宝具専門店
ギルドを出た俺はある店の前で足を止めた。
『アーク宝具店』
大通りにある店の中でも、一番目立つところに大きく構えられている店で看板もデカデカと書かれている。
宝具はダンジョンで取れるアイテムなのだが取り扱いの難しいアイテムだ。
冒険者にとっても難しいが、それを売買する商人にとっても同じである。
一部の有名な宝具ならば冒険者も知っているが、見つかる宝具の大部分は未知のアイテムだ。
そして当然のごとく説明書が一緒に出てくるわけではないので、その性能の確認には深い知識と経験が必要とされる。
冒険者の中でも、ダンジョン捜索を専門にする人をトレジャーハンターなどと呼ぶのだが、
トレジャーハンターが見つけた宝具の鑑定をするのは鑑定士の仕事だ。
そこで、鑑定士達は自分の名前を掲げて鑑定し、いかに自分が優れている鑑定士かというのを知らせるために宝具専門店の看板には大抵店主の名前が入っている。当然、優秀であると有名になれば
たくさんの冒険者が利用して儲かるという仕組みである。
アーク宝具専門店はその数ある宝具店の中でも1位2位を争うぐらい優れている鑑定士がおり、このタンジールの町の中にあるダンジョンの宝具は大抵ここの店に集まると言われている。
そして、鑑定された宝具達はこの店に並ぶ。
俺は前からずっと宝具店に来たかった。なぜかと言うと、勇者などが出てくる物語には大抵宝具が出てくるからだ。それは剣であったり、指輪であったり様々なのだがどれも強力な力を持っていた。
つまり、ちょっとした憧れであったのだ。
年季の入った扉を開けて中に入ると、数々の宝具が
並べられていた。そのどれもが輝いて見える。
ガラスケースの中には小さな指輪などのの宝具が並べられ、壁には武器型の宝具がジャンルごとに分けられ掛けられている。
宝具には、本当に様々な形がありその一つ一つを
宝具の前に書かれた使用方法が書かれた紙をじっくりと読んでいく。
やはり、宝具は低位の物でもかなりの値段がする。
『弾石』
これは指輪型で、魔力の塊を飛ばすといったよくダンジョンで取れる宝具なのだがその一番安い宝具でも、
1万ペソ近くしている。
でも、それは当然のことだろう。ダンジョンは、何層にもなるフィールドで出来ていてそこには魔物達が人間を殺そうと待ち構えている。そして、魔物を倒すとその魔物は消えてしまい、魔石だけが残される。
魔石は、色々な武器に使われており必要になるので
冒険者達はダンジョンに潜る必要が出てくる。
しかし、はっきり言って金稼ぎは悪い。
ある程度の実力があれば生きてはいけるだけ稼げるが、依頼の方が稼げるだろう。
それでも、冒険者達が挑もうとするのは
一つは名声だろう。
このダンジョンの何階層までいったと言うことがそのまま実力として評価されみんなから尊敬の目で見られるということ。
また、一つは力だろう。
ダンジョンにいる魔物達はマナという魔素から出来ており倒すと霧散してしまう。その時に、その力が少しだけだが自分の体に染み込むのだ。そうすることで力を取り入れることができ冒険者自体が強くなることができる。
しかし、冒険者達が挑む最大の理由がある。
それは宝箱から出てくる宝具だ。
宝箱は、大抵ダンジョンの奥にありボスを倒したりした時に現れる。その中に宝具が入っているのだ。
それはどんな宝具でも貴重であり、運が良ければ
売るだけで一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入る場合がある。
まさにダンジョンには一攫千金のチャンスが眠っているといえよう。そのため、ダンジョンに挑む冒険者は後を立たない。
そんな貴重な、宝箱から出た宝具だ。高くて当然なものなのだ。
「いらっしゃいませ。お客様、何かお探しでしょうか?」
ゆっくり後ろから声をかけられる。
真っ黒なタキシードを着た、おじさまだった。上品で、それでいて胸の筋肉が引き締まっていてかっこいい。さっきのギルドマスターとは、えらい違いである。
「いや、初めて宝具店にきたんで、何か良さそうなものがないかなと思って見てたんですけど。」
「そうですか、ちなみにご予算はいくらぐらいで?」
「そうですね……100万ペソ以内ですかね。」
「なるほど、それでしたらこちらはいかがでしょう?」
そこにあったのは、
弾石と
同じぐらいの大きさの
薄い黄色にひかったリングが特徴的な
シンプルなデザインの指輪だった。
「こちらは、このタンジールが誇るダンジョン
敢闘の光の宝箱から取れたものでして魔力を込めるだけで一度攻撃を無効にできる優れ物です。」
「おお。」
「守体という宝具でして冒険者をされる方なら、一つは持ちたいものではないでしょうか?初めて使う宝具としても、癖が少なく使いやすいことで有名ですよ。」
「どうやって使うんですか?」
「ただ、指に嵌めているだけでいいんです。簡単でしょう。」
「じゃあ、買います。」
かなり守体は有名な宝具の一つでこの町タンジールのダンジョンから産出する名物の宝具だ。有用性も高い非常にいい宝具だ。
「しかし、一点だけ欠点がございまして魔力を込めるのに魔力が必要となりましてすでにこの商品にはもう魔力が込められているのですが、使い終わったら込め直す時この店に来ていただくか、魔力を込められる人を探す必要が出てきますがよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。」
自分も魔法士だから魔法をある程度は込められる筈だし、先生なら絶対こめられるだろう。先生に出来なかったら誰も出来ないに違いない。
「では、87万ペソとなります。」
かなり、高い買い物をしてしまったが満足だ。
これでも恐らく安い。なぜなら、タンジールで取れたものだからだ。この守体を他の町で買おうと思ったら100万近くいくだろう。
タンジールに来て買って正解だ。
丁寧に梱包して、袋に入れてくれた。
「有料とはなりますが、魔力の注入はこのお店に来てくださればいつでも可能ですのでぜひご利用ください。ご来店ありがとうございました。」
「ありがとうございましたー。」
丁寧な対応してくれてよかった。たしかに高かったが、またこの店に来たいと思える。
帰りにお店に売っている商品のカタログを渡してくれたので後でじっくり見よう。
早速指につけて、動き始める。淡い黄色が綺麗だ。
夕陽が綺麗な時間になってきた。
冒険者ギルドと宝具専門店で時間を使ってしまったのだろう。
闘技大会の会場に戻る。その前の通りは、屋台が並び始めている。明日のための準備だろう。
もう、開いている店もあるぐらいだ。
ふと、前を見ると何か見たことのある人がいる。白い肌に金色の髪をポニーテールにしている。かなりの美人だ。そして、腕当てには熊の紋章が見える。
「げっ。」
あぁ、サンマルティーン家のお嬢様だ。フェルナ先生と言い合ってた彼女だ。怒ってたイメージしかないからあんまり顔を合わせたくないな。
と、そっと横によろうとした瞬間に顔を上げてしまった。目が合う。
嫌な予感がする。
あっ、終わったかも。