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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第103話 追ってくる白い影

今回はほとんど走っているだけです。

一瞬のホラー。

 一晩過ごしてまた森の外に出る。俺はロボに乗り、ナイトがアースとネコを抱える。ボムは俺の肩に乗った。

「ではハーピーの巣を目指しますが、ロボが運べるのはロボからハーピーの気配が感じられるまでとなります。それ以上は向こうにロボの気配が察知されるでしょうからユウが一人で向かってください」

「わかった」

 ロボの感知能力のほうが高いのか。まあハーピーよりもロボのほうがずっと強いだろうからいろんな能力値が高いか。

「ぼくたちはそのあとどうするの?」

「私たちは一旦距離を取って、討ち漏らしや逃げてきたものに備えます。全滅の必要はないとのことでしたが、ハーピーが畑を襲うほど理性を無くしているなら残しておく理由もありません」

 了解です。

 ナイトが影に入り、ロボが走り始める。

 朝8時過ぎから移動を始め、森の外周を進んでいると昼になる前にロボが足を止めた。

「ロボ?」

 声をかけるとフンフンと匂いを嗅いでから俺を振り返った。

「……たぶんハーピーの匂いだと思う。ぼくはここまでかな。全然運んであげられなくてごめんね」

「いや、十分だよ。俺だとまだこの半分も来れてないだろうから」

 しょんぼりしているロボを撫でて、ロボと分かれてボムと進む。地図で現在地を確認してみると、おおよその場所は把握できた。森の外周広すぎるだろう。明日の夜明けに間に合えば上出来か。

 ハーピーと当たるのは明後日の夜になるかな? 帰りはロボに乗せてもらえるから速いだろうけど。

 そんなことを考えながらひたすらに走っていると、違和感を感じたので森から飛び退くと俺がいた場所に巨大な何かが現れた。

 何これ、スッポン? カミツキガメ?

 爬虫類のようなカメのような何かがガチンガチンと顎を鳴らしていた。怖い。

 一度引っ込んだカメの頭が再び勢いよく飛び出してきたので手でガードする。腕に咬み付かれたけれど、鎧を貫通する痛みは無かった。そこまで強い魔物ではないのか?

 この魔物は魔法を使うのだろうか。耐性とかもわからないんだよなぁ。

 まあいいか。内殻変更、ミスリル。

 カメの口の中で拳を握り、雷を破裂させる。

 口の中で電気が弾けたカメは、煙を吐きながら絶命した。首は繋がったままだったけれど、千切れかかっている。そこまでするつもりは無かったんだよ。

 派手めの静電気で電流が見えるくらいを想像しただけでこの威力になるんだよな。

「威力の調節ができないの、どうにかならないかな」

「ぷー」

「ね」

 内殻をドラゴンスキンに戻してから、カメを鞄に仕舞いつつ愚痴るとボムが同調してくれた。ありがとうね。剣である程度制御できるとは言っても、自分でもなんとかしたい。

 その後も何度かカメに襲われつつ、食事をしたりしながら進んでいると日が暮れてきた。

「どうしようか。このままできる限り進むか、今日はこの辺りで休む場所を探すか……」

 休むと言ってもナイトがいないので結界は張れないし、座って夜明けを待つくらいなんだよな。結構カメ出てくるし。

 ボムに見張りを頼んで仮眠を取るくらいはできるだろうけど、それなら進んだほうがいいか。

 寝るなら明るい間のほうがいいだろうし。

 そう決めてボムの灯りを頼りに日が暮れて真っ暗に見える森の縁を走っていると、再びの違和感。今回は緊急に回避が要りそうなものではない。

 なんだ?

「ぷー」

 ザワザワと蠢く森を睨んでいるとボムが急かすように腰布を引っ張ってきた。どうやって引っ張っているの?

「ちょっと待って、何かいる気がするんだ。森の中を少し照らしてくれる?」

 不満そうなボムに頼んで森の中を照らしてもらうと、光が届くギリギリにちらっと動く物があった。

 髪の毛?

 慌てて追いかけるとボムが付いてきてくれたので、一瞬だけ全体が見えた。

 森の緑に紛れてしまいそうだけれど、緑の髪に緑の服を着た子供だ。俺から逃げるように暗がりの中に走って行ってしまった。

「ちょ、君! 危ないよ! 戻っておいで!!」

 追いかけようとしたら顔にボムが飛びかかってくる。

「ぷ! ぷぷ!」

「放っておけない。あんな小さな子供がこんな時間に森の中に入っていくなんて」

「ぷー……」

 どうしてボムはこんなに嫌がるんだろうか。子供は好きだろうに。

 渋々感は感じるものの森の中を照らしてくれたので、子供が消えたほうに走り出す。よりによって森の中に入っていくように走って行ってしまったから、早く見つけないと。



 子供を追いかけて、真っ暗な森の中を走る。ウェストの森と比べてもこの森は植物が大きいな。地面からちらっと露出している根っこですらも一抱えはありそう。

 子供は時々灯りの外に出てしまうけれど、ほとんど一定の距離を保ってどんどん森の内側に向かって進んでいるようだ。

 何度か声をかけているのだけど聞こえていないのか止まってくれない。もしかして俺が怖いのか? 真っ黒い鎧の大男だもんな……。魔力強化するほどではないけれど、それなりに本気で走っていても追いつけない。

『ユウ、調子はどうですか?』

 子供を追いかけているとナイトから念話がきた。

『ナイト! 子供がいたから保護したいんだけど、追いつけないんだ』

『……はい?』

『どんどん森の奥に走って行っちゃって』

『ユウ、待ちなさい。一度止まりなさい』

『いや、でも止まったら見失って』

『いいから止まりなさい』

 はい。

 真剣なナイトの声に立ち止まる。ボムもすぐに停止して戻ってきた。

『止まりました』

『よろしい。では確認しますが、子供を追いかけている?』

『うん』

 追いかけてます。

『近くに街も農村も無いのに? ましてこんな時間に?』

『……うん』

『ミスリルランクの冒険者でなければ調査もままならない女帝の森で?』

『…………うん』

『そもそもですがユウ。貴方が走って追いつけない「ヒトの子供」がいると本気で思っていますか?』

 ………………。

『俺は何を追いかけていたんだ?』

『存じ上げませんが、ヒトの子供ではないでしょうね。ボムはどうしていますか?』

『あー、たぶん、関わらせないようにしようとしてたと思う』

『ボムが正しいでしょうね』

 えーん! っていうか俺本当に何を追いかけてたの? 一気に怖くなったんだけど。後ろ姿しか見えなかったけれど絶対に見た目は人間の子供だったよ?

 ……っていうか、今まだ視界の端にいる。散々追いかけて追いつけなかったのに、止まっているのに、光の届くギリギリの場所で背中を向けて立っている。

「ぷ!」

「うん。ごめんね」

 ボムが顔にぶつかってきたので子供の背中から意識が外れた。一音なのにすごい叱られている感がある。本当にすみません。

 必死に止めてくれてたのに、子供が危ないと思ったらそれしか考えられなくなってて。最初に腰布を引っ張っていたときからあの子供が普通の子供じゃないとわかっていたんだな。

『ユウの直感は緊急性がないと働かないようですし、ボムが嫌がる様子を見せたらそちらに従ったほうがいいでしょう』

『わかりました』

 ナイトに叱られて改めて反省する。結構深い所まで入ってきてしまったから急いで外に出ないと……。

「ぷー」

 クンクンっとボムが動くのでその方向を見てみると、暗い森の中で青白く光るものがいた。

「なんだろう?」

「ぷー……ぷ!? ぷっぷっ!」

 ボムにもわからないようでしばらく見つめていたんだけど、突然ボムが大きく鳴き、俺の回りを一周してから移動し始めた。

 何かわからないけれど、おそらくこの場を離れたほうがいいと判断したんだろう。

 ボムについて走っていると後ろからがさがさと音がついてくる。あの青白いのか?

 未だに視界にチラつく子供を一緒に振り切るつもりで走ったけれど、どんどん音が近づいてくる。枝や葉が擦れるような音だけではなく、蹄が土を蹴るような重たい音まで聞こえるようになってきた。

 さすがに気になって振り返ると、やはり青白いのが追ってきているようだった。かなり距離を詰められている。

 シルエット的にはウマ?……いや、一角獣(ユニコーン)か!!

「ボム、本気で走るから道を照らして!」

「ぷ!」

 本気で逃げたほうがよさそう。ユニコーンは喧嘩っ早いって言われていたし。

 内殻変更、オリハルコン。魔力強化して加速!

 一気に加速して逃げたけれど、それでもユニコーンはついてくる。なんでよ!! ひたすらに走っていると目の前に崖が現れた。

 そのまま崖ギリギリまで方向転換せずに進み、崖の壁面に着地して90度方向転換する。あのスピードなら急に方向点検できないだろうから崖に突っ込むだろうけれど、そのくらいでユニコーンは怪我しないだろう。

 そう思って振り返ると、ユニコーンは急ブレーキを掛けて一時停止してから90度曲がって追いかけてきた。

 ウマはそんな急ブレーキ掛からないだろう!! せめて減速しろ!

 延々追い回されている内に空が白んできた。嘘でしょ。結局夜中ユニコーンから逃げるだけに費やしてしまった。

 方角的にはハーピーの崖に向かって進んでいたと思うけれど、位置の確認すらもできない。というか、途中でボムが修正してくれるまで森の内側に向かって進んでいたし。走りやすい道を選んだのは失敗だった。

 いつの間にか子供は消えていたけれど未だにユニコーンはついてくる。なんでよ、もう!!

 そのまま走っているとまた崖が見えてきた。崖にぶつけて気絶させるのは無理みたいだし、崖を登ってしまおうか。

 脚に力を入れて崖を駆け登る。これでもついてこられるといよいよ戦闘しかないか。たぶん勝てると思うんだけど、なんでかあの子とは戦わないほうがいい気がするんだよな。

 崖の上に登り切って振り返ると、ユニコーンは崖の下で止まっていた。

 薄明かりの中でも青白い光を散らして輝く体は長い角とのバランスも良くて神々しいんだけど、前脚を掻いて首を激しく振っている様子があまりにも好戦的で神秘半減って感じ。

 さすがにここまでは追ってこないようで良かった。

「びっくりした……この森ユニコーンもいるんだね」

「ぷぷ」

 完全に夜が明けてしまったけれど、仕方ない。さすがに追い回したり追い回されたりで疲れたのでどこかで休みたい。位置確認とかはあとでいいや。

 どこか休めそうな所がないか探していると大きな湖が現れた。

 ……湖、だよね? あまりに大きすぎて朝霞のせいで向こう岸が見えない。湖面が波打っているけれど崖に登って海に出るということはないだろう。

 この世界で見たどの湖よりも大きいと思う。見える範囲の湖の輪郭がほとんど直線。

 それにしても、地図にこんな大きな湖描いてあったかな?

 湖の近くは空気が澄んでいて魔物の気配も無い。ボムも危険を感じていないようだし、ここで休もうかな。

 晴れつつある朝靄の中、湖の脇に座ってナイトが用意してくれていたサンドイッチを食べる。スモークサーモンとアボカドとクリームチーズのサンドイッチ。オリーブの実をたっぷり入れてバルサミコソースで。精神的な疲労感と爽やかな食事のギャップがすごい。

 ボムにミネストローネのスープだけを飲ませていたら湖面が不自然に動いた。

 警戒態勢で待っていると、一度大きく揺らいだあと一部が沈み、そのまま沈んだ水を打ち上げるように爆音と共に巨大な柱のような生物が姿を現した。


 でっかいネッシーだ!!!


「ぷー!!」

 首長竜!! プレシオサウルス種!! 本当のネッシーがプレシオサウルスだったかは知らないけど!

 ……それにしても大きくない? 首だけで30メートルくらいない? ネッシーいくらなんでもこんなに大きくないでしょう。

 というか、この大きさ絶対に敵わない魔物でしょ。

 ぬぅ、とネッシーが長い首をこっちに向けた。あっ、どうも。

「おや、ヒトの子がこんな所に来るとは珍しい。どうしたんだい?」

 思ったよりも声が穏やか。好戦的な魔物でなくて良かった。

 首を降ろしてくれたのでこちらからも近づく。

「はじめまして、ネッシー」

「ネ? うん。はじめまして、リアムの子。イサミというのかい? ユウダイのほうかな?」

 顔は厳つい蛇みたいだな。紫陽花みたいな紫の目が可愛い。でもなんで俺が父さんの子だってバレているの? というか名前もバレている!


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