アイスウルフ
それから、一週間ほど練習するとだいぶ弄れるようになって来た。
イメージとしては、雪玉がぷにぷにボールになった感じだろうか?
かなり、柔らかくなって来たと言えると思う。
まだまだ、粘土のようにはこねこねできない。
「おぉ、かなり出来てきておるな。」
「よし、それと並行してやることがある。
それはな、観察じゃ。ちょっと一緒に来い。アイスウルフの狩りを見にいくぞ」
アイスウルフは、最初来た時にいたあの狼だった。
「えっ?それ魔物だったんですか?」
「リアム、知らずに触っていたのか?すごいなぁと思ってたんだが。」
たしかに、ウルフはブルーシルバーの綺麗な毛並みをしており、耳は水色でとても綺麗だったのを覚えている。どうやら、先生はあそこにいた魔物全部を飼ってるらしい。
ウルフの狩りを観察する前に、紙とペンを渡された。
紙はツルツルしていて書きやすそうだ。こういうのはかなり高価なはずなのだが、普通に渡して来る。さすが、金持ちだ。
「これに、絵を描いてみろ!今から狩りを行うウルフの様子を描きなさい。」
「絵ですか?」
「そうだ。魔物や動物は、獲物を仕留めるのに頭を使いいかにして効率よく体力を消耗せずスマートに
獲物を捕らえるかということを常に意識して狩りをしている。」
「そして、それは代々教え、子に受け継がれ洗練されたものになっている。動物たちは、常に獲物を捕らえることを考えて生きておるからな、我々人間のように別に狩りをしなくても生きていけるといった平和ボケした人間よりも何倍も学ぶことがある。」
「確かに学ぶことはたくさんありそうですね。平和ボケはしてるかは分からないですけど…」
「そんなもん、しとるに決まっとるだろうが。ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアーカノンなんてその象徴じゃ!ただ、まっすぐボンボンボンボン打って強いやらどうたら言ってるんだぞ。よっぽど、動物たちの方が頭を使っとるんじゃ」
「お、お怒りなんですね……」
「お前には、そうはなって欲しくない。もっと柔軟に動物達と同じぐらいしっかり魔法を動かせるようにして欲しい。」
「それで、絵というのは?」
「人間は、バカだからすぐに忘れるんじゃ。
どんなにいい狩りをアイスウルフ達がしたって、忘れてしまっちゃいけないだろう?だから、記録するんじゃ。飛び跳ねる様子、飛びつく様子、魔法を打つ様子、全てを記録していくんじゃ。簡単に書くんじゃぞ。」
「わかりました、やってみます。」
1匹のアイスウルフが、ウサギを見つけたようだ。
このウサギも、もちろん普通のウサギではなく
タッピングラビットという小刻みに左右に飛びながら逃げることで有名な魔物のラビットだ。
ラビットは、木陰に蹲って休んでいる。アイスウルフにはまだ気付いていないようだ。
アイスウルフは、風下に立ち匂いでバレないように
そろりそろりと近づいていく。
しかし、後数メートルといったところでラビットは気づきすぐさま逃げていく。
もちろん、ウルフもすぐさま追いかける。
でも、ウルフよりラビットの方が意外なことによっぽど足が速いようでどんどん距離が開いていく。
どうするのかなと思ってみていると、ウルフの周りに氷の礫が5個ほど浮かび上がる。
そして、それはラビットの方に包み込むように飛んでいく。俺はこれにはラビットも堪らないだろうと思った。
しかし、ラビットは無傷だった。
驚くことにラビットは、全てを足で弾き返したのだ。
それに気にせず、ウルフは何発もラビットを囲うようにして氷の礫を放っていく。
ラビットはどんどん、それを弾き返していくが
ウルフとラビットの間はいつの間にか狭まっていた。
そう、ウルフにとって最初から氷の礫は仕留めるためのものではなかったのだ。確かに氷の礫はラビットを仕留めることのできるほどの威力だった。それには、ラビットも堪らず弾き返すしかなかったのだ。
それによって、自分との距離が縮まることはわかりながらそれでも命を守るには返すしか無かった。
そこには、弾き返すために立ち止まる必要があり
そこがウルフの狙いだったのだろう。
一気にウルフはラビットを追い詰め、尻尾に噛み付いた
かのように思われたが、ラビットはするっと抜けて
穴の中に隠れてしまった。
ウルフの口には、毛のようなものしか残っていなかった。
残念ながら、ウルフはラビットに逃げられてしまったのだ。これこそがタッピングラビットの真骨頂。
捕まえれると思った瞬間にタップを刻んでするりと逃げてしまう。人間では捕まえることは無理だろう。そもそも、人間が狙うなら弓士が狙うしか仕留める方法はないと言われている。
「描けたか?」
先生が聞いてきた。もちろん、これはウルフを観察するためのものだから自分も狩りに見惚れていた訳ではない。
「多分、描けたと思います。」
「ふむ。 リアム、そうじゃないのだ。」
リアムは、アイスウルフが氷の礫を打つシーンを描いていた。
「リアム、そうじゃないのじゃ。確かに魔法を学ぶのだから魔法を描きたくなる気持ちも分かる。じゃが、我が言いたいのはそうじゃない。ウルフのラビットに襲いかかる時の筋肉の動かし方、飛びつき方、追い詰め方、そういうのを見て欲しいんじゃ。」
「はい。」
「それに丁寧に書き過ぎじゃ。もっと重要なところはたくさんあるしいっぱい描かんといけない。つまり、丁寧に描く時間はない。もっと迫力が出るように線で捉えるんじゃ。」
そう言って、先生が描いてくれたのを見せてくれた。
そこには10枚ほどの絵が描かれており、太い力強い線だけで描かれていた。遠くから見たら、何かわからないし芸術だ、と言われたらなるほどと思うぐらい抽象的なのだが迫力は伝わって来る。
それによく見ると、ポイントとなる足の動かし方などがはっきり分かるようになっているのだ。
なるほど、これは描けない。すごい。
「やってみます。」
次は、5匹の群れでアイスウルフで挑むようだ。
何かをリーダーらしきアイスウルフが吠えると、一斉に四方に散っていった。
リーダーらしき、アイスウルフがラビットに近づいていく。すぐに気づいたラビットは逃げていく。
それを先ほどと同じように氷の礫で足止めをして
ラビットに逃げられないように食い止める
そこに回り込んできたウルフが右と左から同時に襲いかかる、こうなるとタップしながら逃げる事は難しくなりラビットはまっすぐ逃げるしか道がない。
そこに、もう一回今度は前の方から右と左から2匹が追い詰めに来る。
さっきの2匹とは違うウルフだ。
こうなると、ラビットはどこに逃げたものかと考え立ち止まってしまった。
もう、こうなると終わりだ。すぐさま5匹のウルフに囲まれたラビットは捕まえられてしまった。
かっこいいな。徐々に徐々に追い詰めていく感じがたまらない。
「よし、リアム今回はどうだ?おぉ今回はまあまあ上手く描けたようだな。これから毎日、魔法をこねる練習と共に狩りについて行って観察しなさい。きっとそれが役に立つはずだ。」
「はい、わかりました先生。」
「うむ、では今日はこれで終わりだ。」
今日の練習が終わった時には、すっかり日が暮れていた。