閑話 その後のブラウンタウン(後)
楽しく進行していく女子会。
最初こそは楽しげに会話していたが、時間が過ぎていくと、次第に愚痴が多くなっていく。主に仕事の事だ。
今もミミとニコが話している。
「そもそも、皆仕事に対する信念がないのよ!わかるニコ⁉」
「う、うん…」
「私と同期の人達、私を入れて5人いたんだけど、2人は入って数日で来なくなったし、残りの2人も仕事中にお菓子食べたりおしゃべりしたりして…全然やる気ないのよ!」
「そうなんだ…」
「そもそも、今回の事だって、上司の人が確認して気付いていれば防げたはずよ⁉でもあの人いい加減で、ろくに確認しなかったのよ!その結果がこれよ!私達が尻拭いすることになるのよ!」
「そうだね…」
「そのくせ連日の残業に対して…」
ミミは少し貯めてから、
「今日もまた残業かね⁉昼間のうちに役割をこなさないから残業なんかになるんだ。全く残業代もばかにならないのに…」
と、上司のマネをして言った。
「なんて言うのよ!」
「……」
ミミの言葉に上手く返せないニコ。
「誰のせいよ!「確認して下さい!」と言ったのに、ことごとくノーチェックで通しといて…それが元で私達が残業してるのに、そのくせ自分は定時に帰ってるし…」
「ほ、本当に大変だねミミ…」
「でしょう!分かってくれるニコ⁉流石、友達だよ!」
と、一方的に話すミミだった。
普段は、こんな感じではないミミ。しかし、今は仕事のストレスで鬱憤が溜まっているので、愚痴を吐き散らしている。
そして隣のテーブルでも、
「で、小隊長のヤロー、あたしに対してなんて言ったと思うホリィ⁉」
「なんて言ったの?ケティ…」
「女はいいよな、結婚という逃げ道あるから…だってよ!」
「それはひどいね…」
「でしょでしょ!あたしは自警隊に男探しに入ったわけでも、単に食い扶持稼ぐために入ったんでもないんだよ!世のため人のため、ちゃーんと信念持ってやってんだよ!!それなのにあの薄らハゲが…」
と、同じく一方的にホリィに話すケティ。手にしたグラスが割れそうなぐらい、手に力が入っている。
先程も述べたように、この女子会は元々は、リリーナを元気付ける為に開いたのが始まりで、その後も5人の親睦を深める場として開催されてきた。
が、近年それぞれ仕事に就き、色々とストレスを抱える機会が増えた。それに伴い、最近では愚痴をこぼす場となりつつあるのが現状だ(主に、ケティとミミ)。
「まぁまぁケティ、仕事の事は置いといて…あっそうだ!皆これ味見して貰えないかな?」
場の空気を変えるため、ホリィが持ってきたバスケットを開いた。その中には丸いリング状の物が入っていた。
「なにこれホリィ?ドーナツに似てるけど…」
「形は似てるけど違うよ!ベーグルって言うのよ!」
「「「ベーグル⁉」」」
「そう、タイガーさんから聞いてね、興味あったから作ったの!」
「へぇ、これもタイガーから…」
「うん、最もタイガーさんも、これの作り方あまり詳しくなかったんだけど、話を聞きながら空いた時間に色々と試作してたの。で、最近ようやく、納得の行く出来のが完成したの。それで皆に試食してもらおうと思って持ってきたの!」
「そうなんだ。あっ、でも美味しそう!」
「そんじゃ早速…」
ケティ達がホリィのベーグルを口に運んだ。
「うん、イケるな!」
「美味しいよホリィ!」
「流石ホリィ!」
と、評判は上々だった。
「これに何か具とか挟んだら美味しいかも⁉」
「あっ実は私も、そう考えてたんだよニコ!」
「ココアとかと一緒に、これを食べながら静かに本を読めたら最高かも!」
「ニコって本当、本が好きだな…」
「それはそうよ、好きが高じて司書になったくらいだし!」
一転して、和やかな空気なかった。
「あっ、本で思い出した!」
そう言ってニコは、鞄から一冊の本を取り出した。
タイトルは「デーモンスレイヤークエスト‼」とある。
「何それ?タイトルも作者も聞いた事無いけど…」
「最近この町に来た人から貰ったの。まだ極一部の地域でしか売られてないけど、とても面白い本だよ!」
「あぁ、最近よく図書館で創作活動している、作家志望の若い男の人ね⁉」
「うん、執筆に専念するために、遠い所から引っ越してきたんですって。図書館の仕事で話してたら親しくなったの。」
「で、その本がどうしたよ?」
「巻末の書き下ろし閑話でね、主人公が子連れの夫婦と親しくなるんだけど…」
ニコは本に挟んだ栞の所のページを開いた。
そこには、挿絵で親子の姿が描かれていた。
「その夫婦がね、なんとタイガーさんとリリーナに似てるのよ、ほら!」
ニコは本の挿絵をケティ達に見せた。
「あっ、本当だ!」
「よく似てるわね!」
「でしょ⁉食いしん坊な男の子を連れた夫婦で、奇抜なアイデアを思い付く夫と、それを支える優しい妻という設定なの。」
「男の子は置いといて、2人は見た目だけじゃなく、中身もそっくりじゃん!」
「本当に、あの2人そっくり!」
「偶然にしては、出来すぎてる位ね…」
それぞれ感想を述べる。
「本当にあの2人だったりして…」
「まさか…たまたまよ、たまたま!」
「まぁそれはともかく、この本すっごく面白いの!リリーナが帰ったら勧めてあげよ!」
「リリーナも本好きだしね、喜ぶわよきっと!」
「うん!」
「でも…本当、2人によく似てるわね…」
似てる似てない以前に、本当に2人がモデルなのであった。その事実をニコ達は愚か、当のタイガーとリリーナ、本人達も知らないのであった。
ドーナツとベーグル。材料にも違いがありますが、大きな違いは、ドーナツは揚げて作り、ベーグルは一旦茹でてから焼くところが大きな違いです。