第9話 冒険者
「普通グロテスクの攻撃モロに食らったら骨が折れるんだけどな。しかもあんな高さから落とされてなんで平気でいられるかねぇ。遠目だったが、落とされる前は鎧を着てなかったろう。無事で良かったがなんで無事なんだ」
「服が丈夫なんだ」
父さんが言うには。女帝の織り糸だっけ。ふぅん?と俺の服の袖を触ったウィルがバッと即座に離した。完全にイカ耳。
「お前、どっかの貴族の子息とかじゃないよな?」
何故そんな発想に。女帝の織り糸って高級品なのか?
「まさか」
むしろ貴族は避けて通りたい。
「……だよな。はぁー……もっと面倒臭いほうか。世界樹の種子を新人が持ってるなんてどういうことかと思ったが、納得だわ」
……これは、たぶんバレたな? 頭を抱えるウィルに小声で頼む。
「内緒で頼む」
「当たり前だこんな面倒な案件私の手に余る。ああもう、ただでさえ……いや、そっちはユウのせいじゃないな。失言だった。気にしないでくれ」
うん。よくわからんけど了解しました。なんか大変な仕事抱えてるのかな。
「はぁ。とにかく、登録を済まそう。武器の登録をしてくるから、剣を貸してくれるか。その間に資料を読んでおいてくれ」
「わかった」
鞄から剣を出してウィルに渡す。受け取ってギルドの方に向かうウィルの背中を見送ってから、行儀は悪いがオムレツを食べながら資料と渡された紙の束をめくる。
えーっと、長文ひらがなで読むのしんどいな!
『冒険者ギルドとは』
・国家を越えて協力する組織である
・冒険者は行為の全てを自己責任とする
・冒険者ギルドは冒険者を代表し税を納める
・冒険者ギルドは、ギルドに所属する者の権利を保証する
最後なんだ、これ。
『禁止事項』
・私闘禁止
・盗賊行為禁止
・違法行為、違法取引禁止
これはわかる。法律はいる国のものを遵守すればいいのかな。
『冒険者のランクについて』
冒険者は成績に応じてランクを振り分けられる。上から
アダマンタイト
オリハルコン
ミスリル
ゴールド
シルバー
カッパー
ブロンズ
アイアン
ストーン
ウッド
……押し寄せるファンタジー。ミスリル以上の金属初耳なんですが。ブロンズの上がカッパーってことは青銅より銅の方が上なのか。俺はシルバーランクって言われたから、ちょうど真ん中くらいだな。ランクに応じて受けられる依頼の制限があるみたいだけれど、これは実際に依頼を受けないとわかんないな、そもそも魔物がどんなのかもいまいちわかんないし。
魔物は幻想級、天災級、災厄級、災害級、特級、上級、中級、下級とランク分けされているようだ。さっきウィルはウェストが幻想級に格上げされたとか言っていたけれど、この区分のことだったんだな。幻想級ってどういうものなんだろうか。
読み込んでいるとぐったりとしたウィルが帰ってきた。どうしたの?
「ユウ、この剣」
「父にもらった」
遠い目で訊かれるくらいすごいのか、父さんの友人謹製の剣。剣を受け取りながらバレているしいいかと思って素直に答えるとまた頭を抱えられる。
「父、父かぁ……いや、確かにお前くらいの歳の子がいてもおかしくない年齢ではあるが……どこに隠してたんだよ一体……」
椅子に座りながらガシガシと頭を掻くウィルはしばらくぶつぶつと何か言っていたけれど、諦めたのか一枚の紙を指差した。最初にアリサさんのところで書いた紙だな。
「備考欄に契約随獣のことを書いてくれるか。随獣:首無し騎士・チャーチグリムって感じでいいから」
はーい。資料の端に書いてくれた手本を真似して備考欄に書き入れる。こんな簡単で良かったのか。書き込んでウィルに渡すとサッと目を通して受け取った。
「よし、これでとりあえず登録は完了だ。パーティを組んだりするともっと細かく決めるんだけどな。ユウはソロだろう?」
ソロが何かは知らないけれど、聞く限りは言葉のままの意味だろう。
「ああ。ナイトやロボもいるしな」
「ん。読んでて何かわからないところあったか?」
「この、権利を保証するというのは?」
資料の該当部分を指差せば、ウィルがああ、と頷く。
「この国ではそういうことはないんだが、差別の激しい国や地域もある。獣人は魔物だとか、エルフやドワーフは魔族だとかな。冒険者ギルドは冒険者に登録している全ての種族を平等に扱うし、そういった差別から徹底的に守るぞっていう宣言だ」
差別あるのか。言葉さえ通じるのならなんだっていいじゃないかと思ってしまうのだけれど、これは平和ボケした意見なんだろうな。
「どうやって守るんだ?」
「冒険者ギルドは国にとっても有益な組織なんだよ。税金をちゃんと納めているし、厄介な魔物の討伐も引き受ける。日々の糧を得るための魔物狩りにわざわざ騎士団を出す必要もなくなる。あったら便利、なければ不便。我々と揉め事を起こしてもいいことなんかないんだよ」
へぇ。
「それでも差別をゴリ押してくるような国からはとっとと撤退するし、嫌がらせをしてくるようなみみっちい国の支部には元オリハルコンランクの化け物じみたギルマスが赴任するようになってるしな。圧力には屈しないスタイルだ」
せっかくすごい組織だと思ったのに、最後は力技か。ストロングスタイル。いや、父さんからして腕力でどうにかするタイプっぽいけど。
「ま、基本的にはギルマスが盾になってる間に他の国に逃すって感じだけどな。あくまで我々はフリーランス。身軽さが売りだ。実力主義だから単独ではどうとでもなるがさすがに国を相手取って戦争なんて荷が重い。そんなことするくらいなら全員まとめて逃げ出すさ」
ほん。難しい話だな。
「ユウはあくまでギルド職員じゃなくて一介の冒険者だ。あんまり気にせんでいいぜ。手助けが欲しいときは頼むな」
「わかった」
ギルド職員と一般冒険者の違いが今ひとつわかんないな。社員とアルバイトって感じなのかな? 組織を運営するって大変そう。
「魔物のランクについてもいいか? 区分があるのはわかったが、どんなものなんだ?」
「んー、そうだな。大体は感覚で覚えるしかないんだが、シルバーランクが相手にするのは大体上級上位から特級下位だな。特級以上は魔法を使う魔物も指定されているから一気に難易度が上がる。災厄級までならなんとかなるが、天災級はヒト族では相手をするのは不可能だ。嵐が去るのを待つしかない」
天災級って魔物だけど地球でいう天災と同じ扱いなのかな。備えられるけど防ぐ手段はない感じか。
「幻想級は?」
ウェストが幻想級なんだよね。
「幻想級に関してはなんとも言えん。天災級より上位であり厄介ではあるが、基本的にそのランクはヒトに関わらんからな。ただ、一度動き出すと国が滅ぶ。害するつもりなくとも害を及ぼす。そういうものだ」
なんかすごいんだってことはわかった。
「ウェストのようなドラゴンは天災級から幻想級に分類されるな。ついでに言っておくがナイトの旦那も幻想級に設定された」
ナイト!!
「何故」
「首無し騎士ってのは元々天災級に分類される魔物なんだが、旦那は特別だ。天災級だったウェストと災害級のウェストの眷属たちを真正面から魔法一つで封じてみせた。ありゃあ普通の首無し騎士には不可能な芸当だ」
そ、そうなのか。すごいなとは思ってたけど本当にすごかったんだな。驚いているとウィルに胡乱な目で見られる。
「その反応を見る限り、お前首無し騎士がどんな魔物か知らないな?」
「強い妖精」
ってナイトが言ってた。ガックリとウィルが項垂れる。
「どうやったらそんな認識で生きてこれるんだよ……」
別の世界で生きてきたので! たぶんとんでもなく間抜けな答えをしたんだろう。
「いいか、首無し騎士ってのは妖精の中でも最上位に位置づけられる魔物だ。可視化した死、有形の死、目に見える終わり。呼び方はいくつもあるが、要は『死』だ」
よくわかんないです。そんな魔物だからウェストがナイトを死と呼んでいたのかな?
「首無し騎士は倒す手段がない。対策していれば逃げられるから天災級に設定されているが、首無し騎士は死なないからな」
というと?
「存在そのものが死という概念で成立している。死んでいるから死なないし、生きていないから殺せない。肉体がないから滅ぶことがない。光魔法や神聖魔法で一時的に退けることはできても倒すことは不可能だ。世界に死という概念が存在する限り首無し騎士は存在する」
は?
「不死者とは違う。あれは死んだはずのものが肉体を動かしたり、精神が地上に縛られているだけだからな。首無し騎士はそのどちらとも違う。ただ死が形を持って動いている」
……意味がわからないのですが。ナイトってそんな無茶苦茶な存在なの? 妖精ってなんだ。地球でもそういうものなのかな?
「幻想級を吹っ飛ばす勇者ですら首無し騎士は倒せないらしいからな。完全にお手上げだ。ナイトの旦那以外は見たら逃げろ。要らんことをしなければ怒らないから。何もせず速やかに逃げろ。石とか投げるなよ、全力で追ってくるぞ」
怖っ!! というか石は投げません! サラッと父さんが幻想級を倒せるって情報が入ってきたけど気にしないことにしよう。
「わかった。気をつける」
「おう。頼むぞ」
頷くと念を押された。そんな心配されなくてもちゃんといい子にします。
人が増えてきたダイナーで職種についてやパーティについて説明してもらっていると、ギルド側が騒ついた。どうしたのかと思っていると扉が開いてナイトが現れた。ああ、うん。大変な呼ばれようでしたもんね、騒つくのは当然か。ナイトの足に引っ付くようにして歩いているロボが大きな骨をガブガブしているのも気になる。
「終わった?」
「はい。気づけばグロテスク以外の魔物の解体も頼まれてしまいまして、遅くなりました。その間にロボがアイドル化していて、骨も頂いたのですよ」
そうなん……アイドル化? 何?
机の下に入り込んだロボは貰ったらしい骨に夢中だ。
「ロボにもちょっとしたお手伝いをしていただいていたのですが、気づけば皆様ロボを撫でていらっしゃいました」
「ああー……わかる。解体職なんて普段デカくてゴツい魔物の解体ばっかりだからな。ロボみたいなふわふわしたのに触る機会はほとんど無いだろうからな」
椅子に座るナイトに同意したウィルも体をずらしてロボを撫でているようだ。世界が違えどもふもふは共通の癒しなのか。可愛いが正義なのか。
「ナイト、その服は?」
帰ってきた時から気になっていたことを訊く。昔の軍の礼服っぽいけれど、左右非対称だったり、ベルトが大量に巻かれていたりと、なかなかビジュアルが怪しい。メインカラーが黒で、ラインが灰色、ベルトは黒だったり灰色だったり。左手の手袋は二の腕の半ばでベルトで留められている。ファンタジー軍服って感じだ。漫画に出てきそう。普段から露出のある服を着ているわけではないけれど、本当に1ミリも肌が見えていないのは初かも。
「服? ああ、これは私の正式装備です。これなら魔力で編んでいるので汚れても大丈夫なんです」
「首無し騎士の正式装備は甲冑じゃなかったか?」
ナイトの説明にウィルが首を傾げると、ナイトは肘をついて顎を乗せるような仕草をする。
「あれ動きづらいんですよねぇ……一々うるさいですし。なので変えました」
「動きづらそうだとは思ってたけど不満あったのか……」
「ありますよ。重いし視野は狭いですし、何故頭無いのに兜を乗せてなければならないのですか」
今まで疑問を抱かず生きてきていてなんだけれど、頭無いのに視野が狭いとかあるの?という疑問は飲み込んだ。おそらく机の向こうでウィルも同じ疑問を飲み込んでいるはずだ。
この世界の首無し騎士は地球のものとは違う感じです。




