動物
フームと別れた俺等は、馬車に乗り次の場所へ向かっていた。
その途中、馬車の車窓。
「……」
外の風景を静かに、ジーと眺めるレオ。
そんなレオを見ながら俺とリリーナは、
「レオくん真剣に外眺めてますね。」
「あぁ、この前は乗り物酔い起こして大変だったからな。流石にこりたんだろう。」
そんな話をしていた。
そして徐ろにレオに話しかけるリリーナ。
「レオくん、外の景色みて楽しい⁉」
「ん⁉リリーナ、アレ!」
と、リリーナを見ながら何処かを指差すレオ。
身だしなみこそはキレイだが、長いこと山で暮らしていたから、その小さな手は擦り傷まみれだ。そんな擦り傷の付いた人差し指で、指した先は空で鳥の群れが飛んでいる。
「トリさんだね!何処に行くのかな⁉」
と、幼稚園の先生みたいにレオに話しかけるリリーナ。が、レオは、
「知らね!それよりも、あいつら食ったら美味そうだなと思ってたんだ!」
「美味そうって……あっ、ほらレオくんあそこ見て!、キレイなお花が咲いてるよ!」
「あぁ、あれか…食ったことあっけど、スゲーマズかったぞ!」
「……」
軽く引き気味の顔をするリリーナだった。
どうやらレオは単に景色を眺めてたんじゃなくて、美味そうなものないか見てただけのようだ…
「レオは花より団子だな…」
「ダンゴ!確かタイガーとあった時に食ったやつにもそんなのあったな、あんのか⁉」
「ねーよ!お前が全部食っちまってんだろが!」
ピートに貰った菓子類。沢山あったが、あの日レオに食われちまった。後で、名前を聞かれたが、分からなかったので、前世での似たやつの名をそのまま教えた。団子もその1つだ。
つまんなそうにリリーナの方に顔を戻すレオ。
「レオの食い意地は相変わらずだな…」
ふとさっき2人が見ていた鳥の群れに目をやった。先程は真剣に見ていなかったが、改めて見ると俺は、自分の目を疑った。
「!えっ、あれって…」
「どうしましたタイガーさん!」
「リリーナ、あの鳥って…トキじゃないか⁉」
そう、大空を飛ぶ鳥の群れ。それはトキだった。
トキは前世では、絶滅危惧種に指定されていた保護動物だ。それが、大勢で群れをなして空を飛んでいる。前世じゃ、写真やテレビでしか見たことない。それが今、遠目とはいえ、生で見ているのだ。
感動を覚える俺。が、リリーナは、
「トキ…って、バーショのことですか?」
「バーショ…」
「えぇ、さっきレオくんと見てた鳥ですよ。羽根は装飾にされたりする、何処にでもいる至って普通の鳥ですよ⁉」
「装飾…普通…」
「えぇ、あっそうだ!」
と、リリーナは鞄から小さな図鑑を取り出した。様々な動植物について、幅広く書かれた図鑑のようだ。本好きのリリーナ。小説だけでなく、こういった図鑑等も好きらしい。何かの役に立つかもと、持ってきたらしい。「何かって何が」と思ったが、口には出さないでおいた。
で、リリーナはその図鑑を開いた。
電話なんて物はなく、手紙が主な連絡手段のこの世界だけに、掲載されている種類は少なく、勿論、写真でなく精巧な絵だ。
でそのページにはトキもとい、バーショについて書かれていた。説明欄には、先程リリーナの言っていたのと同じようなことが書かれていた。
「(珍しい鳥じゃないのかこの世界では…)」
何気なくパラパラとページをめくる。あるページに目が止まった。
もしやと思い、開いたページの1つの絵を指差しながら、リリーナに尋ねた。
「リリーナ、これ知ってるか⁉」
「これって…ニショククマでしょ⁉白と黒の2色だからニショククマ。それが何か?…」
ニショククマ。そう書かれているが、俺の知る限りこれは、パンダと呼ばれる生き物だ。
「見たことはあるか?」
「えぇ、正確に言うと、学校に飾ってあった剥製でですが。あの町の近くにはいませんよ。あっ確か、レオくんのいた山って、ニショククマの生息域だったはず…」
「ん、あぁコイツか!山ん中で何度か遭遇したぞ!」
と、図鑑を覗きながらレオは言った。
「マジか…珍しくは…」
「特に珍しくはないですよ。世界中、アチコチに生息してますよ!」
「そっ、そうか…」
その後も図鑑を見ながらリリーナ・レオと話した事で理解した。
どうやらこの世界の生態系は、大きく違うらしい。前世の世界じゃ希少な生物も、コッチでは普通にあちこにいるようだ。いや、今は珍しくはなくとも、将来的には分からないな。下手すりゃニホンオオカミみたいに…
とはいえ、前世の世界の、動物保護団体や自然保護団体の人達がこの光景を見たら、泣いて喜ぶぞ…
「!リリーナ、見たことない鳥だぞ!」
「あぁ、あれはフレンドリだよ!」
「フレンドリ⁉」
2人の目線の先を見る。そこで空を飛んでいるのは、アホウドリだった。
リリーナ並びに図鑑によると、人が近づいても逃げないくらい、警戒心が薄いので、人間に友好的だから、その名が付いたらしい。
生態系も似ているな。最もそれが原因で、前世の世界では、人間に乱獲され、アホだからアホウドリ等と不名誉な名を付けられた上、絶滅危惧種になってしまっていたが…
因みにコッチもまた、この世界では普通にアチコチにいる鳥だとか…
「あっでも、アルバいや、フレンドリだったな。フレンドリは海鳥。てことは…」
気付けば、磯の香りがしてきた。
馬車から顔を出し、外を見ると、
「おぉー!、2人共、見ろ海だぞ!」
「うわぁー!」
「何だ、でっかい湖か⁉」
そこには大海原が広がっていた。
俺はこの世界で初めて、海にやって来たのだった。