食堂にて
「まだかぁ?」
「もうすぐだから、静かに待ってなさいよ!」
レオとローラが、食堂のテーブルに並んで座っている。
レオは足をバタつかせている。
それに対してローラは、大人しく待っている。
傍から見れば、大人しい姉と落ち着きのない弟といった風に、姉弟に見えるだろう。
「ふふ、あの子達丸で姉弟みたいですね⁉」
と、リリーナも同じことを思っていたようだ。
暫くしてからシェフが2枚の皿を両手で持って着た。
「おまち!」
そう言ってシェフは(ローラがシェフと呼ぶので俺もそう呼ぶことにした)、レオの前にパスタが盛られた皿を置いた。レオが何でもいいと言うので、お任せで出された。
置かれてそうそう、レオはパスタを口に掻っ込みだした。
「うん、ウメーぜおっさん!」
「ありがとよ!って、俺まだ20代だぞ…」
うまいと言われつつも、おっさん呼ばわれされ、シェフは嬉しさ半分寂しさ半分といった感じの顔をした。
それからもう1枚の皿をローラの前に置いた。
ローラの前に置かれた皿には、小さめのパン(元の世界のバターロールに近い)が3つばかりと、ジャムやバターが添えられていた。
「ローラちゃんあれだけ?」
「随分と質素だな…」
等と、俺等が話していると、
「甘いな!」
メットがいきなり話に入って来た。
「メットさん!」
「何時からいたんだ⁉」
「ほんの少し前からだ。それよりも、今も言ったが、あんた等、考えが甘いぜ!」
「どういう意味だ?」
「見てりゃわかる!」
と、俺等はローラの方に視線を戻した。
「お嬢、何時ものように最初はこれでいいっすか?」
「うん!」
そう言うとローラは、パンを手に取り、スプーンでジャムとバターを塗って食べ始めた。
「最初は?」
最初という単語が気になった。
俺等の疑問を他所に、ローラはパンをあっという間に食べ終えた。
「シェフ、次お願い!」
「ヘイ!」
「えっ、次って…」
パンを食べ終えたローラは、間髪入れず、シェフに次の料理を注文をした。
次に運ばれてきたのは、ピラフだった。エビがたっぷりと入っているシーフードピラフだ。
「あ~ん!パクパク……次!」
これまたローラは、あっという間に平らげてしまった。
その後も、ローラは運ばれて来る品々を、瞬く間に平らげていった。
俺とリリーナは、その光景をあ然として見ていた。
「ローラちゃん、スゴい食欲…」
「あの小さな身体の何処に入ってんだ⁉」
「だから言ったろが⁉甘いって…」
「もしかして、ローラって大食いなのか⁉」
「あぁ…」
メット曰く、ローラはとんでもなくよく食べるらしい。普段から、成人男性の倍は食うとか…
「信じられない、最初にパン食べたのに…」
リリーナは、未だに目の前の光景を受け入れられない様子だ。
「あのパンは言わば前菜だ!」
「前菜!」
「そっ!お嬢はまず初めに、パンかライスで胃を慣らしてから食うんだ!」
「シェフが言ってた「最初は」ってそういうことか…」
疑問が晴れた。が、特に満足感は無いが…
で、その後も食べ続けるローラ。あまりの速さにシェフの調理が追いつかず、急かされだした。
「シェフが浮かない顔してたのはこういう訳か…」
「いやソレもあるが、理由は他にもあんぞ!」
「まだあんの?」
等と話しているうちに、ようやくローラは食べ終えた。
「ふ~、ごちそうさま!」
と、手を合わせ行儀よく言うローラ。
彼女の目の前には、食べ終えた皿が積み重なっている。
「すごい…」
リリーナが呟く。
本当、よく食ったな。まるで、幼少期のギャ〇〇根を見ているかのようだ。
しかしまだ終わらなかった。ローラはシェフを呼び寄せた。
「シェフ、美味しかったよ!」
「あっ、ありがとうございますお嬢!」
「でも…」
「でも⁉」
シェフに緊張が走るのがわかった。
「ピラフだけど、エビの下ごしらえが不十分よ!下味が付いているのと、余り付いていないのがあったは!」
「あっ、スイヤセン!」
「塩分も少し多ったわね!逆にスープは、砂糖が足りてない!それだけじゃなくて……」
と、出された料理の不備を矢継ぎ早に指摘する。
「もしかして…」
「あぁ、お嬢は無茶苦茶味に細かいんだ…ほんの些細な事にまで気づくしな。でも、指摘自体はかなり的確なんでな、言い返せないんだ…」
「……」
浮かない顔の理由がよーく分かった。
その一方で、
「レオくん!食べ過ぎだよ!」
「うっ、う~…」
レオは食べ過ぎで苦しそうにしていた。何でもローラに対抗意識を燃やし、食いまくったらしい。
が、結果はこの有様だ。限界まで食ったが、それでも食べた量はローラの1/3位だ。
俺はレオによく食う奴というイメージを抱いていたが、上には上がいた。恐るべしローラ。
世が世なら、フードファイターになれるな…
等と思った。最も、俺は大食いを流行らす気は毛頭ない。
何故なら下手にマネしたら危険だし、何より世の中には、食えずに困っている人が大勢いるという現状からだ。
そんな割と真面目な考えをしている俺を他所に、食い過ぎで動けない少年と、シェフにダメ出しをする少女という、何ともシュールな光景が広がっていた。
因みに俺とリリーナは、シェフに「あんた等はどうする?」と聞かれたが、遠慮した。
この光景を見たら、食欲がわかなかったからだ。