シーフードの店
サンダルを買った雑貨店近くの店に俺等は入った。
ファミレスと喫茶店を足して二で割った感じ?の店だった。店内に入ると、店員が近づいて来た。
「いらっしゃいませ!お好きな席にどうぞ!」
店員の威勢のいい対応を受けた後、店内を見回す。昼時は完全には過ぎていたが、それでもそこそこ客席は埋まっている。昼時過ぎても客足が途絶えないのか、混む昼時を避けて来店したのかは知らないが、どのみちいい店のようだ。
「何処にする?」
席は空いているが、その内の良さげな席には、「ご予約席」の札が立ててある。
やはり、人気のある店らしい。
「そうですね…あっ、あそこにしませんか⁉」
リリーナが指差す方を見ると、そこは窓際の席だ。テラス席でこそないが、眺めのいい席だ。予約席の札もない。
「いいな、ここにするか!」
席に座る俺達。
座ってから、テーブルの端に立て掛けてあったメニューに目を通した。海が近いだけに、シーフード系のメニューが豊富のようだ。
それでいて値段もリーズナブルだ。これも人気の理由だろうな。
「レオくん何にする?」
レオに希望を聞くリリーナ。対して、
「とにかく、スゲー美味いの!!」
「スゲーじゃ、わからないよ…」
本当にあいも変わらずのレオ。こいつは、美味けりゃ何だっていいのだろう…
そんなこんなで、俺等はそれぞれ、
俺「シーフードカレー」
リリーナ「シーフードパスタ」
レオ「シーフードグラタン」
を注文した。
暫くしてから、運ばれてきた。
流石、海がすぐそこだけに鮮度は抜群で、それでいて味もいい。人気なのもうなずける。
途中、レオがカレーとパスタも食いたいと言い出したので、取皿を貰い分けてやった。
取皿の品にがっつくレオ。その顔は、美味い物を食えて幸せそうだ。
食べ終えた後、皿を下げに来た店員が、
「食後のコーヒーはいかがですか?」
と聞いてきた。
サービスで無料だそうなので、遠慮なく頂いた。
因みにレオの方には、ココアだ。
「いやー、美味かったな⁉」
「えぇ、そうですね!それでいて値段もお手頃ですし!」
と、何時もの様に、多めの砂糖とミルクを入れたコーヒーを、ゆっくりと味わいながら飲むリリーナ。
俺もゆっくり飲みながら、外の景色を眺めていた。
そこへ、
「お満足頂けましたか⁉」
と、コック帽をカブった、見るからにシェフといった感じの人物が話しかけてきた。
「えぇとても美味しかったですよ!」
笑顔で答えるリリーナ。
「ありがとうございます!あっ、申し遅れました、私当店のオーナー兼料理長のジョウと申します!」
オーナー兼料理長のジョウは丁寧に挨拶してきた。
「まぁ、オーナーさんですか!でも料理長もなさっておられるのに、厨房を離れて大丈夫なんですか?」
「構いませんよ、今は他にお客様もおられませんし!」
そう言われて店内を見渡すと、あれだけいたお客がいなくなっていた。
「いつの間に⁉」
「今は夜のディナーに向けての仕込みのため、一旦店を閉めている時間なんです。」
「えっ、そうなんですか⁉」
聞けば客の8割方が常連客で、夜に向けて一旦閉める時間を知っており、邪魔にならないように、決まった時間までに食べ、その後はすぐ帰るのが、この店の常連客間での暗黙の了解となっているようだ。
知らないのは初めて来店した俺等だけだ。
「すみません長居してしまって…」
「構いませんよ!初めて来られたんですし、ゆっくりしていってください!」
と、気前のいいオーナーのジョウ。
暫く彼と世間話をした。その間、仕込みは店員に任せている。因みにジョウはサボっているわけではない。当の本人のやる分は、既に終えているとか…
「ほぅ、各地を旅して回ってられるので…」
「まぁそんな感じで、世界を見て回ろうと思って!」
「それはそれは、羨ましいですな。私は店があるので、旅行もろくに出来ないもので。休みの日も、調理具の手入れや、食材の目利きに費やしてしまい、友人と遊ぶ時間もないくらいですから…」
と、ジョウは少しさみしげに答えた。
少し湿っぽい雰囲気になってしまった。話題を変えようと、俺は店内を見渡した。すると、店内にある水槽が目に入った。
「あぁ、ところで話は変わるけど、あの水槽なんだけど…」
「あの水槽がなにか?」
「いや立派な水槽だけど…何で生き物がなんにもいないんだ?」
そうその水槽には、小魚一匹もおらず、あるのは水と水草位だ。席を探していた時から気になっていた。
「あぁ、そういえば私も、店に入った時から気になってたんです。大きな水槽なのに、水草だけなんて寂しい感じがしますね⁉」
リリーナも疑問に感じていたようだ。
「あぁ、あれですか…」
ジョウは、少しためらいがちに答えた。
「少し前までは魚がいたんですが、訳合って…」
「訳って…」
「…実は…」
ジョウは話し始めた。