世界魔物記
毎日、ウルフの狩りについて行き
観察して何枚もの絵を書く。
それが最近の日課だ。
面白いことに、アイスウルフが放つ氷の礫の軌道はほぼ毎回同じなのだが考えてみると
確かに一番効率よく仕留めるための方向、角度、曲がり具合それら魔法一つ取ってみても先生の言う通り
為になる。
自分の魔法をこねくり回す練習は、だいぶ進んできて
何となくの形まで動かすことができるようになってきた。
あの日の次の日から、フェルナ先生は用事があったらしく5日ほど帰ってきていないが一人で観察しとけよっと言われていたので気にせず、ウルフ達についていっている。
しかし、今日はウルフ達の狩りもお休みだ。
なぜなら、雨がザーザー降っており狩りはしにくく
動物も出てこないからウルフ達も休むようだ。
というわけで、ここに来て初めての休日を過ごしている。と言っても、魔力をこねる練習はずっとしている。しかし、そればかりしていても面白くない。
何かないものかと思っていたが
サムさんがそれでしたら、本を読んではいかがですか?と言ってくれたので
世界魔物記という本を読み始めた。
これは魔物の生態などについて書かれている本で
外見の特徴から好きな食べ物、生態などさまざまなことがこと細かに書かれている。
この本は、ファーブ・ルダーという冒険者が書いたとされる超大作で上下巻からなる分厚い本で冒険者ギルドでも正規に採用されている一番魔物に対する知識を得るのに最適な本とも言えるだろう。
そのかわり、異常に高いため自分の家には当然なかった。
例えば、アイスウルフの項目を見てみると
まず挿絵が描かれている。
そして、
主な生息ダンジョン
・凍原の第三ダンジョン
・銀氷の彫刻ダンジョン
・美鏡の城ダンジョン
・白明の雪ダンジョン
・冬将軍の志ダンジョン
主な生息地
・クラシス山脈
主に集団で生活し、バイソンやラビット種を狩って生活している。また、氷魔法を使うのが得意である。
アイスウルフは美しいシルバーブルーの毛並みをしており、その毛皮は水属性と氷属性を持っているためレザーアーマーとして使用される。
危険ランク・個体 Dランク
・群れ Bランク
備考:ウルフ種は、特に群れでの連携を得意とするため
Bランクのパーティーで仕留めにいくのを勧める。
個体でいることは、あまりないがそうしたはぐれ個体は弱いのでDランクでも倒せるだろう。
といった感じで詳細に説明されている。
やはり、ダンジョンに生息することが多いようなのだが先生の所にいるアイスウルフ達はどうしてこんなところにいるのだろうか?別にここは寒い場所というわけでもないのだが、さすが先生といったところか。
早くこんなふうにカッコいいウルフを生み出せるように魔力をつくりたいものだと思いながら、
どんどん読んでいく。
一応説明しておくと、BランクやDランクというのはパーティーを組んで倒す時の目安である。
パーティーは大体5人から6人というのが普通で
その中でも毎回おんなじメンバーでやるのを固定パーティー、違うメンバーで組むことを臨時パーティーという。
もし、一人で倒そうとするとその個人の職業などにもよるが一般的には一つ上のランクならクリア出来るといわれている。つまり、アイスウルフの群れを倒すならソロでAランクの実力がいるということだ。
このランクというのは、危険ランク=冒険者ランクという風に考えていい。俺はまだEランクだから倒せないだろう。倒すつもりもないが…
ちょっと読めば分かるが、先生の所にいた魔物達はさまざまな場所つまり違う場所で発見されるものばかりだ。特にダンジョンに住んでそうなものが多いのだが、どういうことか?
多分予想にはなるが、テイムしているのだろう。
普通ダンジョンから外に魔物を出すことはできないし、倒すと消滅するらしい。無理やり生きたまま、魔物を外に出そうとしても絶対に出せないらしい。
しかし、テイムしてしまうと外に出せると言われている。テイムすると言ってもなかなか難しいらしいが、先生ならできるのだろう。
それにしても食事などはどうしているのだろうか?
そのまま放置していたら生態系が壊れそうなものなんだがなぁ〜と無駄なことを考える。
そうこうしている間に時間が経ってしまっていたようで窓から真っ赤な夕日が差し込んでくる。
そしてその反対には、綺麗な虹がかかっていた。
集中して読んでいる間にいつの間にか晴れていたようだ。
空気を吸いに外に出ようと1階に降りると
声が聞こえて来る。
「どういうつもりよ。この私を差し置いて弟子を取るなんて理解できないわ。私の家がどこか分かってしているのよね?」
「お前はまだ分かっておらん。試験に合格出来たら見てやると言っておるだろう。」
おっ、どうやら先生が帰って来たようだ。
それで話している相手は誰だろう?
女性のようだが、えっと〜
鎧の上には熊の横顔が描かれた紋章があった。
確か、貴族名鑑に載っていたはずだ。
あの紋章を見たことがある。
そうだ、サンマルティー公爵家だ。
貴族の紋章はその家その家によって変わって来るが
魔物や動物がモチーフになっていることが多い。
確か、サンマルティー家はもととなった動物な確かブラックベアという魔物だったはずだ。
「そこにぼさっと立ってるやつ。何見てるの?」
どうやら、見つかってしまったようだ。
「すいません。」
「あんた、見ない顔ね?あんな奴フェルナ、雇ったの?」
「あぁ、リアムか…われは雇ってないよ。」
「じゃあ、何よ。まさか、彼が弟子って訳じゃないでしょ!」
「その、まさかだ。彼が、私の弟子のリアムだ。」
「冗談じゃないわよ。私は貴族よ。それなのにそんな平民なんかを弟子にするなんて考えられない。」
「だから、分かってないといっておるのじゃ。」
「何がよ!私より断然弱そうじゃないの?どういうつもり。」
「彼には才能があると思ったんじゃ。何よりわしが気に入った。それだけじゃ。」
「何よ、私に才能がないって言いたい訳?そんなに私が気に入らないなら勝手にすればいいわ。
お父様に今回のこと言いつけてやる。」
「別にわしは困らんよ。勝手にすれば良い。」
「………………………ふん。」
口を噛み締め、こちらを睨んで行ってしまった。
「あぁ、リアムすまぬな。本当は私の気に入った奴しか弟子に取らないんだがサンマルティー家には恩があってな。あいつの父親に頼まれてしもうたからの。
とりあえず、試験に合格したら見てやると言ってあったのだが、不満があったようでな。」
「いえ。たしかに自分より下の身分の人間が弟子になったら嫌でしょうですし。」
「そういう、貴族の傲慢な考え方がわしは好かんのじゃ。なんでもかんでも、貴族だから偉そうに偉そうにする。貴族になれたのはお前の力じゃなく、お前の父親だろうに胸を張って誇る。それだけならまだしも、平民を下に見るのは胸糞悪くて仕方がないわい。」
たしかに、先生はそういうのが嫌いそうだ。
普通は貴族と聞いたらよいしょしそうなものだが、
先生からは全くそんな感じもしないからな。
「はぁ、あいつの父親はまだ良い奴だったのだがな。娘の育て方は間違ったか…」
「はぁ。」
何か、これからも絡まれそうな気がしてならないと思うと少し気が重くなる。