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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第104話 ネッシーと樹精霊

「どうして俺の名前を?」

 どうしてわかったのかが謎過ぎる。訊いてみるとネッシーはなんてことのないように目を細めた。

「視ればわかるよ。君がリアムの子なのもね。それで、イサミなのかい? ユウダイなのかい?」

 見ただけでわかるとかありなのか? まあ大きさ的にもすごい魔物みたいだし、ありなのか。

「そうなのですか……。俺のことはユウと呼んでください」

「そうなのですよ。ユウだね。了解したよ」

 ゆっくり頷いてくれた。話が通じる魔物でよかった。

「それでユウはこの森に何をしに来たの?」

「ハーピーの討伐に来ました」

 畑が襲われたことも伝えると、ネッシーが険しい顔をして首を上げた。どこか遠くのほうを見ているようだ。

「あの子たち、とうとう討伐まで話が進んだか。止めなさいと口が酸っぱくなる程言ったのに……森の魔物にちょっかいを掛けるばかりか、ヒトの畑にまで。これはさすがに庇いきれないね」

 話し方が子供を憂う親の様だったので、ふともしかしてこのネッシーが女帝なのでは?と疑問が浮かんだ。糸を出しそうにはないけど。

「すみません。貴方が女帝と呼ばれている魔物ですか?」

 訊いてみるとネッシーが首を戻してくる。

「ボクが? まさか。あんな肝っ玉母さんと一緒にしないでおくれ」

 ……女帝、肝っ玉母さんなのか……。

「ボクはちょっと間借りしているだけだよ。女帝が何か言ってた気もするけど、追い出されないからしばらくお邪魔しているんだ。それに女帝は出不精だからね。ボクが代わりに魔物たちの様子を見ているんだよ」

 へー。ネッシーは女帝と仲が良いのかな?

 しかし、とネッシーが首を傾げた。

「ハーピーの巣に向かうのに、こんなに奥まで入ってくるかい? 近道にはなるだろうけどここは結構中心に近いよ? 普通の冒険者なら森の縁を通るけれど」

 あー……それはですね。

「ユニコーンに追い回されまして気づいたらここに」

 本当になんだったのだろうか、あのユニコーン。そう思っているとネッシーが声を上げて笑った。

「あっはっは! 次男坊に追われてここまで逃げて来られるなら大したものだよ」

 次男坊?

「次男坊というのは?」

「ああ、あの子は正式に女帝の眷属としてこの森に棲んでいる魔物でね。その中で次男の位置にいるんだよ」

 へー。森に棲んでいる魔物にも棲み方の種類があるのか。まあウェストやサウスも魔物が増えて困ると言っていたから、種類もあるか。

「で? それだけではないだろう?」

「え?」

「あの子はそこまでの外側を警戒したりはしない。あの子にあったときには既にある程度内側に入っていたのだろう?」

 えぇー……勘が良いな。

「いや、その。最初は、子供を見つけまして」

「子供?」

「ぷーぷ!」

 ネッシーに訊かれると、思い出したのかプリプリ怒るボムを撫でながら事情を説明する。

「……つまり、君は人外魔境と言われるこの森に、ヒトの子供が一人で入って行ったと思って追いかけていたと?」

「そうです……」

 この森が人外魔境と呼ばれているのは初耳ですが、要約されるとものすごく馬鹿みたいだな。

「君はちょっとお人好しが過ぎるね。もう少し考えてから動こうね」

 えーん! 反省します!!

「しかし、子供か……ユウ、その子供は緑の髪に緑の服を着ていたかい?」

「え? はい。そうでした」

 いきなりネッシーが子供の容姿を言い当てたので驚いた。そんな子供の魔物がいるのかな?

 少し考えたネッシーが首を長く伸ばして森の木々のほうに向けた。

「ドリアード! 姿を見せなさい! 純粋に気に掛け、案じてくれる者を惑わせるのが君たちのやり方か?」

 ドリアードってなんだっけ?

 穏やかだったネッシーの、ビリビリと空気が揺れるような怒声に驚いた。しかし特に何かが現れるということはない。

 ネッシーがふぅん。と首を振った。

「君たちがそのつもりなら、こちらにも考えがある。ボクたちは個の命なんて気にしないからね。今からここで女帝と本気で喧嘩をしてもいいんだよ?」

 なんで命に執着しないのと女帝と喧嘩するのがイコールなの? 命を懸けた喧嘩なの?

 なんなの?と思っているとザワザワと樹が揺れた。そして俺のすぐ横に女性が現れる。

 どなた!?

 というか近いな! もっとパーソナルスペースを大事にしましょう!!

 一歩離れたら更に近づいてこようとしたけれど、間にボムが入ってくれたので過度な接近を避けられた。ありがとう、ボム。女性は残念そうな顔をしたけれど、改めてネッシーに向かい合った。

「酷い魔物(かた)ね。私たちは木々が無ければ生きていけないのに」

 ネッシーに文句を言うのは緑の髪の緑の服を着た、ついでに緑の目のなんというかザ・美女って感じの女性だ。

 女性が現れて満足したのか、首を下げてきたネッシーが呆れた声を出す。

「酷いのはどちらだ。色仕掛けが通用しなさそうだからと弱みに付け込んでおいて。ちゃんと謝りなさい」

「私たちの愛し子だもの。安全な所に仕舞っておくのは当然でしょう?」

「王の不興を買うよ。君たちの愛し子である前に君たちの王の愛し子なのだから。ボクは助けてあげないからね」

「ぷーぷ! ぷぷ!」

 なんの話をしているんだろうか? とりあえずボムが怒っているのはわかる。愛し子っていうのはなんだろう? ボムのことか?

 蚊帳の外にいるとネッシーが俺を見た。

「すまなかったね。この娘は樹精霊(ドリアード)。木々に宿る精霊だ」

 ネッシーの紹介で女性が頭を下げた。樹に宿る精霊かぁ。聞いたことがあるような無いような? 今度ナイトに聞いておこう。

「はじめまして、ユウです」

「はじめまして。そして、申し訳ありませんでした」

 謝られてしまった。

「いえ、俺が追いかけていたのは子供ですから、貴方ではないと……」

 言い切る前に女性の姿が揺れる。蜃気楼のように揺らいだ女性は瞬く間に緑の髪に緑の服を着た子供になった。

 あらー、やだー。

「貴方だったのですか?」

 後ろ姿しか見ていなかったから目の色はわからなかったけれど、背格好が殆ど一緒だ。

「同じ森に棲むドリアードは皆同じようなものです。同じ個体でなくとも意思と情報はしっかりと共有されています」

 えーっと、厳密にはこの人ではなかったけれど、情報共有しているし同じような存在ってこと? この人が代表みたいなことなのかな?

「そうなのですか。まあ、ヒトの子供が危険に晒されていたのでないなら良かったです」

 終わりよければ全てよし。実害は無かったのだからいいとしよう。

 ドリアードの謝罪を受けると、ネッシーが思いついたといった様子でドリアードに話しかける。

「そうだ、ドリアード。お詫びにユウを案内してあげたらどうだい?」

「案内とは?」

「ユウはハーピーの討伐に来たんだよ。君たちも困っていただろう」

「まあ」

 ドリアードが目を輝かせた。

「そうなのですか?」

「ええ、その依頼を受けて来ました」

「それはそれは! あのハーピーたちは必要ないのに木々を荒らしたり、魔物を追い立てたりして、困っていたのです」

 ハーピー、いろんな所で迷惑をかけているなぁ……。

「ユウ、乗って」

 乗る? ネッシーを見ると頭を地面すれすれまで下げていた。頭に乗れってことか?

「では、失礼して」

「ぷ」

 ネッシーの頭に登らせてもらうと、ボムも肩から降りてネッシーの頭に直接乗った。ボムも他の魔物に乗せてもらうの楽しいのかな?

 俺たちが座るのを待って、ネッシーが首を上げる。

 うお、たっかい! 翼のある魔物の背中に乗るのとは全く違う。遊園地のフリーフォールみたいな感覚。

「あそこがハーピーたちの住処になっている崖だよ」

 ゆっくりとネッシーが首を回した先には確かに崖があった。想定していた距離よりもずっと近いけれど、磁石で方角を確認してみてもあの崖で間違いないだろう。

 森の中を突っ切ったおかげで図らずも大幅なショートカットができていたようだ。これが怪我の功名なのか?

「あそこまで真っ直ぐに行けるようにドリアードが道を作ってくれるだろうから、次男坊から逃げられる脚があるならすぐに着くと思うよ」

 道を作ってくれるとは?

「それは、ハーピーには気づかれませんか?」

「魔物と精霊では気配も魔力の動きも違うからね。ハーピー程度では精霊が何かしていても感知できないよ」

 そうなのか。ハーピー程度ではってことは、幻想級とかの魔物だったら精霊のことも感知できるのかな? 幻想級の魔物は精霊魔法が使える的なことを言っていたのはウィルだったっけ、ジェシカさんだっけ。

 地面に降ろしてもらって、ドリアードの横に立つ。

「ネッシーが、貴方が道を作ってくれると言っていたのですが」

「はい。真っ直ぐ走れるように樹を動かします。方向も示しますので、ただ前に進んでください」

「承知しました。ありがとうございます」

 樹を動かすとかできるの? 樹の精霊だから? すごいね。

「ドリアード。しっかり感知するように意識しておくから、もし迷わせようとしたら燃やすからね」

「わかっています。もうしませんわ」

 ネッシーがドリアードに釘を刺してくれていた。俺が森に入っちゃった原因がドリアードだからかな? それにしても、ネッシーってもしかして幻想級の魔物なの? すごい気軽に頭に乗せてもらっちゃったよ。



 食器を片付けて、ネッシーとドリアードにお礼を言って移動を開始する。

 ドリアードがどうぞ、と言った瞬間に地面が揺れて樹が動き出したのには驚いた。枝があるから上から見るとそう変わってはいないのだろうけれど、幹が避けて道が開く。

 すごい。圧巻。

「ぷー」

「すごいね」

「ぷ!」

 感動しながらボムを肩に乗せて走り出す。思ったよりも話し込んでしまっていたようで、木漏れ日だけで十分なくらいに明るくなっていた。

 夜に間に合うように頑張って走ろう。

 ドリアードが言っていたとおり、森の中とは思えないくらいにストレスフリーに真っ直ぐ進める。たまに大きな岩があるけれど、それは飛び越えられる範囲だから問題ない。

 もしかして昨日ユニコーンから逃げていたときに走りやすいと思っていた道もドリアードが作った道だったのだろうか。

 それに、森の縁を走っていただけでカメに襲われたのに、昨日ドリアードを追いかけ始めたときから他の魔物を見なかった。魔物も避けてくれていたのか?

 平原をプカプカ浮かんでいたけれど、ボムはそんなに大切にされなければならない魔物だったのかな? 普段瓶詰めしているうえに、鞄の中に放置して栄養失調させかけていたのが本当に申し訳ない。

 罪滅ぼしになるかはわからないけれど、これからいっぱい美味しいご飯食べようね。俺が作るわけじゃないけど。美味しい食材がいっぱい買えるように稼ぐからね。





──────────────


 走り出したユウを見送り、巨大な魔物と美しい精霊は顔を見合わせた。

「ところでポセイドン。ネッシーとはなんですか?」

「ユウがボクに名前をくれたんだ。可愛い響きでしょ」

「貴方に名前を?」

「うん」

「……大丈夫なのですか?」

「ユウの魔力量なら問題ないでしょ。実際平気だったし」

「そうでなく、貴方が」

「ボク? ボクは良い子だから喜んで大暴れしたりしないよ」

「信用できると思いますか?」

「逆になんで信用してくれないの?」

「……貴方、どうしてこの湖にいるのかわかっていますか?」

「女帝が面倒臭がりだから?」

「違います! 貴方が数ヶ月前に大地震を起こしたからですよ!! お花が見たいと言って! 女帝に反省していなさいと言われていたでしょう!?」

「そうだっけ?」

「そうですよ! 皇帝からも厳重注意されていたでしょう!」

「……そうだったっけ?」

 首を傾げるネッシーにドリアードはがっくりと肩を落とす。

 幻想級最上位種、神獣・ポセイドン。全ての海洋と大地を意のままに操り、悪意無く災厄を撒くもの。

 ネッシーと名付けられた個体は横で項垂れるドリアードを気にすることなく嬉しそうに目を細めた。

「今回はユウに加護を付けただけだから二人に怒られるようなことはしてないよ」

「何をしているのですか貴方はー!!?」


ネッシーなわけが無かった。



誤字報告くださった方、ありがとうございます! 適用させていただいております。

見直しはしているのですがどうしても見落としてしまうので、大変有難いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに、肝っ玉母さんと一緒にするなと言っていただけで、別に女帝より弱いだとかは言ってないな・・・
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