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幼少期

大魔法師になる少年の成長物語です。

どうぞ、この作品をよろしくお願いします。


沢山の子供たちを乗せて馬車はゆっくりと動き出す。


リアムは、「はぁ。」とため息をついた。

その顔は、憂鬱な表情の中に少しの期待と少しの興奮が混じっていた。


リアムは、この村でのことを思い出していた。


この世界の子供達は

5歳と10歳になる時、村の教会に行く。

将来その子の向いている事、向いてる仕事を診断をするために。


5歳の時にわかるのは、おおまかなことだけ。


   戦      生      接


この三つのうちどれかを神官さんがことよみというスキルで教えてくれる。


これはそれぞれ、戦闘に向いている、生産活動に向いている、接客業に向いている。


ということがわかる。


こんなこと分かって何になるんだと思うかもしれないがこれが重要で、これを基準に村の中でどういう教育をして行くかが変わってくるのだ。


戦闘なら、村の狩人や冒険者の元で修行する。

生産なら、農民などの元で農作業をして技術を身につける

接客なら、商人の元で人との繋がりを築いていき

将来に備える。


別に5歳からやらなくても、とかそんな生き急がなくても、と思う人もいると思う。


しかし、この世界は残酷だ。


何もせずに生きることはできない。

正確に言えば、しっかりと自分の出来ることを

やらなければ死ぬのだ。

何もしなければ15歳で死ぬ。

それまでに寿命を伸ばせるだけ頑張らないと死ぬ。


それは子供でも、大人でも関係ない。


これがこの世界の常識である。


10歳になるとより細かい自分に向いた職業がわかる。

そして、固有スキルが与えられる。


それを持って、子供達は人間として認められ

そして、働かなければ死ぬようになる。


こういうと、厳しく思うかもしれないが、そこまで厳しくはない。


死ぬことを食い止める方法は、たくさんある。

商売をしてもいいし、農業をしてもいい、村を襲う魔物を倒してもいいし、お金を教会に払ってもいい。

とても、高いが寿命はお金で買える。

また、神を信仰することは人生を豊かにするとも考えられている。


ただ、神は怠惰であることを許さない。

ニートであることは許さない。

それだけのことだ。



自分は、はっきりと話せる子ではなかった。

どちらかと言えば寡黙で本を読むのが好きだった。


当然インドア派で、ずっと家に篭って

親が昔から持っていた本何冊かを何回も何回も擦り切れるまで読んでいた。


本は、かなりの貴重なものであったが

お母さんが本が好きなお陰か、何十冊もの本が家にあった。


母も父もどちらも、冒険者であり二人はパーティーメンバーを組んでいたらしい。そこで徐々に惹かれあって結婚し村で育てることにした。これも母が、育てるなら都会より村の落ち着いたところがいいという教育方針らしかった。


母は、小さい時から本を読み聞かせてくれそこから、自分で読むようになった。


この時自分は、5歳になったら教会に行くんだよということが教えられていて小さいながらにも

あぁ、自分は生産系の仕事につくのだろうなと思っていた。


接客なんて、引っ込み思案な自分には無理だし

戦闘なんてもってのほか。


と考えると一人で黙々と生産するのがいいだろうと思った。


それを信じて疑わなかった。


当日、村の子供達と共に教会に行き順番に神官に呼ばれていった。


そこでこう言われた。

「君は戦という文字が出ている。」

「冒険者になるのがいいだろう。」

「じゃあ、冒険者のオリバーさんと狩人のルーカスさんのところで教えて貰っておいで。」


はっ?戦?いやいやいや無理だって。

戦うことなんかできないよ。


自分の適正を教えてくれるんじゃなかったの?

急に、地面が反転して足元がしっかりしないような気持ちになった。


困惑しているのが目に見えていたのだろうか。

「心配ないさ。オリバーさんたちは、しっかり教えてくれるから。」


いや、そういう問題じゃないよ。


と思いながらとぼとぼ教会を出る。


嫌だった。


翌日、

オリバーさん達の元で指導が始まった。

他の子供達は、とても嬉しそうにはしゃいでいる。

やったー!俺は冒険者になって勇者になるんだとか

言う声も聞こえてくる。


指導といっても、5歳の子供に何か急にできるようになるわけではない。


そのため、まずは走るということから始まった。


「よーし。ついて来い。この村一周するぞー。」そう言って走って行く。


「「「はーーーい!」」」


みんな、ワイワイ言いながらついて行くが

自分だけはどんどん遅れて行く。


当然だろう。

本当に苦手なのだ。


俯きながら、走る走る走る。


しかし、気持ちとは裏腹にみんなとはどんどん離されていく。


そして、誰も見えなくなり、自分一人になっても走った。孤独が襲ってくる。急に怖かなってきた。その辺に生えている木が襲い掛かってくるようなそんな不安に見舞われた。


必死になって走ってみんなの休憩している所に追いついた時、


「おっせーーー!」

と誰かが言った。

それに続くようにして

「ワハッハッハッハッハッ」

と、みんなが一斉に笑った。


自分は、恥ずかしくて恥ずかしくて堪らなかった。

何も言い返せなかった。

そして、そのまま動けなくなった。


その日から毎日走るという修行があった。

しかし、自分はいつもビリ。

当然だろう。

全員、運動が得意な子ばっかりが集まっている。


「やーーーい、のろまやろう。今日もビリか?」


いつのまにか、リーダーになっていた子が笑いながら叫ぶ。

それにつられて、みんなが笑う。


あぁ、嫌だ。

なんで神様はこんなことをするのか?

僕は悪いことをしたんだろうか?

神様は間違ってる鑑定を出しているんだろうか?

と考えた。


もう、神様なんていなければいいのにと思った。


クソやろう。クソやろう。クソやろう。


そして、時間が経って冷静になると

自分が嫌になる。

神様のせいにしているということが分かるから。

あいつがのろまって言うからとか、神様が(戦)って言う鑑定を出すからとか考えていたことは全部自分が嫌なことから逃げているだけだって気づくから。


そんな自分が嫌いになっていった。


毎日練習していても辛いだけだった。


そして、徐々にやつれていった。


しんどくてしんどくて、たまらなかった。


そして、遂に修行するのをサボった。


村には、村に面していて森にちょっと入ったところに

湖があった。


そこで、湖に映る自分をぼーーと眺めていた。


そこには、まるで幽霊のような自分がいた。

まるで、死んだ亡霊のようだと感じた。


あぁ、死ねば楽になるんじゃないか?

そう、思った。


湖に入って溺れて仕舞えばいい。


もう何もできない自分なんて嫌いだ。


もう、無理だよ。

もう、疲れたよ。

もう、いいや。


足を一歩踏み出す。

ふらついている足を前に一歩ずつ出していく。


その時、腕をぐっと引っ張られた。

「危ないよ!」


引っ張られた反動で尻餅をつく。


見上げると、そこにはひまわりのような笑顔の

目がくりんとした可愛い少女がいた。


「湖に入ろうとしたら危ないよ!ダメだよー。」

「………」

「私の名前は、セレーナ。君の名前は?」

「……リアム。」


「へぇーいい名前だね。」

びっくりした顔を自分はしたと思う。

名前を褒められたのは初めてのことだった。


「どうして、こんなところにいたの?」

セレーナはニコニコした顔で聞いてくる。


しかし、答えれなかった。

口から言葉が出ようとするけど、出ないのだ。

いっつもそうだ。

オリバーさんにも喋らないと何も分からないよ!ってよく言われているけど。どうしても言葉が出ない。

あぁ、嫌だ。

無愛想な子だと思われる。

一杯言いたいことはあるはずなのに

言えない。


そのまま、時間だけ過ぎていく。


泣きそうだった。


でも、セレーナさんはそのまま座って話しだすのを待っていてくれた。


自分の手を握ってくれる。

すると、なぜか徐々に落ち着いていった。


「あのね。………」


「うん。」


「走るのが……苦手で、ビリにね、」


「うん。」


「なっちゃって…みんなに………えっと、そのー、…のろまって…言われて、笑われて、でも……頑張っても無理で」


頼りない言葉を一生懸命に紡いでいく。

それをうん、うん、とセレーナさんは根気よく聞いてくれる。


「で、神様のせいにしたりその言ってくる子のせいにしたりして。…でも、そうしても何にもならなくて

で…本当は自分が人のせいにしてるだけだっっ、ひっく、って、おもっで づらくで、づらくて

自分がいぃいぃやで、ひっくひっく。」


「いいよ、泣いても。辛かったんだね。」


「ひっく、はっ、はっ、はっうわぁぁーーー。

じぶんが、だよりなっなっなぁっっくてひっ、ひっ

ぐやしぐでぐやしぐでぇ、へっ、へっ、へっはずかしくてっ、てっ、ひっ」


「うんうん。大丈夫だよ。もう無理しなくていいよ。」


背中をゆっくり撫でてくれる。


その間、周りの空気はは見守るかのように

二人の間を、温かい風がそっと駆け抜ける。


いつまで、そうしていただろうか?


太陽はもう傾き、夕日が湖を照らしていた。

空は、薔薇色に染まり湖はキラキラと夕日を反射していた。


「落ち着いた?もう、無理しなくていいんだよ。」

「それに、死んじゃったらもう終わりだよ。死んじゃったらもう誰とも会えなくなるんだよ。」


「…………お母さんとも?」


「そうだよ。それに、お姉ちゃんとも会えなくなるよ。それは寂しいな。」


「………うん。」


リアムは、こくんと首を動かした。


「じゃあ、約束だよ!絶対に死のうなんておもっちゃダメだよ。」

「それに、無理しちゃダメ。今日からは毎日、ここに来て!私がいるから。ここなら来れるでしょ?」

「うん。」

「じゃあ、それも約束ね。」

「ありがとう…その、付き添ってくれて…」

「いいんだよ。なんかあったらお姉ちゃんが聞いてあげるから。」

そう言いながら、髪の毛をわしゃわしゃわしゃと撫でた。リアムは、嬉しかった。

こうして、その日から毎日湖に行くことになった。

と言っても、そこで何かをした訳じゃない。

ぼぉっと、セレーナ姉ちゃんと湖を眺めていたり

家から本を持ち出して、そこで読んだりしただけの日々だった。


それは、とても楽しい日々だった。

生きていてよかった。本当によかったと思う日々だった。そして、セレーナ姉ちゃんといると心が暖かくなった。


ある日、セレーナ姉ちゃんはこう言った

「リッくん。運動が苦手なんだよね。」

「うん、苦手。」


この頃になると、しっかり話せるようになっていた。

話すことにだんだん慣れてきた。

セレーナ姉ちゃんに限ってのことだったけれど。


「みんなはさ、訓練して頑張っているからどんどん、離されていってると思わない?」


リアムは、びくっとした。

セレーナ姉ちゃんが、訓練に戻らないといけないと言ってるんだと思った。

あの、辛い日々に戻らないといけない日が来てしまったのかと。


「そんなにびくびくしないでいいよ。戻ってなんて言わないから。」

「本当に?」

「もちろん、本当。

でも、離されていってるって感じない?」


「…うっ、離されていってると思う。」


「だからさ、苦手でもいいから私と一緒に修行しない?」

「えっ、姉ちゃんと?」

「ちょっとでも、動かしていくのが大事だと私は思うの。だから、一緒に練習しよう。」

「うん。」


その日からちょっとずつ、一緒に走っていった。

最初は、ぎこちない動きだったけれど

もっと力抜いて、もっと足を踏み出して

っとセレーナ姉ちゃんに教えてもらうたびにちょっとずつちょっとずつ走れるようになっていった。

一日中走れっていることもあった。


だんだん難しいことをやっていき、

腹筋や背筋、素振り練習など

どんどんやることが増えていった。


それでも、前みたいに嫌いで嫌いで仕方ないと言うことはなかった。


時には、辛くて辛くてどうしようもないこともあった。けれど、姉ちゃんに恥ずかしい所を見られたくないという一心で頑張った。


それに、どんなに小さいことでも褒めてくれることは大きかった。おっ、前よりも早くなってる!

と言われるとうれしかったものだ。


そして、泣きそうになった時は

「泣きそうになった時が多いほど、成長してる証。

それを乗り越えた時絶対に道が開ける。

リっくん、あきらめないで!」

こう言ってくれた。


あの日から約2年が経ち、セレーナ姉ちゃんは

教会に行った。10歳になったのだ。


「今日から、私は帝都に行って冒険者をするわ。」


ちょっと前から、聞いていた。

冒険者として、頑張って行くから

リアムは、みんなと一緒に訓練に戻るんだよっと。


「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫。

私と一緒に訓練したでしょ。だから、自信を持っていいんだよ。それと同じことをやるだけだから。」


「リッくんならやれる。私は心の底から応援してる。」


「リッくんも冒険者になるんでしょ、だからさ

リッくんが10歳になったら私を迎えに来てね。」


「うん。」


「約束だよ!」


「うん、約束。」


「はい。」


「これは?」

リアムの手には、丸い玉が握られていた。


「お守りだよ。もし、何かリッくんがピンチでどうしようもない状態になったら敵にこれを投げつけて!!!きっと守ってくれるから。」


「ありがとう。」

「ふふっ」そう優しげに笑うと頭をクシャクシャと撫でて、馬車に乗り旅立って行った。


リアムは寂しかったが、頑張ろうと思った。

絶対に迎えにいくんだと。

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