港町
まもなく馬車は港町の乗り場に到着した。
馬車を降りて少し歩くとそこは、キレイな青い海が広がっていた。
「スゲーな!(こんなキレイな海、地球でもそうそうないぞ!)」
前世で修学旅行で行った、沖縄の海に引けを取らないくらい、美しいと感じた。
意識しなくても、あたり一面に磯の香りが漂っているのが分かる。深呼吸すれば、口内が塩辛く感じそうなくらいだ。
俺等3人の目の前には、そんな大海原が広がっている。
「リリーナ何なんだここは?湖か?それにしちゃ、向こう側が全く見えないぞ⁉」
「レオくん、ここは海って言うんだよ!」
「海⁉」
山育ちのレオは、海を見たことがないらしい。当然といえば当然だが。
「そう海!私来るのは、2度目だけどね!」
「2度目⁉」
「えぇ、故郷のあの村から海までは遠くて、小さい頃に、両親に連れられて来たことが…」
そこまで言うと、リリーナは静まった。
昔の話をして、亡き両親の事を思い出したのだろう。
「リリーナ…」
「あっ、すみません、空気を悪くして…」
「構わないよ!それよりも!」
俺は少し暗くなった空気を払うように言った。
「せっかくだから、少し遊んでかないか?」
「いいですね、レオくんに海について色々と、教えてあげたいですし!」
「よし決まりだ!」
俺達は海で遊ぶこととした。
濡れる事を想定し、近くの雑貨屋で3人分のサンダルを買い、海へと向かった。
この辺は港なので、遊ぶのに丁度いい所を探し、再び少し歩いた。すぐに砂浜に付いた。側には岩場もあった。
「ここにするか!」
「いいですね!」
「で、遊ぶって、何するんだ⁉」
「ん⁉そうだな…まぁ色々だ!」
まず波打ち際に、サンダルを履いたまま入った。そして打ち寄せ、そして戻っていく波を直に足で感じた。
「うぉ~!」
レオが妙な声を上げる。生まれて始めての海の波。初体験だから、感動もひとしおなのだろう。
「どうだレオ!」
「なんかクセになりそうだ…」
「ふふふ!」
爽快そうな顔のレオを見て、笑うリリーナ。
それから軽く砂遊びをした。
砂で城を作ったり、棒倒しをして俺達は、海を堪能した。その光景は、傍から見れば親子に見えたであろうか。
それから岩場へと移った。
「よっ!はっ!」
岩場をヒョイヒョイと飛び回るレオ。
「レオくん、走ったら危ないよ!」
「大丈夫だリリーナ!このくらいの岩場、山で慣れて…」
そこまで言った直後、
ツルっ!
バシャーーン‼
「あっ、レオくん!」
「言わんこっちゃない!」
足を滑らせ、岩場の窪みに落ちたレオ。
「あはばば!!」
「ヤダ!溺れてる⁉」
「ヤバい!」
レオの元へと急ぐ俺とリリーナ。
2人でレオを引き上げた。幸い、怪我はしていなかった。
「ハー!ハー!」
「だから言ったでしょ、走ったら危ないって!」
「あぁ…てか、水がむちゃくちゃ塩っぱいぞ!どうなってる⁉」
「海の水は、海水はそういうものなんだ!」
濡れたレオの服を絞りながら説明した。
レオは、「海水=塩っぱい」、ということをも知らなかったのだ。海そのものを知らなかったのだから、当然だけど…
「レオは山育ちだからな、泳げないみたいだな…」
「タイガーさん、実は私も泳ぎは苦手で…」
「リリーナもか!」
ただでさえインドア派のリリーナ。
あの町には川ぐらいしかなく、泳ぎを覚える機会が殆どなかったらしい。
「ケティは川で泳いだりしてましたから、泳ぎは得意ですけど、私やホリィは…」
「そうか、まぁ俺は泳げなくはないが、得意とは言えないな…」
前世では泳げるようになるのに、小学校卒業間近までかかったからな。それでも、せいぜいバタ足ぐらいしかできない有様だ…
そもそも、転生した身の上だ。記憶にはあっても、およげるかどうか…
「あれだ、俺等だけで海で遊ぶのは、少々リスキーだな…」
「ですね…」
そんな俺等の側でレオは、岩場の窪みを見つめて、
「おっ、ちっこいけど、魚とカニがいるぞ!」
と、さっき溺れたことをもう忘れたかのように、窪みに溜まった海水を、バシャバシャと音を立てて引っ掻き回している。また食い気に走ったな。
「よせレオ!」
「レオくん相変わらず…」
「食いたければ、ちゃんとした店で食おう。確か、サンダル買った店の近くに、飲食店あったな⁉」
「ありましたね!そこでご飯にしましょうか⁉」
「賛成だ!ほらレオ行くぞ!」
「飯か⁉行く行く‼」
「全くこいつは…」
何処に行っても食い意地の張ったレオに呆れながらも、俺等は店へと向かった。