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名物

 俺達が港町のジョウの店に来て早1週間。

 ジョウの店は今日も盛況だ。元々料理が美味くて人気があったが、今、他にも客を引き付けている店の名物かある。


 「う~ん美味しい!」

 「本当、海が近いから素材も新鮮、それでいて、値段もお手頃価格だしね!」

 「ウンウン、隣町から来たかいあったね!」

 「ええ!」


 と、お客達は料理の数々に舌鼓を打っている。


 「最高!でも、ここは料理だけじゃないもんね!」

 「そうそう、()()もキレイよね!」

 「うん、今まではあんまり良いイメージ持って無かったけど、こうして見ると、結構キレイなのね!」

 「ええ、こうやって水槽で展示されていると、中々神秘的で、絵になるは!」


 と、ある女性客達が料理を食べながら、水槽内の生物達に視線を向けている。


 「はじめ聞いた時は、「何でこんなのを!」、なんて思ったけど、結構いいものなのね!」

 「うん、海の害虫ってイメージだったからね…」

 「そうそう、アタシが小さい頃に海で泳いてたら、お兄ちゃんが刺されてエライことになったもんよ!」

 「知ってる知ってる!それで人一倍嫌いになったんでしょ?」

 「うん、でもそれがまさか、こうやってレストランの名物になるなんてね!」

 「ほんとわかんないもんね…」


 そう言って女性客は再び水槽に視線を移した。

 水槽の横の席には、親子のお客が座っており、子供達が水槽を笑顔で眺めている。


 「キレー!」

 「スッゲー!」


 等と率直な感想を口発している。

 そんな子供達を見守りながら子供達の両親は、


 「すっかり夢中ね!」

 「ああ、しかし改めて見ると美しいもんだな⁉」

 「ええ!」


 とこちらでも、水槽内の生き物に対して、同じ様な感想を述べている。

 多くのお客を引き付けているそれは、水槽内を優雅にユラユラと泳いでいる。


 「本当、キレイな()()()ね!」


 そう、水槽内にいる生き物、それはクラゲだ。日本では海の月と書いてクラゲと読む。クラゲは海の中に生息して、浮遊生活をする生き物の総称だ。体がゼラチン質で、透明であり、普通は触手を持って捕食生活をしている。

 日本や中国などの一部の国では、食用になっているケースもあるが、クラゲ=毒を持っているというイメージが強く、現に海で泳いでいてクラゲに刺され、酷い時はアナフィラキシーショックを起こす人も少なくない。時に海で大量発生し、漁師を悩ませることもある。

 そんな嫌われ者の印象のあるクラゲだが、よく見ればキレイだ。前世では、クラゲがメインの水族館があったくらいだ。泳いでいるクラゲの姿には、人をリラックスさせる癒やし効果が

あるらしく、家庭用の飼育セットが売られてるらしい。

 それを思い出した俺は、この店の水槽に入れる生き物に推薦した。この世界でもクラゲは海で刺されたり、漁師に厄介がられている。この港町でも、漁の網に魚に混じって採れることが多く、入手も容易だった。

 ジョウも最初は半信半疑だったが、彼の知り合いの漁師のツテでクラゲを貰い、取分けキレイなやつを水槽に放ってみた。すると、クラゲはかなり絵になった。

 その結果がこれだ。お客からの評判も上々。噂が広まり今や、この店の名物となった。


 「すごいですね、まさかクラゲでこんなにお客さんを呼べるなんて…」


 リリーナは未だ信じられないといった顔をしている。


 「そうだな…」


 俺もここまでとは思わなかった。世の中何が起こるか分からない、意味は少し違うけど「塞翁さいおうが馬」だな。

 そう言いながら客席を眺める俺達。客席ではジョウがお客に挨拶して回っている。


 「いやほんと、クラゲを入れようなんて言い出した時は耳を疑ったよ!」


 と、ミチヒコが話しかけてきた。


 「お陰で店の名物が増えたよ!」


 と礼を述べるミチヒコ。


 「…でも、それはそれとして…今は手を動かす!」

 「あっ、あぁ…」

 「はい…」


 そう言うと俺とリリーナは厨房に戻り、皿洗いを再開した。

 何で俺等が皿洗いをしているのかというと、原因はレオだ!俺がクラゲを推薦していた頃、レオはというと、厨房で何時もの如く、つまみ食いを犯していた。デナー用の、しかも宴会用の、かなり高い食材をだ…

 で、当然ながら俺等が弁償するハメになったのだが、流石は高級食材。無茶苦茶高く、俺等の有り金を全部出しても、全く足りなかった…

 で、足りない分は、働いて返すこととなったという訳だ。

 あれから皿洗いや掃除等の雑用を、毎日行っている。でも、完済は遠い。なぜなら…


 「ちょっとタイガーさん、リリーナさん!」

 「ファンさん!」


 店の女性従業員が話しかけてきた。


 「お連れの子がまた…」

 「ムシャムシャ…」


 女性従業員に連れられたレオが、高そうなハムを口にくわえていた。


 「レオ!またお前!」

 「レオ…く…ん‼」


 そう、レオのつまみ食いが原因で、俺等の借金は度々加算されている。ほぼ毎日だ。

 横のリリーナも、流石にキレ気味だ…

 それを察しレオは、


 「いや…ダメだとは理解してんだけど、オレっちどうも、食い物の誘惑に弱くて…」

 「はぁ…タイガーさん…私達…何時いつクラゲみたいに、キレイになれるんでしょうか…」


 と、1周回って今度は涙目のリリーナ。

 結局、俺等が完済するのにもう1週間近くかかったのだった…


「塞翁が馬」は正しくは、人の幸・不幸は予測しがたいものという意味です

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