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ほのか

何がきっかけで人生の岐路が現れるかわからない。けどそれはチャンスでもあったーーー


「こんにちは。今日はよろしくお願いします。」

橋本ほのかは担当のお客さんに挨拶をする。

「橋本さん、今日の服装可愛いですね。」

「えー、そんなことないですよー」

「いや可愛いですよー!いいなーそんな服装が似合って」

表向きはこういったやり取りをしているが、心の中ではこう思っている。

(本当はそんなこと思ってもないくせにお世辞言わないでよ)



ほのかは小さいころからこう言われていた。

「お姉ちゃんは綺麗なのに、妹はそうでもないのね」

「橋本はブスだけど、あいつの姉ちゃんは美人だよな」

親ですら

「里香は本当に美人で自慢だわ。それに比べてほのかは…」


こういったこともあり自分が美人じゃないのは痛いくらい感じてきた。

だからこそほのかはおしゃれも頑張って、人前ではなるべく笑顔でいようと心がけていた。

そうしているうちに、当時流行っていたドラマの影響もあり、ほのかは将来の夢として美容師を目指すようになった。



美容師の勉強のため専門学校に通う一方で、アルバイトにも精を出していた。

アルバイト初日が同じだった大崎彩美とは一緒に研修を受けている最中に打ち解けていく。

「大崎さんって大学生?どこの学校?」

「××大学だよ。」

「あっ!私の幼なじみもそこに行ってるよ!」

「えっ!そうなんだ!びっくり!」


その話を幼なじみの戸山千早に電話で話す。

「私と同じ日に入って来たバイトの子が、あんたと同じ大学だったよ」

「その人って女性?」

「うん。大崎って子。」

「あっ!こないだ授業一緒で仲良くなったよ!」

「まじで!?すごい偶然!」

それから次第に三人で会うようになっていった。



こないだ彩美と千早に会ったほのか。

キャリアウーマンということもあり、スーツが似合ってキリっとした美人の彩美。

もういい年なのに、相変わらずほんわかして可愛い千早。

その二人と比べて自分のルックスに自信をなくしてしまう。

ほのかも美容師という職業もあるのかおしゃれでそこまでルックスも悪くないのに、ついそう思ってしまうようになってしまった。



仕事が終わってクタクタの状態で帰宅する。

「ただいま」

部屋にはソファーに座ってTVを見ている同棲相手の吉本圭がいる。

圭はほのかの声に「…お帰り」とボソッと答えるだけ。

「ご飯は?」

「会社の人と食べてきた」

今日の朝に「今夜はカレーを作ったので食べてね」とLINEを送ったにもかかわらず。

ふと窓の外を見ると、出勤前に干した洗濯物がほったらかしだ。


圭はほのかの勤務する美容院にお客さんとして通っていた。

ある日、圭の担当者が病欠だったので代わりにほのかが担当することになった。

てっきりそれで終わりだと思っていたら、圭は担当者をほのかに変更してきた。

いろいろ話をしているうちに、プライベートでも会う約束をするようになった。

何度が会っていると圭の方から告白され、数ヶ月後には一緒に住むようになった。

最初のころは圭も家事などに協力的で、楽しくしていた。

しかしここ数年はマンネリ化してしまい、家事はおろか会話すらもろくにない。

もちろん、夜の生活もさっぱりだ。

(私たちこんな状態でいいのかな…)

一度別れ話をしようとしたが、圭が頭を下げて元に戻ろうと言った。

だが、時間が経つとまたこの状態になるのだ。

その一方で、ほのかはそんなに美人じゃない自分を気に入ってくれた彼から離れるのに躊躇している。


(このままで過ごしていくのか、でも離れようとするとすがりついてくる彼を突き離せない)


結局どうするのがいいのか、ほのかはその答えを探している。



後日、いつものように仕事をこなしていたほのか。

しばらくすると、隣の席から甲高い声が聞こえてくる。

「あー!山田さんお久しぶりですー!お会い出来て嬉しいですー!」

この声の主は、谷口末来。約一年前に入って来た後輩美容師だ。


末来は愛想もいいし、仕事にも真摯に取り組んでいるので、お客さんの受けもいい。

そのため、まだ一年ほどなのに担当しているお客さんの数も店内でトップクラスだ。


ほのかは末来に対してそんなに悪い印象は抱いていないのだが、他の同僚には冷たい視線を送っている人間が多い。

そのメンバーは、大抵末来にお客さんを奪われた人間なのだが、中には「あの声がムカつく」とか「ぶりっ子」という理由で嫌っている人たちもいる。

その辺と休憩時間が一緒になると「谷口さんって、気に入ったお客さんに手を出してんだって」「それでこないだお客さんの奥様からクレームが来たんだよね」という真意不明の噂で盛り上がっている。

ほのかはそういう話はやっかみや嫉妬から出てくると思っているので聞き流しているのだが、ある人がこう告げた。

「橋本さんも気を付けた方がいいよ」

そのときはこの言葉に大した意味があるとは思わなかったので、相手にしなかった。



ある日、圭がふらっとほのかの店にやってきた。

「あれ?吉本君久しぶり。でも橋本ちゃん今日休みだよ」

店長の神田義彦は圭にそう告げた。

それに対して圭は、「別にいいんですよ。いてもいなくても」と力ない声で答えた。

神田が「今日はどうするの?」と圭に問う。

「カットでいいです」と答える圭。

圭を席に案内したあとに、誰をつけるかシフトを確認する神田。

たまたま手が空いていたメンバーにお願いすることにした。

「はじめまして。谷口です!今日はよろしくお願いします!」

いつものように、明るく挨拶する末来。

「ああ、お願いします」



数日後の勤務終了後、ある人からLINEが来たので急いで返信したほのか。

その相手は、ほのかが誰よりも尊敬している人だった。

「橋本ちゃん元気にしている?お店大変じゃない?」

「そんなことないですよ!でも連絡いただき嬉しいです!松本先輩もお元気ですか?」

送り主は、松本健。ほのかの先輩美容師で、美容師が何たるかを指導してくれただけでなく精神的な支えにもなってくれたまさにほのかの師匠とも言える存在。

実力は折り紙つきで顧客もたくさんいたが、数年前に独立した。

「実はちょっと話しておきたいことがあるんだけど、明日とか大丈夫かな?」

「仕事終わりで良ければ大丈夫ですよ」

「よかった。じゃあ明日の夜にでも会おう」


翌日の仕事終わり、駅前のカフェで松本と待ち合わせたほのか。

「久しぶりだね!元気だった?」

「元気でしたよー!先輩も相変わらずで何よりです」

ちょっとした世間話をしたのちに、本題へと入っていった。

「あのさ、橋本ちゃんって今の店にずっといるつもりなの?」

「ええ、しばらくは…」

「もしよかったらでいいんだけど、うちの店に来てくれないかな?」

まさに青天の霹靂だった。

「うちの店も結構忙しくなってきてさ。人も何人か雇ってはいるんだけど、やっぱり信用出来る人にいて欲しくてね。まあ返事は別に急いでないからさ。よく考えてよ」

実はほのかは数日前に、店長の神田からこう言われていた。

「もし俺に何かあったら、橋本ちゃんがこの店を仕切ってね、頼んだよ」

今の店の店長と尊敬する先輩、その二人からこう言われるのは実力を認められている証拠でもある。

でもどっちを選べばいいのか、その答えが今では全く見えないほのかであった。



ある休日、電話がかかってきた。

その相手は、姉の里香だった。

「あんた今日暇?よかったら一緒にちょっと実家に顔出さない?」

そういえば、今年は実家に帰省していないと思ったので、ほのかはその話に乗った。

里香の運転する車で実家についた二人。

父親は数年前にガンで他界し、今では母親が一人で暮らしている。

「あら、二人とも来てくれたの。言ってくれたらいろいろ準備したのに」

「実家に帰ったんだから別にそんなに気を使わなくていいよ。それにそんなに長居はしないし」

母親は父親を亡くして以来、寂しくなったのか少し大人しくなってしまった。

去年ほのかが帰省したときには、年齢よりも老けて見えてしまい、心なしかほのかも切なくなった。

そんな母親に里香は自分の職場で売っている化粧品を勧める。

「あのねお母さん、このクリーム塗ったらお肌の張りがよくなるし、このファンデーションだとしわも目立たないよ」

(…なるほど。これが目的だったのか)

要するに、里香は化粧品を母親に渡すために実家に帰ってきて、自分はそれに巻き込まれただけと理解したほのかだった。



実家からの帰り道、二人で食事をしていた。

「今日は付き合ってくれてありがとうねー」

「全然いいよ。でもお母さんやっぱりお父さんいなくなってから元気がなくなっていったね」

「…そうだね。私たちも時間があるときになるべく帰ってあげようか」

「そうしよう。私も付き合うし」

そんな会話をしている中。ほのかはふと窓の外を見た。

見覚えのある二人がいた。

圭と未来。

自分の同棲相手と職場の後輩。

二人で笑い合って腕組んで歩いている。

(あんな表情…私には何年も見せてないじゃん)

「なに?どしたの怖い顔して」

里香も外をのぞく。

「…何あれ。あんたの彼氏じゃん。他の女といる」

里香は即座にほのかのスマホを奪い、二人の写真を撮る。

「ちょ、何やってんの?」

「これを見せて男を問い詰めるんだよ。あんたと一緒に住んでるのに他の女とあんな仲良さそうに会うなんてひどい」

「なんでお姉ちゃんがそこまで怒るの?」

「なんでって…当たり前じゃん!あんたは私の妹なんだし」

(そうだ、いつもそうだった。お姉ちゃんはいつも私の味方をしてくれてた)

ほのかは常に比べられるというコンプレックスから里香と距離を作っていたが、里香の方はいつもほのかを守っていた。

ある日、ほのかの同級生が里香にアタックをしていたが里香は相手にしなかった。

その理由を里香は「あんたのことブスって言ってたから」と述べていた。

(そのときと何も変わってない。お姉ちゃんはお姉ちゃんだ)

「…そうだね。ありがとう。話をしてみるよ」

「そう!悪いのは向こうなんだから負けちゃだめだよ!」



里香に勇気づけられたのもあり、ほのかは思い切って圭に聞いてみることにした。

(もしこれで終わるのであれば、それはそれで仕方がない)

そんな覚悟も自然に出来ていた。


「ただいま」

圭が帰って来た。

「あのさ、今日誰と会ってたの?」

「なに?いきなり」

「いいから答えて」

「…会社の後輩だよ」

「男?」

「そうだよ」

誤魔化す圭にほのかはさっき撮った写真を見せる。

「さっきお姉ちゃんと会ってたときに見つけて撮ったの。ちなみにこの子は私の職場の後輩」

「は?お前なにやってんの?」

「それはこっちのセリフよ。なに他の女とこんな仲よさげにくっついてんのよ。ここ数年私にはこんな表情見せてくれないしどこにも連れていってくれないし。あんたにとっての私ってなに?」

「うるせぇな!全部俺が悪いのかよ!」

ほのかに問い詰められた圭は逆切れしてきた。

「はぁ?他の女と平気で会うあんたが悪いんじゃん」

「こうさせたのは誰だよ!お前だろ?いつも仕事で疲れたと言って俺のこと拒んでるし、休みの日も友達とか家のこと優先にしてんじゃん!」

「でもあんたも家のことなにもしてくれないじゃん。だから前に別れ話したけどあんたが頭下げたから私は許したんだよ。それなのに全然変わってないじゃん」

「俺は俺で忙しいんだよ!だから俺のこと構ってくれる人がいいんだよ!」

ほのかは言葉が出なかった。

圭は思ったよりも精神的に子どもだし、このまま一緒にいたら自分がダメになってしまう。

「もう私たち本当に終わらせた方がいいね」

そう吐き捨ててほのかは最低限のものだけ持って出ていった。

部屋を出る際に圭は「どうせ戻って来るくせに」と高をくくったことを言っていた。

(そういうわけにはいかない。もうここで縁を切ろう)

とりあえず、彩美にしばらく部屋に置いてもらおうと連絡をしたほのかだった。



次の勤務日がやってきたが、ほのかは未来に会うと思うと足取りが重かった。

いくら彼氏を寝取られたとは言え、職場では絶対にケンカにならないようにと心を整えた。

と思ったら未来はいなかった。

「あー谷口さんは家庭の事情でしばらくお休みします」

ちょっとホッとしたほのかだった。


その日の閉店処理を神田と二人でしていたほのかだが、そこでとんでもないことを耳にした。

「あのさ、谷口さんのことなんだけど、橋本ちゃんは口も堅いし信用出来るから正直なことを話すね。もちろん他には内緒で」

ほのかは少し嫌な予感をしたが、何事もないように聞き返した。

「どうかしたんですか?」

「…実はね、谷口さんはお休みじゃなくて辞めてもらったの。要するにクビってこと」

「へ?どういうことですか?」

神田が重い口を開く。

「谷口さんね、あるお客さんと仲良くなったの。ほらいつもご夫婦で来ている山崎さんのご主人。ただの友達ならよかったんだけどどうやら深い仲になってしまったようで、それが奥様の耳に入ってきて店に連絡があったんだよ」

(なんかどこかで聞いたことのある話だな…)と思いつつ黙って聞くほのか。

神田が話を続ける。

「奥様は訴えるだの弁護士付けて慰謝料請求するだのかなりご立腹だったから、谷口さん本人を呼び出して詳しい話を聞いたんだけど、そうしたら出るわ出るわ、とにかく自分についた人たちと深い関係になっていったんだとよ」

同僚たちが話していた噂が本当だったと察したほのか。

「それで彼女に辞めてもらったと」

「そう。彼女一人のせいでこの店の評判が下がってお客さんが減ったら困るから」


帰り道に未来のことを考えていたほのか。

(もしかしたらあの子も圭と同じで寂しくて誰かに必要にされたかったのかも)

少し同情したほのかだが、恋人を寝取られたという事実は変わらないのでやっぱり許すことは出来なかった。



休日、彩美の部屋でTVを見たりしてダラダラするほのか。

「あ~荷物持っていかないとな~でも今日は土曜日だから圭もいるだろうし…」

実家に戻る準備をしないといけないのに、腰が重い。

「そういえば、最近千早と話してないな。こないだのランチも行けなかったし」

そう思い立って、千早に電話することにした。

「もしもし?」

すぐに千早が出た。

「もしもし千早?こないだは来れなくてごめんね」

「いや、大丈夫だよ。元気してるの?」

「まぁなんとかね。いや実はね…ちょっと事情があって今彩美の家にお世話になっているんだ」

「えっ?彼氏と一緒に住んでたんじゃないの?」

「もう別れるから。だから当分は実家に帰るつもり」

「そうなんだ…」

千早はちょっと驚いた様子だった。

その流れでなにが起きたのかというのを話したほのか。

一通り聞いた千早はこう口を開いた。

「でもなんかほのかの話聞いたら私もなんか踏ん切りがついたよ」

「は?どういうことよ?」

「あんまり深い意味はないから!じゃあお互い頑張ろうね」

そう言って電話は終わった。

(どういう意味だよ…相変わらずよくわからん子)


千早との電話が終わったあとに、ふと先日の里香との会話を思い出していた。

「でもお母さんやっぱりお父さんいなくなってから元気がなくなっていったね」

「…そうだね。私たちも時間があるときになるべく帰ってあげようか」

「そうしよう。私も付き合うし」

(…もうこのまま実家に住もうかな。親孝行も兼ねて)

しかし、そうすると今度は職場から遠くなってしまうというリスクも出てきてしまう。

実家から職場は相当離れており、電車で通うとなったら乗り換え含めて一時間近くかかってしまう。

そんな中、とあることを思いつくほのか。

「先輩のお店ってどこだったっけ」

お店を検索してみると、なんと実家からわずか一駅しか離れていないということがわかった。

「もうこれはお店を変われということなのかな…」

実は、ほのかと圭と未来の三人のことは誰が嗅ぎつけたのかすでに従業員の中での噂になっていた。

それもあり、ほのかは店への居づらさを感じていた。

そして何よりも、あの店は圭と住んでいた部屋のすぐ近くなので、下手すると圭とまた顔を合わせてしまう可能性があるからだ。

「よし!決めた!」

ほのかは一代決心をし、母親と神田そして松本の三人に順番に連絡を取った。


夜、ベランダでタバコを吸いながら今日一日のことを思い返していたほのか。

母親は「じゃああんたの部屋の掃除しないといけないじゃない」と最初は嫌味を言っていたが、「で、いつごろ来るの?」と楽しみにしている様子だった。

神田には相当引き留められたが、母親の介護ということで納得してもらい、今月いっぱいでの退職ということになった。

松本には「本当に?嬉しいよ!じゃあ来月からよろしくね!あっ、その前に顔合わせということで一度店に来てね」と大歓迎された。

「こんなにとんとん拍子で進むということは、そうするべきことだったのかな…」

事があっさりと進んだことに少し戸惑っていながらも安心していた。

そんな中、駐車場の辺りに目を向けるととある光景が写った。

(ん?あれもしかして彩美?)

駐車場に居たのは彩美ともう一人男性だった。

(あの人誰だろう…そういえば彩美今日友達と会うって言ってたな)

ほのかは目をこらすと、驚きの光景を目にした。

それは、幸せそうに笑う彩美だった。

その表情は、付き合いの長いほのかですら見たことがなかった。

(あぁ…そうか。そういうことか)


彼氏いない歴にピリオドを打った彩美。

詳しくは知らないがなにかを決断した千早。

そんな二人を見てほのかは、(私ももしかしたら転機が近づいているのかな)と感じた。

そして、これからの人生を前向きに捉えていこうとも。


「ただいまー」

彩美が帰ってきた。

「おかえりー。あのね、私やっぱり実家に帰るわ。お母さんのことが心配だし、職場も実家の近くに決める」

「え?そうなの?なんかあっという間にいろいろ決めたね」

「だからここも早めに出るね。お世話になりました」

「いや、そんなに急がなくても…」

「だって私がずっとここにいたら、あんたも彼氏を呼べないでしょ」

「…は?もしかして見ていたの?」

ほのかの爆弾発言に、顔を真っ赤にする彩美だった。



翌週、ほのかは圭と住んでいた部屋に行き、引越しの準備を進めていた。

そして引越し業者と共に実家に向かった。

母親は着いた途端に、「もう、また家が狭くなるわー」と悪態をついていたが、「今日はお寿司を取るからね」と優しいことも言い出した。

ほのかはその母親の様子を見て、(昔のお母さんが戻ってきたな)と感じた。

要するに帰ってきたのは正解だったということだ。

一緒にお寿司を食べているとき、母親はほのかにこう言った。

「なんかあんた顔変わったわね」

「え?そうかな」

「昔はなんか自信がなくて陰気な感じだったけど、今は自信に満ち溢れているいい顔してるよ」

「…だから昔私はブスとか言われていたんだ…」

「そうだよ。自信がある人の顔は違うの。それにあんたは笑顔でいるようにしていたじゃない。それもいい進歩だったのよ」

そういえば、以前母親から「自信を持ちなさい。そうすると顔に出てくるから」と言われたことを思い出した。

それを遠回しにブスと表現していた、周囲にそう思われていたということにやっと気づいたほのかだった。


一月後、新しい店に移ったほのか。

従業員はみんなフレンドリーで、ほのかもすぐに馴染んだ。

担当のお客さんも増えていき、中には前の店のお客さんがほのかを探して来店してくれたりした。


そんなある日、帰宅中にある人とバッタリ会ってしまった。

圭だった。

「…久しぶり」

声をかけたのはほのかだった。

「…ああ」

そっけなく返事をする圭。

「元気してるの?」

「元気だよ」

「そう…」

「じゃあ俺急いでるから」

足早に圭はその場を去っていった。

(えらいあっけなく終わったな…でもなんかすっきりした)



人生の転機はいつどこで訪れるかわからない。

ほのかの場合はまさに今だったのだ。

それは突然ではなく、彼女がきちんと自信をつけたからやってきたのだ。

そしてそれと同時にチャンスも訪れたのは、偶然ではない。


自信を持っている人はとにかく強い。

自分で道を切り開けるからだ。

それの機会を彼女は今手に入れて、実行に移しただけなのだ。



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