航海
港町を出発した船は、潮風の流れに乗って順調に目的地の島へと向かっている。
「すげーな、周り一面海だ!」
「こんな光景初めてですよ。ほらタイガーさん、ジョウさんのお店があった港町、もう殆見えなくなりましたよ!」
リリーナの言うように、先程船が出向した港町は、針の先程、肉眼ではよくわからないくらい小さくなって見えた。
「ほらレオくん、どの方向を向いても海でしょ。これが海の上なんだよ⁉」
「おほ~!」
レオも物珍しそうに見ている。普段、食い物にばかり興味を持つレオも、珍しく興味津々だ。
やっぱレオも子供だな。
と、そこへ。
「おいアンタら!」
「あっ、メットさん!」
小柄だが、日焼けしてなかなか引き締まった身体の男が話しかけてきた。彼の名はメット。この船の乗組員の1人だ。
「コリート船長が呼んでるぜ!船長室まで来てくれってよ!」
「船長が⁉何のようで⁉」
「俺もそこまでは聞いてねーよ!とにかく、来てくれ!」
「ああ、わかったよ。行こうか、リリーナ、レオ!」
「ハイ。ほらレオくんも行こう!」
メットに案内されて俺等は、船長室の前に来た。
「ココだ!船長、客人達連れてきやした!」
メットは傷まみれの腕でドアをノックした。
マストにキツイ船乗りの仕事をしていると、必然的に腕は傷が付くようだ。
「おう、開いてるから入れ!」
中からコリートの声が返ってきた。
中に入るとコリートがそこそこ高そうな机の向こう側の椅子に腰を下ろしていた。机の上には、海図と専用の計測器具らしきものと、航海日誌が開いて置いてあった。
流石に、航海中は飲まないのか、酒のたぐいは無かった。
「ようオメー等!どうだこの船の乗り心地は⁉」
「あぁ、なかなか快適だよ!」
「えぇ、思っていたよりも、揺れも少ないですし!」
「まぁ今は風が穏やかだからな!でも、一度嵐にでもなったら、こんな風にはいかないからな!天候みたいに、自然現象は人の手でも、どうにもできないからな!」
「あぁ、向こうに着くまで天候が保つことを祈るよ。」
「なーに、たとえ大嵐が来たとしても、心配はいらねー!」
コリートは椅子から立ち上がった。
「例えこれから先、大嵐が起きようが、巨大な竜巻が出来ようが、俺が責任もってオメー等の安全だけは保証してやるよ!これまで幾度となく、危険な航海からから生還した俺が言うのだから、間違いねーぜ!」
と、コリートは自信満々に宣言した。
「あぁ、大船に乗ったつもりでいるよ!」
「おうよ!この船の船長である俺コリートとこの船、「グレート・ロマンティスト・俺様号」を信じな!」
再び自信満々に宣言するコリート。
俺とリリーナは少し硬直した。
「…グレート…ロマンティスト…俺様号??…」
「…それって、この船の名前ですか…」
恐る恐る質問するリリーナ。
その質問に対してコリートは、
「そうだ!「グレート・ロマンティスト・俺様号」イカした名前だろ⁉」
と、ドヤ顔で答えたのだった。
「ええっと…」
「……」
答えに困る俺とリリーナ。
側にいたメットが、
「嘘でもいいから褒めとけ!船長の機嫌が悪いと、海が凪の状況でも、荒れるぞ!」
と、小声で忠告してきた。
凪とは、風や波が穏やかな状況のことを指す。それが荒れるって…
それを聞き俺達は、
「おう、カッコイイ名前だぜ!」
「本当、ワイルドな船長さんの船の名前にピッタリです!」
と、心にもないことを言い、おだてまくった。
「そうだろそうだろ!」
と、上機嫌のコリート。
「他にも、「デンジャラス・コリートⅠ世号」にしようか、「ロイヤル・コリートDX丸」にしようか迷ったんだが、1番カッコイイ上に、響のいい今の名前にしたんだ!」
「へー、そうなんだ…」
五十歩百歩・どんぐりの背比べだよ…
と、俺は心の中で思ったのだった。
「船長は、船乗りとしては一流なんだが、ネーミングセンスは最悪なんだよ…」
メットが再び小声で教えてくれた。
船名に付いてはこの辺にしといて、話を変えよう。
「で、俺達を呼んだ要は何なんだ?」
「おお、そうだった!忘れるところだったぜ!勿論、こんなことを言うためだけに、呼んだわけじゃねーぜ!」
そう言うとコリートは、
「コッチだ!」
と、俺等が入って来た入口とは別のドアの方へと歩み、
「入るぞ!」
とノックしながら言った。
すると中から、
「いいよ!」
と、返ってきた。しかも、女性の声だった。その上、随分と幼い声に聞こえた。
それからコリートは、そのゴツい腕でドアを開いた。
「よし、来てくれ!」
誘導されて部屋に入る俺達。
すると中には、
ポリポリポリ…
幼い少女がオウムに豆を与えており、オウムは豆を美味そうにつまんでいた。