10歳の旅立ち
翌日、オリバー先生のもとに向かった。
「おぉ、来たか!元気そうだな。今日からやっていくことを説明するぞ。」
「お願いします。」
「今やってる訓練はな、全員で走った後模擬試合を行ってるんじゃ。それに、参加してもらう。模擬試合はやったことあるか?」
「セレーナ姉ちゃんとちょっとだけ。勝てたことないけど。」
「そうかそうか。まぁ、セレーナは優秀だからな。じゃあ、今日から頑張ってくれ。」
セレーナ姉ちゃんが、根回しをしてくれたようでスムーズに話が進んでいく。
この2年間のことも、大丈夫なように話し合ってくれていたのだ。感謝しかない。
「よーーし!今日も走っていくぞー。あっその前にリアム君が帰ってきた。今日からみんなと一緒にやっていくからよろしくな。」
「お願いします!」
みんながパチパチ拍手をする。
自分のことは忘れてしまったのだろう。
そらそうだ。よく考えると訓練していたのは最初の1、2週間だけなんだから覚えていないだろう。
走るといっても、5歳の時のように先生の後をついていくんじゃなくて競争という形でやっていくようだ。
緊張する。
「よーーい!どん。」
先生の声と共に全員が走り始める。
村を3周すると言うコースだ。
リアムは無我夢中で走る。走る時は、考えない方が早く走れる。ただ、前に進むこれだけを考えていれば
進んでいける。
気がつけば、3周終わっていた。
順位は16人中9位だった。
ビリじゃない!自分にびっくりした。
やったー!ビリじゃないよ、と喜んだ。
後から考えると、セレーナ姉ちゃんとずっと走りっぱなしで森を駆け回っていたのだから当然なのだが
その時はそうは思わなかった。
「よーーし、回復したものから順に模擬試合をやっていくぞ。自分の木刀を持て!リアムも持ってるな」
「はい!」
当然、セレーナ姉ちゃんにもらっていた。
「おし、元気そうなリアムとライリーやってみろ。」
ライリーは、自分を馬鹿にしていたガキ大将だ。
体もがっしりしていて、肩幅もある。
リアムは、急に不安になってきた。
ぶるぶる震える。
ある意味、トラウマを植え付けた人物なのだから怖くて当然だろう。
「リアムか、よろしく!」
ライリーは、すっかり忘れているようだ。
別に忘れてるならその方がいい。
「ライリーも、よろしく」
リアムとライリーは向かい合う。
「はじめ!」
「おっし、じゃあいくぞー!」
突撃してくる。がっしりした体付きをしているからもっと遅いのかと思ったが、意外にもスピードが早かった。
カーーーン
木刀と木刀がぶつかる。
「おっ、よく受けたなぁー。」
たしかに早かったが、セレーナ姉ちゃんよりは断然遅かったので木刀の向きも方向もバッチリ見えた。セレーナ姉ちゃんではこうはいかない。速すぎて全然見えないのだ。
だが、決定的に違うところがある。
それは刀の重さだ。
木刀が重いのだ。
どんなに押しても上がらないし、逆にどんどん下に押されていく。
そらさなきゃ。
木刀の向きを変えて、力をそらして体を避けていく。
ライリーは、一歩後ろに飛んで下がる。
そして、一気に踏み込んで剣を下ろす。
強い。
リアムは、なんとかして
横に飛び回避する。
しかし、また剣が振り下され防戦一方になる。
剣を振り下されるたびにどんどん不利になっていく。
腕がどんどん痛くなっていく。
衝撃を殺すことが、まだ未熟で出来ていないため
腕が痛くて仕方がない。
最終的に、ライリーの剣を受けることが出来ず
負けてしまった。
「辞め!ライリーの勝ちー」
「よっしゃーーー!」
「ありがとうございました。」
「おお!」ライリーは腕を上げる。
まぁ、仕方ないか。
ここまで戦えたんだし、しゃあない。
ライリーに勝てなかったのは、少し悔しいけど
強いからしゃあないなと思った。
訓練が終わり、みんな自分のお家に戻っていく。リアムも帰ろうとしたが、
途中で木刀を忘れてきたことに気づき戻ってきた。
その時、こんな声が聞こえてきた。
(流石に、ライリーには勝てんか。セレーナは優秀で剣士として天才だったけれど、育てるのは上手くないのかな。リアムはそこそこだしなぁ。)
その時、はっとした。
この時、オリバー先生は誰かに言うつもりで話してはなかったのだろう。一人ごとを呟いていただけだったから。
でも、この時僕は思った。
自分はセレーナの教え子なのだと。
その自分が負けるとセレーナ姉ちゃんにも迷惑がかかるんだと。セレーナ姉ちゃんに申し訳なく思うと同時に自分の不甲斐なさに後悔した。
セレーナ姉ちゃんが悪く思われるのはなんとしてでも阻止しなきゃ。
そのためには、絶対に勝ってやる。
絶対にライリーに勝つんだと思った。
と言っても、自分はパワーでは完全に負けている。
その点はどうしても勝つことができない。
家に帰って、勝つ方法を考え続けた。
何冊もの本を開き、特に武術の本は紙に書き写し
どうやって勝つかと言う戦略を立てていった。
この頃になると本は溢れそうになっていた。
父は、冒険者として一週間ぐらい
ダンジョンに潜り村に帰ってくる。
そして、帰ってくる時のお土産として毎回本を買って返ってくるのだ。
母は、本を見るととても嬉しそうにするから父も思わず買ってしまうのだろう。
その度に本が増えていくので、本棚は本で溢れていたがその全てをリアムは読み込んでいた。
次の日もライリーと模擬試合をやることになった。
というか、走る練習をした後に平然と立っているのは
リアムとライリーだけだったからだ。
リアムは、走るのは遅いが持久力だけは
毎日の訓練の中で身につけていた。
そのため、3周ぐらいでは息も上がらなかった。
ちなみにライリーは、順位も1位である。
走れるデブは最強だなと失礼なことを考える。
「はじめ!」
その合図と共に、ライリーは昨日と同じように突進してくる。
今回は、ライリーの動きを見る。
昨日思い返しながら、考えたが
実際とは違うところが絶対にあるだろう。
右足
左足
右足
向きは右に15度!
呼吸
今!!!
剣を振りかざすタイミングを見計らって
右前に飛び出す。
やっぱりそうだ。
ライリーの足の向きは15度程度左を向いている。
つまり、右に飛び出せば剣の向きを変えても自分に当たることはない、
よし、このまま腹に一撃を入れてすり抜けよう
いけっ!
ガン
「ぐひゃっ!」
前に壁が、、、
あぁ、これは地面か
リアムはライリーに倒されていた。
状況としてはリアムはライリーに一太刀入れたが通り過ぎる時、
無防備になった背中に一撃を入れられたのだった。
普通はそこまで、反応できないし可動域がないはずだと思っていたのだが
ライリーは片手に持ち替え、背中にズドンと
剣を入れた。
片手にしてしまえば、一撃を入れることも可能だ。
「ライリーの勝ち!!!」
くっそーー
勝てねぇ。
セレーナ姉ちゃんならサッと一瞬で抜けていけるのだろうが、自分はそこまでの瞬発力はどう頑張っても出なかった。
模擬試合の勝利方法は、2つ。
一撃の強襲を入れて勝つ方法。
三太刀入れて勝つ方法。
自分は、一撃を入れれるほどパワーがないので三太刀入れなければならない。
どうやったら、勝てる?
どうやったら、勝てる?
考えろ。
………
………
………
よし!
「ライリー、もう一回やらないか?」
「おぉ、そうこなくっちゃ。まぁ絶対に俺が勝つけどな。」
「いや、次は俺が勝つ。」
「よっしゃぁぁ!!来いやー!」
相変わらず、元気な奴だ。
苦笑しながら、前に立つ。
突っ込んでくる。
それをさっきのように
見極める。
今!
ライリーの方は同じだから、見極めさえできれば
一太刀入れれる。
ここからだ!
そのまま、転がるようにして倒れる。
そう、背中が無防備になったとしても
剣が届かない位置にいれば問題ない。
そのために、腰をぐっと低くしてすり抜けるという方法が一番だと武術書には書かれていた。
しかし、それじゃあいけるか不安だったのでそのまま前に転がる。
よし、一太刀目!
「まだまだ、いくぜー!」
またしても、ライリーから突っ込んでくる。
右足
左足
右足
ん?
向きは左に15度か!
ライリーは、右に警戒して足の向きが変わった。
ということは、左に踏み込めば入れれる。
しかし、強引に足の向きを変えられれば
負けてしまう。
そのため、まず右に体を傾けてフェイントを入れ
すぐに左に飛び込む!
二太刀目!
よし、後一回。
「ふぅんんぬ。」
ライリーは、剣を横に振り回しながら近づく。
よっぽど、踏み込まれたくないのだろう。
たしかに、これだと難しい。
ここでの判断は、
距離を取ること。
ここまでくれば、後は逃げるだけでも勝てる。
卑怯だと思われるかもしれないが時間切れになれば、一太刀でも多く入れた方が勝ちだから。
勝ちは勝ちだ。
突っ込んでくるのを、サッと右に避ける。
そして、バックステップバックステップで
距離を取る。
「おっら!!!」
ライリーはイライラし始めて、すごい勢いで剣を振りかぶる。時間を気にし始めたか?
これは!
前に抜けることは無理そうだ。
模擬試合は、決闘という形式なので
フィールドが決められている。
つまり、そこから外に出てしまうと失格になる。
気をつけていたつもりだったのに、いつのまにか
フィールドの線上にいる。ライリーに押しやられていたようだ。
追い詰められた。
どうする?
どうする?
ここは、右に体を沈ませ抜けようとする。
それを阻止しようとライリーは剣を右下に構える。
その瞬間!
「辞め!!!リアムの勝ち。」
ライリーの肩に、木刀が当たっていた。
そう、右に抜けるフリをして左肩に木刀を投げていた。
それにライリーは対処できなかったのだ。
これで三本勝ちだ。
「よっし!!!」
「くっそーーー!マジかー。おい、リアム!もう一回やるぞ!」
「いや、その辺でやめておけ!リアムは倒れておるぞ。ライリーも万全の体制でやらないと面白くないだろう?」
「じゃあ、明日絶対やるぞ!絶対明日は勝つからな。」
「うっうん!」
地面に座りながら、自分は返事した。
緊張して固まっていた体がほぐれていくのがわかる。。
じわじわと心が熱くなる。
勝った。
勝ったよ!
あのライリーに勝ったよ。
馬鹿にされたのに、恨みなんて一切ないけど
あの時勝てなかった、あのライリーに勝てた。
それが純粋に嬉しかった。
そのあと、
「やるな、リアム!」
「すげーー。あの無敵のライリーに勝つなんて。」
と他のみんなに声をかけられた。
嬉しかった。
やったよ!姉ちゃん。
ありがとう。
空は祝福するかのように、綺麗なピンク色で染められていた。
そこから、早3年リアムは10歳になった。
みんなとも仲良くなり、ライリーとも切磋琢磨しながら時間が過ぎていった。今では、すっかりライリーとも良きライバルだ。
教会に行く。
「リアム君、これは珍しい!!!おめでとう。
向いている職業は魔法師だ。固有スキルは泰然自若だね。」
はぁぁぁぁ?
魔法師ってなんだよ?おもっきり、後衛職じゃねぇかよ。
というか、魔法の練習なんかしたことないんですけども、、、
神様どういうつもりです?
まぁ、自分が運動神経良くないのは知ってますけど。それなら早く言ってくださいよー
心の中で超文句を言う。
神官さんから、診断書が渡される。
適正職業 魔法師
固有スキル 泰然自若
どんなピンチの時でも、冷静になれる。
寿命5年
固有スキルのおかげか、荒れた気持ちが一瞬ですっと冷静になる。
「はぁ。」
村に魔法師なんていなかった。
当然、親もどちらとも剣士である。
魔法師は、どちらかというと貴族に多く現れるため
平民に適正職業が魔法師と現れるのはなかなか珍しいことだった。
固有スキルも微妙!まぁ、緊張して動けなくなるよりはマシだけどなんだよ!おいおいおい
先のことを考えると、リアムは頭が痛くなった。
どうやって生きていったらいいんですかーーーー?
神様!!!!