出版
自身の小説が子供達に受け入れられたフーム。
おかげで自分の作品に自信が持てるようになったとか。
彼女と別れた頃には、すでに夕暮れ時になっていた。
再びジャンの家にて。
俺等は明日、この町を出る。で、今日もまたジャンの家にやっかいになる事となったのだ。
「すみませんジャンさん、2日連続でお世話になって…」
リリーナが少し申し訳なさげに言った。
それに対してジャンは、
「気にしなくていいよ。ピエールの知り合いなら、大歓迎さ!」
と言ってくれた。気前のいい人だ。因みに夕食でも、アレコレとうんちくを聞かされながらの食事となった。本当に、この美食へのこだわりだけは勘弁だ…最も、世話になった手前、口には出せないが…
そんな感じで、この町での夜を過ごした。
そして翌日。
「いろいろと、お世話になりました、ジャンさん!」
「ほらレオも!」
「お世話になりました…これでいいのか?」
俺等は世話になったジャンの家を出た。
「ははは、お構いなくだぞニイチャン!」
「ピエール、何故お前が言うんだ?…」
「ん、まぁ細かいことは気にすんなジャン!!」
「細かくはないと思うが…」
などといった感じのやり取りをする2人。
「それは兎も角、体に気をつけてな。また何時でも、遊びに来てくれ!」
「ハイ、ありがとうございます!」
こうして俺等はジャンの家を後にした。
ピエールは、まだ用事が残っていて、それが済み次第前の町に帰るらしい。なのでピエールとも、ここでお別れだ。
「それじゃあな、3人仲良くな!」
と言ってピエールも明るく見送ってくれた。
気が向いた時で構わないから、手紙でも送ってくれと、住所を教えてくれた。
正直、ピエールの経歴から、手紙送った時に、あの町に居るのか少々怪しかったが…
そんなこんなで次の町への馬車乗り場へ向かった。その途中、再びフームと再会した。少しわざとらしい気がしたがスルーした。
「そうですか、町を離れられるんですか…」
「ええ、短い間でしたが楽しかったです。ただ、心残りがあるとしたら、例の小説の続きが読めないことですかね…」
と、リリーナは少し寂しげに言った。
するとフームは、
「あぁ、あの小説ですね。実は…」
「実は…」
「何かあったのか?」
と、フームは少し恥ずかしそうにしている。そして、口を開いた。
「それがなんと、出版されることになったんです!」
「「え~~!」」
俺とリリーナは、町中であることを忘れ、大声を上げてしまった。通行人の視線が集まる。俺等はそそくさと移動した。そこで、ことの経緯をフームから聞いた。
纏めるとこうだ。
昨日公園で子供達に読み聞かせをした。その中に親が小さな版元をしている子がいたのだ(フームが持ち込みしたのとは別の所)。
それを聞いた親が興味を持ち、フームを訪ねた。
そして例の小説を拝見して、「イケる!」と、直感したらしい。
それから話はトントン拍子に進み、その人の版元から出版されることが決まったのだという。
という訳らしい。随分と話が早いな…
「そんな昨日今日で出版だなんて、詐欺とかじゃないんですか、それって⁉」
リリーナも疑っている。
「いえ、その人とは、子供が同じ学校で何度か会ったことがあるんです。人を騙すような人ではないです!」
と、フームはキッパリ言った。
「はぁ…」
「という訳で、近々この町で発売され、評判が良かったら、他所の町でも売り出すことになるかもしれないとのことです!」
「まぁ、そしたら私も続きが読めますね!」
と、リリーナは目を輝かせている。
そう都合よく行くかなと思ったが、夢を壊しちゃ悪いので、黙っていた。
「更にいうと、これとは別の作品を構想しだしているんです!」
「えっもうですが!」
「ええ、タイガーさんから素晴らしいアイデアを頂いたものですから!」
「タイガーさんから?」
「俺…あぁ、あれか⁉…」
実はリリーナが子供達に読み聞かせをしている最中、俺は再び彼女と話していた。その時、
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リリーナが読み上げる小説を興味津々に聞く子供達。
そんな子供達の姿を見ながら俺とフームは、
「子供達が楽しそうに話を聞いてくれてるな!」
「ええ、あぁ、あの子達の姿を見てたら、創作意欲が湧いてきました!」
「もう次の作品の話か⁉」
「ハイ、あっでも…」
「でも?」
「次はどんな展開がいいですかね?特に主人公が大いなる力を得るきっかけ。偉大なる人物の血を引いているって展開は今回、使ってしまいましたし…」
悩みフーム。そこで俺は、
「ならこんなのはどうだ?」
「どんなのですか?」
と、アドバイスした。
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そして時は今に戻る。
「タイガーさんからのアイデアで次の作品のコンセプトが完成したんです!」
「タイガーさんの!確かにタイガーさんのアイデアは、独創的で、私達の想像の上行きますからね!で、そのコンセプトってなんですか?」
「ズバリ!」
フームは少し貯めてから、
「追放及び、異世界転生です!!」
と、言い放った。