らなかったのかな?
「とりあえず作り方がわかったら教えてくれるかい。必要なものがあればこちらで用意するから」
「承知しました」
ナヒカさんに言われてナイトが頷く。醤油と味噌かぁ。なんだろう、大豆と塩と麹菌?




