追放・転生
「追放…転生…ですか…」
「そう、追放と転生です!」
自信満々に言うフーム。
追放・転生。それが俺がフームに提案したアイデアだ。最も俺が考案したのではなく、これもまた前の世界での記憶からのものだが…
追放もの。文字通り主人公が冒険者のパーティ又は何らかの団体から追放宣言を出されて、クビになるという出だしから物語が始まる、小説のジャンルだ。追放される理由は、
「足手まとい」「スキルが平凡」「無能」「役立たず」
等と、暴言を浴びせられる。そういった理由で主人公が追い出される場面から始まり、主人公は心機一転、再スタートをする。すると、それと共に主人公は頭角を表しだし、一流の冒険者へと成り上がっていく。そして、主人公は、本当に信頼できる仲間と出会い、彼等と力を合わせて旅をしていく。
一方、追放した側は、主人公を追い出したのを皮切りに、次第に落ちぶれていく。実は、主人公の存在がパーティや団体にとって大切な存在で、人知れず屋台骨を支えていたのだ。それに気付いても、時既に遅し。アレコレと画策するも主人公は戻ってくることはない。連中は堕落していく。
詰まるところのざまぁパターンだ。
もう一つの転生もの。コレは事故や過労死といった何らかの理由で主人公が死んでしまうところから始まる。すると主人公は魔法の存在するファンタジーの世界に記憶を持ったまま生まれ変わる。そこでは魔法が発達している代わりに、科学や医学が殆ど認知されていない。そこで、前世の知識を魔法に応用し、他を圧倒する程の力を手に入れる。
それが転生ものだ。
後、死ぬのではなく、生きたまま別の世界に呼び出される転移ものもある。その場合、その世界の住民には無い、特別な力を得られるパターンが王道だ。
とまあそんな感じで前世には、そんなふうな小説が、嫌ってほどあった。なので、それらの小説のパターンを思い出す限り、紙に纏めてフームに説明した。
するとフームはいたく興奮仕出して、
「すっ、スゴイアイデアですよタイガーさん!」
と、べた褒めしていた。正直言えば、俺が考えた訳じゃないから少し胸が傷んだ…
そんな訳で、リリーナにもそれを説明した。すると、
「流石タイガーさん!私も色々な本を読んできましたけど、そんな内容の物は目にかかったこと無いですよ!」
とこれまた絶賛された。
遂には、
「一体何処からコレだけのアイデアが生まれるんです⁉私とは頭の出来が違うんですかね…」
等と言い出す始末。
ぶっちゃけ俺の頭なんて大したことない。前世じゃ、学力はおおまけに負けても並程度だったし。
そもそも、俺自身が、転生者なのだからな。
まぁ最も、な~んの力も無いけどな…俺がこの世界で出すアイデアは全て、向こうで見聞きしたものばかり。
俺は段々と、罪悪感を感じだした…
「という訳でして、タイガーさんに貰ったアイデアを元に、更に新作を書いていこうと思ってあるんです。」
「すっかりプロの作家みたいだなろ…」
「えぇ、せっかくの、貰った素晴らしいアイデアを無駄にしないよう、がんばります!」
「まぁ程々にな。無理は禁物だぜ⁉」
「頑張ってくださいフームさん!」
「ハイ!」
元気よく返事した彼女の顔は自身に満ち溢れているように見えたのだった。
と、その直後。
「オイ!」
そんな俺の肩を誰かが叩いた。
振り返ると見知らぬ少し強面の男が立っていた。
「⁉誰だよアンタ?」
俺は聞いた。すると男は、
「そこで屋台をやってるものだ!」
と、近くの屋台を指差す男。その屋台では、串に刺した肉を焼いたものを売っていた。
「その屋台の人が何か用で?」
「用も何も、この子が食った物の代金を貰いたいんだが!この子がアンタが保護者だって言うからな‼」
と、男に連れられたレオは串に刺さった肉を、美味そうに頬張っていた。
「レ、レオ‼」
「レオくん、又……」
驚く俺と、呆れ声のリリーナ。話に夢中で、レオの事を完全に忘れていた俺達。
そんな俺達を見てフームは、
「…この人達、作中に出したら面白いかも…」
等と言って、俺等の姿を観察してメモしていた。
普通の主婦に過ぎなった女性、フーム。
彼女は後に、本当にプロの作家になるのだった。
追放・転生ものという、今までになかった新しい小説のジャンルをこの世界で確立し、世界的に名の知れた文豪の1人になるのだった。
そして、その作品において、本当に俺等をモデルとしたキャラが出てくるのだ。
しかしそれはまた、後の、別の話。
その事実を、渋々と金を払う俺も、屋台の男に謝るリリーナも、能天気に串焼きを食うレオも、そして当のフーム本人も、今はまだ知らないのだった。