暇つぶし
シャカシャカシャカ!
ガラガラ…ペッ!
ローラが洗面台で歯みがきをしているのを、俺等は静かに見ていた。
あれだけ食ったあと、真っ直ぐに洗面台に向かったローラは、徐ろに歯ブラシを手に、歯みがきをしだしたのだ。
「言われなくても食後に歯みがきするなんて、ローラちゃんしっかりした良い子ですね!」
「そうだな!」
鏡で自分の歯を見ながら、念入りに歯を磨くローラ。
聞くところによると、前に虫歯になって酷い目にあったので、それ以来、歯みがきを怠らなくなったのだとか。
それを聞き俺も、子供の頃を思い出した。
歯みがきを怠けたお陰で、酷い虫歯になり、親に歯医者に連れて行かれた。歯ぐきに麻酔を打たれたり、ドリルで歯を削られた事がフラッシュバックした。
「……」
「どうしたんですか、タイガーさん⁉」
「大丈夫、何でもない…」
フラッシュバックが原因で俺の顔は、顔色が悪くなったようだ。
俺は、歯医者の独特の雰囲気・匂いそして、特にドリルの音が苦手だった。
こっちの世界では少なくとも、ドリルの音とは無縁だ。
が、その分治療法はアナログだ。抜歯しても、インプラント何て無いし、差し歯や入れ歯も、この世界にも一応あるらしい。が、質はあまり良くなく、恐ろしく高いと聞いた。
それ故、俺も歯みがきは念入りにしている。
等と、つまらない話はこの辺にしといて、
「さてと、次は何しよっか?」
「うーん、そうだね…」
と、歯みがきから戻って来たローラが、リリーナと話している。
「探検は一通りしちゃったしね…」
「どうしましょうか、タイガーさん⁉」
「そうだな…」
少し前にも言った通り、この船には遊び道具は殆ど無い。数少ない中で、子供と出来そうなのは…
「じゃあ、トランプでもすっか⁉」
「そうですね、それにしましょう。良いローラちゃん⁉」
「うん、いいよ!」
手なわけで、トランプで遊ぶこととなった。トランプは、この食堂の棚にあった。チェスの盤と共に(駒は全部なし。シェフによると、酔っ払ったやつが海にばら撒いたらしい)。
シェフに了承を得て、食堂の端のテーブルを借りてやることにした。
「ここですっか…って、何かあるぞ⁉」
テーブルの下に何かあるのに気がついた。
見ると、それは空いた瓶だ。空き瓶が木箱に沢山入っている。瓶の口にしてあったと思われる、コルクも沢山あった。
シェフによると、空になった酒瓶や調味料類の瓶をここに纏めてあるらしい。
まぁ、大して邪魔にもならないので、俺等は気にせずトランプを始めた。
「え~と…コレだ!って、またババかよ~!」
「あたしの番ね。コレ!よしあがり!」
「ふふふ、またタイガーさんビリですね!」
「…ババ抜きは辞めだ!次は大富豪だ!」
そんな感じで、トランプを続けた。
たまたまなのか、トランプのゲームのやり方は、コッチの世界でも大差がなかった。
「8のペア!」
「Jのペア!」
「パス…」
「ラスト5!ホイあがり!」
「タイガーさん、またまた大貧民ですよ!」
「……つ、次だ!次はポーカーだ!」
船や港でやるトランプと言ったら、俺の中ではポーカーが、ど定番だった!
で、結果は…
「よし、Aのスリーカード!どうだ‼」
「…フルハウス!」
「ストレート!」
「フォーカード!」
「………」
俺は一気に力が抜け、テーブルに顔を埋めた。
「またお兄ちゃんが、ビリだね!」
「弱っちいなタイガー!」
「うるせー…」
俺は小声で言った。
ババ抜き・大富豪・ポーカー。全て俺がドベだった。子供相手だからと、決して手を抜いているわけではない。全て本気だ。それでこの結果だ。
そう、自分でやろうと言ったものの、俺は昔からトランプの類はめっぽう弱かった。そういう性分なのだろうか…
こっちの世界に転生しても変わらずとは…
最初はルールもろくに分からないでいた、レオにもすぐに追い抜かれた。
「トランプもうやめよう!お兄ちゃんがビリばっかでつまんないよ!」
「だな!」
「ビリばっかで悪かったな…」
「この後はどうします?夕飯までまだ時間ありますよ⁉」
「そうだな…」
まだ暇を持て余している。
後あるのは、チェスの盤ぐらいだ。まぁ駒があっても、レオとローラにチェスはまだ早いけどな。
解りやすいルールで遊べる者か…
と、考えながら俺が何気なく足を動かすと、靴で何かを踏んたのに気が付いた。
それは、先程見た瓶のコルクだった。
何かのはずみで、木箱から出たようだ。
「……」
コルクを手で摘み、チェスの盤と共に眺めた。
次の瞬間、ひらめいた。
「コレだ!」
「!また何か思いついたんですか⁉」
「ああ!リリーナも少し手伝ってくれ!」
「は、ハイ!」
大量のコルク・シェフに借りたナイフ・そして船長室から借りたインク。それらを用意し、テーブルに並べて、俺とリリーナは作業に取りかかった。
「何する気お兄ちゃん達⁉」
「少し待っててくれ!今から、面白いゲーム作るからよ!」
そう言って俺等は、黙々と作業を勧めた。