船出
翌日、港に停泊しているコリートの船。
船首は女神の形をしている。この辺で、船乗り達に言い伝われている話に出てくる、海の護り神がモチーフだ。
その船の船内から、威勢のいい、海の男達の声が聞こえてくる。
「積み荷はこれで全部か⁉」
「今ので最後ッス、コリート船長!」
「よし!次は、備品と船体のチェックだ!」
「もうやってるッス!」
「おお、流石は俺の船の船員だ。隅々まで入念にするんだぞ。特にこの航海は、客人がいんだからな!!」
「「うッス!」」
真剣な眼差しで船員に指示を出すコリート。その姿は、飲んだくれの男のイメージを、微塵も感じさせない。流石は船長だ。
「スゴいですね、コリートさん!最初の頃とは全然違いますね。やっぱり船長なんですね。決める時は、ビシッと決めるんですね!」
俺の横のリリーナも、同じ様な事を感じたようだ。
本当に、飲んだくれの時とは打って変わって真剣そのものだ。
船の客室に通された俺等は、荷物を置いた後、船員達の仕事風景を見学させてもらっていた。
あぁ、唐突な話だが、今俺等はというと、コリートが船長を務める船に客として乗船しているのだ。
俺等が何で船に乗っているかというと、昨日の事だ…
前日、ジョウの店の部屋にて、
「次の航海、オメー等も一緒に来ないか?」
突然、コリートに船に乗らないかと誘われた俺達。
「次の航海に⁉」
「そうだ!あぁ、航海ってもだ、この港町から2・3日程で行ける島だけどな。それも仕事でなく、プライベートな航海だ!」
聞けば、そこはコリートの生まれ故郷で、ちょっとしたリゾート地になっているらしい。彼の船の船員の半数以上も、そこの出身だとか。
抱えていた仕事が全て片付き、頃く暇になる。そこで、久々に里帰りすることにした。
帰る前に顔馴染のジョウの店に顔を出した。
そしてたまたま、俺等と出会った。
と、言うわけだ。
「この仕事は結構過酷でな、偶に長めの休みを取るようにしてんだ。けど、やる事ないってのも、これまた結構苦痛だ。で、そういや長い事故郷に帰ってなかったな…と、思い、そうだ久々に故郷に帰るか!と、思い立った。で、同胞の船員に話したら、皆賛成してくれてな。よし帰っか!って事になったんだ!で、帰る前にここに寄ったんだが、そこでオメー等が居た。聞けばアチコチ旅してるらしい。ならば、誘ってみるか⁉と、思って誘ったんだ!人は多い方が楽しいからな!」
と、「で、」や「と、」が多いセリフを長々と話したコリート。
「どうだ、観光がてら来ねーか?あぁ無論、金は一切いらねー、タダだ!期間はまぁそうだな…1週間〜10日位だ。帰りも責任持って、俺がココまで送ってやるぞ⁉まぁ、無理にとは言わねーが…」
急な誘いにどうしたものかと悩む俺とリリーナ。
「どうするリリーナ?」
「正直に言うと、行ってみたいです!」
「実を言うと、俺もだ!でも本当にタダでいいのか?」
「アタボーよ!海の男は嘘付かねーよ!寝泊まりするとこも、俺のツテで責任もとう!まぁ、向こうで買い物したり、飲み食いする分は自己負担だがな…」
そりゃそうだ。そこまで図々しくするつもりはない。
俺等は少し考えた結果、お言葉に甘えることとした。急ぐ旅でもないしな。リゾート地で、旅の疲れ(正確には、ジョウの店で働いた疲れ)を癒やしてのんびりするか。
「そうこなくちゃな!よ~し、前祝いだ!お~い、ファン!酒だ酒!酒とつまみだ!」
「また飲む気なの船長…」
これを口実に、また酒を飲むつもりのコリートと呆れ顔のファン。
酒が苦手な俺は、少し自分の判断を後悔した…
因みにレオの方はコリートが
「向こうには、美味いもの沢山あるぞ!」
と、言うや否や、
「行く‼」
と、即答した。ブレない奴だな…
こうして、急な話だが、船に乗ってコリートの故郷のリゾート地に行くこととなった。
そして、急な展開だが、早くも出向の時を迎えた。
「ヤロー共、出港だ!」
「「オーー‼」」
コリートと船員達の威勢のいい声が船を中心に響き渡った。
「いよいよ海に出るんだな!」
「私早くも、ドキドキしてきました!」
「くちゃくちゃ…」
軽く緊張気味のリリーナと、船のコックに貰ったリンゴを美味そうに食うレオ。
港ではジョウにミチヒコ、ファン等店の従業員達が、見送りをしてくれている。
「皆さん、良い船旅を!」
「気を付けてな!」
「船長に、お酒はホドホドにって言っといてね!」
それらの言葉に俺等は、手を振りながら返事を返した。
それと共に、船は港を出た。
こうして、この世界に来て初めてとなる、船旅が始まったのだった。向こうで何が俺等を待っているのだろうか⁉
それは向こうに着いてからのお楽しみだ!