第100話 ゆっくりできない
ロボたちはビクターと一緒に獣舎でご飯を食べるとのことで、獣舎に行った。せっかくだしとビクターにスターフルーツをあげると大喜びしていた。少し緑っぽくてフルーツよりも野菜に近い状態だったけれど、しゃっくりとした食感が気に入ったらしい。
獣舎からダイナーに入り、ヴァネッサさんにテンカレのダンジョンでのことを話しつつ、レニアであったことを訊く。
「この辺りでは雪の被害はそれほどでは無かったのか?」
「ああ。いつもほとんど雪が降らないからみんな物珍しく見ていただけだよ。多少気温も下がったけれど問題ない範囲だったよ」
それはよかった。でも気温が下がっていたなら孤児院の薪の消費が激しかったかも知れないから、一旦顔を出して確認しておこうかな。
「そういえば、フィニスから連絡が来てたよ。あんたからしたら大変なことに巻き込まれたかも知れないけど、救助に参加してくれて助かったって」
「あの状況で手伝わない選択はないだろう」
良心の呵責に耐えられないです。どうにかできそうなことなら率先して手伝うようにしていきたい。
「ユウが見つけられた人数はそこまで多くないですけれどね」
「それな。みんな見つけるのが速いこと速いこと。私よりナイトやロボ、何よりもボムが活躍してくれたよ」
ナイトに言われて同意する。他の人たちは俺よりも多少土地勘があったのだとしても見つけるのが速かった。経験値の違いかな?
「それにしても、行きしなにネコちゃんを見つけられていてよかったですね。そんな大雪ではたぶん保たなかったでしょう」
「確かに。アースのお手柄だ」
最初から大きくなれたのなら大丈夫だったかも知れないけれど、遊んでいただけではあってもダンジョンに入ったおかげで大きくなれるように成長したのかも。ネコのポテンシャルが今のところ一番不明。今こそ鑑定鏡が欲しい。
「はーい! お待たせ」
そんな話をしているとナヒカさんが料理を持ってきてくれた。以前のケルピー肉でのビーフウェリントンが美味しかったので、ホーン・ブルの肉で頼んでみたのだ。やっぱり美味しそう。
「ありがとうナヒカさん」
「いいのよ! お土産ありがとうね」
「代わり映えのしない肉だが」
「この時期の肉は何より有難いよ。魔物たちが冬籠りするから獲れる量が減って高くなるのよ」
そうなのか。ダンジョンでとりあえず回収していたワイルドボアの肉がこんな風に喜ばれるとは。
「スレイプニルの肉もあるんだが……」
「それを許すと私がウィルに説教されるから止めなさい」
むぅ。
「ナイトちゃんと一緒に調理するだけならいいかしらね? それを調理できる機会なんて滅多にないから」
「調理と試食くらいでしたら大丈夫でしょう。柔らかな赤身肉でして、私もメニューの案をいただきたいですし」
まあそのくらいならいいんじゃないか、という話になった。
「ウィルはまだ帰っていないのか?」
「帝都に向かってたから、雪で足止めされてるんじゃない? それか勇者に見つかって雪対策に連れて行かれたか」
うわー。大変そう。
「シオンさんもそちらに?」
「ええ。今回は最初から勇者に連れ回されているから、行っているでしょうね。勇者パーティも総出で掛かっているらしいわ」
……父さんが出ているのにまだ解決していないのか?
「勇者パーティが出ているのに、随分長引いているな」
一週間くらいかかっている。
「自然相手だと勇者でもどうにもできないのよ。集まっていたゼウスは解散させたらしいけど、元々が豪雪地帯に更に積もっているから。地道な作業を繰り返していると思うわ」
ひたすらに雪かきを繰り返しているのかな? 除雪車とか無いから街道の雪の除去とかもか。それは一段落するまで時間がかかりそう。
「まあ、勇者たちが出ている以上今更ユウにお呼びが掛かったりはしないでしょうから、しばらくゆっくりしたら? 仕事を頼む立場でなんだけど、ユウは働き過ぎだし」
「そうか?」
別にすごく働いている印象は無いのだけれど。今回の依頼もダンジョンの中以外はほぼ移動だけだったし。移動も俺は乗っているだけだし、ロボにとっては楽しいお散歩の時間だったからな。でも、ロボはゆっくり遊ぶ時間が欲しいかな?
「まあ、そう言うのならゆっくりさせてもらおう」
ゴウルクさんの店やニケさんの店にも顔を出したいし。ロボたちが眠いと戻って来たところで解散となった。
「あ、部屋だけど、何回か換気したり掃除に入ったりしたよ」
「そうなのか? ありがとう」
部屋そのままだったな。換気してくれていたのは有難い。
翌日、朝食後すぐにウェストたちの所に遊びに行ってくると言って影に飛び込んでいったロボたちを見送り、今日は瓶の外な気分らしいボムが漂っているのを見ながら何からしようか考える。
職人ギルドにダイヤモンドを届けに行くのはゴウルクさんの所に顔を出したあとに一緒に行ってもらおうか。ニケさんの所でネコ用のお皿も買いたいし、トリィさんの店にも行ってみたい。お昼過ぎくらいに孤児院に顔を出して……。
ナイトはナヒカさんとビスタさん、そして朝一でダイナーに来たラウさんと一緒に醤油と味噌の具合を見ている。三人と一緒にスレイプニルの肉の調理もするだろう。
ビスタさんが紅茶を淹れてくれたのでそれを飲みながらぼんやりと計画を立てているとアリサさんがダイナーに顔を出した。
「すみません、ユウさん。指名依頼です……」
そんなに申し訳なさそうな顔をしなくても大丈夫ですよ。
ナイトがカウンターから肩を覗かせる。
「一緒に行きましょうか?」
「話を聞くだけなら一人で大丈夫だ。あー……難しそうな話なら呼ぶ」
「かしこまりました」
ボムは1体にまとまったうえで蛍サイズに縮んで肩に乗った。そうなるとほとんど赤色に見えるね。
ギルマスは執務室にいます、とアリサさんに見送られてヴァネッサさんに部屋に。
「ごっめんね! 昨日ゆっくりしたらいいとか言ったばっかりなのに」
ノックをして部屋に入った途端にパンッと手を叩いて謝られたけれど、気にしないでください。
「私は疲れていないから心配しないでくれ。依頼内容は?」
「クンフォからの依頼で、ハーピーの討伐ね」
ハーピーというと有翼の何かだな。
「場所は?」
「女帝の森近くの崖ね。場所が場所だからユウに依頼が来たみたい」
女帝の森は調査だけでミスリルランク案件だったもんね。その近くで空飛ぶ魔物と戦闘となるとオリハルコン案件か。
「普段はクンフォのギルマスか副ギルドマスターが出るんだけど、今ギルマスが不在だから副ギルドマスターまで外に出るわけにはいかないみたいね」
「以前から思っていたんだが、街にいる現役の冒険者よりもギルドマスターのほうが強いのは何かがおかしくないか?」
「実力主義を掲げる団体のトップが弱いと話にならないでしょ」
それはそうなのだろうけども。何かがおかしい。
なんとも納得できないでいると、ヴァネッサさんが腕を組んだ。
「ロボちゃんたちはもう遊びに行っちゃった?」
「ああ。朝一でウェストたちの所に」
「なら移動は明日からになるかしら。至急とは書いてないし、まあ問題ないでしょ。たぶんロボちゃんの脚なら2日で着くわ」
そうか。クンフォの街は結構近いんだな。
「一度クンフォの街に顔を出したほうがいいか?」
「そうね。具体的な被害状況を聞いてから動いたほうがいいと思うわ」
「なら今日中に移動を開始しよう」
「呼び戻すの?」
「いや。私一人で行く。少しでも先行していれば速く着くだろう」
子供が遊んでいるのを大人の用事で呼び戻すのは可哀想だ。でも、どうしようかな。せっかくだしバターを呼んでみようかな。
「わかったわ。じゃあ、前あげた地図を出してくれる?」
そう言われて地図を出そうと鞄に手を入れたとき、チリンチリンと窓際にあった鈴が鳴った。
ヴァネッサさんがバッと立ち上がる。
「どうした?」
「騎士団からの緊急連絡! 詳細は下に届いているはずだから、とにかく降りましょう」
「なるほど」
ヴァネッサさんに続いて部屋を出るときに仮面が鎧に変化した。部屋を漂っていたボムも慌ててついてきた。ホールに降りるとウーさんがカウンターから出てきたところだった。
「ギルマス、急いで南門に向かってください。ユウさんも」
「わかったわ」
「私もか。了解した」
ギルドを出るとヴァネッサさんが屋根を指差す。
「最短ルートで行くよ」
……やっぱり屋根の上を行くのが最短ルートなのか。屋根に登って南門へ向かう。一回跳んだだけで屋根に届いたのは俺が成長したからなのか?
南門が見えてくると、呼び出された理由がわかった。
「サウス!」
着地して門の外にいたサウスに近づく。ヴァネッサさんは騎士のほうに行ったので、とりあえず俺はサウスから事情を聞こう。
金色の翼を広げてサウスも近づいてきた。
「ユウ。呼び立ててすまない」
ふかふかの羽毛を撫でるとそう言われた。サウスが俺を呼んだの?
「サウス、というと山地の主ですね。今回はどういったご用件で?」
ヴァネッサさんも近づいてきた。門のすぐ脇では一般の人たちを脅かしてしまうので少し門から離れる。
改めて用事を訊くと、どうにも俺に頼みがあるらしい。
「私にですか?」
「うむ。最近南から保護を求めてくる魔物が増えた。話を聞く限りはどうやらハーピーに追いやられているようだから、そのハーピーをどうにかしてくれないか」
ここでもか、ハーピー。
ヴァネッサさんが顎を掻いた。
「それは……そのハーピーは女帝の森近くから来ているものかわかりますか?」
「それがわかるほど知性の高い魔物は来ていないから断言はできないが、私の山に流れてくるということはその可能性は高いだろう」
ん? もしそのハーピーならクンフォの依頼と被るか。
「私が行ってみてもいいのだが、場所が悪すぎる。おそらくハーピーたちもそれがわかっていて好き放題をしているのだろうが」
女帝の森に近いとサウスが近づきすぎると問題があるのか? ウェストがサウスの山に入ったときにギルドと騎士団が抗争かもと大騒動になっていたし、そんな感じなんだろうか。
「もし女帝の森の近くのハーピーが原因でしたら、クンフォの街から依頼を受けていますのですぐに向かいますよ」
「ほう」
サウスが翼をわさわさと揺する。
「クンフォというのは女帝の森近くにある街のことか?」
「そうです」
返事をするとヴァネッサさんが補足してくれる。
「移動に少々時間がかかりますが、ユウならハーピー討伐自体は1日あれば可能でしょうから、すぐに済むかと」
ハーピーの討伐はそんなに時間がかかるようなことではないのかな? いや、でもクンフォで詳しく話を聞いてみないと油断はできないか。俺が過大評価されているだけの可能性もある。
しかし、サウスがわざわざ頼みに来る程だし、急いだほうが良さそうだ。
ヴァネッサさんの話を聞いて、サウスが大きく頷いた。
「そうか。ヒトにものを頼むなら相応の対価が要ると聞いていたから羽根の数本でもやろうかと思っていたが、そういうことなら違う対価を」
違う対価? というか、サウスからのお願いなら無償で受けるのに。
バサッとサウスが大きく翼を広げる。
「街まで私が運ぼう。私なら今日中に着くし、街までなら女帝の不興も買うまい」
マジで?
「いいのですか?」
「ああ」
わぁい! グリフォンライド!
前脚を畳んで背中を下げてくれたサウスの背中に乗ろうとしたらヴァネッサさんに止められた。
「待って待って! 整理させて」
整理。
「サウス様がクンフォまでユウを送ってくれるのですね?」
「うむ」
「今日中に着く?」
「順当に進めば昼過ぎには着くな」
昼過ぎ! ロボで2日かかる距離が半日くらいで着くのか。
「わかりました。クンフォには私から連絡しておきます。ユウは何か急ぐ用事無いの?」
連絡? ああ、グリフォンが街の前に現れると大騒ぎか。急ぐ用事……。あ、せめて職人ギルドにダイヤモンド届けないと。グリフォンライドに浮かれすぎた。
「ナイト、今来られるか?」
「──はい。ん?」
現れたナイトは俺が街の外にいることに驚いたようだったけれど、サウスを見てすぐに状況を察してくれたようだ。
「急用ですか?」
「ああ、すぐにクンフォに向けて発つ。これを職人ギルドに届けておいてほしい。ゴウルクさんへのお土産を届けて、ついでに職人ギルドに紹介してもらったらいいだろう」
ナイトにお使いのダイヤモンドと、ゴウルクさんへのお土産に持って帰ってきていた魔鋼鉄を渡す。
「すぐに追いかけたほうがよいでしょうか」
「いや。今日中に魔物に相対することは無いだろうから大丈夫だ。何かありそうなら連絡する」
「承知いたしました」
お願いします。
「依頼はクンフォの街で正式に受ける手続きをすればいいんだな?」
「ええ」
「わかった。では、サウス。お願いします」
「うむ」
頷いたサウスの背中に今度こそ登り、ボムが俺の膝の間にお行儀良く落ち着いた。門に背を向けて走り出したサウスは数メートル進んだ所で力強く羽ばたいた。
大きな体が宙に浮き、羽ばたく度にぐんぐんと地面が離れていく。
うわこれ、楽しい!!
本人が気づいていないだけで結構な激務を受けている主人公ですが、まだまだゆっくりできません。




