パラダイスビーストー動物達の楽園
次の日、魔力をこねくり回していると
遂にウルフの形まで動かすことができるようになって来た。
「おっ、出来て来たか?」
広場で練習していたのだが、先生がたまたま出て来ていたようだ。
「よし、それなら次の課題じゃな。それを走らせてみろ。」
出来たウルフを走らせようとするのだが、上手くいかずそのままの形ですーと前に進んでいき大木にあたって消えてしまった。
「あぁ。」
「もう一回やってみろ。繰り返しやることでこれはそれほどやらなくても身につくはずじゃ。」
その後20回ほど繰り返し試行することで、なんとか歩かせることに成功した。
「それを飛ばしてみろ。今まで、観察して来たウルフの動きを自分のウルフに込めてみよ。」
イメージ通り獲物に飛びかかるように、動かしたいのだがまだそこまで動かすことができない。
質量が大きすぎて、まだ完全に制御できていないのだ。しかし、先生には絶対に小さくするな必ず魔物の形を取った状態で動かせと言われていた。
「先生、なんで動物の姿で飛ばさないといけないのですか?もう少し小さくすれば、もっと簡単にできるのに。」
「それが、一番魔力を動かすことにおいて手取り早く体に馴染ませることが出来るからじゃ。」
一般的に魔法は、3つの流派がある。
一つはアムール大魔法師が素と言われる一点特化型の流派。一つの魔法の威力こそが全てと考えており
いかに、魔法を強くするか研究している。
二つ目は、プーレス大魔道師が研究したとされる
多弾式連結魔法と呼ばれている沢山の魔法を生み出して攻撃する流派。そこでは、いかに多くの魔法を放てるかというのが重視されている。
そして最後がフェルナ大魔道師が生み出した流動系変軌道魔法と言われる魔法の軌道を自在に変えるとされる流派だ。
昔から一つ目と二つ目の研究はされて来たが、フェルナ先生のは新たに生み出された学問で王都では邪道ともされているらしい。
「でも、魔物の動きをそのまま真似て魔法を動かしてもすぐ対処されちゃうんじゃないですか?冒険者とかは、魔物への対処に慣れてると思うんですけど…」
「あぁ、たしかにそうじゃ。すぐに対処出来るじゃろう。だから、今までこんな教え方を弟子にしたことはないんじゃよ。だがな、動物に好かれるお前ならもう少し私の魔法を変えてくれるのではないかと思っての。お前にはこうやって教えておるのじゃ。端的に言うと、私の趣味じゃの。」
「えっ、そうなんですか?」
「そうじゃ、だからリアムが嫌なら変えてやってもいいぞ。」
「いや、今のまま教えてください。だって、最初に先生が見せてくれたあの魔物達の戦いは本当に生き生きしていてその一つずつが本物みたいで美しかった。
本当に感動したんです。それで、その時思ったんですこんな魔法を使えるようになりたいと。
だから、お願いします。このまま教えてください。」
「そうか、そうか。リアムがそう言ってくれて嬉しいぞ。本当にわれは動物達が好きなんじゃ。」
それは見ていて分かる。先生は動物達といると顔がとても優しそうになって生き生きしている。
それに、魔法も先生の魔法はウルフを生み出す一つをとっても毛並みを表すのに本当に魔力で毛を何万本も生み出して表現している。そこからも愛が窺える。
「われの魔法を使うと言うならこれぐらい出来ないとな。パラダイスビースト!」
そう言うと、フェルナ先生を中心にイノシシやカンガルーなどが現れ先生の周りには鳥たちが舞っている。
確かにこれは、パラダイスビースト
動物達の楽園だ。どの動物達も楽しそうに走り回っている。
フェルナ先生は、嬉しそうに魔力でできた魔法と戯れていた。
俺も真似して、ウルフを生み出す。
それを跳び上がらせ、観察したウルフ達の真似をさせる。一度ウルフという形や動きがしっかりしてしまうと体が慣れたようで1匹2匹3匹と増やしていかことができた。
けれど、10匹になった時に霧散してしまった。魔力を制御しきれなくなったのだ。これぐらいが今の精一杯か。
それでも、何回もウルフを生み出し、
10匹を制御できるように練習する。
同じ動きしかできないが、今日だけで10匹を動かせるようになって来た。先生の魔法を見るとやはり自分が成長するのが早くて良い。そして、自分の成長を感じれば感じるほど、もっと魔法が使えるようになりたいと思う。
その日の夕食の時、先生から話があった。
「かなり、見てない間に成長したようじゃの。リアム。本当はこんなに早く魔法が扱えるようになると思っていなかったから考えてもおらなんだが、話をしておこう。われは来週から、また出掛けなければならない。タンジールで、闘技大会があるのじゃがその審査員をやる。それについてくるか?」
タンジールとは、この国の第二の都と言われる場所で
確か大きな闘技場があり力自慢が集まるところだそうだ。
「いきます。ついて行ってもいいなら行かせてください。」
「うむ。なら、もう少し作れる魔物の種族を増やすべきだ。そうだな、この一週間以内にジャイアントホークを作れるようにしよう。それが出来れば連れて行ってやる。リアムの魔力なら作れるようになるはずだ。」
「分かりました。やってみます。」
朝から先生はジャイアントホークを呼び寄せた。
あの、広場にはいなかったものだがテイムしていたらしい。
ジャイアントホークは、鷹の魔物の一種なのだがこれがかなりでかい。高さはゆうに3メートルを超えている。そして、翼を広げれば10メートルは越しているだろう。
特徴として、ホーク種は(怯まぬ者)と人間に言われるほど怯えたりすることがない。
普通、鳥たちは獲物を狙う時が一番危なく狙われやすいと言われる。そのため、必ず他の鳥は獲物を捕らえる前に後ろを確認する。
だが、ホークは絶対に振り向かない。
自分が王者だとばかりに堂々としており、それこそ紋章にも用いられる。
そして、自分よりも大きな魔物も捉えることで有名だ。特にこのジャイアントホークは高さが5メートルになるほどのワイバーンが主食というのだからそれはそれは豪快だ。
これほど大きくなると、観察するのは難しいのではないかと思っていたが何やら先生がジャイアントホークに器具を取り付けている。
「ほれ、リアム行くぞ。」
「……えっ、どこにですか?」
「そら、決まっとるじゃろう。ジャイアントホークの狩りを観察するためじゃ。紙とペンは持ったじゃろうな?」
「乗っていくんですか?というか、乗れるんですか?」
「乗らずしてどうやって観察するんじゃ。この子はちゃんと言うこと聞くやつじゃから、心配せんでもいいぞ。」
そう言う問題じゃないのだけど。乗せてもらえると言うのなら乗せてもらおう。
取り付けられた器具に従ってジャイアントホークの上に登り座る。かなりしっかりしており、登ろうとしても身動ぎ一つせず堂々と翼を広げていた。
先生が後ろに乗り込んでくる。
「さぁ、出発じゃ。」
「このまま行くんですか?」
「何か問題でもあるか?」
「………………………いえ、なんでもないです。」
いやぁ、二つの柔らかいものが肩に押しつけられてるんですけど…
だからと言って、ジャイアントホークを操れるのは先生しかいないし気にしないようにするしかない。
冷静になれ。冷静に。
言うよりも泰然自若のスキルが効いたことによって意識せずに済んだ。
ジャイアントホークは悠々と、空を飛んでいく。
そして、ワイバーンの巣を見つけると旋回し、
一気に突っ込んでいく。
「うぉーーーーーー。」
かなりすごいし、怖いが楽しい気持ちもある。
このワクワクは、なんなんだろう。
と言っても、遊んでいるわけじゃない。
しっかりと、ジャイアントホークの動きを
紙に書いていく。最初は、分からなかったがジャイアントホークは毎回同じ角度でワイバーンに向かって飛んでいく。つまり、それが一番抵抗が少なく効率がいいのだろう。そういうところもしっかり書き込んでいく。
「おぉ、そこに気づいたか?さすがわれの弟子じゃ。それにしても少しは怖いと思わないのかね。」
「いや、楽しいぐらいです。」
「これは肝が据わっとるなぁ。」
まぁ、多分に泰然自若スキルの効果だと思うがそのおかげで不安定な状態でも怖がらずしっかり書き込んでいけるのだから有用なスキルであるものだ。
などと達観したようにリアムは考えていた。